魔法少女リリカルなのは~黒衣の騎士物語~   作:将軍

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別れ、そして始まりへ

 祐一がリニスが消えた場所を無言で見据えていると、誰かが近づいてくる気配があった。

 

「……リニスはいってしまったのね?」

 

 その気配の主はプレシアであった。

 祐一は静かに頷き、プレシアへと言葉を返す。

 

「ええ、つい先ほど……」

 

「そう……」

 

 祐一はそう言葉を発するプレシアを静かに見つめるが、表情を読ませないようにするためか、リニスがフェイトのために作った最後のデバイスであるバルディッシュの方へと静かに歩いていく。

 

「これがあの娘の杖……完成していたのね」

 

 プレシアはバルディッシュを手に取りながら静かに呟き、バルディッシュをじっと見つめていた。バルディッシュを見つめるプレシアの瞳からは、祐一は何も感情を読み取ることは出来なかった。

 リニスに罪悪感を感じているのか、それともまた、別の感情を持っているのか。

 

「こん……、……の……かしら……」

 

 ふと祐一の耳に、消え入りそうな声が聞こえてきた。

 どうやらプレシアが何かを呟いたようであったが、祐一は上手く聞き取ることができなかった。――だが、プレシアの表情が一瞬だけ、悲しそうな表情をしていたように、祐一は感じた。

 

 リニスが消えてしまった部屋で、祐一とプレシアが無言になっていると、扉の向こうから話し声が聞こえてきた。

 

「――そうなの?」

 

「うん、リニスからの贈り物なんだって」

 

 声の主はフェイトと使い魔のアルフのようだった。どうやらアルフが最後にリニスから伝言を預かっていたのか、話をしながらやってきた。

 フェイト達は誰もいないと思っていたのか、部屋に入ってきたと同時に祐一とプレシアの姿を見つけ、驚いた表情となりおろおろし始めた。

 

「か、母さんっ!? い、いたことに気付かなくて、ごめんなさいっ!」

 

 フェイトは頭を下げながら、プレシアへと謝罪するが、プレシアは少しだけフェイトの方へと視線を向けるだけであった。

 

「祐一? なんでここにいるんだい?」

 

「リニスに頼まれた用事を済ませにな。お前達こそ、なんでここに?」

 

「いや、私はリニスにフェイトに贈り物があるから、後で部屋につれて来てって頼まれたんだけど……」

 

 恐縮しているフェイトに変わり、アルフが祐一へと言葉を返す。その表情からは、何で二人がこの部屋にいるんだということが気になっているようでもあった。

 すると、今まで黙っていたプレシアがバルディッシュをしっかりと手に持ったまま、フェイトの方へと体を動かし、声を掛けた。

 

「来なさい、フェイト」

 

「は、はいっ!」

 

 プレシアに呼ばれると、フェイトが緊張しながらも小走りでプレシアの方へと近づいていく。その表情は困惑に満ちていた。

 一方、祐一は事の成り行きを見守ることにしたのか、壁際へと移動し、壁に背を預けて腕を組み、二人のことを見つめていた。アルフも祐一の隣で様子を窺っている。

 

「あなたの杖よ。リニスが残したの。……手に取って」

 

「は、はい」

 

 フェイトはプレシアが手に持っていたバルディッシュをおそるおそる受け取る。

 

「重い――だけど、温かい」

 

 フェイトはバルディッシュを受け取ると、バルディッシュから何かを感じたのか、そう言葉を漏らす。

 

『Get set』

 

 すると、バルディッシュが明滅する。

 それは、新たに自身の主に対する喜びのようであった。

 

「この子、わたしに合わせてくれる?」

 

 フェイトは新しく自身の相棒となるデバイスの性能に目を丸くする。

 

「リニスが作ったものだもの」

 

 フェイトの呟きに、プレシアはまるでそれが当然であるかのように答える。

 

「バルディッシュ――それがあなたの名前?」

 

 フェイトの言葉にバルディッシュは明滅することで返答する。

 それを見たフェイトは嬉しそうに頷いた。

 

「うん。よろしくね、バルディッシュ」

 

 そう言い、フェイトはバルディッシュを大事そうに抱える。

 その光景を黙って見ていた祐一は少しだけ笑みを作る。

 

(フェイトとバルディッシュは良いコンビになりそうだな)

 

 大事そうにバルディッシュを抱えているフェイトに、プレシアは腕を組みながら話し掛ける。

 

「いいこと、フェイト。その杖でもっと強くなって、あらゆる望みを叶える力をその手になさい。……あなたは、この私の娘なのだから」

 

「はい。頑張ります」

 

 プレシアの言葉にフェイトはしっかりと言葉を返しながら頷いた。

 フェイトの表情は、決意を新たにするような引き締まった表情をしていた。リニスが自身へと贈ってくれたデバイスと共に、さらに力を付け、プレシアのためにもっと頑張ろうと心に決めたのだ。

 そんなフェイトから視線をはずし、プレシアはこちらを無言で見つめていた祐一へと視線を向ける。

 

「祐一くん、フェイトに杖――デバイスの扱い方を教えてあげてちょうだい」

 

「はい。わかりました」

 

 祐一の返事に頷きを返し、またフェイトへと視線を戻す。

 

「杖の扱いに慣れたら、少しお使いに行ってもらうから。……いいわね、フェイト?」

 

「はい!」

 

 プレシアはフェイトの返事を聞くと、部屋から出て行った。

 プレシアが出て行くのを見届けた後、フェイトはバルディッシュを両手で大事そうに持ち、嬉しそうに見つめていた。そんな主をアルフは優しく見つめていた。

 

(――"お使い"、か)

 

 心の中で呟きながら、祐一はプレシアが出て行った扉を見つめる。

 祐一はプレシアが言う、"お使い"とは何なのかを考える。デバイスの扱いに慣れたらと言っている時点で、普通の"お使い"ではないのは確かであり、それは危険を伴うものであると、祐一はほぼ確信している。――そして、フェイトに"お使い"をさせる理由もである。

 

(なら、俺は俺の出来ることをやるだけだ)

 

 祐一は決意を固め、バルディッシュを握り締めているフェイトへと声を掛ける。

 

「さて、今日はもう遅いから、俺達もそろそろ休むとしよう」

 

「うん。わかった」

 

 フェイトは祐一に頷きを返し、バルディッシュを待機状態へと戻す。

 待機状態のバルディッシュを大事そうに持っているフェイトに、祐一はさらに声を掛けた。

 

「フェイト、バルディッシュはリニスがお前のために作ってくれた最高のデバイスだ。――大事にするんだぞ?」

 

「うん! わかってるよ!」

 

 笑顔で頷くフェイトに笑みを返しながら、祐一はフェイトの頭を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 ――リニスが消え、フェイトがバルディッシュをその手に持ってから二週間が経った。

 

 祐一は、あれからプレシアの言いつけどおりにフェイトに杖の扱い方を教えていた。

 最初こそ、バルディッシュとのコンビプレーが上手くいっていなかったときもあったが、今ではそのコンビプレーも板についてきたようである。

 祐一がリニスと共に鍛え上げたフェイトは、もはや、普通の魔導師相手では歯が立たないところまで力を付けていた。

 そして、フェイトの使い魔であるアルフもそんなフェイトを見てか、今では立派な使い魔であると言える実力を付けていった。

 

 ――だが、そんな一方で祐一が懸念している問題があった。

 

 フェイトの母親のプレシアである。

 プレシアはリニスが消えてしまってから、さらに研究に没頭するようになっていた。――まるで、何かに取り付かれているようにだ。

 それも相まってか、プレシアの容態は日に日に悪化しているように、祐一は感じていた。

 

 そしてリニスがいなくなってしまったことも、当然ではあるが、やはり大きかった。

 フェイトとアルフにはリニスが消えてしまったとは説明しておらず、「リニスはフェイトの教育が一段落したから、少し遠くへ出かけていった」と話をしていた。

 だが、たまにではあるが、フェイトが遠くを寂しそうに見つめていることがあったが、そのことを祐一にもプレシアにも聞いてくることはなかった。

 間違いなく二人とも何かを察しているのだろうが、それを口に出してしまったら、本当にリニスが帰ってこないことを認めてしまうことになるとでも思っているのだろうと、祐一は感じていた。

 

 そして、また、祐一自身もこの場所を去るときがやってきていた。

 フェイトもアルフも、十分に一人前の魔導師となっている。なので、祐一の依頼はここで終了であった。

 

 ――フェイトとの別れの時が、もうすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

「――以上がこれまでの報告となります」

 

 祐一はこれまでのことをプレシアへと報告していた。

 

「――そう、わかったわ。今までご苦労様」

 

「いえ、正直、たいしたことはしていませんので……」

 

 祐一の言葉にプレシアは少しだけ苦笑を浮かべる。

 その顔色は以前よりも悪くなっていた。

 

「十分よ。……それで、いつここを出て行くつもり?」

 

「明日、出て行こうかと思います」

 

 祐一の言葉にプレシアは、「そう……」と頷くと静かに言葉を紡いでいく。

 

「この一年間、ご苦労様。……あなたが来てくれたおかげで、フェイトも早く一人前の魔導師となったわ。ありがとう、祐一くん」

 

「いえ、俺だけの力ではここまで早くフェイトは一人前にはならなかったでしょう。リニスの働きとフェイトの努力の結果だと、俺は思います」

 

 祐一は静かにプレシアへと語りかける。

 

「――むしろ、俺が礼を言いたいぐらいです。ここで皆と暮らした一年間はとても有意義なものでした」

 

 祐一はプレシアに感謝していた。このような楽しい一時を自身に与えてくれたことに。

 プレシアは祐一をそんなつもりで呼んだわけではないだろうが、それでもプレシアに感謝していた。

 こんなに心安らいだのは、祐一にとっては久しぶりであった。

 自然と祐一は笑みを浮かべる。

 

「……そう、それならよかったわ」

 

 プレシアの言葉に祐一は返事をしながら頷くと、二人の間に沈黙が流れる。

 そして、その沈黙を破るように祐一が口を開いた。

 

「……プレシアさん、今でも気持ちは変わりませんか?」

 

「……何のことかしら?」

 

「わかっているはずです。これからのことと、フェイトのことです」

 

「…………」

 

 祐一の言葉にプレシアは沈黙する。

 その表情からは何も読み取れない。無表情であり、視線だけは祐一の方を向いている。

 

「プレシアさんの考えを否定するつもりはありません。俺も"同じ"ようなことなら、かつて考えましたから――ですが、今という時間も大切だと思います。それを、良く考えてください」

 

 祐一の言葉を聞いてもプレシアは無言であった。だが、僅かに瞳が動いたように、祐一は感じた。

 だが、これ以上何か言っても逆効果であろうと感じた祐一は頭を下げる。

 

「すみません。こんな若造が少し言い過ぎました。……そろそろ、行きます」

 

「そう。……また、会えるといいわね」

 

「そうですね。では、また」

 

 祐一はプレシアへと背を向け、部屋を出て行った。

 

 ――その背中をプレシアは少しだけ、悲しそうな表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 祐一はプレシアの部屋を出て行った後、フェイト達と夕食を食べ片づけを終えた後、フェイト達に話があると言い、二人と向き合っていた。

 

「――俺は明日、ここを出て行く」

 

「……えっ?」

 

「ホントなのかい!?」

 

「ああ、本当だ」

 

 アルフの言葉に祐一は頷く。

 二人の表情は驚きに満ちていた。アルフは単純に驚愕しているだけだが、フェイトは驚き、不安、寂しさなど、いろんな感情が溢れていた。

 祐一はそんな二人を見つめながら、話を続ける。

 

「もうフェイトの一人前の魔導師としてやっていけるだろうし、アルフのサポートがあれば、並大抵の相手には遅れを取ることもないだろう。よって、俺の任期は明日で終了だ」

 

「そ、そんな……まだ、祐一に教えてもらってないこともたくさんあるし……そ、それに、一人前って言っても、祐一にはまだ全然追いついてない」

 

「そ、そうだよっ! こんな急に出て行く必要なんか、ないじゃないかっ!」

 

 二人の言葉に祐一は静かに首を横に振る。

 

「俺はプレシアさんの依頼で来ていた。その依頼は『フェイトを一人前の魔導師にすること』。客観的に見て、フェイトはもう十分に一人前の魔導師だ」

 

 フェイトは泣きそうな表情、アルフは悔しそうな表情となる。

 

「――だから、二人とは明日でお別れだ」

 

 祐一は表情を変えることなく淡々と話してはいたが、心の中では二人にこのような思いをさせていることを悔やんでいた。

 祐一とて、二人と別れることは寂しいことだと感じているのだ。だが、自身がここに留まっていてはこれから先の成長はない。――魔導師としての強さも、"心"の強さもだ。

 だからこそ、祐一は別れを決意したのだ。

 しばらく無言の空間が続いたが、一つの声によって打ち消される。

 

「いや……そんなの、いやだよ。……リニスも"遠く"に行っていなくなったし、これで祐一もいなくなったら……寂しいよ……」

 

「フェイト……」

 

 フェイトはその綺麗な瞳から大粒の涙を流していた。そんな主をアルフは優しく抱きしめる。

 フェイトが自分の想いを口にするのは、とても珍しいことであった。いい子であろうとする余り、フェイトは自身の願望を口にすることはほとんど無かった。

 周りに迷惑を掛けたくないからと、自身の感情を抑えているような子なのだ。

 祐一は少しだけ目を瞑った後、スッと立ち上がり、フェイトの傍へと近づき、目の前で膝立ちになり目線を合わせる。

 フェイトは近づいてきた祐一に気付き、涙で濡れた顔をそちらに向ける。

 祐一はフェイトの涙をそっと拭った。

 

「泣くな、フェイト。……俺もお前と別れるのは寂しい。だが、何も二度と会えなくなることなんてことはない。必ず、また会える日がやってくる」

 

「ほんとに? また、会えるの……?」

 

「ああ、会えるさ」

 

「……じゃあ、指切り、してくれる……?」

 

 フェイトが差し出してきた小指に祐一も小指を絡める。

 

「――これでまた会える」

 

 指を離し、祐一はフェイトの頭を優しく撫でる。

 フェイトの表情も幾分かは和らいでおり、少しだけ笑顔を見せていた。

 

「さぁ、今日はもう遅いからそろそろおやすみ」

 

「うん。わかった。おやすみ、祐一」

 

「おやすみ、祐一」

 

 祐一の言葉にフェイトとアルフは部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 フェイト達と別れた後、祐一が部屋で自身の荷物の整理を終えると、扉をノックする音が聞こえてきた。

 

「フェイトですけど、入ってもいいかな?」

 

「ああ、構わないぞ」

 

「お、おじゃまします」

 

 祐一の返答を聞き、扉を開けて入ってきたのは、可愛らしいパジャマに着替えたフェイトがだった。

 祐一は少しだけ首を傾げながら質問する。

 

「どうした? こんな時間に」

 

「えっと、あのね? 今日は祐一と一緒に寝ても……いいかな?」

 

「……は?」

 

 フェイトの驚きの言葉に祐一にしては珍しく間の抜けた声を上げていた。

 祐一が呆けていると、フェイトが少しだけ頬を赤く染めながら口を開く。

 

「今日が祐一といられる最後の日だから……駄目、かな?」

 

 そういうことかと、祐一は心の中で思った。何事かと思ったが、先ほどのフェイトの反応を見ていたら、それもあるかとも感じた。

 不安そうに祐一を見つめてくるフェイトに、ふぅっと息を吐く。

 そんな祐一を見て、駄目かと思ったのか、フェイトの表情が暗くなっていた。

 

「……構わんよ」

 

 フェイトの先ほどまで暗かった表情は一転して、嬉しそうに頷いていた。

 そんなフェイトを見ながら祐一も笑みを浮かべる。

 

「じゃあ、そろそろ寝るぞ」

 

「うんっ!」

 

 フェイトが布団に入ったことを確認し、祐一も電気を消し布団に入った。

 布団は祐一のためなのか普通よりも広いため、祐一とフェイトが二人で並んで寝るくらいは余裕の広さがある。だが、布団は一枚であるため、二人の距離は必然的に近くなってしまう。距離にして、約三〇cmという距離であった。

 フェイトは今更ながら恥ずかしさを感じているのか、頬を僅かに赤く染めていた。

 

「しかし、初めてだな。フェイトがこんなことを言ってくるなんて」

 

「祐一がいなくなるから、最後にいろいろ話をしようと思ったんだ」

 

 フェイトが少し寂しそうに話す。

 

「……そうか。……すまないな」

 

「……ううん、もう、いいよ。気にしないで」

 

「……すまんな」

 

 祐一は手を伸ばし、フェイトの頭を優しく撫でる。祐一に頭を撫でられたフェイトは、気持ちよさそうに目を細めた。

 

「――わたしね、祐一にこうやって頭を撫でられるの好きなんだ。なんだか、安心できるっていうか、温かいんだ」

 

「そうか?」

 

「うん。アルフに撫でられるのとはまた違う感覚――わたしを大きく包み込んでくれる感じ」

 

 フェイトはそう嬉しそうに祐一に話す。

 だが、嬉しそうに話していたフェイトの表情が少しだけ曇った。

 

「――母さんも、昔はわたしがいい子にしてたら頭を撫でたりしてくれたんだ。……だけど、今はそんなことないから……」

 

「そうか。……フェイトは、プレシアさんのことが好きか?」

 

 寂しそうに話すフェイトに、祐一はフェイトを撫でていた手を放しながら問い掛ける。

 

「え? うん、好きだけど……なんで、そんなこと聞くの?」

 

 唐突な祐一の質問にフェイトは首を傾げる。

 

「今のプレシアさんはフェイトのことを蔑ろにし、研究に没頭している。正直、母親としては褒められた行動ではないと、俺は思っている。それでも、フェイトはプレシアさんが好きか?」

 

 祐一の言葉にフェイトは少しだけ目を伏せた。

 確かに、プレシアはフェイトのことをほとんど相手していない。ほとんど研究に掛かりきりで、話をしてくることは稀だ。

 

 ――だが、それでもとフェイトは思う。

 

 プレシアが自分を蔑ろにしていても、フェイトはプレシアのことが大好きだった。研究に片が付けば、"昔"のように、きっと、自分に笑顔で話しかけてくれる。

 

 ――フェイトはそう思っていた。

 

 だから、自分がプレシアのことを嫌いになるはずなどなかった。

 しばらく無言で顔を伏せていたフェイトが顔を上げた。その瞳には力が篭っていた。

 

「――わたしは、それでも母さんが大好きだよ」

 

「――そうか。……その気持ちを忘れず、大事にするんだぞ?」

 

「うんっ!」

 

 フェイトは笑顔で頷いた。

 

 ――そんなフェイトを祐一は僅かに心配そうに見つめていた。

 

 祐一の表情には気付かず、フェイトは祐一と楽しそうに話を再開した。

 

 

 

 

 

 翌日、祐一との別れの挨拶をするためにフェイトとアルフの二人は姿を見せていた。

 

「じゃあ、元気でね、祐一」

 

「またね、祐一!」

 

「ああ。二人とも元気でな」

 

 そう挨拶を交わす三人だが、プレシアの姿は無かった。

 

「ったく、祐一が帰るって言ってるのに、あの人は挨拶にも来ないのかい?」

 

「仕方ないよ、きっと、忙しいんだよ」

 

 ぼやくアルフをフェイトが宥める。

 

「気にするな、挨拶はもう済ませてある」

 

「はぁ~。二人が言うんなら、仕方ないね」

 

 諦めたのか、アルフは頭を掻きながらしぶしぶといった感じで納得する。

 その表情を確認し、祐一はさてと呟く。

 

「――ほんとに、お別れなんだね」

 

 そう言葉を口にするフェイトの表情には、昨晩と同様に目尻に涙を浮かべていた。

 祐一は苦笑しながら、フェイトの頭に手を乗せる。

 

「大丈夫だ。昨日も言っただろう? また、きっと会える」

 

 優しく微笑みかけてくる祐一に安心したのか、フェイトは涙を拭き、笑みを見せた。

 

「っ……そうだね。泣いてばっかりじゃいけないよね」

 

「ああ。その意気だ」

 

 ぽんぽんと、フェイトの頭を優しく叩くと、祐一は手を放した。

 

「じゃあ、そろそろ行く」

 

 祐一の言葉にフェイトとアルフは静かに頷く。

 

「アルフ――フェイトのことを頼んだぞ?」

 

「ああ、任せといて!」

 

「フェイト――あまり、無茶ばかりするんじゃないぞ?」

 

「うん、わかってるよ」

 

 祐一は二人の言葉に満足したように頷き、二人に背を向ける。

 

 

 

「祐一!! また会おうねっ!!」

 

 

 フェイトの叫び声を背中越しに聞いた祐一は口元に笑みを浮かべ、そちらへと振り向き、

 

 

 

「ああ――また会おう」

 

 

 

 そう力強く頷くと、祐一の姿はそこから消えていた。

 

 

 

 ――黒衣の青年は金色の少女と一時の別れを告げた。

 

 ――そして、この別れから一年後、新たな物語は始まる。

 

 ――第九七管理外世界《地球》に舞台を移し、後に「PT事件」と呼ばれる事件が起こる。

 

 ――《黒衣の騎士》と呼ばれた青年の新たな物語が始まる。

 

 




最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
誤字脱字などありましたら、指摘をよろしくお願いします。
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