大変お待たせしてしまった上に、話が進まず申し訳ございません。
しかし、それでも楽しんで頂けたら幸いです。
では、どうぞ。
(なんとか間に合ったか……)
祐一はなのはとフェイトに悟らせないように、静かに息を吐いた。それと同時に、前回の戦闘での怪我がずきりと僅かに痛んだ。
(やはり、万全の状態とは言い難い……)
前回の戦闘で祐一は、ギル・グレアムの使い魔であるリーゼアリアとリーゼロッテに重傷を負わされた。
祐一の先輩であるリチャード・ペンウッドの助力もあり、なんとか祐一は戦闘ができるぐらいには回復はしているものの、完治までには至っていなかった。
また、そのことについて、リチャードもあまり無茶はするなと、祐一には念を押していた。
(だが、今回の戦いは敗北するわけにはいかない。なのはやフェイト、そして――はやてのためにも……)
祐一が見つめる視線の先には、八神はやてであった女性――闇の書が無表情にこちらを見ていた。
(あれが、闇の書……いや、あれは本体ではない。管制人格のようなものか……)
銀髪赤目の女性の姿となっている闇の書を祐一はそう分析した。
(完全に暴走はしていないようではあるが、それでも強敵であることには変わりはない、か……)
難儀なことだなと、祐一は一人静かに呟いた。
そんな風にいろいろと考えていた祐一に、闇の書の拘束から逃れたなのはとフェイトが近づいてきた。
「祐一お兄さん……」
「無事、だったんだね、祐一……」
近づいてきた二人は、久しぶりに祐一と出会えて、無事な姿を確認したことから安心したのか、瞳には涙が浮かんでいた。
そんな二人を見て、祐一はバツが悪そうに頬を指で掻いた。
「心配を掛けてしまったようだな、なのは、フェイト」
「ううん。祐一お兄さんが無事なら、わたしはそれで十分だよっ」
祐一の言葉に、なのはは涙を拭いながらも笑顔でそう言葉を口にした。
「わたしも、なのはと同じ気持ち。今、ここに祐一がいてくれるだけで、本当に嬉しいよ」
なのはと同じように涙を拭いながら、フェイトは花が咲いたような笑みを浮かべた。
そんな二人の言葉に、祐一は心温まるのを感じながら、
「ああ。ありがとう、二人とも……」
そう言葉を返した。
◆
「――二人にはいろいろと話さないといけないことはあるんだが……」
祐一は二人を見つめながらそう言葉を口にするが、二人は分かっているというように、首を横に振った。
「そうだね。聞きたいことはいろいろとあるけど……」
「今ははやてを助けてあげるのが先決、だよね」
なのはとフェイトはそう話すと視線を上空へと向けた。それにつられるように、祐一もそちらへと視線を動かす。
三人が向けた視線の先には、銀髪赤眼の女性の姿をした《闇の書》がこちらを見つめていた。
(こちらを攻撃してこないのは、優しさからか、はたまた俺たちなど自分の障害にもならないという余裕からか……半々ぐらいだと信じたいがな……)
こちらを攻撃してこない理由の半分が、祐一、なのは、フェイトの三人を攻撃したくないという優しさならば、それははやての意志が残っていると推測出来る。だからこそ、半分はそうであって欲しいと、祐一は思っていた。
後者の理由に関しては、時間が経過していくほど祐一たちにとっては不利な状況に追い込まれていく。はやてのことや地球のこと、それらが時間が経過するほど危険になっていくということに他ならない。
「三人でいっしょに戦うのは初めてだね」
祐一が黙って考え込んでいると、静かになのはが口を開いた。
「そうだね。なのはとはいっしょに戦ったことはあるけど、祐一とはなかったかな」
「そうだな。それがどうかしたのか、なのは?」
ううんと、なのはは首を横に振った後、笑みを浮かべた。
「三人で戦えるってことが、とても心強いなって思って……」
そう語るなのはを、祐一とフェイトは僅かに驚いた表情で見つめた。
「さっきまでフェイトちゃんといっしょに闇の書さんと戦って、とても強いと思ったし、一人じゃ勝てないかもって思った。だけど、今は祐一お兄さんもいる。わたしとフェイトちゃんと祐一お兄さんが揃って、勝てない相手なんているはずないよっ!」
なのははそう言葉を口にしながら、いつもどおりの笑顔を見せた。
そんないつもどおりのなのはに、祐一は苦笑をフェイトは微笑みを浮かべていた。
「相変わらず、お前は本当にすごい奴だな……」
祐一は苦笑を浮かべながら、右手でなのはの頭をいつもより乱暴に撫でた。祐一にいつもより強めに撫でられたため、なのはは「にゃにゃっ!?」と奇声を発していた。
「そうだよね。なのはの言うとおり、この三人が揃って、負けるはずないもんね」
「フェイトちゃん……」
祐一に撫でられたために乱れた髪を直しながら、はのはは微笑を浮かべながら話すフェイトに笑みを返した。
しかしすぐに、笑みを浮かべていたなのはは表情を真剣なものへと戻すと、祐一に声を掛けた。
「じゃあ、そろそろ、戦闘を始めよう。祐一お兄さん、作戦とかあるのかな?」
「作戦と呼べるものではないが、それぞれの役割は決めておこう」
「役割……?」
首を傾げるなのはに祐一は一つ頷きを返した。フェイトは祐一の言葉から何か察したのか、静かに頷いていた。
「まずアタッカーだが、これはフェイトに任せたいと思う。俺が引き受けてもいいんだが、スピードはフェイトの方が上だからな。出来るだけ相手を撹乱してほしい」
「任せて。スピードはわたしの領分だし、接近戦の方が得意だから」
力強く頷くフェイトに祐一は笑顔で頷きを返し、なのはへと視線を向ける。
「なのはは接近戦を挑むフェイトの援護とフェイトが作ってくれた隙に乗じて、闇の書にお前の得意な砲撃魔法をぶち込んでやれ。お前は状況判断も優れているから、上手く隙をつけるだろう」
「わかった。頑張るよっ」
「祐一はどうするの……?」
なのはが両手を握りやる気を出しているところに、フェイトが祐一へと質問を投げる。
「俺の役割は遊撃だ。フェイトとなのはの両方をサポートをメインに、隙を見て闇の書へ一撃を加える、という感じだな」
「そっか、わかったよ」
「了解だよ」
祐一の言葉に、なのはとフェイトは自分たちがデバイスを握っている手に力を込めた。
そんな二人を静かに見つめ、祐一は一度頷くと、
「――さぁ、はやてを救いにいこうか」
黒衣を翻し、上空からこちらを見つめている闇の書の下へと向かった。
◆
「――待たせたか?」
「……質問の意味がわからない。私はお前たちを待っていたわけではない。それにお前たちが何をしようとも結果は変わらん」
「そうか」
無表情に語る闇の書に、こちらも表情を変えず祐一が頷きを返した。
すでに祐一たちの戦闘準備は整っている。祐一は自身のデバイスである《冥王六式》を右手に携え、その後ろに控えているなのはとフェイトもレイジングハートとバルディッシュを持っていた。
両者の様子から見て、もはや戦闘は避けられないが、それでも祐一は闇の書へと声を掛けた。
「はやてを開放する気はないのか?」
「…………」
祐一の言葉を聞いているのかいないのか、闇の書は表情を変えることはない。
そんな闇の書を黙って見つめていると、急に地面が大きく揺れた。
すると、地中から爆炎と呼んでも差し支えない炎が噴出した。また、それは一つではなく、次々と噴出し始めた。
「……早いな、もう崩壊が始まったか。もうじき私も意識を無くす。そうなればすぐに暴走が始まるだろう」
淡々と語る闇の書の声を、祐一たちはしっかりと聞いていた。もはや戦闘は避けることはできないと思いながらも、祐一は別のことを考えていた。
(――"泣いている"んだな)
おそらく闇の書も気付いているのだろうが、戦闘開始からずっと闇の書は涙を流し続けていた。それは悲しみの涙なのだろうと、祐一は思考する。主であるはやてが現実に耐えられずに心を閉ざし、守護騎士たちは消えてしまった。
それゆえに"彼女"は、涙を流しているのだろう。それには同情する。
(だが、このまま地球を破壊されてはかなわない。それに、はやても助けなければならないしな)
祐一はそう考えると、一度大きく息を吐いた。
そんな祐一をなのはとフェイトの二人は、僅かに心配そうに見つめていた。
二人に視線を向けられながら、祐一は息を吐く際に閉じていた瞳を静かに開く。
「地球を破壊されることも、このままはやてと別れることもできんのでな。――止めさせてもらう」
「……無駄なことを……」
祐一は淀みない動作で《冥王六式》の切っ先を闇の書へと向ける。その言葉と行動にも動じることなく、闇の書が静かにそう言葉を口にした。
「無駄かどうかは……っ!」
「やってみないとわかんないよ……っ!」
同じように、なのはとフェイトもレイジングハートとバルディッシュを闇の書へと向けた。
「はやてを返してもらうぞ」
祐一の言葉を皮切りに、再び戦闘が開始された。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などございましたら、ご指摘をよろしくお願いします。