楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
守護騎士たちとの戦闘から数日が経ち、なのはとフェイトは束の間の平穏を手に入れていた。
平穏といっても、なのはたちが何もしていないというわけではない。《闇の書》とその守護者たるヴォルケンリッターの捜索も続けていた。
だが、あの戦闘以降、管理局の捜査網に引っかかりにくい管理外世界で《蒐集》をしているらしく、その足取りが掴めていないのだ。
そのお陰で、というのも変な話ではあるが、なのはとフェイトは何も手伝えることがないため、リンディから今のうちは体を十分に休めておくように言われているのだ。
そのため、なのはとフェイトはいつもどおりに登校し、アリサやすずかたちといっしょに授業を受けていた。
楽しいはずの時間――そのはずであるのに、なのはとフェイトは浮かない表情をしていた。
――黒沢祐一は、《仮面の男》たちに重傷を負わされた。
この内容がなのはとフェイトを暗い気持ちにさせている原因であった。
「――シグナムが、そう言ってたんだ。あと、"あの《仮面の男》には注意しろ"ってことも言ってた……」
「本当に、あの仮面の人の目的ってなんなんだろうね。守護騎士の人たちも警戒してたみたいだし、仲間ってわけでもなさそうだけど……」
学校から帰宅し、リンディたち管理局が仮の本部にしているとあるマンションの一室で、フェイトとなのはは俯き加減に話をしていた。
「仮面の男たちの目的はわからないし、気になるけど、もう一つ気になることがある」
「うん。祐一お兄さんを助けたっていう、男の人だよね……」
なのはの言葉に、フェイトはうん、と静かに頷きを返した。
フェイトがシグナムから聞いた情報であるもう一つは、祐一が後から助けに入った赤髪の男に連れて行かれた、という話であった。
「嘘を吐いている可能性もあるんだろうけど、わたしはシグナムが嘘を吐くような人じゃないと思うんだ。それに、祐一の話をしてときのシグナムの表情は、なんだか、少しだけ悲しそうだったから……」
「そうだね。わたしもヴィータちゃんは本当は優しい、良い子なんだと思うし、きっとシグナムさんもそうだと思う」
「でも、それが本当なら、赤い髪の男の人って誰なんだろう……?」
二人はいろいろと考えたが、答えは出なかった。
「やっぱり、情報が少なすぎるね」
「そうだね。……クロノくんにも少し聞いてみようか?」
そうして、なのはとフェイトは部屋を移動し、リビングへと足を向けた。リビングへ入ると、そこには今後の作戦会議をしているリンディ、クロノ、エイミィの姿と子犬形態へと変身し、丸くなって眠っているアルフの姿があった。
二人がやってきたことに気付き、リンディが声を掛ける。
「あら、二人とも、どうしたの?」
「すいません、会議の邪魔しちゃって……」
「ふふ、いいのよ。どうせ行き詰ってるところだし、もう話はほとんど終わってたところだから……」
笑顔で答えるリンディに、なのはとフェイトもほっとしたように笑みを浮かべた。
「それで? どうしたんだ、二人とも」
「うん。あのね――」
ソファーに腰掛けた状態で話し掛けてきたクロノに、なのはとフェイトは自分たちが思っていることを話し始めた。
そして、なのはとフェイトが話しを終えると、クロノが顎に手を当てながら口を開いた。
「守護騎士たちの目的、仮面の男たちの目的、赤髪の男、そして、祐一さんの行方とその安否について、か……」
「それらについては、今、私たちがもっとも知りたいことではありますね」
クロノとリンディが同じように顎に手を当てながら呟いた。
リンディたち、管理局も守護騎士たちと仮面の男の目的と居場所は随時探っている。だが、赤髪の男と祐一の行方と安否については、情報が少なすぎるため、局員たちを使って大々的に調べることができないでいた。前者の方で人数を使っているというのも、大きな要因となってもいる。
少しの間考え込んでいたリンディが、顎から手を放し、背筋を伸ばすと静かに口を開いた。
「まずは、現状でわかっていることから話しをしていきましょうか。クロノ、お願いできるかしら?」
「了解です。エイミィ、映像を」
「はいはいっと」
クロノに言われる前から待機していたエイミィが素早い手付きで映像を出していった。
「まず、守護騎士たちの目的からだが……その話しをする前に、二人にはこの守護騎士たちがどういう存在かを説明しておこう」
クロノの話しをなのはとフェイトは黙って聞いていた。
守護騎士たちは、《闇の書》が作り出した擬似生命体であり、《闇の書》が転生する度に新たな主に仕えているということ。
また、守護騎士たちには以前から意思疎通の対話能力などはあったが、感情を見せたという話しは一度もなかったこと。
クロノの話しを聞き、なのはとフェイトが首を傾げていた。
「でも、ヴィータちゃんは怒ったり、悲しんだりしてたけど……」
「シグナムからもはっきり人格を感じたよ。成すべきことがあるって、仲間のため、主のためにやらないといけないんだって……」
「主のため、か……」
フェイトの言葉を聞き、クロノは静かに呟きながら暗い表情を見せていた。なのは、フェイトはそんなクロノの表情の変化に僅かに首を傾げただけであったが、リンディはその表情の変化の理由に気付いていた。
そのため、リンディは自分から口を開いた。
「結局、現段階では守護騎士たちの目的ははっきりとはしていませんが、《闇の書》を完成させようとしていることは事実であり、それは止めねばなりません。ただ、現状では居場所の特定はできていませんから、そこは調査を進めている局員たちに任せるとしましょう」
そういつもの笑顔を浮かべながら話しをするリンディに、クロノもいつもの表情へと戻すと、その話しを続ける形で口を開いた。
「そうですね。転移頻度から見ても、主はこの周辺にいることは確実ですし、案外、主の方は先に掴まるかもしれません」
「完成前なら主も普通の魔導師だろうし、すぐに捕まえられるよっ!」
クロノの言葉に、エイミィも元気よく声を上げた。そんなエイミィの言葉に、一同は笑みを零すが、すぐに次の話題へと切り替える。
「次に仮面の男の目的ですが、こちらは皆目検討がついていない状況です」
「そうね。初めは祐一くんが戦闘へ介入することを阻止し、今回はクロノが守護騎士の一人を捕らえるのを邪魔をした。何が目的かはわからないけれど、彼らも《闇の書》を完成させることが狙いのようね」
「そうですね。やつらの厄介なところは、魔導師としてかなりの力を持っていることと、いつ襲ってくるかがわからないところです」
悔しげに表情を歪ませ、話しをするクロノへと、リンディは真剣な表情で頷きを返した。仮面の男がどこの誰であるのか、現状では全くわかっていないため、居場所を特定することは困難であり、またクロノが話しているように、仮面の男たちは、魔導師としてかなりの腕を持っている。それは祐一とクロノとの戦闘からも確認済みだ。
なのはとフェイトは守護騎士たちとの戦闘に専念してもらいたいため、そちらに回すことはできない。アルフも同じ理由から対処不可。
また、別件ですでにこの場にはいないユーノは、そちらにかかりきりのため、そもそも戦闘にも参加は難しい状態だ。
そのため、仮面の男の対処はクロノに任せるしかなかった。
(――仮面の男の存在はとても厄介なものになりそうね。下手に局員を回しても太刀打ちできないだろうし……。本当なら、あと一人はAAクラス以上の魔導師に手伝って欲しいところだけど、そんな都合の良い人材が今の管理局にいるわけもないし……)
そこまでリンディは一人考えていると、やはり、頭の中に思い浮かんだのは、一人の黒衣の青年の姿であった。
(――いいえ、駄目ね。今、祐一くんはいない。それに彼は管理局員じゃない、ただの一般人。手伝ってもらうことはできない)
リンディは自分の考えを頭から追い出すように首を振った後、口を開いた。
「とりあえず、警戒だけは怠らないようにしておきましょう」
「了解です」
リンディの言葉にクロノが頷きを返した。
「……あの、リンディさん」
「ん? なにかしら、なのはさん……?」
「……祐一お兄さんは、どこにいるんでしょうか……?」
なのはの言葉にリンディは悲しげな表情となり、首を横へと振った。
「そう、ですか……」
「ごめんなさいね、なのはさん、フェイトさん。祐一くんの行方は、私たちにもわからないの。調査はしているのだけれど、足取りが掴めていないのよ」
リンディの言葉に、なのはとフェイトは悲しげに目を伏せた。
そんな二人を見つめながら、リンディは話しを続ける。
「今、私たちが祐一くんについてわかっていることは、祐一くんが単独で守護騎士たちと戦闘を行ったということと、その後、仮面の男に重症を負わされ、赤髪の男に連れて行かれたということ」
なのはとフェイトに見せるように、リンディは指を一本ずつ立てていく。
真剣な表情で見つめてくる二人の瞳を見返しながら、リンディはさらに話しを続けていく。
「――おそらく、祐一くんは《闇の書》の主と知り合いなんだと思います」
「っ!? それって、ほんとうですかっ!?」
「あくまで私の予想です。ですが、ほぼ間違いないでしょう」
「そういえば、シグナムも祐一を知ってるようだった。じゃあ、祐一は何で一人で《闇の書》の主の所に行ったんでしょうか? それを知っているなら、わたしたちに教えてくれてもよさそうなのに……」
なのはは驚きの声を上げ、フェイトは祐一の行動に疑問を感じ、首を傾げていた。
「流石にそこまでは私にもわかりません。祐一くんにも何か考えがあったのだろうけど、こればっかりは本人に聞くほかありませんね」
「……そうですよね」
リンディの言葉に、フェイトが元気なく答えた。
すると、なのはが静かに口を開いた。
「理由はどうあれ、祐一お兄さんは、《闇の書》の主の人のこととか、守護騎士の人たちのこととか、それに――わたしたちのこととか、いろいろ考えてくれた上での行動だったんだと、わたしはそう思います」
「なのは……」
なのはは、まだ僅かに寂しげな表情をしていたが、その瞳からは祐一のことを信じているという気持ちが伝わってくるようであった。
そんななのはの表情を見つめて、フェイトは苦笑を浮かべる。
(すごいな、なのはは。本当に祐一のことを信頼してる。本当にまっすぐに……)
なのはは黒沢祐一という青年を、心の底から信頼している。そんな風にまっすぐに相手を想うことが出来るなのはに、フェイトは憧れと嫉妬を感じていた。なのはのようになれたら、と。
(――なのはのようにはなれないかもしれないけど、わたしだって、祐一を信頼してる。この気持ちは嘘じゃない)
フェイトの瞳にもなのはと同じように、力が灯っていく。
自分と母親であるプレシアのために、管理局と敵対することになっても手助けをしてくれた青年の大きな背中を想った。
そして、なのはの言葉に続くようにフェイトも口を開く。
「わたしもなのはの言うとおりだと思います。祐一が一人で戦っていたのには、何か理由があるんだと思います。それに、祐一は強い。重傷だって言ってたけど、きっと、無事だって信じてます」
「フェイトちゃん……」
力強く話すフェイトになのはは微笑みを浮かべた。
そんな二人にリンディ、クロノ、エイミィも思わず笑みを浮かべる。
「そうね。私も祐一くんは無事だと思うわ」
「そうですね。それから、みんなに朗報だ。祐一さんを連れて行った赤髪の男が誰か分かったよ」
「ほ、ほんとっ!? クロノくんっ!?」
「ああ、ほんとだよ。エイミィ、映像を」
「はいはい」
エイミィがモニターを映し出すと、そこにはまだ少年と言ってもいい年齢ぐらいの男性の姿があった。
赤髪の男。それを象徴するかのように燃えるような赤い髪に赤いジャケット、赤いズボンと全てが赤で統一された少年である。
「この人が、祐一を連れて行った人……?」
「ああ、おそらく間違いないだろう。名前はヴァーミリオン・CD・ヘイズ――祐一さんと同じく、かつて管理局にいた人物だよ」
「なるほどね。確かに、彼なら祐一くんを助けることは十分考えられるわね」
クロノの言葉に、リンディは顎に手を当てながら頷いた。
「この人は祐一とどういう関係だったの?」
すると、フェイトが疑問に思ったのか首を傾げながら質問してきた。
フェイトの言葉にクロノはああ、と一度頷くと説明を始めた。
「祐一さんが管理局にいたときの後輩だったんだよ。それに同じ部隊の仲間でもあった」
「そうなんだ」
「管理局に所属していたときの最終魔導師ランクはAAA+。かなりの実力者だったはずだよ。彼なら仮面の男たちを出し抜いて祐一さんを救うこともできるだろうからね」
「そんなに強い人なんだ……」
なのはがモニターに映るヘイズを見つめながら呟いた。フェイトも同じようにモニターに映るヘイズを見つめていた。
「じゃあ、この人を追えば祐一に会えるの?」
「確かに彼を追えば祐一さんには会えるんだろうけど、肝心の彼を追うことができないんだよ」
「そうなんだ……」
クロノの言葉に、なのはとフェイトが悲しげな表情を浮かべた。
すると、リンディが手を一つ叩き、声を上げる。
「まぁ、何にしてもこれで祐一くんが無事である確率は上がったわ。私たちはやれることをやりましょう。まずは、《闇の書》と守護騎士たちをなんとかしないとね」
「はいっ!」
「頑張りますっ!」
胸の前で拳を作り、なのはとフェイトはやる気を見せ、次なる戦いに意欲を漲らせていた。
――心の中では、祐一の心配をしながら……。
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