魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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どうも、お久しぶりです。
久しぶりに更新致します。
楽しんでいただけたら幸いです。
では、どうぞ。


vs 《闇の書》 ③

 黒衣のマントを翻し、フェイトは銀髪赤眼の女性――《闇の書》へと、眼にもとまらぬ速さで接近する。

 

「ハァッ!」

 

 裂帛の気合いとともに、自身のデバイスであるバルディッシュから光刃を出し、攻撃を仕掛ける。

 バギンッ! という音とともに、フェイトの一撃と闇の書が張った障壁がぶつかり合い、バチバチと火花を散らす。

 

「くっ……はぁぁっ!」

 

 闇の書の障壁を破るために、フェイトは声を上げながらバルディッシュを持つ両手に力を込めた。

 

(やっぱり、硬い……っ!)

 

 だが、そんなフェイトを嘲笑うかのように、闇の書の障壁には傷ひとつ付いていなかった。おまけに、闇の書の表情には何一つ変化など見られることなく、無表情に障壁越しにフェイトを見つめていた。

 それを見て、フェイトは僅かに表情を歪める。

 そうして、しばらくの間拮抗していたが、すぐに状況は動いた。

 

「穿て、ブラッディダガー」

 

 静かに呟いたのは闇の書。その声とともに、フェイトの周囲には真紅の短剣が数多く出現し、フェイトへと狙いを定めていた。

 それに気付き、フェイトは即座に光刃を引き、その場から離脱を試みるが、

 

「くっ!? これは……バインドッ!?」

 

 しかし、フェイトの動きを見越していた闇の書が準備していたバインドによって拘束された。

 フェイトは慌ててバインドを解除しようとするが、即座に解除できるようなものではなかった。

 そして、フェイトに向けられていたブラッディダガーが放たれる。

 

(当たる……っ!?)

 

 そう思い、フェイトは来る衝撃に身を強張らせた。

 だが、その衝撃はいつまで経っても訪れることはなかった。

 

「焦るな、フェイト。お前一人で戦っているわけではないんだ」

 

 そう男性特有の低い声がフェイトの耳へと聞こえたと同時に、真紅の魔力弾が短剣を相殺していった。

 しかしそれでも全ての短剣を相殺できず、数本がフェイトへと直撃する――かのように見えた。

 

 しかし、フェイトへと直撃しそうであった短剣は、紫色の騎士剣によって全て粉砕された。

 

「祐一……」

「油断するな、フェイト。こいつは思っている以上に"強敵"だ」

 

 漆黒のロングコートを翻しながら、振るった騎士剣を戻しつつ、フェイトへと声を掛けると、祐一は自身のデバイス《冥王六式》を手に闇の書の方へと飛んだ。

 そんな祐一を見て、闇の書も後方へと飛ぶ。

 

「やはり、お前は厄介な存在だな――《黒衣の騎士》」

「伊達に経験は積んではいない」

 

 祐一はそう言葉を返しながらも、フェイトには劣るものの、すさまじいスピードで闇の書へと接近し、騎士剣を振るった。相対する闇の書はフェイトのときとは違い障壁は張らず、自身の拳に膨大な魔力を纏わせて迎え撃った。

 祐一の騎士剣と闇の書の拳がぶつかり合い、ガキンツ! と、轟音が周囲に響き渡り、その余波で周囲に風が吹き荒れる。

 

「ふっ!」

 

 祐一は鋭く息を吐きながら、闇の書の一撃によって弾かれた騎士剣へと力を込め、再度攻撃を繰り返した。

 しかし、闇の書もすぐに体勢を整え、攻撃を仕掛けてくる祐一を迎え撃つ。そして、再び轟音が周囲へと響き渡る。

 二人は互いに場所を変えながら、お互いの一撃をぶつけ合っていく。

 

(すごい……)

 

 フェイトはバインドの拘束を解除しながら、二人の戦いを目の当たりにして僅かに息を飲んだ。

 

 ――これが超一流の魔導師同士の戦い。

 

 闇の書は魔導師ではないが、その力は超一流の魔導師以上であり、もはや人間の力では太刀打ちできるかどうかわからないレベルの文字通りの怪物。

 しかし、それに相対するのは魔導師である一人の青年――黒沢祐一は真っ向からそんな怪物とぶつかり合っていた。

 

(やっぱり、祐一はすごい。……ほんとにわたしはあの人に追いつけるのかな)

 

 フェイトの視線の先、黒衣を翻しながら闇の書と戦う祐一の姿を見つめながら、フェイトはそんなことを思った。

 

(……って、今はそんなこと考えてる場合じゃない。早く祐一の援護に行かないとっ!)

 

 フェイトはネガティブになりかけた思考を振り払うため、頭を数回振った。

 そんなことをフェイトがしていると、今まで互角に打ち合っていた二人の戦闘に変化が見え始めた。

 

「ぐ……っ!?」

 

 驚くべきことに、あの祐一が次第に闇の書に押され始めたのだ。

 今まで祐一が攻め、闇の書が受けるという構造だったが、闇の書が攻め、祐一がその攻撃を受けるという形に変化していた。

 

(分かってはいたが、やはり強い……。それにこの魔力量は厄介だ)

 

 そう心の中で思いながら、祐一は悔しげに口元を歪ませた。

 最初こそ攻めていた祐一であったが、次第に祐一の攻撃に慣れてきた闇の書が、魔力弾も祐一へと撃ち出すようになってきたことから、戦局は変わってしまった。

 ほぼ無尽蔵ともいえる闇の書の魔力から放たれる魔力弾は尽きることを知らない上に、的確に祐一へと放たれていた。それに加えて闇の書本体の攻撃もあるのだから、流石の祐一も迎撃するのが精一杯であった。

 それでも、闇の書の攻撃を防いでいる祐一の技量も目を見張るものがあるのだが、そんなことで納得する祐一でもなかった。

 

(決め手に欠けるな……)

 

 自身に迫り来る魔力弾を撃ち落しながら祐一は思考し、僅かに視線を横へと向けると、そこにはバインドを解除してバルディッシュを構えているフェイトの姿があった。

 そして、祐一が何かを思いついたようにフェイトへと視線を向けると、フェイトも祐一の視線に気付き、僅かな時間祐一と視線を合わせると、フェイトは力の篭った瞳を祐一へと向けながらコクリと頷きを返した。

 フェイトの頷いたのを確認すると、再び祐一は視線を闇の書へと向けた。

 そして、一人の少女の姿が見えないことに気がついた。

 

(……姿が見えないと思ったら、そんなところにいたのか)

 

 祐一がそう思った瞬間、闇の書が祐一に向けて放っていた魔力弾が別の魔力弾によって、全て相殺させられた。

 その攻撃に、無表情だった闇の書の眉が僅かに動き、魔力弾が放たれた方角である上空へと視線を向けた。

 

 するとそこには、闇の書の方へ自身のデバイスであるレイジングハートを向けているなのはの姿があった。

 かなりの距離があるというのに、寸分たがわず闇の書の魔力弾を撃ち抜いたなのはの技量に祐一は驚いていたと同時に、なのはの成長に笑みを浮かべていた。

 

(最初の頃から、さらに力を付けたな)

 

 そう祐一が心の中でなのはを賞賛していると、祐一の脇をすり抜け、フェイトが一瞬のうちに闇の書へと肉薄する。

 急に自身の側に現れたフェイトに、流石の闇の書も僅かに驚いた表情を見せた。だがすぐに表情を戻すと、フェイトの攻撃を障壁を張って防いだ。

 それを確認すると、フェイトは大きな声を上げる。

 

「今だよっ! 祐一!」

「任せろっ」

 

 祐一はフェイトに言葉を返すと同時に、フェイトの攻撃で足が止まった闇の書の両手両足をバインドで拘束した。

 

「なのは、フェイト!」

「うんっ!」

「了解!」

 

 祐一の言葉を聞き、なのはとフェイトが瞬時に動いた。

 なのはは上空に留まったまま魔力をレイジングハートの先端へと込め、フェイトも瞬時に闇の書と距離を取り、なのはと同じように魔力を溜めていく。

 そして、祐一も自身の前に魔法陣を展開し、騎士剣の切っ先が背後へと向いた状態で構える。

 

「ディバイン――」

「プラズマ――」

「フレイム――」

 

 そして、三人の声が周囲に響き渡り、

 

「バスターー!」

「スマッシャーー!」

「バスターー!」

 

 闇の書へとなのは、フェイト、祐一の砲撃魔法が放たれた。

 

(これなら……っ!)

 

 なのははレイジングハートを持つ両手に力を込めながら、そう心の中で強く思った。

 祐一のバインドで両手両足を拘束された状態では満足に動くことも出来ないはずのため、闇の書は攻撃を受けるしかない。

 ならば、少しはこちらの攻撃が通るはずだと、なのはは思っていた。

 しかし、そんななのはの思いを裏切るかのように、闇の書が静かに声を上げる。

 

「――砕け」

 

 その言葉が聞こえると、闇の書の本体である魔道書が小さく明滅し、祐一のバインドがあっさりと砕け散った。

 

「「「……っ!?」」」

 

 その光景を見た三人の表情が驚愕に彩られた。

 なのはとフェイトは祐一のバインドがこんなにもあっさりと砕かれたことへの驚き、そして祐一は闇の書という魔道書の力に驚いていた。

 

(俺の魔力は一度蒐集されている。……俺の使う魔法も解析されているということかっ)

 

 迂闊だったと、祐一は自身の考えの甘さに怒りを覚えたが、すぐに次への行動に移せるように思考を切り替えた。

 そんな風に祐一が考えていると、闇の書がさらに声を上げる。

 

「――障壁」

 

 なのは、フェイト、祐一の三人の砲撃魔法が闇の書へと当たる直前に、闇の書は障壁を張った。その障壁は硬く、三人の攻撃を持ってしても砕けないレベルのものであった。それは今、その障壁に自分たちの砲撃魔法を撃っている三人がよくわかっていた。

 

「穿て、ブラッディダガー」

 

 そんな三人を嘲笑うかのように、再び闇の書はブラッディダガーを作り出した。その数は、今までの比ではない。

 

(くそったれめ……)

 

 それの光景を見た祐一は思わず心の中で悪態をついた。

 瞬間、ブラッディダガーが三人へと撃たれ、爆風と轟音が周囲に響き渡った。

 

 ◆

 

 ブラッディダガーの攻撃を受け、三人の周囲には爆発による黒煙で満たされていた。

 

「……二人とも無事か?」

「うん、大丈夫」

「こっちもなんとか……」

「そうか……」

 

 祐一はとりあえず二人の無事を確認し、息を吐いた。

 フェイトとなのはが言ったように、致命的な攻撃には至っていなかったようでバリアジャケットが僅かにボロボロになっているだけで、そこまでの傷は見受けられなかった。

 かくいう祐一も同じような状態で、まだ戦闘に支障をきたすレベルではなかった。

 だが、先ほどの攻撃で胸に受けていた傷が僅かに開いたのか、ジクジクとした痛みが祐一を襲っていた。

 

(こうなることはわかっていた。この程度で止まるわけにはいかないし、まだ問題はない)

 

 祐一はそう結論付け、傷のことは気にしないことにした。

 

「お前たちは、まだ無駄なことを続けるのか?」

 

 黒煙が晴れると、三人の視線の先にいる闇の書が強者の余裕とでも言うように、悠然と声を上げた。

 

「無駄かどうかを決めるのは、お前ではない」

 

 三人を代表して、祐一が闇の書に言葉を返した。

 そんな祐一を、闇の書は真紅の瞳で見つめ返した。

 

「わからないな。お前たちがいくら足掻いたところで結果は変わらない。私は主の願いを叶えるだけだ」

 

 その言葉に、なのはとフェイトは表情を歪めた。

 

「っ!? もう止めようよっ! はやてちゃんだって、ヴィータちゃんだって、こんなこと望んでないよっ!」

 

 なのはの言葉に、無表情だった闇の書の眉がピクリと動いた。そんな闇の書の表情の動きに祐一は気付いていたが、黙って状況を見守っていた。

 

「それにはやてはまだ生きてるっ! シグナムたちだって、まだ……」

「もう遅い。闇の書の主の宿命は、始まったときが終わりのときだ……」

 

 なのはに続きフェイトも声を上げるが、闇の書は聞く耳を持とうとしなかった。

 そんな闇の書の言葉を聞いて、なのははその大きな瞳に涙を溜めながら心から叫ぶ。

 

「終わりじゃないっ! まだ終わってないっ!」

「…………」

 

 すると、闇の書が唐突に右手を前に突き出し、魔力弾をなのはへと放ってきた。

 

「っ!?」

 

 なのはは驚き障壁を張ろうとしたが、魔力弾が途中で真紅の魔力弾に打ち消された。

 

「祐一お兄さんっ!」

 

 なのはの視線の先には、闇の書と同じように右手を前に突き出した祐一の姿があった。

 

「……どうした? なのはの言葉が気に食わなかったのか?」

「…………」

 

 横から割り込んできた祐一を闇の書は黙って見つめていた。

 そんな闇の書に構わず、祐一は静かに口を開く。

 

「お前は自分のことをただの道具だと言っているが、断じてそんなことはない。なのはの言葉を聞いてから魔力弾を撃ってきたのもその証拠だ」

 

 祐一は闇の書を見つめながら、静かに、しかしはっきりと言葉を紡いでいく。

 そんな祐一の姿をなのはとフェイトも黙って見つめていた。

 

「それにだ。そんな風に涙を流す奴が道具なだけのはずがない。お前には心がある」

「そうだよっ! 諦めてる人が、涙なんて流すはずないっ! 涙を流すのは、悲しいからじゃないの? 諦めたくないからじゃないのっ!」

 

 祐一の言葉に続けてなのはが声を上げた。その声は悲痛の叫び、闇の書へと問い掛けるような心の叫びだった。

 しかし、それでもなお闇の書は止まることはなく――右手を前に突き出し、魔力を集め始めた。

 

「……やはり駄目、か」

 

 祐一は落胆するように息を大きく吐くと同時に、魔力弾が三人に向けて放たれた。

 しかし、直線的な攻撃では祐一、なのは、フェイトの三人に当たるはずもなく、祐一は騎士剣でそれを掻き消し、なのはとフェイトは魔力弾で闇の書の攻撃を相殺した。

 

「伝わらないなら、伝わるまで何度でも言う。助けたいんだ。あなたのことも、はやてのこともっ!」

「…………」

 

 フェイトの言葉を闇の書は黙って聞いていた。三人の度重なる説得に、闇の書の心が少しでも動いたのかと、僅かながらも三人は期待した。

 しかし、その期待はすぐに裏切られることになった。

 

「「……っ!?」」

 

 突然、周囲に轟音が響き渡り、なのはとフェイトは驚いた表情で辺りを見回した。

 

(予想より早い。このままでは街が……いや、この地球が持たんぞ)

 

 轟音の正体は、闇の書の暴走に伴い引き起こされている天変地異であった。地震によってコンクリートで舗装された地面は割れ、そこから火柱が吹き上がっている。それは今までの比ではなく、本当に地球を破壊するかのような勢いであった。

 すると、そんな焦る三人を一瞥し、闇の書は淡々と言葉を紡ぎ始めた。

 

「早いな、もう崩壊が始まったか。私もじきに意識を無くす、そうなればすぐに暴走が始まる。……だが、その前に主と騎士たちの望みを叶えたい」

 

 闇の書はそう話しながら、ブラッディダガーや魔力弾を自身の周囲に展開を始めた。その数は今までの比ではなく、闇の書が本気になってきたという証拠でもあった。

 

「――眠れ」

 

 闇の書が静かに告げると、周囲に展開していたブラッディダガーや魔力弾が動きを開始する。それを見て、祐一となのははデバイスを構えた。

 しかし、フェイトの行動は違っていた。

 

「この駄々っ子っ! バリアジャケットパージ!」

 

 そうフェイトが叫ぶと、身に纏っていたマントや外装がはずれ、ほとんどレオタードにスパッツのみという状態となった。

 これはフェイトが考えた奥の手、ソニックフォーム形態であり、その姿となったフェイトは闇の書へと目にも留まらぬスピードで突っ込んでいく。

 

「っ!? 待て、フェイト!」

「フェイトちゃん……っ!?」

 

 そんなフェイトの行動に祐一となのはは大いに焦った。

 いつものフェイトであれば、そのような行動は取らなかったかもしれなかったが、今日のフェイトは友人となったはやてのため、そして戦闘でお互いしのぎを削りあったシグナムたちのためとフェイトの心の中に焦りが生まれての行動だった。

 

(駄目だ、フェイト! そこからでは遠すぎるっ!)

 

 フェイトの無謀な行動に心の中で叫び声を上げながら、祐一は迫り来る魔力弾を捌く。その間にもフェイトは攻撃を持ち前のスピードで回避しながら闇の書へと接近していく。

 

「祐一お兄さん、フェイトちゃんが……っ!」

「わかってるっ!」

 

 なのはも闇の書の攻撃を捌きながら接近を試みるが、魔力弾の数が多すぎるためそれも叶わなかった。

 闇の書へと接近するためには、フェイトのように圧倒的なスピードを持って攻撃を回避しつつ相手に接近するか、防御を考えずに突っ込むかのどちらかしかない。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 フェイトはサイズフォームに切り替えたバルディッシュを、闇の書へと振るった。

 しかし、闇の書は冷静にその攻撃に対応し、瞬時に障壁を張り、フェイトの光刃を防いだ。

 

「くっぅぅぅぅっ!」

 

 フェイトは障壁に負けじと、さらにバルディッシュへと力を込めた。

 そんなフェイトを障壁越しに、闇の書は冷静な瞳で見つめていた。

 

「……お前にも"心の闇"があるようだな」

「っ!?」

 

 闇の書の言葉と同時に、金色の魔力光を纏っていたフェイトを闇の書の漆黒の魔力が包み込んでいく。それに合わせて、フェイトの体が少しづつ文字通り消え始めていた。

 

「フェイトちゃんっ!?」

 

 そんなフェイトの姿を見て、なのはが悲鳴のような声を上げた。

 そして、なのはの声が聞こえたと同時に祐一が覚悟を決めたように動いた。

 

「――自己領域展開」

 

 そう呟いた祐一の姿が一瞬ぶれたかと思った瞬間、闇の書の背後へと移動していた。

 これこそ祐一の切り札――《自己領域》であり、その能力を持って瞬間移動したかのように闇の書の背後へと移動したのだ。

 

「フェイトッ!」

「ゆう、いち……」

 

 もはやフェイトの姿は半分以上が消えかかっていた。このままでは、フェイトは闇の書に吸収されてしまい、手の出しようがなくなってしまう。

 そう思った祐一は闇の書の動きを止めるべく、自身の魔力を込めた騎士剣を闇の書へと振るった。

 ほぼ瞬間移動したと同義から放たれる祐一の渾身の一撃は、闇の書へと吸い込まれていき――

 

「……貴様が"そう"動くことはわかっていた」

 

 闇の書の静かな声が聞こえると同時に、バギンッ! という音が周囲に響き渡った。

 その音の正体――それは、剣型のデバイスである《冥王六式》が真っ二つに折れた音だった。

 それを見た祐一は、信じられないものを見るかのように驚愕の表情を浮かべていた。あの冷静沈着である祐一が、そのような表情を浮かべていた。

 

(俺がフェイトを助けることを読んでいたのか……)

 

 そう心の中で思いながら、祐一は悔しげに表情を歪めた。

 

「お前にも"心の闇"があるな。それもかなり深い……」

「っ!?」

「祐一お兄さんっ!?」

 

 再度、なのはの悲鳴が周囲に響き渡り、闇の書の漆黒の魔力に祐一も包み込まれ始めていた。

 

(くっ、我ながら情けない。あれだけ大見得を切って、このザマとはな)

 

 祐一は少しずつ消えていく自分の体を悔しげに見つめていた。

 しかし、その瞳からはまだ諦めは感じられなかった。

 

(――だが、まだ終わりじゃない)

 

 そう思い、祐一は視線を唯一無事な、なのはへと向けられた。

 

『祐一お兄さんっ、フェイトちゃんっ!』

『すまない、なのは。俺とフェイトはここで"一度"リタイアだ』

『ごめんね、なのは、祐一』

 

 もはや言葉を交わすことができないため、念話で三人は言葉を交わした。

 

『大丈夫なの?』

『ああ、大丈夫だ』

『必ず戻ってくるから』

『それとも、俺とフェイトが信じられないか?』

 

 祐一の言葉に、ううん、となのはは首を横に振った。

 その姿を見て、祐一は心の中で僅かに笑みを浮かべた。

 

『ならば、信じろ。俺とフェイトは必ず戻る。だから……』

 

 自身とフェイトの体がほとんど消えかける中、祐一は最後になのはへと全てを伝える。

 

『後を頼む。大丈夫、なのはならきっとやれるはずだ』

『うんっ! わかった。わたし、頑張るよっ!』

 

 なのはの力強い言葉を聞き、祐一はもはやほとんど動かぬ体で、静かに頷いた。

 

『それとフェイト』

『なに……?』

『お前も負けるんじゃないぞ。ここからは何が起こるかわからないからな』

『わかった。わたしも頑張るよ』

 

 二人の言葉を聞くと、祐一の意識は完全に漆黒の闇に吸い込まれていった。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、ご指摘をお願いします。

まだプライベートが落ち着きません。
おそらくまた更新は遅くなるかと。。。
できるだけ早く更新できるように頑張ります。
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