少女が生まれ変わって魔王になる物語   作:あじぽんぽん

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魔族の王

 アタシは魔族の代表者。魔族の王。即ち魔王なり。

 

 

 立ち上がったアタシを取り押さえようと、謁見の間に控えていた何十人もの兵士達が武器を抜いて必死の形相で走り寄ってきた。

 

 必死にもなりますね。アタシがここに転移してきた時に彼等と遊んだけど、かなりの人数が重傷を負ったはず。向かってくる兵士達の顔は死にたくないという表情をしていた。しかし敵前逃亡は許されないのだろう、宮使いの悲しさですね。勿論、歯向かうのならば戦うまで、獣に慈悲はないのだ。がるるるるるる。

 

 力を増している闇は腕をおおい、一回り大きくし、まるで獣のような爪を作った。

 

 無造作に振う。その動作だけでアタシの爪からは闇が生じ、カマイタチの様に大気を切り裂き近寄ろうとしていた兵士達を次々と両断する。噴水のような血飛沫が上がる。その余波で後ろで口を開けて見ていた高貴な紳士淑女の皆様の何人かが切断された模様だ。

 

 これはこれは無作法かつ無礼でしたね? 礼儀知らずの田舎者ゆえに失礼をば。

 

 途端に甲高い悲鳴が上がる。同時に重い怒声が響く。アタシは笑いながら辺りを見渡すと自らを縛る武骨なアクセサリーを爪で切り裂き外していく。重たい音をたてて魔導具たちが床に落ちていく。チョーカーは少し気に入ったのでそのままだ。魔力封じなんてアタシにはあまり意味のあるものではないし、真の魔王には通じない。でもチェーンソーだけは勘弁なっ!

 

 あれは対神様用でしたっけ? それならば是非手に入れたい! 

 

 アタシは手を振り回す。近寄る者には闇の爪を、距離のある者には闇の刃を飛ばして皆様の前で兵士達との即興劇を熱烈に披露した。次々に命を失う兵士達。アタシの体に触れられる者は誰もいなかった。もう誰にも触れさせたりはしない、アタシの唯一は魔王だけなのだから。

 

「鎮まれぇ! 人族の兵士共は道を開けろ! 貴様等では何人いても話にならんわ!!」

 

 飛び入りの参加希望なのか、大声で怒鳴りながら野性味あふれる大男が歩いて来た。結構よさげな身なりに筋肉質な漆黒の肌、強面の四角い顔の上に犬耳が付いている。その界隈の方が大好きなケモ耳てやつだけど、ゴリラ犬男さんの需要はありますかね?

 

 彼はアタシに向かって無造作に歩いて来ると少し距離を離して止まる。アタシの普通(・・)の歩幅でだいたい十歩分。恐らくそれが彼が一瞬で詰める事の出来る間合いなのだろう。ゴリラ犬男さんはアタシを睨みつけ大声で怒鳴る。

 

「はっ! 魔族のメス犬風情が躾がなってないようだな? だがそれでこそだ。貴様達……約束通りに俺がこのメスを調教させてもらうがかまわないなっ!?」

 

 何だか黒くて暑苦しい上に、ひどく五月蝿いが地声だろうか?

 

 それと、アタシに対しての対応は今までの事を含め話し合いが既に済んでいると考えていいだろう。有能な影さんが謁見の間の状況を事細かく逐一に教えてくれる。

 

 兵士達と高貴な方々と死傷者の皆様。幾人かの武装した者達……ドワーフのお爺さん。そして魔導士……エルフ達。エルフの女王様の周りに集まって何かをしている模様。おかしな魔力の歪みを感じる。

 

 ――今の段階で脅威になりそうな物は……ん、脅威?

 

 その考えに思わず自嘲してしまった。今のアタシにとって脅威になるモノなんて存在しないからだ。アタシと彼等ではそれだけの力の差がある、逆にアタシに匹敵する力の持ち主がいるならば、勇者の召喚などせずに魔王討伐がされているはずだ。

 

 とりあえずは目の前の五月蝿いワンちゃんの躾からだ。私の意思を読み取った影さんがスリスリと滑らかに動く流石は有能ですね。

 

「貴様は随分とおかしな術を使うようだな。だが所詮は女の生兵法だ。技も何もないただの力任せ、まあいい上には上がいるという事を存分に教えってやろう。手足を切り飛ばした後に、その体は楽しませてもらうとしようか?」

 

 それから長々と何かを喋っているゴリラ犬男さんの元に、半歩(・・)で距離を詰め短く返答した。

 

「ワンッ!」

 

 突然目の前に現れたアタシに驚くゴリラ犬男さん。彼はアタシを見上げて(・・・・)から動こうとしたがそれは叶わなかった。何故ならゴリラ犬男さんの四肢は肘と膝の先から綺麗に消失していたからだ。

 

 影さんが、こっそり切断して食べて行きましたよ。なんだか影さんキレ気味でしたが……え、こいつの発言は会議を盗み聞ぎしていた時からムカついていた。やるリストに入れていた? そ、そうですか怒らせてはいけない人ですね……影さん。

 

「あ? あぎゃああああああああああああああ!!」

 

 膝立していたゴリラ犬男さんはやっと自分の状況に気がついたらしく、血を盛大に噴き出しながら引っ繰り返り大声で叫びだした。短くなった手足をバタバタと動かして大騒ぎだ。貴方はどちらにしても五月蝿いのですね、これは調教しなくては?

 

 アタシから少しでも遠ざかろうと、短い手足を必死に動かし逃げようとするゴリラ犬男さん。アタシはててっと近寄ると腰をかがめて片手を差し出した。

 

「ワンワンッ……お手っ!」

「ぎゃあ! ぎゃああああああああああああああああああああ!!」

 

 ゴリラ犬男さんは手足をバタつかせ血を噴き出しながら、より大声で叫びだす。その声につられたのか様子を見ていた周りの者達……多くのご婦人方とそれより少ない数の紳士達の悲鳴が上がり不和音響が奏でられる。

 

 ダメだ。全然躾がなっていない駄犬というやつだ。

 

 仕方がないので楽にしてあげようかと思ったその瞬間、ゾワリとうぶ毛が逆立った。悲鳴をかき消し空気を震わす程の怒声が直ぐ目の前で生まれた。アタシは自らの口角が上がるのを感じた。

 

「ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 それは大斧を体の限界まで振りかぶったドワーフのお爺さんだった。空気に感じる動きからアタシの肩の位置を狙っているのが分かる。その様子からはギリギリまで雄叫びを抑えていたのだろう、アタシと影さんの気配察知を潜り抜け一瞬の隙を突き僅かな距離まで詰め寄っていたのだ。

 

 単独で狩りをする獣は獲物に襲い掛かるまで叫ない、孤独な獣はどこまでも無音である。人が叫ぶのは単純明快な事、自らを奮い立たせ恐怖を打ち消すためだ。

 

 お爺さん、それゆえに見事だと言いましょう。分かっているんですよ……貴方は最初にアタシと目を合わせた時に、どうしようもなく怯えて震えて恐怖を感じていましたよね? なのに叫びそうになる自らの恐怖を抑え込み、この距離までアタシと影さんに悟られずに詰め寄ったのだから見事なものです。

 

 以前のアタシなら殺されていたかもしれない、だけど……ごめんなさいね。

 

 アタシの足元から影が噴水のように飛び出すと腕となって、お爺さんが振り下ろした大斧を受け止める。凄まじい音が出て火花が散った。死の斧を受け止めた影の腕はその勢いで反撃に転じる。だがお爺さんは驚きもせず体を回転させ容易く影の腕の攻撃を避けると、今度はアタシの足を狙って横切りを仕掛けてくる。足元から新たな影の腕が生まれ再び受け止めた。また凄まじい音と火花が散った。

 

 アタシはお爺さんの強さに嬉しくなり笑みを浮かべた。しかしたぶん目は笑ってはいないのだろう、以前『戦っている時のお前は素敵な笑い方をするな』と恐々と魔王に言われたことがある。もう一本、影の腕を生み出すと計三本の腕でお爺さんに攻撃を仕掛けた。お爺さんは大斧の刃先で受けとめ滑らすように威力を後方に流し、次々と闇の腕の攻撃をさばいていく。そしてアタシから距離を離さず重たい大斧を軽々と振るってくる。

 

 三本の影の腕と大斧がぶつかり合って圧し合い凄まじい轟音を響かせる。お爺さんは横幅こそあるものの背丈はアタシの肩ほどしかない、だが感じる重圧は凄まじいものがあった。この人の強さは闇竜にすら届くものなのかもしれない。まるで回転する切断機のような勢いで攻撃をしてくるお爺さんに対して、三本の闇の腕は連携を組み様々な角度からお爺さんに襲い掛かる。

 

 一進一退だった。その攻防は美しい演武のようだった。アタシは腕を組んで唸り見惚れてしまった。そう、棒立ちで観戦できるくらいには余裕だった。それくらいの力の差が二人の間にはある。しかし、アタシの強さは鍛えこそしたが所詮は偶然に与えられたものだ。だからこそ人の身で、恐らく長い修練と戦いのみでこの強さまで到達した目の前の武人に深い畏敬の念を抱いた……そう感動をしたのだ。

 

 闇の森に住まい命がけで戦ってきた獣故に強者には敬意を覚える。

 

 だが、結末は本当にお粗末なものだった。水を差されたと言ってもいい、その原因は少女だった。確か勇者のハーレムパーティに居た子……ドワーフの少女だった。彼女が戦闘を観戦するアタシの背後から襲い掛かってきたのだ。それはいい、決闘をしている訳ではないのだから別に構わない。

 

 少女はご丁寧な事に、雄叫び声を上げながら駆け寄り斧を振り下ろしてきた。

 

 アタシは少女の方を向かずに尻尾(・・)をふって斧ごと攻撃を弾き返した。見なくても分かる彼女が驚愕の表情を浮かべているのが。そしてアタシの背後に巨大な影の(あぎと)が生まれた。それは体勢を崩し床に尻餅をついていた少女を飲み込もうと襲い掛かった。

 

 まるで弾丸のようだった……ドワーフのお爺さんが少女を助けようと闇の腕の攻撃を全て跳ねのけ飛び込んできたのだ。影で造られた巨大な顎がお爺さんと少女を飲み込んだ。

 

 影の顎が閉じる。鋭い牙の鉄同士を叩き合せるような甲高く重い音が鳴った。影の巨体に視界が塞がれて一瞬消えたお爺さん達の姿が戻る。お爺さんと少女は……少し離れた場所に膝をついていた。お爺さんは食いちぎられた右腕を左手で押さえて、荒く息を吐きながら止血していた。

 

 アタシの傍には砕けた血塗れの大斧……咄嗟に右手を犠牲にして少女と自らの体を守ったのだろう。勿体ないという気持ちになりながらそんな事を考えた。

 

「お爺さまっ!!」

 

 負傷で動けないお爺さんに、助けられた少女は青い顔をして叫ぶ。

 

 ああ、なるほどね、お爺さんの血縁者だったのか。だから自らの身を犠牲にして守った。合理的ではない、戦いに足手まといはいらない、命が掛かっているのならなおさらだ。でもそれは機械的で獣的な考えだ。人としてのお爺さんの行動を馬鹿にする気は微塵もない。

 

 少女は負傷したお爺さんを庇うように前に出て武器を構えると、体を震わせながらもアタシの事をキッと睨みつけた。貴女には以前一緒に旅した時に虐められこそしませんでしたが、アタシの存在は無い物扱いでいつも無関心な目をしていましたよね? それが今はそんなに怒りと恐怖に満ちた目で見てくる。

 

 この気持ちは何というべきか……しがらみてやつなのかな?

 

 だが庇われたお爺さんは、その子の体を引き後ろに下がるように指示している。お前の腕では無理じゃゴホゴホ下がるんじゃ、そういったところですかね?

 

「戦いに泥がつきましたね……貴方達はもういいです」

「ぬぅ!?」

 

 ため息交じりのアタシの発言に、驚いた顔を見せるお爺さんと少女。先程まで命を賭けた殺し合いをしていたのだから当然か……でも、この強いお爺さんをここで殺したくないと何となく思った。うん、それだけだ。

 

 それに今日用事があるのは人族。アタシは王座に座る人族の王様を見た。

 

 王座から腰を半ば上げて戦いを見守っていた人族の王様は、アタシと視線が合うとヒィといった感じの怯えた表情を浮かべた。そこには先程までアタシを見下し嘲っていた男の姿はない。ついでにその横の礼儀に五月蝿い大臣もチラリと見てみたら、腰が抜けたのか這いつくばり悲鳴をあげながら逃げようとしている。

 

 それを無視してアタシは人族の王様にニヘラと笑った。

 

 恐怖に耐えられなくなったのか人族の王はアタシを震える腕で指差して、ひどく取り乱し怯えた声で叫んだ。

 

「き、貴様は、貴様は一体何なんだ!?」

 

 うん? 何者て最初に自己紹介したはずですよね?

 

 まあでも、改めて挨拶しろというなら、やぶさかではないですよ。アタシは周囲に血臭を撒きまとったまま、片足を引き膝を軽く曲げ背を伸ばし優雅にお辞儀をする。

 

 お妃教育の一環で習った俗に言う淑女の挨拶カテーシーだ。

 

 そしてお母さんたち直伝の聖女の微笑をニコリと見せて答えた。

 

 「アタシは魔族の代表者。魔族の王。即ち魔王なり」

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