楽しんで頂ければ幸いです。
では、どうぞ。
ヴィータは驚愕の表情でその光景を呆然と見つめていた。
そして、ヴィータの傍に居たシグナム、シャマル、ザフィーラの三人も同じように呆然とその光景を見つめていた。
――祐一が前のめりに倒れていく姿を。
(なん、だよ……これ……)
倒れていく祐一の姿を見つめながら、ヴィータは心の中で呟いた。先ほどまで悠然と自分たちの前に立ちはだかっていた男が今、倒れそうになっているのをヴィータは眺めていた。
(祐一は強いんだろ……なんで……)
倒れそうになってんだよ、とヴィータは呆然としながらもそんなことを思っていた。
(……だめだっ! 祐一、あんたがいなくなっちまったら……はやてが悲しんじまうじゃないか……っ!)
ヴィータは祐一が倒れる姿を見つめながら、悲しみに暮れる自身の主の表情を想像した。
祐一をあれほど慕っていたはやてが、もし祐一がいなくなればどうなるかは想像に難くなかった。
――故に、ヴィータは声を上げる。
「……っ! あんたはこんなところで死んじまうような人間じゃないだろっ! あんたの帰りを待ってる奴らがいるんだろっ! はやてだってその一人なんだ。……だから、起きろよ……黒沢祐一……っ!」
ヴィータが叫ぶように祐一の名を叫んだ。そんなヴィータの叫びに、守護騎士の面々がはっとした表情となり意識を取り戻した。
そんなヴィータの言葉を、祐一の背後にいる仮面の男は鼻で笑った。
「ふんっ、無駄だ。流石にこの傷では、こいつも起き上がることなど――」
そう仮面の男が話しをしていると、突然、祐一の体が動いた。
「なっ!?」
そんな祐一の突然の行動に、仮面の男は驚愕の声を上げた。
祐一はそんな仮面の男の声など気にすることなく、仮面の男から距離を取るように移動していた。
「祐一……っ!」
ヴィータは驚きながらも僅かに笑顔を覗かせながら声を上げた。
そんなヴィータの声を聞きながら、祐一は地面に片膝をつき、左手で胸の傷を押さえ簡易的な治癒魔法を掛けながら自身の状態を確認する。
(――不覚を、とってしまったか……)
口元に付いていた血を拭いながら、祐一は僅かに歯噛みした。
自分の傷を確認するまでもなく、この傷は致命傷であり、これ以上まともに戦闘を続けることなど出来ないだろうと、祐一は荒く息を吐きながら思っていた。額からは大量の汗が流れ続け、胸の傷も自身の魔力を全て治療へと回していることから出血は収まっているものの、これまでの戦闘で失った血の量が多すぎたため、僅かに視界が霞み始めていた。
「黒沢、無事かっ!?」
ヴィータに続いてシグナムも心配そうな表情で声を掛ける。レヴァンティンを持ってはいるものの、流石に祐一と命のやり取りをする気はないようであった。
「ああ、大丈夫……とは言えないが、少なくとも命に別状はない。今のところはな……」
「そうか。ならばすぐに治療しなければ……シャマル、頼めるか?」
「ええ、わかったわ」
シグナムの言葉を聞き、シャマルが祐一へと近づこうと足を踏み出した。
――そのときだった。
「――残念だが、奴をこの場から逃がすわけにはいかない」
「なっ!?」
仮面の男の声が周囲に響き渡ると同時に、守護騎士たちはバインドによって拘束された。
そんな状態に、ヴィータが驚愕の表情を浮かべながら声を上げる。
「そんな……っ! いつのまにっ!?」
「警戒を怠ってはいなかったはずだっ!」
同じくバインドによって拘束されたザフィーラも、どうにかバインドを解こうともがきながら声を上げた。
「はっ、残念ながら敵は私だけではないのでな」
そう仮面の男が声を上げると、ヴィータたちの背後からもう一人仮面の男が現れた。
(ちっくしょ……っ! 祐一と仮面の男に気を回しすぎたせいで、もう一人いるなんて全然気付かなかったっ! それに、このバインド……あたしたちがすぐに解けないように、かなりの魔力が込められてやがるっ!)
ヴィータは舌打ちしながら、後から現れたもう一人の仮面の男へと睨むように視線を向けた。
不意を突いたとはいえ祐一に致命傷を負わせ、なおかつこれほどの魔法を使用する仮面の男たちは、只者ではないとヴィータは冷静に思っていた。
「お前たちの目的はなんだっ!」
シグナムが鋭い眼差しを仮面の男に向けながら叫ぶ。
そんなシグナムの質問に、仮面の男は
「俺たちの目的は貴様たちと同じ――《闇の書》を完成させることだ」
「なん、だと?」
仮面の男の言葉に、シグナムだけでなくヴィータ、シャマル、ザフィーラも驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべた。
だが、ただ一人、苦悶の表情を浮かべている祐一だけは違っていた。
(――やはりそうか。こいつらの目的が《闇の書》の完成だとすると、一番邪魔になる俺を消そうとしたのにも合点がいく)
祐一が一人考えていると、さらに仮面の男が話しを続ける。
「なので、《黒衣の騎士》相手に苦戦していたお前たちの手助けをしてやろうと、私たちは思ったんだ。……お前たちにとって、黒沢祐一は邪魔な存在でしかないだろう?」
「そんなこと……」
「あるはずない、か? ならばなぜ、お前たちは黒沢祐一と戦っていた?」
「そ、それは……」
仮面の男の言葉に、シグナムは口篭った。確かに仮面の男の言っていたように、シグナムたちはお互いの想いの違いから戦うことになってしまった。祐一を倒さなければならないと思っていたことは事実であった。
「お前たちは主である八神はやてを救いたいのだろう? ならば、それを邪魔しようとしている黒沢祐一は邪魔なだけだ。故に、黒沢祐一にはここで舞台から降りてもらうことにしたのだ」
そう話しをしながら、祐一を攻撃した仮面の男は祐一へと近づいていく。
(ぐっ、先ほどの動きが限界だったか。これ以上、動けん)
祐一は膝を着いたまま、こちらに近づいてくる仮面の男を見つめていた。
「おいっ、やめろっ! それ以上、祐一に近づくんじゃねぇ!」
「そうはいかない。この男は危険だ。ここで排除しなければ、今後の計画に必ず支障をきたしてしまう」
バインドで拘束されながらも、ヴィータが仮面の男へと叫び声を上げる。だが、仮面の男はおかしそうに笑うだけで歩みを止めない。
そして、祐一の目の前まで来ると、両手を祐一の方へと向け、魔力を溜めていく。
「……っ!? おいっ! マジでやめろっ! てめぇ、そんなことしたらぶっ潰すぞっ!」
「大丈夫だ。この男がいなくなれば、お前たちの主は救われるのだから……」
ヴィータの叫びを仮面の男は受け流し、さらに魔力を溜めていく。
(……本当に体が動かない、か。流石にこの攻撃を喰らうと、マズイだろうな)
祐一はこのような状況だというのに、冷静に頭の中で思考していた。
焦りはある。ここで命を失うかもしれないのだ。だからこそ、祐一は冷静に今の状況を分析し打開策を探してたが、現状、自分の力ではどうしようもないということが分かってしまった。
(……あとは運を天に任せるしかない、か)
祐一はそう考えながら、思わず自嘲的な笑みを浮かべてしまった。
そんな祐一を見ていた仮面の男は僅かに警戒していたが、十分に魔力が溜まったことから、そんな考えは頭の片隅へと追いやった。
「――悪いが、ここで舞台を降りてもらうぞ、黒沢祐一」
「俺も年貢の納め時、か……」
「おいっ! 祐一!」
祐一の言葉にヴィータが堪らず声を上げた。シグナム、シャマル、ザフィーラも悔しげな表情で祐一を見つめていた。
そして、仮面の男が魔力を放つために僅かに腰を落とした。
「――さらばだ、黒沢祐一!」
そう呟いた仮面の男から膨大な魔力が撃ち出された。
「っ!? 祐一……っ!?」
ヴィータが叫び声が木霊する。だが、そんなことで攻撃が止まることはない。
そして、祐一へとその一撃が当たると思われたときだった。
――この場にいない、別の誰かの声が辺りに響き渡った。
「――真打ちはおいしいところでやってくるってな」
僅かに軽薄そうな声が聞こえたかと思うと、仮面の男から祐一へと放たれていた攻撃が急に掻き消えたのだ。
「なにっ!?」
仮面の男は驚愕の声を上げ、声がした方へと視線を向けた。
「邪魔して悪いが、旦那をやらせるわけにはいかないんでね」
続けて声が聞こえたかと思うと、仮面の男に向けて多数の魔力弾が放たれた。
「ちぃ!」
仮面の男は魔力弾を回避するべく、瞬時に移動を開始した。多数の魔力弾は追尾するように作成されたのか、回避行動を取った仮面の男を逃がすまいと追っていく。
(なんなんだ、この追尾性能はっ!? それにこちらの行動を先読みするようにこちらへと向かってくるっ!)
仮面の男は自身へと向かってくる魔力弾を防御しながら、心の中で驚きを露にした。
先ほどから魔力弾を回避しようとしているのだが、まるでこちらの動きを読んでいるように魔力弾は的確にこちらの隙を突き、なおかつ追尾してくる。故に仮面の男は回避を止め、障壁を張り防御するしかなかった。
そんな攻防をヴィータたちは拘束された状態で見つめており、もう一人の仮面の男も呆然とそれを同じように見つめていた。
「だ、誰だよ、あいつ……」
「わからん。……だが、祐一を知っているようだな」
ヴィータの言葉にザフィーラがそう返し、新たに現れた人物へと視線を向けた。
地毛かどうか疑いたくなるような濃く鮮やかな赤毛で、前髪の一房だけ真っ青に染めており、その赤毛と同じく真紅の衣装に身を包んだ青年がそこに立っていた。
「久しぶりに見たな。旦那がこんなにボロボロになってるところなんてさ」
赤毛の青年が祐一に近づきながら、そう言葉を口にした。
「――そうでもない。最近はよくこんな状態になっているさ」
「そりゃあ、旦那が"手加減"なんてしてるからでしょうが。旦那が"本気"出して勝てない奴なんて、《紅蓮の魔女》以外にいないでしょうよ」
祐一の言葉に赤毛の青年は呆れたように言葉を返した。
「……ああ、すまないな――ヘイズ」
「……まぁ、旦那の気持ちもありますから仕方ないんでしょうがね」
祐一の謝罪に赤毛の青年――《ヴァーミリオン・CD・ヘイズ》は頭を掻きながらそう祐一に言葉を返した。
ヘイズはすぐに頭から手を放すと、仮面の男と守護騎士たちへと視線を向ける。
「とりあえず、この場は退散しましょうか」
「すまないな」
「いやいや、気にしないでくださいよ」
ヘイズが祐一の言葉に首を振っていると、ヘイズの魔力弾を全て捌ききった仮面の男が猛然と二人へと突撃してきた。
「ここで逃がすわけにはいかないんだよっ!」
そう叫ぶように声を上げながら、徒手空拳で仮面の男が迫ってきた。
そんな仮面の男をヘイズはめんどくさそうな表情で見つめていた。
「悪いが、旦那はやらせねぇよ。ハリー、サポート頼むぞ」
『はいはい、わかりました』
ヘイズの声に答えるように、どこからか声が聞こえてきた。ヘイズの手にはいつの間にか一丁の拳銃が握られていた。
『祐一さんはヘイズの数少ない友人ですから、いなくなってもらっては困ります』
「おい、それじゃあまるで俺に友達がいねぇみてぇじゃねぇかっ」
『事実です』
「ったく、口のへらねぇデバイスだぜ」
ヘイズと会話をしているのは、彼のデバイスであり、相棒でもある《ハリー》である。珍しいインテリジェントデバイスであり、なおかつ、まるで人と同じように意思を持っている数少ないデバイスでもあった。
そんな二人の緊張感の無さに、仮面の男は僅かに怒りを覚えていた。
「っ! なめるなっ!」
先ほどは魔力弾による攻撃で後手に回ってしまったことから、仮面の男はヘイズに接近戦を挑む。
「いやいや、なめてねぇよっ!」
仮面の男が繰り出す攻撃をヘイズはギリギリのところで回避しながら、そう声を上げた。
事実、ヘイズは仮面の男を侮ってはいない。不意打ちだったとはいえ、あの祐一に深手を負わせたのだ。侮ったら負けるのは自分だろうと、ヘイズは心の中で思っていた。
(くっ!? やはり、攻撃が当たらないっ!?)
仮面の男はヘイズへと鋭い攻撃を繰り出すが、ことごとくギリギリのところで回避されていた。そのまるで先を読んでいるかのような動きに、仮面の男は戦慄した。
ヘイズがまるで攻撃を読んでいるように回避できている理由は、《空間把握能力》の高さと相棒であるハリーのサポートがあってこそである。
(っと、あっぶねぇ! こりゃあ、とっととケリつけねぇとマズイな)
仮面の男の攻撃を回避しながら、ヘイズは僅かに冷や汗を浮かべていた。確かにヘイズは攻撃を回避してはいるが、全てギリギリであり、いつ当たっても攻撃が当たってもおかしくはなかった。
実際、ヘイズの身体能力はそこまで高くはなく、得意なレンジは中距離から遠距離であった。
(さて、どうするよ……)
ヘイズは思考しながら、仮面の男の攻撃を回避する。
すると、しびれを切らしたのか、もう一人の仮面の男も戦闘へと参加してきた。
「何をやってるっ! 早くケリをつけるぞっ!」
「ああ、すまないっ」
もう一人の仮面の男は遠距離主体なのか、こちらに近づいてはこず、魔力弾を放ってきた。
「マジかよっ! ハリー!」
『了解です』
仮面の男が放ってきた魔力弾を見て、ヘイズが自身の相棒へと声を掛けた。すると瞬時に、ヘイズの周りに魔力弾が生成され、それを相手の魔力弾へとぶつけて相殺する。
「ちっ!」
それを見た接近戦主体の仮面の男が舌打ちしながら、ヘイズへと距離を詰める。
だが、ヘイズはそれを読んでいた。
「それを待ってたぜっ!」
「なっ!? バインドだと……っ!?」
それを待っていたヘイズは、予め設置していたバインドで接近戦主体の仮面の男を拘束した。
「きさまっ!」
そして、それを助けようともう一人の仮面の男が砲撃魔法の体勢を取る。
だが、それもヘイズの計算の内であった。
「ずらかるぞっ! ハリー!」
『わかってますよ。――演算開始。《虚無の領域》発動準備開始』
ハリーの声を聞き、ヘイズは瞬時に祐一の下へと移動し、祐一へと肩を貸して立たせる。
「くらえっ!」
轟音とともに、仮面の男から極大の砲撃魔法が放たれた。その威力はなのはが放つディバインバスターよりも上であることが見て取れる。
それでもヘイズは焦りの表情は浮かべていなかった。
『――演算完了。いつでもいけますよ、ヘイズ』
「よしっ、いいタイミングだ」
ヘイズはハリーの声を聞き、祐一を支えていない方の腕を持ち上げると、親指と中指を合わせた。
そして、ヘイズは笑みを浮かべながら声を上げる。
「悪いが、今日はこれでさよならだっ!」
そして、ヘイズは親指と中指を擦りながら指を鳴らした。
パチンという音が辺りに響くと、ヘイズたちへと放たれていた砲撃魔法が新たな轟音とともに一瞬にして掻き消された。
「なっ!?」
そんな光景に、仮面の男や守護騎士たちが驚愕の表情を浮かべた。その攻撃のぶつかり合いの余波から、辺りは土煙が立ち込めていた。
そして、しばらくすると煙が晴れてくる。
「くそっ、逃げられたか……」
悔しそうに舌打ちをしながら仮面の男が見つめる視線の先には、もはや誰もいなくなっていた。
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