ムムム、この場合は……今です鶴翼の陣ですっ!!
アタシは人族の王の目の前で、彼の六番目の息子の最後に残った細い指を無造作に切断した。まだ幼いその子は影さんで猿轡をしているために声も出せず、痙攣し目が裏返り激痛のため気絶をしていた。指の消えた手から血が流れている。
その子の代わりに人族の王が泣き叫び悲痛な声をあげた。
人の気配が消えた謁見の間。
辺りにはアタシと影さんと拘束された王とその息子しかいない。
城内にいる者は王の親族以外はすべて影さんが殺し取り込んだ。
城下街の掃除もそろそろ終わる頃だろう。大量に造り解き放った影の獣たちは街だけではなく、外まで走り周囲の村々へと獲物を探し出して襲うつもりのようだ。彼等は本当に繁殖しませんよね?
ちなみに元勇者の御一行様は全員見逃した。
彼等は簡単には殺さない……種族が滅びるさまをじっくり見ているといいだろう。
さて、そういうわけで王様である。何故こんな拷問じみた事をしているかというと、実はあまり意味はなかったりする。あえて理由を作るなら、どうせ死ぬのですからこの戦いの責任者として、全体責任というものをじっくり噛み締めて貰おうかと。
まあ、魔族の集合意識がアタシに教えてくれた、今まで魔族に対して行われた残虐行為の一部をそのまま人族の王にしているわけでして、因果応報という事で納得していただければ幸いです。
とは言うものの普通に萎えました。取り敢えずで試してみた結果は酷く胸糞が悪いものであった。そういう感情がアタシの中に残っている事に少し安堵をしている。何しろ人族を殺す事に対して抵抗も罪悪感も無くなっていて、今だって人族の手足を千切るのなんて、虫の足を千切るのと同等の感覚なのだ。
加虐趣味というものが芽生えないで本当によかった。
殺るならよほどの理由がない限りは一思いに処分しましょう。
アタシは王の六番目の息子を殺した。王はもう言葉も出せないようだ。自分の家族を目の前でダース単位で殺されればそうなりますよね。恐怖で髪が白くなるのかと観察していたのだが、そんな事はなく都市伝説だったようだ。ただし、目は落ちくぼみクマが出来て顔の皺が深くなり髪の毛が抜け落ちて十は年老いたようだった。
もう十分に苦しんだようですね。人族の王を殺して差し上げましょうか。
こうしてアタシは一番最初の人族の国を滅ぼした。
◇◇◇◇◇◇
どこまでも果てしなく続く荒野。
西部劇なシチュエーション。フフ、嫌いではない。
荒れた石ころだらけの乾いた大地には、普段ならば生き物の姿なんて碌にいないのだろうが今日は違っているようだった。アタシの遥か遠く前方には数多くの人族達の兵士がわんさかと立ち並び騒めきあっていた。優秀な影さんが一っ走りして調べてくれたのだが数は大よそ三万人程だろうか?
こんな何も無い場所によくも集めたものだ……か弱い女一人に対して。
うんまあ……アタシがもう四つも国を落としているから、半信半疑だった国々も本気にならざるを得ないといったところだろうか?
ちなみにあれ以降、元勇者御一行様とは何度も戦った。
元勇者本人はED治療中なのか一度も姿を見せなかったが、ハーレムメンバーの彼女達とはそれなりに遭遇をした。ええ、もちろん殺したりはしていませんよ?
軽く耳を飛ばしたり、軽く指を飛ばす程度で手加減をしている。
世界を救った英雄達と言われている元勇者御一行様とはいえ妙齢な女性達である。そういう行為が流石に堪えたのか最近は会う事自体がめっきりと減った。ああ、そういえば同郷の彼女達にも会っていない、今頃どこで何をやっているのやら。
そのようなわけで現在、三万の人族軍勢と戦いを開戦するところだが、今回は頼もしい味方が駆けつけて来てくれた。三十匹と少数ですが非常に頼もしい仲間達だ。
「では、早速ですがご紹介します。闇の森在住の闇竜さん達です。パチパチパチ」
アタシは横に立つ彼女の巨大な前腕をペチペチペチと叩いた。少し離れた位置に等間隔一直線で漆黒の闇竜達が立ち並ぶ。
――闇の 森の 娘 よ 人族 不遜 殺す
闇竜の彼女を筆頭としてアタシの助っ人に来てくれたのだが、最近は再び聖剣を手に入れようと大人数の人族が泉の祭壇を目指し、闇の森を非常に騒がしている模様。当然そこに住まう闇竜さん達としては、毎日騒音に悩まされて腹立たしい事この上ないというわけだ。ええ、迷惑な近隣人族に物申しに来たといったところだろうか。
「そう言うわけで解説の彼女さん。本日は宜しくお願い致します!」
――応 我ら 人族 全て 殺す
さてさて我々闇の森の楽しい仲間達に対して向うはいくつかの国の連合軍のようだ。何しろ闇竜三十匹とアタシに対しての三万の兵士達だから、実際に動ける兵士を半分と見積もっても戦力に差があり過ぎる。
「でもご安心ください。こう見えてもアタシは複数(三本)の乙女ゲーム経験者でございますっ!」
――ん?
「ああ、別にボッチ女だからって乙女ゲーム好きというわけでもないので、そこは注意してくださいね? その前提を間違えると助走つけて殴られますからねっ!」
――お 応?
「そしてその経験の中では有名な戦略ゲームなども含まれており、当然スチルはコンプ済みでございます。ここで三十対三万の戦力差をひっくり返す、名軍師ぶりを披露してみたいと思います!!」
―― ……
「ムムム、この場合は……今です鶴翼の陣ですっ!!」
正直すいません。ゲームの中のアタシ一押しメン、腹黒イケメン軍師さまの口癖を何となく言ってみたくなっただけなんです。ところで鶴翼の陣て何だろうか?
――無謀:戦術の立案不可能。
――思考 無駄 力 押す 十分
「ゲストの魔族の集合意識さん、貴重な御意見ありがとうございます。解説の彼女さん、力押しで十分戦えるという事ですね? 全く、その通りでございます!!」
闇竜の彼女達と久しぶりに会ったせいでテンションが上がり、無駄な司会者&軍師ごっこをしてしまった。
そのような事をしていると人族連合は宣戦布告も何もなしで戦いを開始する模様。先陣がこちらに向かって突進をしかけてきた。あれは竜騎士というものだろうか? ダチョウのようなトカゲさんと、空にはプテラっぽい恐竜みたいなものに跨った人族が高速で接近してくる。
ふむ……あの進路は明らかにアタシ狙いか?
「下手に闇竜達と戦うよりは大将であるアタシの首一つを取ったほうが楽ですよね。非常に合理的。ええ、素晴らしく合理的ですよ。だって例え闇竜達を全てを倒したとしても、アタシを倒さない限りはこの戦争に決着はつきませんからね!」
――人族 愚か
「ええ、非常に合理的で……
アタシが纏う闇が無数の影を生み出した。十の、百の、千の、万の影の獣を瞬時に無数に際限なく生み出した。
漆黒の闇竜達が天に向かって一斉に
空間がビリビリと震え大地を揺らした。
アタシは闇竜の彼女の頭の上にひょっいと飛び乗る。そこから竜モドキにまたがり突進してきた兵士達の絶望しかない顔を確認して、アタシ達は十万対三万の蹂躙戦をするべく進軍を開始した。
勝敗は? もちろん闇の森の楽しい仲間達の圧倒的勝利ですよ。
◇◇◇◇◇◇
そこは果てしなく続く熱帯雨林。
雨が頻繁に降るその大地では数多くの雑多な生き物達が活発に生きている。そこは獣の住まう国……獣国。そんな密林で孤独に戦うアタシがいた。
はい、現在、ケモ耳王国を攻め滅ぼそうとしているところです。
アタシの一種族・十組政策は彼等の王族にもしっかり伝わっているはずなのだが、ケモ属性故に知恵が足りてないようで、そんなの関係ないとばかりに次々と襲いかかってくる。でも野生の獣って自分の命を一番大事にする生き物ですよ?
彼等のこの飽くなき自信過剰気味な闘争本能は、いったいどこから湧いて来るのだろうか?
何と言いますか『オメぇつえなっオラっワクワクしてきたぞぅ!!』みたいな感じで戦いを挑んでくる。レミングスの群のように次々襲い掛かってきます。別に会話を楽しみたいという陽気な性質ではないので問題はないのですが、種族を守る為と言うより戦いそのものが目的で挑んでくるといった感じがします。
命がかかっているのに、死ぬなら前のめり的な戦闘民族は一体何なんだろ?
ゴタゴタしながらも目につく全て皆殺しにして彼等の王城に無事に到着。そういえばハーレムパーティに猫耳の女の人いましたね。影でネチネチとずいぶんな嫌がらせされたけど、彼女はここの出身だったりするのかな?
大広間のような場所に入ると、ごっつい筋肉質な老年の猫耳大男とその隣には例の猫耳の彼女がいた。二人の背後には数多くの猫耳犬耳の獣人がいた。
ほう……察するに獣国王族の総力戦というやつかな?
「パパっあいつにゃ! あいつがあたしを傷ものにしたやつにゃっ!」
「俺様の可愛い娘を嫁に行けない体にしおってにゃ! どう責任をとるつもりなんにゃっ!!」
はい……にゃっ?
いきなりなんですか……何から突っ込めばいいのだろう、傷モノだろうか?
彼女の片耳を切り飛ばしたのはアタシですが、猫耳のお父さんの言い方だと肉体関係を持ったとかそのようななニュアンスに聞こえます。彼女はアタシじゃなくて勇者にパンパンとヤられていましたよ……?
恐らく無表情になっているだろうアタシの内心には全く気づかず。大勢でニャアニャアワンワンと騒ぎだした。上から目線で言いたい事を好き放題に言ってくれる彼ら。この人達は状況が把握できてないのだろうか?
まだ外の連中のように挑んできてくれるならマシだが、彼等は口でギャアギャア言うだけで一向に戦いを始める気配がない。口下手なアタシは何も言えず無言である。殺し合い……初めてもいいのだろうか?
凄まじい疲労感を覚え膝をついて休みたくなった。
外は言葉を理解しない戦闘民族で中は吠えるだけの王族とか……酷い落差。
色々とこの国は闇が深そうだ。戦闘民族の中で、ある程度の知能を持った人が統治者になったのか、それ以外の民の知能を統治しやすいように、あえて抑えているとかそんな感じなのだろうか……前者の気がするな。
知能以前に考えが厚かまし過ぎてあまり関わり合いになりたくないな種族かも。
「うーん……」
獣国の王族の皆様方はまだギャアギャアと言っている。
アタシは無言で影さんにお願いした。
こうして影さんがぺろりと獣国を滅ぼした。
人魔大戦が終了した数年後、彼らはわずかな生き残りだけで新たなる国を起こし見事に種族を建て直した。どれだけ逞しいのだろうか獣人達は?