投稿します。
楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
side リニス
プレシアの依頼で、祐一が《時の庭園》に来てから早いものでもう一年が経ちます。
今、祐一達は模擬戦を行っているため、私はお腹を空かせて帰ってくるであろう皆のために料理を作っています。
おそらく模擬戦が終わったら、アルフあたりが「お腹減った~疲れた~」とか言いながら帰ってくるでしょう。私はそんなアルフの姿を想像して、少し笑みを浮かべます。
最近では、もうフェイトに教えることはほとんどなくなってしまっています。フェイトは魔導師としては、もはや一人前といえるレベルにまで達したと、私は思っています。
そのことはとても嬉しく思います。……でも、フェイトが一人前になるということはすなわち、使い魔としての私の役目が終わるということ。――フェイト達との別れを意味しています。
――正直、別れたくなどあるわけがない。ですが、この世界はそう都合のいいようには出来ていないようです。
私は涙が出そうになるのを何とか堪えて、料理を作ることに集中する。
「いけませんね、こんなことでは。……こんな顔をしていたら優しいフェイトに気付かれてしまいますね」
そう思うと、私は心が温かくなるのを感じると同時に罪悪感にも苛まれます。――私がいなくなったら、きっとフェイトは悲しむでしょうから。
いけないと思い、私は静かに首を振る。
「こんな顔をしていたら、フェイトが悲しみます。……あの娘の悲しい顔は見たくありません」
私はフェイトの悲しい顔を見ないためにも、元気を出さないと思い、表情を引き締めなおす。
「さてと、皆が帰ってくるまでに頑張って料理を作りましょうか」
私はいつもの笑顔に戻ると、考え事で止まっていた料理を再開する。
(――前から思ってましたけど、いつも結構な量を作らないと足りないですから、作る方は結構大変なんですよね)
私は料理を作りながら苦笑を浮かべる。
(フェイトはそんなに食べませんが、アルフはいつもたくさん食べますし、祐一もたくさん食べますしね)
そんな風に皆の顔を思い浮かべながら料理をしていると、嬉しい気持ちになってきて自然と自分の表情が笑顔になることが自覚できた。
「祐一が来てから、もう一年が経つんですね」
祐一が来てからの一年間は、私がこの世に使い魔として生まれて忘れることのできないような、とても充実した一年だったと思います。
悲しいことも多かったし、いろんな問題も解決していないけれど、それでも皆と過ごした一年はとても楽しいものでした。
フェイトも、祐一が来てからの一年間で魔導師としても一人前になり、最近では笑顔が増えてきているようにも感じます。もちろん、祐一が来る前までも自然な笑顔を見せてくれることはありましたが、やはりプレシアのこともあったため、たまに見せる寂しそうな表情が私にはとても辛かった。
フェイトがそのように魔導師として早く一人前になったことと、フェイトの笑顔が増えた要因となったのは、やはり祐一の存在が大きかったのだと思います。
プレシアの依頼でやってきた魔導師で、第九七管理外世界《地球》で《便利屋》を営んでいる男性。
正直な話、私は外部の者に協力を申し出ることについては反対していました。
フェイトの教育係りは私だけでも十分であり、外部の者にフェイトを任せることが不安でした。
でも、私の主人(マスター)であるプレシアが、私だけではフェイトが一人前の魔導師になるのが遅くなってしまうということで、依頼として外部の優秀な魔導師を雇うと言い張った。私はその命令に逆らうことは出来ませんでした。
ただ、あのプレシアにここまで言わせる人物に興味を覚えました。
プレシアは使い魔の私から見てもとても優秀な魔導師であり、滅多に人を褒めたりするような人ではありませんでした。そんなプレシアに、"優秀"とまで言われる人物に私が興味を覚えるのにそれほど時間は掛かりませんでした。
黒沢祐一――それがフェイトの教育係りを任せる人物の名前でした。
始めは、プレシアが推薦する人物が男性であることに驚いた。それに、フェイトのことを考えると男性で大丈夫かという懸念もありました。
プレシアから渡されたプロフィールにはたいした情報は載っておらず、本人の容姿と保有魔力量、また現在行っている仕事が記載されているだけで、明らかに何かを隠しているような感じでしたが、プレシアが推薦する人物なのであまり考えないことにしました。
祐一を初めて見た印象は、年齢の割りに頼れる男性という印象でした。体格は一般的な男性よりも大きく、身長一八五cm、体重七五kg、プロフィールを見て分かっていたのに、実際に会ってみるとさらに大きく見えました。このときは祐一をフェイトに合わせても大丈夫かなと、威圧感でフェイトが泣いてしまわないかと心配でした。
祐一にフェイトを任せてもいいと感じたのは、祐一がとても優しかったからでしょう。
確かに祐一は威圧感はかなりありますが、その瞳はとても優しげでした。それだけで判断したわけではないですが、私はなんとなくこの人ならフェイトを任せても大丈夫ではないか、と思うようになっていきました。
フェイトの教育が始まったとき、アルフも本格的に魔法を習いたいと言ってきました。フェイトは遠慮していましたが祐一が許可を出したことにより、アルフもフェイトと共に魔法を習うことになりました。
祐一の教育には無駄が無く、とても理解しやすく教えており、フェイトもアルフも素晴らしい上達ぶりを見せていました。また祐一は戦闘技術、戦術理論ともに秀でており、ほとんどの魔法を習得していたことには流石に驚きました。
祐一曰く、「戦術の幅を広げるために、全ての魔法を覚えておいたほうが都合が良かった」とのことでした。
フェイトもその優秀さを目の当たりにして感化されたのか、祐一の朝のトレーニングにも付き合っているようでした。本格的に参加はしていないようでしたが……。
そういうこともあり、フェイトはさらに祐一を慕っていきました。フェイトが「祐一ってこんなことも出来るんだよ! すごいよね!」と、嬉しそうに話てくれて、微笑ましくて、私も思わず笑みを浮かべていました。
祐一が上手く教育を行っていったことと、フェイトが優秀で勤勉であったこともあって、僅か一年足らずでフェイトは一人前になりました。
そしてなにより、祐一はフェイトを魔導師として一人前にするだけではなく、フェイトに多くの笑顔も与えてくれました。
私とアルフの笑顔も増えたと感じましたし、嬉しかった。プレシアも祐一が来てから、少しだけ、ほんの少しだけ態度に変化が出てきているような気がしています。
祐一が来たことによって、私達に良い影響を与えたのは間違いないと思います。
――本当に祐一には感謝しています。
正直、私がいなくなってからのことが心配で堪りません。
ですが、祐一ならきっと上手くやってくれる――そう思えたんです。
――願わくは、フェイト達に幸福が訪れることを私は願っています。
私はそう願いながら、幸せな今を噛み締め、三人が帰ってくるのを待っていた。
side out
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