「よし!ついに完成したぞ!葦牙基幹付与の薬と一時停止の薬が!」
鶺鴒計画が終了してから1年、神座島では停止していた葦牙達が息を吹き返して戦闘以外で倒れたセキレイ達も全員が再起動したが、それと同時に困ったことも起きていた。
それは、葦牙が止まることで停止した場合と停止してから時間が経ってしまった場合、そのセキレイは婚いでいた時の記憶が欠如するという事実だった。
この事実は、神座島にいたセキレイだけではない現象として、M.B.Iが検証した結果が報告された。
記憶が、欠如したセキレイ達の中には結達もいたのだが鴉羽達の場合は、俺を再起動する時に魂の一部を預けた状態だった為に難を逃れた。
この現象を松が調べた結果―――
『うちはですね。言うなれば
―――とのことだった。
なんにせよ、停止した葦牙とセキレイを甦らせたの結女が嵩天の力を使ったからだがその際に、葦牙とセキレイとの間で一悶着があった。
『ありえないよっ、ありえない!この僕を忘れちゃうなんてーっ、みんなのばかぁー!』
『…なんだ?この雨の日に捨てられた子犬と目が合った……みたいな…』
『わ…私もですわ』
『私も…』
『そうだ!また羽化すれば思い出すかも!おいで!みんな!!』
『マジか……こういうことは妙齢の美女相手が良いんだがな…』
『それ、何回聞いたかわかんない!』
『ますたぁー!』
『ラブリーィ!』
『ちょっ、くーちゃん!月海!痛い、痛いよ!結ちゃんも強く押さないで!』
まぁ、結果から言えばその場にいた全員が再羽化して元通りになった。
停止してから、すぐの再羽化だったらから記憶も全て戻ったんじゃないかと高美さんは言っていたが、そこにはそれぞれの絆があったんじゃないかと俺は思う。
それから、船の中で試合を観戦して調整に奔走した御中社長はと言うと以下の通り。
『ハハハハハ!諸君!ようやく、船の応急処置が完了したぞ!さぁ、ゲームの続きを…』
『社長、終わったんだぞ?あんたが処置をしている間に全てが終わったんだ』
『……………』
俺がそう言うと、社長は愕然としてショックを受けていたがその時、M.B.Iのヘリコプターがやって来たので本社の方でも騒ぎは一段落したようだった。
そのヘリコプターから、ユカリと千穂が俺達に声を掛けてきたので、皆の前で俺は鶺鴒計画の終了を宣言した。
『……みんな、最終戦は終了した。帰りましょう、新東帝都へ―――――』
俺はその時のことを振り返りつつ、2本の細い試験管を見つめていると俺の研究室のドアが開いた。
「道人さん、試験管を持ってどうしたんですか?」
「ん?あぁ、皆人か。この1年の間で研究してきた薬が完成したんだ」
「…!本当ですか!?」
「あぁ、これで美哉も安定するはずだ」
この1年で、無事に皆人も新東帝都大に入学できたので大学に通いながらバイトで、M.B.I本社の俺の研究室に出入りするようになった。
そのため、毎日が勉強漬けの日々となってかなり大変そうだったが彼は1つの決意を示した。
『鶺鴒計画を手伝いたい?』
『勿論、闘わせる方じゃなくてシステムからの解放、セキレイというくびきから解き放ちたいんだ』
『……』
『羽化や鶺鴒紋、祝詞。それから機能停止のこと。この計画を通して、俺は何も知らないのが悔しいんだ』
『……』
『それにはまず、M.B.Iにいるのが1番の近道だと思ったからこれが俺にとってのごほうびの代わり』
『……』
『これはあなたや健人さんにとっても悪くない話じゃないかな』
『…全く、考えることは同じなんだねぇ』
『と言うと?』
『俺も健人も同じ考えさ。今じゃ、彼も他の研究室で研究しているはずだよ』
その時の、皆人の喜びようと言ったら試験に合格した時ぐらいの勢いだったのだが、俺と皆人で今後の予定を打ち合わせているとユカリと千穂が部屋に入ってきた。
「あっ、お兄ぃ!と、お兄ちゃん。おはよー」
「ユカリと千穂さんも来てたんだ」
「彼女らはそれぞれの付き添いでな」
「うん、セキレイ診断なんだって」
「鈿女ちゃんも診断中です。そろそろ、終わるはずです」
俺らがそう言い合っていると、高美さんの声と共に椎菜と鈿女が研究室に入ってきた。
「終わったぞ、今回も異常なしだ」
「お待たせしました、ユカリさん」
「千穂もお待たせー」
「佐橋さん、武田さん、くーは元気ですか?」
「うん、また会いに来てやってよ」
「彼女も喜ぶはずさ」
男同士での挨拶が終わると、ユカリはエロ親父の口調で椎菜に近づいた。
「ねえねえ、着替え。のぞいていい?」
「ユ、ユカリさ~ん」
「道人も見たかったら来て良いよー」
「お誘いは嬉しいが予定が入っていてね。またの機会にするよ」
俺は、鈿女の誘いを丁寧に断ると彼女達の着替えを待ってからある誘いをした。
「そう言えば、出雲荘でごちそうになるんだけどお二人は来るかい?」
「マジ?行く行くー」
その返事を聞くと、松にメールを入れている最中にユカリ達は研究室から出て行って、皆人も大学の講義に出る為に去って行った。
その直後、俺の携帯に電話が入った。
「もしもーし、武田ですよー」
『あっ、通じた通じた。電話生きてた♪ こんにちは、壱ノ宮です☆』
『ドドド!バババ!ガガガッ』
「ぬお!?……壱ノ宮よぉ、まだ紛争地帯かい?」
『はい、なかなか目的地につけなくて』
『夏朗ーっ、こっち制圧したーっ』
『クク…道…通れる…』
銃の音が聞こえたと思ったら、遠くで紅翼達の声が聞こえるので実際に紛争地帯の真っ只中にいるんだろう。
その中でも、夏朗は平常運転でのんびりとした口調だ。
『えぇっとですね、主任に伝えて欲しいことがあって電話したんですけどぉー』
「あ、そこにいますよ。かわりましょうか?」
『嘘です、すみません。ちょっとあなたの声が聞きたくてかけちゃいました。てへ☆』
「ははは…」
偶に、軽いノリも混ぜるからついて行けない時もあるがそれでも無気力だった彼の中で、ある目的が出来たのだから大きな前進と言えよう。
「…見つかりそうか?そこで亡くなったという友人の手掛かりは」
『まだ分かりません…でも、辿り着けそうな気がするんですよね。なんたって彼女達が一緒ですから』
その言葉に、俺はしみじみと一皮むけたなぁと思っていると軽い調子で言葉を続けた。
『まぁ、有給分で帰れるかは分かりませんけどねー、あはは。あっ、私用で懲罰部隊を使っているのは内緒ですよー』
「あぁ、その分の埋め合わせを帰ってきてからしてくれればいいから」
『あんまり、無茶ぶりはしないで下さいよ。こう見えても平社員ですから』
「最初からそのつもりさ」
『…じゃ、また電話しますね』
「はい、どうぞ気をつけて」
俺達は、そう言い合ってから電話を切って夏朗は紅翼達と目的地に向かい、俺は健人の研究室に向かった。
何故、葦牙基幹付与の薬を用意したかというと美哉の体調が不安定になっているからだ。
1年前の決戦の後、俺が神座島に着地すると美哉も落ちてきたので受け止めたのだが、目覚めた時には俺達のこともわからない状態だった。
そのせいで、記憶も混濁しているのではないかと松は言って俺が羽化した方が良いのでは、と進言してきたが膨大な知識を使わないのはいかがなものかと思って拒否した。
技術がここまで発展しているこの国で、ゴールが見えているのにそれを使わないのは技術に対して失礼だと言うことでここまでこぎ着けた。
さらに、俺がこの薬を開発できたという報告を受けた健人はかなり喜んでいて、無痛注射器を使ってすぐに薬を体内に入れた。
この薬は、体内に入ってから1時間はしないと発動しないし、何よりも健人専用の薬だ。
葦牙基幹を持たない彼の体質を、待っている体質にするには遺伝子レベルで能力を組み込まないと行けなかったので、彼の遺伝子に合うように薬を開発した。
開発するまで、かなり苦労したがこれで美哉は羽化が出来る上に体調も安定するから良いのだが、美哉からすればやや不本意かもしれない。
何故なら、この薬によって健人に性格が変わるかもしれないからだ。
そう言った副作用は、可能な範囲で取り除いているから問題ないとは思うがそれでも絶対ではないので、これからどうなるのかは分からない。
最悪、鴉羽達からも嫌われるかなと思いながらこれからのことを話し合いつつ、それぞれの仕事を進めていった。