「水祝!」
その声と共に、紅翼にはそれなりの量の水がぶっかけられたので足を止めて声のした方に、顔を向けるとそこには作戦に参加しなかった月海がいた。
彼女は確か、自分がなりたいセキレイとは相反すると言って参加しなかったのだが、鴉羽やくーちゃんになんか言われたんだな。かなり、やる気が入っているようだし。
やっと本命か、と俺が一安心していると紅翼は額に青筋を立ててこう言った。
「へー、ここにいる皆はそういう奴らなんだね……絶対に許さないんだから」
「………アカン」
そんな彼女の様子を見て、やらかしたという顔で俺がそう呟いたのが彼女の癪に障ったのか、何も言わずに急接近してきた。
「ヤッベ…!」
「落ちろ!」
紅翼の速さに結女や遊んでいた風花が対応できず、俺そばまでやって来てから心臓を狙う形で構えたので棒で防ぐよりも本能的に腕で防御の構えを取ってしまい、そこに彼女の拳が勢いよく当たった。
そして、その強さによって上腕の骨からボキボキというイヤな音がするのと同時に、強烈な痛みが体中に走って俺は吹き飛ばされた。
「あっ、がああああああああ!」
「道人さん(クン)!」
「ああああああ……ふん!」
その出来事に、俺のセキレイ達に余裕がなくなって俺を守るようにやって来た結女と、灰翅を川に投げ落とした風花がそれまでの遊ぶような表情から戦闘をする表情になった。
一方、殴られた俺は口の中に隠していた鎮痛剤の薬剤の粒をかみ砕いて痛みを和らげる。
と言っても、俺の右腕は変な方向に曲がっているので一時的な痛み止めでしかないため、後でM.B.Iが管理している病院に行って治療しないといけない。
他に怪我は、吹き飛ばされた衝撃で肋骨が何本かにひびが入った程度なのだが、傍目からするとかなりの重傷だ。
そのため、俺は鈍く痛む体を起こしてこう言った。
「ふぅー、2人とも?ここで倒してもいいけど作戦第一でな?」
「………わかりました」
「道人クンがそう言うんだったら仕方ないけど、今回だけだからね?」
「その前に全滅させてやるよ!」
結女と風花がそう言ったが、紅翼は怒りのスイッチが入って完全に鬼神と化していた。
多分、仲間がやられた上に俺が気の抜けたことを言ったから激怒したのだろう。そうなれば交渉の余地はないだろうし、俺は怪我を負ったので遊んでもいられなくなった。
そのため、怒れる
それを見て、皆人達は唖然としていたが俺は知ってたと言うぐらいに見た光景だ。
言わば、懲罰部隊を経験した彼女達からすると今の懲罰部隊を構成しているメンバーが、どういうものなのかを見ておきたかったのだろう。
結をノックアウトさせるほど、強いセキレイを本気を出さないで戦うなんて手抜き作業もいい所だが結女達からするとその程度だと言うことだ。
そんな訳で、戦闘があっという間に終わって焔も何かを言いたそうだったがそんなことよりも、俺の右腕の方が重要らしい。
彼女達は、心配そうに俺に近づいて来た。
「道人さん、大丈夫……ではなさそうですね」
「右腕が変な方向に向いているわ、早めに病院に行った方が良さそうね」
「すまない、彼女と戯れすぎた」
「気にすることはねぇが後で鴉羽に怒られるなぁ」
俺が笑いながらそう言うと、鷸と久能がやって来て心配そうに言ってきた。
「あんた、大丈夫なのか?」
「大丈夫かと聞かれれば大丈夫じゃないねぇ。現に右腕の感覚がないし、痛みも痛み止めで抑えているだけだしねぇ」
「うぅ~、ごめんなさい。私にもっと力があればよかったんですが……」
「だったら早めに鉄橋を渡りきってくれた方が良いな。常設部隊がいつ来てもおかしくないから」
俺がそう言うと、鷸達は本来の目的である帝都脱出のことを思い出して慌てたが、俺が重傷な上に結も紅翼の攻撃を食らって気を失ったままだ。
このまま、鉄橋まで護衛するにしても結には起きてもらいたいのだが一向に起きる気配がない。
とは言え、肝心の鶺鴒紋は消えてないようなので大丈夫だとしてもこのまま、上手く脱出できるかが疑問だ。
そこで考えたのは、風花の操る風で対岸まで吹き飛ばしてもらうというもの。
こうすれば、彼らを無事に自由の空へと解き放つことができる上に俺達もすぐに戻れる。
そんな訳で、俺達と鷸達はここでお別れをすることになった。
「佐橋、ありがとな」
「うん、鴫君も久能ちゃんも頑張って!」
「必ず会いましょう。次はもっと強くなります」
「結ちゃんは眠ってますけどまた、会った時は宴会をしましょう」
鷸達は、佐橋達とそう言い合うと俺を向いてこう言った。
「手伝ってくれてありがとうございます。じゃなかったら久能と脱出できませんでした」
「俺はただ単純に計画を立てて実行したまでさ。だからちゃんと幸せにしてやれよ~?」
「えぇ、絶対にそうします」
「オケオケ。風花、頼むよ」
「任せて~、道人クン」
俺がそう言うと、風花はキスをしてきて祝詞を唱えた。
「―――我が誓約の風、葦牙が暗雲 吹き払わん。花嵐」
風花がそう言うと、鷸と久能は宙に浮かんで対岸まで一気に飛んでいった。
その直後、対岸から「ビエエエ~」と言う大きな声がしてきたので俺達が一頻り、笑ってからその場を後にした。
じゃないとM.B.Iが来だろうし、吹き飛ばした懲罰部隊が戻ってくるかもしれないからだ。
そのため、俺は結女に背負ってもらうことにして結は焔と皆人の護衛をしていた葛城が、彼女の両腕を自分の肩に回してから立たせる形にして皆人に合わせるように走っていった。
「全く!急に病院に来たと思ったら怪我を治せ、と言ってきたからどういう事かと思えばセキレイの攻撃をもろに受けただと!?セキレイが好きなのは分かるが怪我する必要はないだろ!」
「いや、ホントサーセン」
「私がいなかったらどうするつもりだったんだ!?」
「俺の研究室にある薬品を片っ端から持ってきて一気飲み……」
「中には毒薬もあるだろ!冗談も大概にしろ!!」
俺達が病院に来た時には、既に日付は変わっていて起きている人はかなり少なくなっていた。
病院もそうで、主要な医師は既に帰宅していて対応できるのは、緊急搬送で運ばれてくる患者の応対だけだったため、偶然にも本社にいた鶺鴒計画主任の高美に来てもらって説教を食らっている。
彼女の元で、検査が開始して数分前に結果が出たのだが容体はかなりヤバかったようだ。
怪我は、右上腕の骨が粉砕骨折に手首の骨と肋骨の数本にひび、しかももう少し打ち所が悪かったら命に関わる怪我になっていたとのこと。
転生時に、頑丈な肉体を得ていたからこその怪我であって元々の肉体では絶えきれなかった、と容易に予想できる。
そのため、しばらくは病院で安静にする必要があるがM.B.Iの新薬(未認可)で1週間もあれば、完治できるほどに骨がくっつくそうだ。
その開発に、俺も参加していたが実際に実験体になるのはやや緊張する。
しかし、新薬の性能に関してはネズミなどで実験済みなので後は病院のベッドで寝ているだけだ。
そう思いつつ、疲れがどっと出たのでそれに任せて寝ることにした。
戦闘があっという間に終わってしまって月海の出番が皆無。
そのため、皆人達が一足先に出雲荘に戻った時に謝っています。
戦闘シーンをもう少し粘って書いてもよかったんですが、そうするとグダグダ感が出そうだったのでやめました。完結目的でやってますし。
後、原作では焔が皆人と婚ぐ場面がこの後にありますが本作だと既に主人公と婚いでいますので、その場面はばっさりとカットします。
となれば、次は神座島侵攻の話になるんですよねー。どうするかなー。
まぁ、次回までに決めますのでそれまで待って頂けるとありがたいです