楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。
――なのはとヴィータの戦闘は激しさを増していた。
「うおおぉりゃあっ!」
「っ!」
瞬時に接近し、ハンマー型のデバイス《グラーフアイゼン》を振るってくるヴィータの攻撃をギリギリのところでなのはは回避し続けていた。
「急に襲い掛かられる理由はないんだけどっ! どこの子! いったいなんでこんなことするのっ!」
「…………」
なのはの叫びをヴィータは黙秘を続け、その鋭い眼光をなのはへと向けながら、鉄球を出し次なる攻撃の準備を始める。
そんなヴィータをなのはは僅かに厳しい瞳で見つめながら、先手を取るため即座に次の行動へと出た。
「教えてくれないと――わからないってばっ!」
「……っ!?」
なのはの叫びと同時、ヴィータは背後から襲い掛かってきた桃色の魔力弾を寸でのところで回避した。
ヴィータの攻撃を回避しながら、なのははいくつかの魔力弾を配置し、そしてそれをヴィータへと打ち込んだのだ。これはなのはの特訓の成果でもあった。
集中力を切らさず、魔力を制御することによって、やっとできることであった。
「っのやっろーー!」
なのはの魔力弾を回避し、当たりそうになる攻撃は防御しながら叫び声をあげながら再びなのはに接近し、ハンマーを振るった。
だが、なのはは直線的になってしまったヴィータの攻撃を見切ると、即座に距離を離し、レイジングハートをシューティングモードへと切り替える。
「話を――」
そして、構えたレイジングハートの先に魔力が集まり、
「――聞いてってばっ!」
そこから極太の砲撃魔法が放たれた。
「っ!?」
さしものヴィータもその砲撃魔法には目を見開いて驚きを表し、なんとかギリギリのところで砲撃を回避した。
(っ!? あたしの帽子っ!?)
先ほどの砲撃はヴィータには当たらなかったが、ヴィータが急に回避行動を取ったことと、砲撃の風圧でヴィータが被っていた帽子が吹き飛んだ。
そして、その帽子はなのはの砲撃によって燃やされてしまった。
(コイツ――はやてが作ってくれた帽子を、よくもっ! ぶっ潰してやるっ!)
ヴィータが被っていた帽子は彼女の主であるはやてが作ってくれたもので、ヴィータにとっては宝物であった。
その大事な帽子を燃やされた。ヴィータが怒らない訳がなかった。
ヴィータは怒りの表情でなのはを睨みつけ、グラーフアイゼンを大きく振り魔方陣を展開すると、叫ぶように声をあげる。
「グラーフアイゼン! カートリッジロード!」
『Explosion』
グラーフアイゼンからガシャンという音が聞こえると、薬莢が飛び出した。
カートリッジシステム――なのはは知らないが、前もって魔力を込めたカートリッジをロードすることによって、使用者の魔力を一時的にブースとでき、本来持つ力以上に魔法の効果を高められるのだ。
(デバイスの形が……)
なのははカートリッジシステムを知らないが、相手が何かをしようとしてくるということは嫌でもわかるため、レイジングハートを油断なく構える。
そして、ヴィータが手に持つグラーフアイゼンのモードが変わる。
ラケーテンフォーム――相手を余りある力で相手を粉砕する、《鉄槌の騎士》ヴィータとその相棒である《鉄の伯爵》グラーフアイゼンの必殺技の一つである。
「ラケーテン――」
「っ!?」
なのはに油断はなかった。
だが、ヴィータがグラーフアイゼンから噴射される力を利用して独楽のように回ったかと思うと、一瞬にして距離が縮められていた。
(速い……っ!?)
その速度になのはは驚愕しながらも、なんとかスレスレのところでヴィータの一撃を回避した。
だが、ヴィータの攻撃は一撃では終わらず、何度もハンマーをなのはへと振るってきた。執拗な攻撃になのはは防戦一方となり、ヴィータは構わず攻撃を続けた。
そして、なのはがヴィータの一撃を回避するために一度後ろへと下がった。
それこそ、ヴィータが待っていた行動だった。
「うおぉぉ!」
ヴィータがなのはの動きを読み、強力な一撃をなのはへと打ち込むと、寸でのところでなのははプロテクションを張った。
「くっ!?」
なのはは何とかプロテクションでヴィータの攻撃を防御したが、ヴィータの勢いは留まることを知らず、苦悶の声をあげた。
そして、ヴィータがさらにハンマーへと力を込める。
「――ハンマー!」
「っ!? きゃぁぁぁ!」
ヴィータの一撃を受け止めることができなかったなのはは、威力に負けそのまま吹き飛ばされ、近くのビルへと激突した。
「げほっ、げほっ……っ!?」
かなりのダメージを受けながらも、なのははなんとか立ち上がる。だが、状態は満身創痍。白かったバリアジャケットは薄汚れ、所々破れていたりしている。
(いけない、このままじゃ……っ!?)
自分の今の状態に、なのはは思わず心の中で弱音を吐いた。
なのはが魔導師となってから、ここまで一方的にやられてしまったのは、魔導師となって初の対人戦闘を行ったフェイトとの一戦ぐらいだった。
だが、今はあの時とは状況が異なる。まだなのはは魔導師としては力が足りないかもしれないが、それでもあの時よりは著しく成長している。
だからこそ、今のこの状況はなのはにとって耐え難い状況であった。
「うおぉぉりゃぁぁ!」
そんななのはの状態などお構いなしに、ヴィータは声を上げながら攻撃を仕掛けてきた。
「っ!?」
『Protection』
その攻撃になのはは反応することができなかったが、レイジングハートがプロテクションを張り、ヴィータの攻撃をぎりぎりのところで防いだ。
――だが、今のなのはとレイジングハートの状態では、守護騎士の中で最強の攻撃力を誇るヴィータの攻撃を防ぎきることなど、出来る筈もなかった。
「ぶち抜けぇーー!!」
「っ!? きゃあぁぁっ!?」
ヴィータの叫び声が木霊すると同時に攻撃の威力が増し、なのはのプロテクションは打ち砕かれ、なのははヴィータの攻撃に吹き飛ばされ壁へと激突した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
ヴィータは吹き飛ばしたなのはを見つめながら、乱れた呼吸を整えていた。
(……しまった。……やりすぎちまったな)
段々と冷静になってきた頭で、ヴィータは僅かに眉を顰めた。
自分が見つめる視線の先には、先ほどまで戦っていた少女が苦しそうに倒れている姿があった。
ヴィータとしては、本当はここまでやるつもりではなかったのだ。
(……だけど、コイツ――強かった。あたしの攻撃をここまで耐えられる防御力。一撃で相手を撃ち倒すことができる攻撃力。魔力量もあたしよりも多いし、もし、次に戦うことがあったら――)
そう心の中でヴィータは思ったが、静かに首を横に振った。
(いや、もうそんなことはどうでもいいさ。あたしが立ってて、相手が倒れてる。それが全てだ。コイツには悪いけど、これも全部はやてのためだ。――運が悪かったと思ってもらうしかねぇ)
ヴィータは心の中で、「すまねぇな」と思いながら、相手に近づいて行く。
そんなヴィータをなのはは苦しそうな表情をしながら見つめ、もはやヴィータの攻撃でほとんど大破している状態のレイジングハートを構えた。
ヴィータはそんななのはの行動に、僅かに驚いたように目を見開いたが、すぐに表情を引き締めなおし、グラーフアイゼンを上段へと構えた。
(こんなところで、終わり、なの……?)
なのはは自分の目の前でグラーフアイゼンを構えるヴィータを霞む視界に捉えながら、心の中で思った。
(――フェイトちゃん、祐一お兄さん――)
なのはは心の中で、今、一番会いたい人物の名前を思い浮かべた。
別れる前、自分と友達になってくれた心優しき少女――フェイト・テスタロッサ。
なのはが憧れ、尊敬している黒衣の青年――黒沢祐一。
(――ごめん、ね)
そう心の中で二人に謝罪しながら、なのははヴィータの姿を見つめる。
――そして、ヴィータはグラーフアイゼンを振り下ろし、なのはの意識を刈り取ろうとした。
「……っ!?」
だが、なのはに一撃が加えられる直前、それに割ってはいるように一人の"少女"が現れた。
「てめぇ……」
「え、な、なんで……?」
ヴィータは自分の一撃を止めた人物を睨みつけ、なのはは驚きに目を見開いていた。
「そいつの仲間か」
ヴィータはその"少女"を睨みつけながら、そう声を上げた。
「違う――友達だ」
ヴィータの声に、漆黒のバリアジャケットを纏った金髪の"少女"――フェイト・テスタロッサは静かに、しかしはっきりとした言葉をなのはは聞いた。
――戦いは第二ラウンドへと向かっていく。
――フェイトがなのはの戦闘に割ってはいる少し前、地球から少し離れた場所に、真紅の染め上げられた次元航行艦船の姿があった。
この船の名は《Hunter Pigeon》と呼ばれ、現在、《運び屋》をしているヴァーミリオン・CD・ヘイズが個人で所有する艦船である。
――その艦内に二人の人物がいた。
一人は全身を漆黒の服装に身を包んだ長身の青年、もう一人は全身を真紅の服装に身を包んだ漆黒の青年と同じぐらいの青年であった。
漆黒の青年――黒沢祐一が真紅の青年に話し掛ける。
「――結局、仕事が長引いてしまったな」
「ま、仕方ないでしょ。旦那じゃなかったらもっと時間掛かってたと思うし、下手をすりゃあ、ただじゃすまんでしょう」
「褒め言葉どうも。だが、お前なら可能だったろ?」
祐一の言葉に真紅の青年――ヴァーミリオン・CD・ヘイズは髪を掻きながら苦笑した。
「いやいや、俺程度の魔導師じゃあもっと時間掛かってますって。それに、俺はあくまで《運び屋》なんで荒事は勘弁願いたいっすね」
ヘイズの言葉に祐一は、「そうか」と頷きを返した。
「そうっすよ」と祐一に声を掛けながら、今度は苦笑ではなく、ヘイズは笑みを浮かべる。
「ま、とりあえず、無事に帰ってこれてよかったじゃないっすか」
「そうだな。――そろそろ転送可能か?」
「そうっすね。そろそろ……ん?」
「? どうした?」
ヘイズがモニターを見ながら首を傾げたを見て、祐一は不思議そうに声を掛けた。
そんな祐一に、ヘイズは顎に手を当てながら答える。
「いや、旦那が住んでる……海鳴でしたっけ? そこの一区画が……」
「なんだ……?」
「ちょっと待ってください。――ハリー、ここどうなってんだ?」
ヘイズはモニターを指差しながら声を上げた。
すると、艦内に機械音声が響き渡った。
『どうやら、この一区画だけ封鎖結界が張ってあるようですね』
「どうしてだよ?」
『さぁ? 流石にそこまでは……』
そうヘイズに答えたのは、この《Hunter Pigeon》の管制を一手に引き受けている、ヘイズの相棒の《ハリー》だ。
また、この《Hunter Pigeon》の管制を一手に引き受けていると同時に、ハリーはヘイズのデバイスでもあった。
『ただ、この封鎖結界はベルカ式のようですね』
「なんだと?」
ハリーの言葉に祐一の表情が少し厳しくなる。
(海鳴でベルカ式の使い手といえば――"あいつら"しかいない。だとすると、何故封鎖結界など張っている? 何かあったのか……?)
祐一は右手を顎に添えながら思考するが、そんな祐一にヘイズが声を掛ける。
「どうする、旦那? もう転送は可能だが……」
「そうか。なら、俺はもう行く」
そう言いながら、祐一は転送ポートへと足を向けた。
「世話になったな、ヘイズ、ハリー」
「おう、旦那の頼みだったからな。また何かあったら言ってくださいよ」
『こちらこそ、ヘイズがお世話になりました。祐一さんがいてくれると、ヘイズの面倒を見てくれるので助かります』
「――って、おい、だれの面倒を見てるって?」
『耳まで遠くなりましたか? これ以上、面倒を掛けないでください』
「……相変わらず、口のへらねぇ相棒だな……」
ハリーの言葉に、ヘイズは「はぁ~」っと溜め息を吐きながら俯いた。その光景を見て、祐一は「相変わらず、仲のいいことだ」と苦笑する。
「じゃあな、また会おう」
「あいよっ」
『はい、また会いましょう』
祐一は軽く右手を上げ、ヘイズは指をパチンと鳴らし、ハリーは礼儀正しく、三者三様の挨拶を交わし、祐一は海鳴へと転移した。
――《黒衣の騎士》が新たな戦いへと身を投じていく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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