少女が生まれ変わって魔王になる物語   作:あじぽんぽん

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生存競争

 ではでは、人族の皆様方、獣と生存競争を始めましょうか。

 

 

 城下街におりたアタシは、影の紐と獣を使い魔族以外の者達を殺し影で飲み込んでいった。人を殺す事に対し迷いと罪の意識はアタシの中にまだ僅かだがあった。しかし、ふつふつと体の奥底から煮えたぎる怒りが、取り込んだ魔族の集合意識の声のほうが勝っていた。彼等が叫ぶのだ……この国より憎い人族を排除しろと。

 

 街中に居る人族達を殺すのは容易かった。建物の合間を縦横無尽に立体的な軌道を行う影の魔物達を人族達はまともに捉えきれなかった。例え一刀入れても影の魔物の体は泥や粘土のような柔軟さで構成されていて、魔導士の魔術や火油などではないと碌なダメージは与えられないようだった。

 

 使役していてなんだけど、何気にアタシは凄く恐ろしい力を手に入れてしまったのではないだろうか……まさしく影の魔王?

 

 影の魔物達に殺され、街中に転がる人族の死体を影の中に取り込むたびにアタシの力が増していくのを感じた。戦おうとする者、逃げようとする者を等しく一人残らず殺した。体に纏った闇から際限なく影が湧きだし辺りを覆っていく。

 

 途中からは城下町に住む地域(まぞく)住民の手助けもあり、街の清掃は速やかに終了する。ふうっと一息。協力してくれた住民の皆さんに感謝の豚汁でも振る舞いたいところだけど。その前に街から少し離れた場所で陣を張り呑気に野営をしている人族の皆様方にもご挨拶が必要だろう。

 

 移動すること風の如し、周囲に手を伸ばし偵察をしていた影さんの案内するままにエホッエホッ駆け足で人族の陣地に到着。

 

 ――人族の皆様方、アポ無しでのご訪問お許しくださいね?

 

 突然現れた魔族の女に、訝し気になりながらも下劣な笑い顔を見せる兵士達。男の兵士達はニヤニヤとしていた。何故か女の兵士達もニヤニヤとしていた。中には哀れみの視線で見る者もいた……だが少数だ。彼等にとっていい暇つぶしの遊び相手が来てくれたとでも思ったのだろうか?

 

 アタシは要望に応えるべく、ニッコリ微笑みながら目につく全ての者を殺した。

 

 悲鳴が際限なく上がる。影が炎のように荒れ狂う。

 近くで武器を振る音と怒声が上がる。でも直ぐ悲鳴に変わる。

 影は紐となり獣となり影さんとなり悪魔のように延々と踊り続ける。

 

 人族達の赤い血が辺り一面に霧のように舞う、その真っ赤な光景は心が震えるほどに美しく心地がよかった。

 

 ……うん?

 

 命乞いですか……魔王の辞書に助命なんて単語はありませんよ? なんてね。

 

 命を弄ぶ趣味はないので片付くのは早かった。正確な数は把握していないが四千はいたと思う。しかし数は問題ではない、何故なら死体を影に取り込めば取り込むほど、ネズミ算方式で影の紐と獣を造り出せるからだ。この場合は感染型ゾンビ方式とでもいうべきか?

 

 そうこうしているうちに人族は働き者の影さんが全部食べてしまった。

 

 影の獣を斥候代わりに遠方に放ってみたけど、人族らしい反応はもう見当たらなかった。魔の国の城下街付近は綺麗に掃除できたと考えていいだろう。更に街の防衛もかねて影の獣を追加で造り辺りに放つ。

 

 彼等は野生化したりはしませんよね?

 

 アタシはこの戦いに関わった人族とその協力者達が集まる場所へと向かう事にした。恐らくアタシをこの世界に召喚した最初の国だと思う。

 

 行く理由は人族に、これから先も魔族への虐殺行為を続けるのかを尋ねる為。

 

 和平か戦争かその二択を彼等に選んでもらうのだ。そのように選択を迫る事を傲慢だとは思わない、何故なら今のアタシには彼等と対抗し戦えるだけの力が有るからだ。先程の戦いとも言えない一方的な殺戮でそれを理解した。そのまま人族と殺し合いに入ってもよかったのだが、アタシにはその前に一つだけ確かめておきたい事があった。

 

 人族の兵士を数人生け捕りにして、お話をしたので移動手段は分かっている。年頃の乙女らしく好き嫌い方式で彼らの指を一本ずつ切り離していくと快く教えてくれた。涙を流しながら喜ばれると非常に照れますね。

 

 その後に影さん(スタッフ)が全部残さず食べてくれた。

 

 その国の王宮へは人族が設置した転移陣でいくことが出来るらしい。かなり大型の陣のため魔力が貯まるのに時間がかかり、二日に一回しか使えないものらしいが、アタシの無駄に余っている魔力を注ぎ込めばいいので問題は無かった。

 

 魔族の集合意識の能力で解析を行い、魔法陣を起動し魔力を込めようとしたら突然に陣が光り、大勢の人族兵士達が転移して来たのには流石に驚いた。向うも飛んだ先に地味な魔族の女がいたのでえらく驚いていた。お互いに驚いたまましばらく見つめ合った。我に返って先に動いたのは、アタシでも人族の兵士達でもなく、全然驚いてなかった有能な影さんだった。空気を読んで全員踊り食いにしてしまった。ぱねぇす影さん。

 

 考えてみたらこちらから飛べるなら、向う側からも来る事が出来るのだから当然だった。

 

 気を取り直して再び陣を起動させようとしたら、そこで闇竜の彼女と一緒にいたはずの侍女二人に捕まった。心配になって彼女にこの近くまで送ってもらったらしい。この二人は結構な無茶をする。とりあえず現状の報告をしてから『後の事は任せますね』そう丸投げをしてみたら何故かひどく怒られた。

 

 あ、あれ、今のアタシって魔王で最高権力者で確実に命令できる立場ですよね?

 

 権力機構が上手く働いておりません。その場で正座をさせられ口下手なアタシは数時間に渡る身振り手振り万歳を交えた交渉の末、何とか人族の国へと訪問に行く事への許可を貰った。その頃には侍女二人以外にも街周辺の生き残りの魔族の方々が、転移陣の周りに集まってきていてアタシ達の醜態を遠巻きに見ていた。魔王としての威厳が丸つぶれではないかな? 

 

 アタシは魔族の皆の白けた……いえ、熱い激励の視線で見送られながら転移陣を起動し飛び込んだ。魔の国に設置されている転移陣は、アタシが使用した後に破壊するように、聞き渋る侍女達に必死でお願いして……厳命している。

 

 そして今は人族達が集まる王宮の一室にいる。

 

 アタシは人族の兵士達から素敵な贈り物をされた。リングとかチョーカーとかチェーンとか、それぞれ武骨な重量感溢れる、女心をくすぐらない素晴らしいデザインのアクセサリーである。ああ、辛い、もてる女は本当に辛いですね? はい、ごめんなさい調子にのりました速やかに正座します。

 

 流れとしては……。

 

 転移陣が光る。アタシ参上!! 

 魔族だと、一体何者だ怪しいやつめ!? 

 はじめまして、和平交渉をしたいので偉い人に取り次ぎお願い出来ますか? 

 ええい、狼藉物めお縄を頂戴しろ!! 

 

 ――説得中(物理)

 

 そして魔力封じの魔道具を着けて、待っていてくれるなら話を通すと言われた。

 

 空気を読める事には定評のあるアタシは逆らうことなく全てを着けた。そして雁字搦めな状態で人族の偉い人達と交渉をするべく向かっている。私が魔力封じの魔道具をつけたので安心したのか数名の兵士が横柄な態度で接してきた。

 

 微笑みながら影さんで頭をナデナデ高い高いしてあげたら、悲鳴を上げて大喜びしていた……少し汚い花火だ。

 

 案内された待合室は鉄格子の付いた牢屋のような雰囲気の部屋で、本当に長い時間待たされた。アポなし訪問だし致し方ないですかね。その間に影さんにあちこち偵察してもらっていた。しばらくするとアタシを見るような視線を感じたので、その方向を視てニヘラと笑ったら何かが弾ける感じがした。

 

 何だったんでしょう?

 

 そして人族達の集まる謁見の間に連れていかれた。とにかく人が多い、謁見の間の部屋の壁を覆うように、人族だけではなくエルフや獣人やドワーフや沢山いた。そう沢山だった……今のアタシにとって彼等はそれ以上でもそれ以下でもなかった。とはいえ注目され一斉に視られるのは気恥ずかしいものがある。アタシの生き物として補強された(・・・・・)精神でも流石にね。

 

 人族の王らしき者の前まで歩いて行く。途中に如何にもなザ・ドワーフという印象のお爺さんがいた。鎧姿に大斧を背中に担ぐフル装備ですね常在戦場というものでしょうか? 目が合う……うわっ怖っ、このお爺さん目力が半端ないですね、怖っ。

 

 アタシは絡まれないようにさり気無く愛想笑いをして目を逸らした。

 

 人族の王様の前に立ちます。それでは交渉開始、ネゴシエイターアタシの腕の見せどころ。まずは挨拶からの自己紹介かと思いきや、人族の大臣と思しき細い体の髭の人に膝を着くように命令されて出鼻をくじかれます。

 

 いきなりですね、これが噂に聞く圧迫面接と言うやつでしょうか?

 

 もっとも、その程度で話が進むのなら安い物です。彼の要求通りに膝を着き頭を下げる挨拶をして自己紹介をしようとして遮られた。許可も取らず発言をするのは無作法で無礼だそうな。追加で礼儀知らずの田舎者呼ばわりされました。

 

 ああ、そうでございますか失礼いたしました……謝罪するアタシに影さんが周囲の声を拾ってくれる。

 

『下民のように頭を下げるだけとは、まともな挨拶もできぬのか』『所詮は魔族、我らのような高い教養など持ち合わせてはいないだろう』『ふんっ犬ころにそのような事を求めるものではない』『見た目は美しいがやはり家畜か、知性はないようだな』

 

 うん? 魔の国の礼儀作法で教わった挨拶でもすればよかったのですかね。貴方の村の常識は隣の村の非常識。オラが村の狭い価値観です。国ごとに習慣も違うでしょうに……しかし大人なアタシは怒らず発言した連中の顔を影さんに覚えさせた。

 

 ――初めまして人族の皆さま、アタシが魔族の代表(・・・・・)の者です。

 

 それからしばらくは嗚呼でもないこうでもないと、人族の方々がアタシを指差して色々と非難をしてきた。一方的な戦いを仕掛けたのはそちらなのに魔族側が酷く糾弾される。バーガーショップなのに何でラーメン置いて無いんだ的な、お門違いすぎる事を言われると流石にイラっとくるがこれが敗者の悲哀というものだろうか?

 

 床に両膝をついたまま手を合わせオロオロと聞いている振りをしよう。

 

 でも彼等の言う事もあながち一部は間違いではない……何しろ昨日からアタシと影さんが六千以上の人族達を平らげているし先か後かの違いですかね。それにしても、こういう場合はどうすればいいのだろうか、アタシを完全に置いてけぼりで話は白熱している模様だった。

 

 彼等の話が一段落付くまで、魔族の集合意識を使い脳内でリバーシでもしている事にした。全く勝つことの出来ないリバーシを楽しんでいたら話が終わったようで、エルフの女性が微笑を浮かべアタシに魔族の要求を言うように伝えてきた。

 

 おや……ハイエルフ母さんに似ていますね。ひょっとしてハイエルフ母さんの姉のエルフの女王様ですか。確かに美しいと言えば美しいのですがハイエルフ母さんに比べると品がないと言うか、かなり無理をしているんじゃないかな魂が酷く歪んでる。

 

 それはさて置きまして、やっとこちらの要求が言えるようだ。アタシが彼等に、人族に対して魔族の要求を言った。

 

 ――私には貴方達、全ての国と種族を相手に戦えるだけの力があります。ですがこれ以上の争いを望みません。貴方達の手元にある魔族の遺体は全て差し上げます。その代わり二度と魔の国と魔族には関わらないでください。

 

 私の発言が全て終わる。しばらくしてから居た者全てに爆笑された。ここまでは予想通りだった……問題はここからだ。一人でもアタシの要求に前向きな姿勢を、戦いを望まない者がいるなら……しかし現実は甘くはなかった。いや想像した通りであった。 

 

「そのような出鱈目な脅しが通じると思ったか、所詮は魔族の女だ浅はか過ぎるな」「これだから魔族とは知恵も品もない下等な連中だ恥じを知れ恥を」「知能の足りない家畜の分際で我らと交渉できると思ったのか」「何だその顔は人様の言葉が通じてないと見えるな、まったく愚鈍過ぎて見ているだけで吐き気がする」「おい、衛兵この女の服を剥げ、床に這いつくばせて犬畜生であることを教えてやれ」

 

 他にも色々あったが概ねこんな感じだった。で、そちらの代表者の見解は?

 

「愚かしい、邪悪な魔族と取り決めなどと神に逆らう行為が出来るものか」

 

 ……人族の王様はアタシの顔を見て、そう吐き捨てるようにはっきりと発言したのだ。

 

 アタシもこんな拙い要求が簡単に通るとは考えてはいなかったが、ここまで話が通じないとは思ってもみなかった。要するに魔族とは貴方達に取っては話し合いをする価値もない、意思も言葉も通じない獣と同じ、虐げて搾取すべきだけの存在だと。なるほど、それはそれは本当にもう、どうしようもなく――

 

 ――ああ、どうしようもなく安心した。

 

 話し合いも交渉も和平もどうでもよかった。元から話し合いにならないのも分かっていたし、この魔族側が譲渡した要求だって人族達を最後まで信じ愛した聖女お母さん達に義理立てしただけだ。本当はここにいる連中を直ぐにでも皆殺しにしたかった。だけどその前に今の自分がどのような生き物なのか確認がしたかったのだ。

 

 人族なのか、魔族なのか、あるいはそれ以外の何かなのか。

 

 だから今のアタシは貴方達のその態度が嬉しいくらいだ……だってアタシと貴方達が同じ生き物ではないと理解できたから。アタシが人族ではないと理解できたのだから。同じ生き物(しゅぞく)ではないなら滅ぼす事ができるのだから。

 

 世界は弱肉強食。勝者だけが全てを手にする事が出来る。優しさによる平和よりも力による支配。単純な原始の掟と一緒。闇の森の頂点に立ったアタシはそれを誰よりも実感している。それでも貴方達に選択肢を与え最後の通告をした。そして貴方達は確かに選んだ。勝利し生き残るか敗北し全滅するかの道を。

 

 故にこの先にこれ以上の言葉は必要ありません。アタシは魔族の王として好きに爪を振るだけです。

 

 ではでは、人族の皆様方、(アタシ)生存競争(せんそう)を始めましょうか。

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