「みったん、大丈夫ですか?」
「……松か、大丈夫じゃないと言ったら慰めてくれるのかい?」
「そういう訳じゃないですよ。計画に嫌気が差したとかはないですか?」
「そのことか……」
出雲荘の廊下を歩いている途中で、松が心配そうに聞いてきたので俺は少し間を置いて手すりに腰掛けながらこう言った。
「………覚悟していたさ。ただ、それが少し足りていなかった。だから反省こそすれ、後悔はしていないよ。現時点ではね」
「……そうですか、ならいいんですよ。このまま、みったんが鶺鴒計画の抜けてしまったら計画は成り立ちませんから」
「そうだな。だけど松、1つの頼まれごとをしてもらっていいか?」
「なんです~?」
「手を握ってくれ。じゃないと正気を保てそうにない」
「はいは~い」
俺がそう言うと、松はしょうがないなという顔をして差し出した俺の手を満足するまで握ってくれた。
こんな時に、一緒にいてくれる存在がいると随分と救われることもある。
そんな感じで、粛清を行ったことでヘコんでいた俺の感情は松とのつながりで元に戻る頃に、俺の携帯に電話が掛かってきた。
電話の相手は、珍しく皆人の妹であるユカリなのでなんの用事だろうと思って出てみた。
「おぅおぅ、珍しい客が電話してきたな」
『おーっす、お兄ぃ。元気にしてた?』
「こっちは皆、元気だがどうしたん?病気になったとかか~?」
『あははー、その時はお世話になるんだけどさ。お兄ちゃん、どうしてる?』
「相変わらず、呑気にしているが本気でどうした?誰かのもめ事に巻き込まれたかい?」
『お兄ちゃんが近くにいなければはなしてあげる』
「彼はバイトで出掛けているよ。後、30分ぐらいで帰ってくるかな」
俺がそう言うと、ユカリは事情を説明してくれた。
どうやら、第二段階が始まってしばらくした時に氷我に強襲されて無理矢理、婚姻させられそうになったらしい。
そのため、しばらくの間は建物に囚われていたがぼやを発生させて火災報知器を鳴らすのと同時に、ガラスに椅子を投げつけて割ってそこから脱出したらしい。
彼女曰く、50階から飛び降りたそうなので本来なら電話してくることはできないのだが、椎菜に助けられてなんとか電話をかけてきたらしい。
全く、皆人は何してんだかと思っているとゆかりからの依頼を受けたのだがその内容は、氷我達にひと泡吹かせてくれないかと言うものなのだ。
しかし、今の俺達にそれをしてどうなるのかというものを伝えると彼女は、『お兄ぃの利益になるようなことを伝えればいいんだね?』と言われて電話が切れた。
どうやら、本気で程度は問わずに復讐して欲しいらしいのだが現状ではどうしようもないので、無理に動く必要はないとの判断を松と打ち合わせした。
「・・・・・・本当だったんだ」
「全く、社長が考えた計画だけあって笑い話になりゃしねぇよ」
しばらくして、皆人が帰ってきたのでユカリが誘拐されたことを伝えると彼の方にも、彼女からの電話が来たようなので少し落ち込んでいた。
今回の鶺鴒計画は、人間の欲望をむき出しにする計画でもあってある意味では混沌としていた。
ある者は愛するセキレイと共に脱出を試みて、ある者は現状の不満を爆発させるために、ある者は自分の目的のために。
セキレイの戦いに、人間の理念を乗せているので醜いように見えるがそれもまた、世の中の理なのだろうと思う。
例え、この世界でチートナ能力を得たとしても世界のルールやらなんやらに勝てるほど、俺は強かでも何でもないからそれらを変えるつもりはない。
まぁ、ルールを無視して色々とやっている社長や原題技術を凌駕している存在もいるし、俺も知識をかなり持っているから変えているが根本的なものまでは変えられない。
今回の件も、氷我が社長に対して鶺鴒計画の内容を色々と聞き出したいが故に、ユカリを攫ったようなものだからな。
自分の目的のためなら、手段を問わないのは社長も氷我も同じということか。
そう思いつつ、皆人と話し合いながらいつかは氷我に一泡吹かせたいと一緒に考え始めた。
何故なら、彼はセキレイの戦いに人間の欲望や都合を乗せたからであってその分、社長はセキレイを飛び立たせた後は無干渉を貫いているからこっちの方がまだ良い。
そのため、俺はどうやったら鶺鴒計画を早く終わらせるかを考えながら日々を過ごしていると、休日のある日になって爆音を響かせたバイクがやってきた。
この日は、出雲荘に住んでいる住人全員で掃除をしているので玄関の前に来たら、月海がバイクに乗っている人に対して大量の水をぶっかけたのだ。
流石は、歩く蛇口なだけあってそいつは全身がびしょ濡れになったのでこう叫んだ。
「そうかよ…これが“北”のゴアイサツかよ…。この真田西、売られた喧嘩を買い逃したことはねぇ!タイマンだ!!」
「ヒッ、ヒィィィ~~~!?」
「おぉ、タイマンって言葉を使う人を初めて見た」
その叫びに、皆人は中継された映像を思い出して恐怖を感じたのに対して俺は、何事かと思って出てきて感心したようにそう言った。
その後、美哉が出てきたので喧嘩は取りやめてお詫びにタオルを渡して上がってもらった。
そして、居間に来てもらうとお茶とを差し出してから寛いでもらったが、西の真田といわれている存在が護衛のセキレイを連れずにここに来るとは珍しい。
寧ろ、 何かしらの裏があるんじゃないかと思って松達は様子を見ていたが、事情を聞くために皆人が彼に尋ねると彼は不思議そうに返した。
「あァ?なんだよ、アイツから聞いてねーのかよ」
「アイツ…?」
「あのヤロー、約束の時間は守らねーわ、北の“大家”は1000歳の年増の般若で最恐だのぶっこきやがって、こんなキレーな奥さんがンなおっかねーもんのワケねーじゃんかよ」
「さあどうぞ」
「いやァ~、すんません♡♡」
美哉を、そこまで知っている奴は御中社長や健人、俺なのだがもう1人いるんだ。
皆人も、そいつに心当たりがあるようで何かを言いかけた瞬間に玄関から声がした。
「いよーっす。美哉ちゃーん、メシ食わせてっ(ゴッ」
その声がした瞬間、美哉は台所から漬け物石を持ってきてそいつにぶん投げた。
そして、美哉は少し怒りながらこう言った。
「香さ~ん、誰が年増の般若なのかしら~~~?」
「年増!?言ってねぇ、それは流石に言ってねぇ!1000年以上生きているババァかもって口を滑らせただけで…」
「尚悪いです!(ゴッ」
「ギャー!」
瀬尾が醜い言い訳をすると、漬け物石がまた飛んで彼の悲鳴が周りに響く中、結は明後日の感想を述べるのと同時に真田はこう言った。
「強えぇー!惚れたぜ…!」
「へぇ?」
どうやら、彼は強い女性に憧れるようだが美哉の場合は
しかし、出雲荘に住んでいる俺や千穂達は別にしても5人の葦牙がこの時期に集まると言えば、御中社長の遊び心で送られたメールについてでその内容は以下の通りだ。
『葦牙諸君!第四回戦をやっちゃうよ!今回はなんと自由参加だ。しかし、葦牙諸君全員の参加を求めるものでもある。何故ならば神器はあと4つ、それは諸君がセキレイと久しく在る可能性の残りの数に等しい』
『繰り返すが、今回の参加はあくまで自由だ。強制はしない。我こそはと思う者だけ、このメールの受信より10日後、帝都湾M.B.Iターミナルへ小鳥と共に集いたまえ』
『私は其処で待っている。御中広人』