セキレイがいる世界   作:八雲ネム

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第21話 神座島

『皆さん、ご覧下さい!帝都湾に突然、出現したこの島は全長約2㎞程の大きさがあり、現在、実質的に帝都の実権を握っているM.B.Iの発表ではこの島は、同社所有の島だと言うことで……』

 

「ほげえぇ、神座島をここまで持ってきたのか!?」

「そうなりますね~、1週間ほど前にレーダーから消えたと思ったらこういうことだったですか」

「と言うと、島が自力でここまで来たの!?」

「M.B.Iのビックリテクノロジーの賜物ですな」

 

 第四回戦から一定の日数が経ったある日、日本海からあった神座島が帝都湾に現れたのだ。

 そのため、俺と皆人、そして松とで三者三様に驚いている間にも、アナウンサーが実況を続けていると状況が変化したらしく、取材陣が慌てていると画面が変わった。

 

『M.B.Iは湾岸に施設群を展開し……あっ、我々取材陣にも今、退去命令が―――(プツッ』

『―――…諸君、今この展開を以て私は古い世界に終わりを告げよう』

 

 それまで、島を映していたテレビから御中社長の顔がアップで映し出された後、カメラが引いて社長の上半身を移す形に落ち着いた。

 

『これより、地上に神代(しんだい)が甦る。新しい上の世が。M.B.Iの全てはこの時のためにあり、ゲームマスター(わたし)の役目もここで終わる』

 

『神座島。これより、この島で繰り広げられるのは神代に至る最後の闘い。可憐な戦記はこの始まりの場所で収束する。主役達、死地へと向かう心の準備はできたかね?』

 

『さぁ!お迎えだ』

 

 社長がそう言うと、出雲荘周辺から騒音が聞こえてきて入り口に行ってみるとM.B.Iの装甲車が、兵員を連れてやって来た。

 そして、空にはいくつものヘリコプターが見えたので逃がすつもりはないだろうから、俺達は素直に行くしかない。

 一方、健人や美哉も何かを決意した表情になっていた。

 

 

 

 そして、ヘリコプターで神座島に到着すると他の葦牙とセキレイ達も来ているようだった。

 

「ここが神座島……」

「ったく、久し振りに来たけど相変わらず殺風景だな」

「そう言えば道人さんって以前、ここで働いていましたもんね」

「よう、佐橋に道人」

 

 俺と皆人で、話し合っていると瀬尾がやって来て声を掛けてきた。

 

「クッソ…第一回戦よか悪質な拉致り方で連れてきやがってよ。空から道路から四方八方囲まれて逃げらんねっつの」

「逃げる気満々だったのかよ、俺もだけど」

「あはは……」

 

 瀬尾の愚痴に、俺がツッコミを入れると皆人は引きつった笑顔になったが、異変は着実に俺達を蝕んでいた。

 

()ッ…」

「どうしたんですか?」

「佐橋、なんか頭っつーか、体重くね?」

「…? 風邪でもひいた…とか…?」

「いや、そんなんじゃなくてよ…なんかこうタチの悪ィ…」

 

 瀬尾がそう言っている間に、他の葦牙達も集まってきていて俺達に最初に声を掛けてきたのは真田だった。

 

「おめーがそんなデリケートなタマかよ、瀬尾」

「真田さん!」

「おひさー」

「オレなんか、生まれてこのかたカゼなんかひいたコトないぜ!」

「へー、バカは風邪ひかないって言うもんね!」

「御子上か……」

「ンだとこのガキァア!」

「フン、全く騒々しいな」

 

 とまぁ、個性的な葦牙が残っている中で皆人は明らかに氷我を敵視しているが、そんな中でも彼らと比べて比較的マトモな奴が現れた。

 

「あ、いたいた。武田さんに佐橋さーん」

「おーっす、元気そうで何より」

「あ!No.87の…」

「大角です。大角折彦」

 

 とは言え、葦牙がマトモでもセキレイ同士がそうであるとか限らないのが世の常で、結と鹿火が対面するとそれぞれの葦牙の背中に隠れてしまった。

 事情を聞くと、出発した後で顔を合わせる時は戦う時だと決めているらしい。

 そのため、月海が呆れていると懲罰部隊の主力メンバーがやって来たのでより一層、騒がしくなってくるとM.B.Iの私設軍がヘリコプターに乗って引き上げていくのが見える。

 多分、決着が付くまでここから出られないのだろうが、その前に皆の体調に異変が現れた。

 

「!? 瀬尾さん!」

「クッソ、カゼなんてもんじゃねぇ。やべーぞ、こりゃ」

「…!あ…れ?なに?体が」

「ったく、以前はこんなのはなかったぞ?」

 

 瀬尾が、頭を抱えて跪くと皆人も両手を地面についたのと同時に、俺もよろめいて鴉羽に支えてもらった。

 彼女達が驚く中で、他の葦牙達も急に足取りが悪くなったのでその場は軽く混乱し始めた。

 それを待っていたかのように、社長がスピーカーをかいしてこう言ってきた。

 

『説明しよう!この“神座島”は永きにわたり、神器とセキレイの近くにあったために神器の“特性”を帯びている』

「神器の…特性…?」

『セキレイの鶺鴒基幹や神器のは発動するためのルール(・・・)があるがここにはそれが無い。つまり、この島は常にエネルギーが開放されている状態にあるのだ。鶺鴒基幹を持つセキレイや、逆に普通(・・)の人間であればなんでも無いのだが―――』

 

 普通の人間?てことは葦牙基幹を持つ奴らはもしかして……。

 

『―――セキレイに通じる属性を持ち、しかも鶺鴒基幹を持たない者…すなわち“葦牙”には毒性に近いエネルギーだ。つまり、“葦牙”はこの島にいるだけで命を削られ、いずれは………』

「えっちょっ社長!?なに言ってんの?バッカじゃないの!?え、ヤダ、夏朗!夏朗!!いやーーーーーッ!!」

『落ち着きたまえ、紅翼君。無論、そうならない様にする方法はある』

 

 社長の説明で、紅翼は混乱して壱ノ宮の体を揺するが説明の続きがあるようなので、この場にいる皆が食い入るように聞いていると彼はこう宣言した。

 

『生き残る鍵は“神器”、みんな忘れずに持ってきたかな?さぁここから最終段階、ステージⅠを開始しよう!』

 

 

 

「道人!」

「道人さん!」

「ははっ、そう言うことかよ。ったく、本気で笑えねえ」

 

 社長からの説明を聞いて、俺は持ってきた神器の番号を確認する。

 神器には、8の数字が書かれていて上空に浮かび上がった数字のところにまで、持って行かないとダメらしい。

 説明している間にも、毒性のエネルギーが俺達の体を蝕んでいく。

 今の段階ではまだ息苦しいだけではなく、体に上手く力が入らないので歩くだけでも一苦労だ。

 原作では、皆人が神器を3と8の神器を持っていて島の端と端を行かないといけなかったが、この世界では俺という存在がいるので問題ない。

 そのため、葦牙達はそれぞれのセキレイに手伝ってもらいながらM.B.Iに、指定された場所に行くことにした。

 

「よし、行くか!」

「はい!」

「道人さん、後で会いましょう」

「皆人、ミスったら幽霊としてお前を祟ってやるぜ」

「ははは…」

「コッチも行くわ。生きてたらまた会おうぜ」

「あぁ、また後で」

 

 それぞれの葦牙は、言いたいことが多々あるだろうが早くしないと全滅するため、忌々しげにしながらも島の中央部からそれぞれの場所に向かった。


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