楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
side 高町なのは
祐一お兄さんが仕事の関係で遠くに行ってしまってから、もう二ヶ月が経とうとしていた。
季節は冬になって、最近はとても寒く感じる。祐一お兄さんがいたときとは大違いだった。
早く帰ってくると祐一お兄さんは言っていたけど、やっぱり仕事が忙しいのかまだ海鳴には戻ってきていない。
「祐一お兄さん、早く帰ってくるって言ったのになぁ~」
わたしは白い息を吐きながら一人呟いた。
祐一お兄さんがいなくなって、ユーノくんもフェイトちゃんの裁判の証人として管理局本局へ行ってしまい、わたしの側には誰もいない。
「やっぱり寂しいな」
学校に行けばアリサちゃんやすずかちゃんがいるから寂しくないけど、朝の魔法の練習は祐一お兄さんとユーノくんがいないので、一人でやらなければいけないため、やはりどうしても寂しさを感じてしまう。
わたしは俯きそうになった自分に活を入れるように頬を叩いた。
「でも、がんばらなきゃね。レイジングハートもいてくれるし、このままじゃいつまで経っても祐一お兄さんに追いつけないから」
『Yes my master』
「よしっ! じゃあ、今日も朝の練習始めようか」
『All right』
わたしは努めて元気にレイジングハートへと声を掛けると、いつもの日課である魔法の練習を開始した。
「――ラスト!」
わたしは魔力弾を操作し、宙に浮いた缶にそれを当て、ゴミ箱のある方へと缶を飛ばした。
「あっ……」
だけど、飛ばした缶は無情にもゴミ箱の淵へと当たり、外側へと跳ね返されてしまった。
「あ~失敗しちゃった」
『Don't mind my master』
「にゃはは、ありがとう、レイジングハート」
失敗してしまったことに肩を落としていたわたしに、レイジングハートが労いの言葉を掛けてきたので、わたしは苦笑を返した。
(やっぱり、まだまだ上手くいかないな)
そう頭の中で考えながら、以前、わたしが祐一お兄さんになかなか上達しないと言ったら祐一お兄さんは、
『そんなに簡単にできてもらっても困る』
と、苦笑を浮かべていた。
祐一お兄さん曰く、わたしは魔導師として稀有な才能を持っており、焦らずじっくりトレーニングを積み重ねていったら、管理局でも上位に入れる程、とても優秀な魔導師になれると褒めてくれた。
そんな風に祐一お兄さんに褒めてもらえるのは、とても嬉しかった。
(――だけど、わたしは早く、祐一お兄さんと肩を並べられるような魔導師になりたい。あの大きな背中を追うんじゃなくて、横に立ちたいんだ)
そう、わたしは心の中で強く思った。
祐一お兄さんはとても優秀な魔導師だと、リンディさんやクロノくん、それにフェイトちゃんも口々に話していた。
以前、今わたしがやっている魔力コントロールの練習を、試しに祐一お兄さんにやってもらったことがあった。
そして、その光景を見てとても驚いてしまった。
祐一お兄さんは両手をポケットに入れたまま魔力弾をコントロールし、尚且つわたしやユーノくんと話をしながらそれをやってのけたのだ。
それに対し、わたしは集中力が途切れてしまうため、誰かと話をしながらだと上手く魔力制御できなかった。
そんな上手くできないわたしに祐一お兄さんは、すぐにできるようになると、そう言いながらわたしの頭を軽く撫でてくれた。
「いつまでも祐一お兄さんに甘えてるだけじゃ駄目だよね」
そう、自分の想いを再確認するように言葉を口にした。
――わたしの憧れであり、目標でもある祐一お兄さん。
祐一お兄さんは優しくて、わたしが危なくなったら助けてくれる――まさに《騎士》のような人だ。
この前の事件もフェイトちゃんのお母さんであるプレシアさんの願いを聞き、自分が犯罪者になるかもしれないということも厭わず管理局と敵対する道を選んだ。
それも結局はプレシアさんやフェイトちゃんのためであり、自分のことなんて考えていなかった。
祐一お兄さんは他人のために――親しくなった人たちのためになら自分を犠牲にする人だ。だからこそ、わたしはもっと魔導師として力をつけ、祐一お兄さんの力になりたいと思ったのだ。
「もっと頑張らなきゃいけないよね」
わたしは祐一お兄さんの大きな背中を脳裏に刻みつけた。
――いつか、前を歩いている祐一お兄さんの隣に自分がいることを想像しながら。
side out
side 八神はやて
祐一さんが帰ってくると言っていた二ヶ月が経ち、もう十二月になって完全に冬の季節になってしまった。
祐一さんがいなくなっても、わたしたちの生活が何か変化するわけでもなく、いつもどおりに普通の生活を送っていた。
シグナムは祐一さんがいなくて、「黒沢がいないと、剣の稽古ができないので腕が鈍ります」などと、少しだけ残念そうに呟いていた。
ヴィータはそんなに気にしていない感じやったけど、冷蔵庫を見つめながら僅かにしょんぼりした表情をしているときがあった。きっと祐一さんが持ってきたお菓子が食べたいんやろうな。
シャマルとザフィーラは特に何も心配していないようで、二人とも祐一さんはそのうち帰ってくると、祐一さんのことを信頼しているようだった。
「……はぁ、祐一さんそろそろ帰ってくるやろか……?」
わたしは勉強をしていた手を休め、僅かに溜め息を吐いた。
今はいつもの日課である図書館で勉強中。シグナムたちは回りにおらず、彼女たちの目を気にする必要もない。
シグナムたちはとても心配性なので、彼女たちの傍で溜め息なんか吐いた日には、本気で心配されかねない。
シグナムたちがいるから寂しいことなんてないのだが、やっぱり、祐一さんと全く会えないというのは寂しさを感じる。
「まぁ、あんまり考えすぎてもしゃあないよな」
わたしは気持ちを切り替え、教科書へと意識を再度集中させた。
「――あかん、ここの問題がわからへん」
しばらく集中して勉強していたが、問題でわからない箇所が出てきたため、わたしはペンを置いた。
「確かどっかに参考書が置いてあったはずなんやけど……」
わたしは一人呟きながら、本棚の方へと車椅子を動かした。
そして、しばらく探していると、お目当ての参考書を見つけることができた。
「……届かへんやん」
わたしは一人で思わず声を出していた。
参考書を見つけることはできたものの、その参考書は車椅子に座っているわたしでは微妙に届きそうにない位置に置いてあった。
「微妙に届かへんな。……なんか、こんな状況、前にもあったような気がするけど」
わたしはそう呟いた後、よしっと気合いを入れ精一杯腕を伸ばした。
「ん~! あと少しで、届きそう、なんやけどっ!」
わたしは必死に腕を伸ばすが、やはり微妙に届かない。
(そういえば、祐一さんと初めて会ったときも、わたしがこんな風に本を取ろうとしてるときやったな。わたしが必死に腕を伸ばしてたら、本を取ってくれたんやった)
そんな風に昔を思い出していると、誰かの手がわたしのお目当ての参考書へと伸びていた。
「あっ……」
「これ、ですか……?」
思わず声を上げてしまい、慌てて本を取った人物へと視線を移すと、そこにはわたしと同い年ぐらいの長髪の女の子が立っていた。
わたしは予想外の人物が現れたことに少し驚いてしまったが、本をこちらへと渡してくる女の子へと笑顔を向けることができた。
「はい、ありがとうございます!」
わたしはその女の子から本を受け取ると同時に、この子と仲良くなれたらいいなと、笑顔を浮かべながらそんなことを考えていた。
side out
――時間は経ち、日も完全に暮れて夜となった。
そんな夜空を背にした二つの影が"空中"にあった。
「どうだヴィータ、見つかりそうか?」
そう相手に声を掛けたのは、狼の姿をしたはやての守護騎士《ヴォルケンリッター》の一人であるザフィーラである。
「いるような……いないような……」
ザフィーラに声を掛けられ、そう曖昧な言葉を返したのは、真紅のゴスロリ風の衣装を身に纏ったヴィータであった。
魔法陣を展開し、意識を集中するために閉じていた目を開けながら、自身の相棒であるアームドデバイス《グラーフアイゼン》を肩に担ぎ、ザフィーラへと言葉を返す。
「ときどき出てくる巨大な魔力反応――こいつが捕まれば一気に二〇ページぐらいは埋まりそうなんだけどな」
そう僅かに悔しさを滲ませながら、ヴィータは話した。そんなヴィータの気持ちを察したのか、ザフィーラが頷きを返す。
「分かれて探そう。《闇の書》は預ける」
「オーケー、ザフィーラ。あんたもしっかり探してよ」
「心得ている」
ヴィータの言葉にザフィーラは迷い無い声で言葉を返した。
「……ねぇ、ザフィーラ」
「なんだ?」
ザフィーラがその場から移動しようとしたが、さらにヴィータから声を掛けられたためその足を止めた。
ヴィータの声には、僅かに迷いが含まれているとザフィーラは気付いた。
「……祐一はあたしたちがやっていることを何て思うかな。……やっぱり、怒るよな」
やはりその話かと、ザフィーラは僅かに嘆息した。
ヴィータは性格は勝気であるものの、根は優しい少女であるため、一度心を許した相手には甘さを見せる。
故に、今から"やろうとしていること"を、祐一に黙って勝手にやろうとしているのを気にしているのだと、ザフィーラは感じた。
「……俺は祐一ではないからわからん。だが、俺はもし祐一に止められても"止まる気はない"。今から成そうとしていることは、我らが主のためなのだ」
伊達に《闇の書》の守護騎士として、数多の戦闘を繰り返していない。《騎士》としての役目を全うするだけだと、ザフィーラは己の心に刻むように言葉を口にしたのだ。
そんなザフィーラの言葉を聞き、ヴィータは小さく、「……そうだよな」と呟くと、
「つまんないこと聞いちまった。……そもそも、あたしたちに選択肢はないんだよな」
「我々がここで止めてしまったら、この初めて感じた"幸福"が失われることになる」
「ああ。それを守るためだったら、あたしたちは何でもするさ。……何でもな」
ヴィータの力強い言葉を聞き、ザフィーラは唇の端を持ち上げると、
「では、そちらは任せるぞ」
「オーケー!」
その場から飛び去った。
そして、ヴィータはザフィーラの気配が遠くなるのを確認すると、自身の相棒である《グラーフアイゼン》を構える。
「――封鎖領域展開」
そう呟くと、ヴィータは魔力反応の索敵を開始した。
一方その頃、休んでいたなのははヴィータが張った結界に気付き、家を出て結界の中心へと移動すると、結界を張った人物を見つけるため、マンションの屋上へと上がった。
そして、状況を確認するため、なのはが屋上から辺りを見渡していると――それは飛んできた。
「……っ!?」
飛んできたそれに対し、なのはは瞬時にプロテクションを張り、防いだ。
(硬いし、何より重いっ! 重さだけだったら、祐一お兄さんと同等かも……っ!)
飛んできたそれは誰かが放った誘導弾であり、その威力は祐一が使用するものと同等かそれ以上であった。その証拠に障壁で防ぎながらも、その勢いを完全に殺すことはできず、踏ん張っていた地面が砕けて足が埋まっていく。
自身の防御力はなのははそれなりに自信があったし、なにより祐一がそれを褒めてくれてもいた。だからこそ、なのははその誘導弾の威力に驚愕していた。
なのはがそれを懸命に防いでいると、上空から真紅の衣装を身に纏った少女が襲い掛かった。
「テートリヒ・シュラークッ!」
「……っ!?」
上空から降ってきた少女――ヴィータの攻撃をなのはは先ほどと同じようにプロテクションで防いだ。
(この子誰っ!? それに、なんて重い攻撃なのっ!?)
なのはは自身と同じか年下ぐらいの年齢の少女の攻撃力に舌を巻いた。
そして、ヴィータの攻撃力に耐え切れず、なのははビルから吹き飛ばされた。
「きゃあっ!?」
吹き飛ばされ地面へと落下していくなのはを追ってくるヴィータを視界に捉えながら、なのはは自身の相棒をぎゅっと握り締めた。
「レイジングハート、お願いっ!」
『Stand by ready set up』
その声と同時になのはの体にバリアジャケットが展開される。
「ちっ……」
できればなのは体勢が整う前に決着を着けたかったヴィータは僅かに悔しそうな表情となった。
そして油断無く見つめるヴィータの視線の先、バリアジャケットを身に纏ったなのはもレイジングハートを構えていた。
――今、戦いの幕が上がる。
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