少女が生まれ変わって魔王になる物語   作:あじぽんぽん

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エルフとドワーフ

 ああ、そうか、アタシはこの感動の意味を唐突に理解した。

 

 

 そこは果てしなく続く大森林。

 

 闇の森ほどではないが数多くの樹林が生える深い森、やや肌寒く霧のおおい気候がアンニュイでハイソな気分にさせる。草影に小人さんがいそうな神秘的な雰囲気。

 

 ここはエルフが住まう森の王国。背の高い木は闇の森を思い出して中々によし。

 

 そんな美しい森にスキップしながらルンルン気分で入った途端に、魔法や弓矢による歓迎が問答無用で雨霰の如く降って来たのには流石に参った。美しい木々が派手に燃え上がり森林火災になっていますが、アタシ別に悪く無いと思われ。

 

 飛んできた攻撃を有能な影さんが全て跳ね返しただけですので。

 

 いやぁ……何でしょうか、取り返しのつかないレベルで燃えていますね……もう自棄だ、全て燃えてしまえ、やほっー!!

 

 さてそんなヤンチャなアタシだけど本日の目的は世界の至宝、美しくも気高く麗しいエルフ族の女王様に会いに来ているところです。曲りなりにも伯母と姪の関係。ボッチな喪女でもやはり親戚付き合いは大切だと思うのですよ?

 

 脳内ハイエルフ母さんも『あらあら、まあまあ』と嬉しそうに頬に手を当て微笑み頷いてます。

 

 その道中にですね。何と女王の子供達という三人のエルフと遭遇しました。アタシにとっての従兄の関係に当たるわけですが、神弓の何とか男さんと精霊に愛されし何とか子さんに、元旅仲間のハーレム女さんの御三方ですね。ええ、名前は長くて覚えてないけど、あだ名が素敵だったのでそちらだけ覚えています。お陰様で女王様に対しての良いお土産が出来ました。

 

 エルフの女王様は大の魔導具コレクターですからね、喜んでもらえると思います。

 

 

――そういうわけなんですよ。如何ですか伯母様? この首飾りはとても素敵でしょう? なにしろ……貴女のお子様達の耳や指で出来ていますからね。

 

 そう言ってアタシは、六個の耳と無数の指に穴を通して造ったお手製の首飾りを、王座に座るエルフの女王様の後ろに回って細い首にかけてあげた。彼女は顔の半分を酷く火傷したその姿で、涙を滂沱としながら喜んでいる模様だ。

 

 ついでに自信作の、女王様のお孫さん達の顎の骨を主体とし制作した王冠を頭の上にのせて上げた。背後から伯母様の両肩に手を置きそう説明してあげると、彼女は顔を様々な体液で濡らして大喜だ。

 

 ――ねえ伯母様……嬉しいですか?

 

「ひゃ、ひゃい、嬉じいでず。ざ、ざいごうでございまず」

 

 ――そうですか、それは……本当に良かったです。

 

 アタシはニッコリと微笑んだ。伯母様は歯をガチガチと鳴らし喜んでいる。

 

 ちなみに、この品々は防腐処理も完璧に施されているので百年使っても全く問題ない代物だ。

 

 ――常に身に着けて大切に使用してくださいね? そう、片時も離したらいけませんよ? ええ……無くしたりしたら直ぐにわかりますからね? ……ね?

 

「ひゃい、ひゃい、わがりまじだ。ぜっだいに、離じまぜんっ!」

 

 ――良い事です。何しろ今の伯母さまにとって身内といえますのは、もう姪のアタシだけですからね……お互い良い関係をつくりましょうね?

 

 アタシはニッコリと微笑んだ。伯母様は歯をガチガチと鳴らし喜んでいる。

 

 ――ああ、ところで話はかわりますが、伯母様とアタシの親戚の縁でエルフを完全に滅ぼさない事にしたわけですが……その(つがい)の十組に伯母様も入っていらっしゃるようですが大丈夫なのですか?

 

「ひゃ、ひゃい?」

 

 ――いえね……エルフ種族の存続がかかっているでしょう? 子供をまったく生まないと滅びる事になりかねませんよ? 唯でさえ子が出来にくいハイエルフで、しかも失礼ながら、伯母様はかなりお年を召していますでしょう? 

 

 ――はっきりと申し上げますと、そのお体で作り生む事が可能なのですか子供を?

 

「う、生みまず、ぜっだいに、生みまずがらっ!」

 

 ――あらあら……本当ですか? 本当に? 本当に大丈夫ですか? 

 

「生めまず、生めまずがら、お、お願いじまずっ!」

 

 ――そうですか、そうですか、それほどまでに仰るのでしたら、伯母様も残す事といたしますね。ええ、本当に期待しておりますよ……伯母様?

 

 アタシはニッコリと微笑んだ。伯母様は歯をガチガチと鳴らし喜んでいる。

 

 そしてアタシは肩越しに手を伸ばし、血で黒く染まった親指と人差し指でエルフの女王様の長い両耳をやさしく摘んで顔を上げさせた。アタシが聖女の微笑みを見せると彼女は子供のような表情でくしゃりと顔を歪めた。

 

「では伯母様。頑張って(・・・・)くださいまし?」

「ひゃ、ひゃい、がんばりまず。がんばりまずがら、ご、ごろざないでっ!!」

 

 うん……素直に応援しているのに失礼ですね。

 

 ハイエルフの彼女は王座に蹲り激しく泣き出してしまった。というか色々なモノを垂れ流し状態で老人介護が必要なんじゃないのだろうか? 本当に大丈夫なのかな? まあ、本人のやる気もあるみたいだし様子をみてみますか。

 

 こうしてアタシはエルフの森の王国を滅ぼした。

 

 アタシの伯母様ことエルフの女王様は、亡くなるまでの二十年間で七人もの子宝に恵まれた。毎年、苔盆栽を持ってご挨拶に伺ったのがよかったのだろうか?

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 そこは果てしなく続く渓谷。

 

 空気と土の湿った匂いが、何とも言えない哀愁ただよう田舎の風情を感じされるドワーフの岩の国。何だか美味しそうな川魚とか漬物とかありそうな雰囲気?

 

 ああ、唐突にアタシはお米と醤油と味噌が恋しくなった。

 

 アタシはその渓谷の入り口で、覚悟完了といった戦装束のドワーフの集団と無言で向き合っていた。中には木材やらフライパンで武装している人もいる。有能な影さんが調べた結果、その数は男女合わせて三千人といったところ。

 

 辺りに伏兵はいない。うーん、この様子だと彼等も徹底抗戦ということだろうか?

 

 ん……あれは人族の王宮で戦ったドワーフのお爺さん。アタシの影に食われた右腕が鉄製と思われる義手になっていた。中が大砲になっていたりしますかね? それとも謎錬金術つかえたりとか? とりあえず挨拶をしておきますか。

 

「ごきげんようドワーフの皆様。出迎え感謝します。それで貴方達はどのような選択をするつもりですか? 最後の一兵まで戦うといったところですか?」

「ふんっ、ここにいるのが全てのドワーフだ。それ以外は戦う事はおろか一人では満足に生きる事も出来ぬ幼き子供達だけよ」

「は、はあ、そうですか?」

 

 うん、お爺さんがアタシの言葉に返答するが、どう言う了見なのか真意がよくみえない。もう少し詳しい話を聞いてみますか。

 

「儂等の命で良ければいくらでもくれてやろう、だが幼い命だけは見逃してくれぬか? 望むのならば目の前で全て自害して果てて見せよう」

「……失礼ながら、かなりご都合のよろしい事を仰っているようですね」

「ああ……図々しいと分かった上でそれを言っておる」

 

 ――推論:文化の継承の破棄。種族の崩壊。

 

 ふんふん、ドワーフという種族と、文化を支えている者達が全てが死ぬから、それらの文化を継承してない子供達には手を出さないでという事かな。

 

 文化の消失つまりはドワーフの滅亡というわけだ。

 

 アタシの中にある魔族の集合意識が出した答えに納得する。

 そしてドワーフのお爺さんに返答する事にした。

 

「ええ、わかりました。素晴らしい覚悟ですね。自分たちは死んでも子供たちの未来は作りたい、そういったところですか。本当に素晴らしい事です」

「………………」

「ならば貴方達には全員死んでいただきましょうか、その代わりに……」

 

 アタシの言葉に息を飲んで沈黙するお爺さんとドワーフの方々。その目の前で両手の平をパンっと軽く打ち鳴らして胸の前まで持ってくると、アタシは聖女の微笑みを浮かべてこう告げた。

 

「十組ではなく特別に、二倍の二十組の番を残す事を許可しますね。すぐ死んでしまうかもしれない子供達でも、それだけいれば何とかなるかもしれませんよ?」

 

 ニコニコと笑うアタシにドワーフ達は誰も何も一言も発しようとはしない。

 

 お爺さんは目を閉じたまま硬く唇を噛み締めていた。その拳は力強く握りしめられて震えている。アタシは彼等の選択を聞くことにした。

 

「さてさて、どういたしま……」

「舐めるなあ! 小娘があぁぁぁぁ!!」

 

 お爺さんが突然に吼えた。鬼の形相を浮かべ睨みつけてくる。

 アタシは表情をかえず微笑んだままお爺さんを見返した。

 

「そのような甚振るような、中途半端な情けをかけられるくらいならば、儂等ドワーフは滅びをあえて受ける! だが、ただで逝くと思うなよ! 儂等が種族の誇りを余す事無く貴様の体に叩き込んでくれるわ! この魔王がぁ!!」

 

 お爺さんの激しい決意の咆哮に、その場にいるドワーフ種族の全員が、アタシ一人を睨みつけ一斉に武器を掲げた。

 

 ――――

 

 ああ……なんて凄まじいのだろう。

 

 ここに到達するまでに幾つもの種族と国を滅ぼしてきた。でも彼等ほどの潔ぎよさを持った者達はいなかった。生き物だもの、例えみっともなくても生き残りたいと思うのが普通だ。獣のアタシにはそれがよく分る。でも彼等は何なのだろうか、愚かしいと思えるほどの、この熱さこの激しさ、この尊さこの儚さは一体何なのだろうか? ああ、そうか、アタシはこの感動の意味を唐突に理解した。

 

 彼等はアタシの故郷の先人達が理想とする滅びの美学を体現しているのだと。

 

 こうしてアタシはドワーフの岩の国を滅ぼした。

 

 ドワーフ種族の幼子達? 

 

 十組みでも二十組みでも、直ぐ死んでしまうかもしれない子供達だし、数がどれ程いても大差はないだろうから手は出さなかった。そういえばその中に、お爺さんのお孫さんがいたけど、彼女は戦いで両腕を失い一人ではもう生きられないだろうから、そのままにしておいた。

 

 ドワーフ種族に対しての慈悲?

 

 まさか、ただあの人達は、恐怖し怯え竦む者はいても、誰一人として逃げ出す者はいなかった。ええ、本当にそれだけの話。

 

 

 ――アタシは魔王としていまだ滅ぼすための旅を続けている。

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