仮面つけてないライダー八幡。   作:kawasaki士

3 / 3
序章はここまでとなります。




「以上で終了です。次は皆さんゴールドであるようしっかり安全運転に努めましょう。」

 

「はいっ!」

 

「よろしい!」

 

いつの間にかおじさん職員と円滑なコミュニケーションを取れる様にてしまった!いかんいかん。比企谷を待たせているんだ。早く向かわねば。

 

すると、二階の窓の向こうに先程と同じアホ毛が見えた。

 

「なんだなんだ。あいつはまったく何時の間に…。」

 

…ふっ。少し煙草吸ってからでいいか…。

 

 

―――――――――

 

 

 

開始から一時間強、マジで今のところ合格者ゼロだ。

 

「あの、確認なんですけど…パイスラで終わりじゃないんですよね。」

 

「勿論。その後にS字、クランクといった変則路や坂の途中で一旦停止し、後退させずに発進する坂道発進。最後に時速40キロをキープして10メートル以内で止まる急制動とその後の踏み切りがある。」

 

「えっとじゃあつまり…。」

 

「うむ。まだ誰も半分も越えてないね。」

 

マジか…って事は…。

 

「このまま合格者ゼロって事も…。」

 

「うむ。普通にあるよ。そもそも一回で受かる様な人は殆どいないしね。中には何十回受けても落ちる人だっている。」

 

何が凄いって皆、下手くそという訳ではないのだ。寧ろ普通に乗れていると素人目でもわかる。しかしそれでも受からないようだ…。

 

「あと二人か…。」

 

残るは雪ノ下さんと同じくらいの年齢のそこそこ長身の女性と、もう少し年上で、男女合わせて、今回の参加者の中で一番身長の低い兄ちゃんだ。

 

「あの、やはり女性や身長の低い人は不利ですかね。」

 

「確かに身長や力は武器になるね。でも…まぁ、見ていたまえ。」

 

材木座さんのドヤ顔が気になる中、先ず女性が発進した。安全確認もしっかりしており、一本橋も越えた。しかも見た所一番安定してある越え方だ。これはいい感じじゃないか。

 

「あとはパイスラ…。」

 

一本、二本、三本と潜り抜けた。

 

「もう少し…ッ!」

 

しかし、時間に焦ったのか四本目でアクセルを開けすぎて大きく膨らんでしまい、五本目に向かう時に倒し込みが足りず、エンジンガード(材木座父曰くエンジンを守る為についている鉄パイプ)が五本目に当たってしまい、結局失格になってしまった。その後帰って来たら落っこちたオッサン共に妙な上から目線で励まされてた。おい、あんたらその人より手前で脱落してんじゃねぇか。

 

「ふむ、惜しかったね…ただ、見ての通り、バイクはバランスの乗り物だから力や身長はそこまで大きなウェイトにならないんだ。流石に200kgの車体は女性には中々骨が折れるがね。」

 

「成程…残るは一人か…。」

 

あとは兄ちゃん一人、集中してんのか、ぼっち道貫いてんのか、ずっと周りから離れた所にいた。

 

 

 

 

 

『では19番、慣らし運転をして下さい。』

 

兄ちゃんが跨がる。タッパがねぇからバイクがでかく見えんな。

 

発進。すると今までと違う挙動で慣らし運転している。具体的に言うとめっちゃ蛇行運転してる。

 

「っ…暴走…?」

 

しかし材木座父はそれを見て。

 

「ほう…。」

 

と感慨深げに呟いた。

 

しかし、どうやらこれはいけない事の様で試験官に「ちゃんと走れ」と注意された。

 

更に。

 

「あ、エンストした。」

 

何と交差点でエンストさせてしまった。

 

「あの、あの人ヤバくないですか。」

 

「うむ…試験官の心証は最悪だね。でもこれは…。」

 

ニヤリと笑む材木座父。しかし当然周りはおいおいと言った感じで冷笑だ。

 

そんな中で、その人の試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目を疑う。慣らしでかなり悪辣な運転をしていた兄ちゃんだが、本番になると豹変、安全確認や右左折を難なくこなし、まるで減点されている事自体頭にない様に一本橋へと辿り着いた。更に一本橋も女の人に負けず劣らずの安定感だ。何より…。

 

「ほう…手元時計で17秒か…。」

 

倍時間以上で渡り切った。しかもまだ余裕を残しているようだった。

 

そして遂に鬼門のパイスラ。

 

「どうやって行く…ッ!はっ!?」

 

その兄ちゃんのパイスラはそれまでの人達と明らかに違った。それまでの人達の走行ラインが波の様な緩やかな曲線だとすればその人の走行ラインは地割れの様な、稲妻の様なジグザグの直線だった。ギュオンギュオンとエンジン音を立て、倒し込んでは加速し、倒し込んでは加速しを繰り返し、見事通過者ゼロのパイスラを突破した。更に材木座父の「手元時計で6秒弱か」にも驚く。

 

「なんなんすかあの人…つかあのやり方どっかで…。」

 

「警察24時とかで白バイ隊員がやってるやつに似てるだろ?」

 

「!そういえば…じゃああの人は…。」

 

「さぁどうだろうね。ただ加速を力で捩じ伏せている様な部分も見れる。あれは独学に近いかもねぇ。というか正直な話、おまけの無い一発試験ではあのやり方でなければパイスラはほぼ突破出来ないんだよ。」

 

「じゃあ慣らし時ののやらかした様なのも…。」

 

「うむ。試験車の挙動やエンストする感覚を馴染ませる為に、わざとだろうねぇ。」

 

「強かというか、狡猾というか…。」

 

でも、嫌いじゃない。いや、嫌いになれない。結果を手に入れる為にいらないモノを全て削ぎ落とすそのやり方は、少なくとも今の俺には嫌いになれなかった。ただ、そのやり方が周りの人間の心に与える影響も、少しわかってしまった俺がいる。

 

『君が傷付く事で悲しむ人間がいるという事も覚えておきたまえ。』

 

その言葉が、矢鱈胸に張り付いた。

 

「おや、もうすぐゴールだ。」

 

「おぉ…。」

 

その後も兄ちゃんは難なく関門を突破し、急制動をピッタリ終えて踏み切りをこなし、さも当然の様にスタート位置に帰って来た。途中、冷笑していたおっさんの顔が段々強張っていったのが妙に印象的だった。

 

「ふむ…あの子だけだね。」

 

「本当に五%ちょいか…!」

 

他の人達がぞろぞろ帰って来る中、受かったであろう兄ちゃんが試験官と共に此方へ来る。

 

《君は何回目?》

《あぁ、今日が初めてです。試験も、試験車に乗るのも。》

 

という言葉と共に。

 

(マジかよ…。)

 

皆の心の声が、重なったような気がした。

 

「ほうほう…たまにいるんだよ。ライダーの資質を持った人がね。」

 

「資質…。」

 

俺には無縁な言葉だった。でも、素人目でも感じられた。資質だけじゃない、普段の積み重ねが引き寄せた結果なのだろうという事が。

 

「どうだい?中々面白いだろう?」

 

「まぁ…いい暇潰しに「比企谷。待たせたな」!」

 

二時間ぶりの声が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった。有意義な時間は過ごせたか?」

 

東金までの高速で、隣の先生が話かける。

 

「…まぁ、それなりにいい暇潰しにはなりましたよ。」

 

 

あの後、先生と材木座父が所謂教師と父兄の挨拶をし別れた。因みにプライベートであろうにも関わらず何も突っ込まれなかった。あざっす。

 

帰り際に。

 

『義輝があんなんだから君は是非こっちに来たまえ!なんなら義輝引っ張って来てもいいぞ!』

 

と言われたが。息子をあんなん呼びする父ちゃんェ…あとアイツと一緒には多分絶対来ないです。多分。あ、いや絶対。一人なら…どうだろうな。

 

「暇潰し…か。随分と有意義な暇潰しのようだったな。」

 

「何時から見てたんですか。」

 

「何、ほんの終わる10分前さ。」

 

「さいですか…。」

 

「うむ。ただ10分だけとはいえ、君の目が普段と変わっていたという事はいい暇潰しだったようで何よりだよ。」

 

ガッツリ見られてた…怖いよう…「何だね?」

 

「何でもないでしゅ…まぁ、新鮮ではありましたよ。今まで感じた事無い感覚でしたから。」

 

「若人にはいい刺激になったか…私も若人だけどな!…まぁ良かった良かった確かにそうだろう。免許やバイクというのは…例え原付のモノを持っていても今一高校生にはピンと来ないかもしれないからな。あの場所そのものが新鮮だろう。」

煙草を燻らせ呟く先生。

 

「そっすね…あと…考え方も。」

 

「…ほう?」

 

興味ありげにこっち見て訊ねる先生。いや前見て前。

 

「色んな人がいたってのもあるんですけど…例えば同じ目標に向かう人でも、やり方や捉え方が違う。いや、そりゃ当たり前っちゃ当たり前なんですけど、なんつーか…。」

 

上手い具合に言葉が紡げない。何やってんだ国語学年三位。

 

「取捨択一が全てでは無い。か?」

 

「!」

 

流石だぜアラサー現役国語教師「枕詞はいらないなあ。」!拳向けないで!怖いから!

 

「ええ、なんつーんすか、勿論正解は一つ…なんだろうけど正解に辿り着くまで途中式がいくつもあって…だけど正解に辿り着くのは勿論限られてる…だけど、例え間違いの式でも、決して駄目って訳じゃない…つまり…。」

 

あぁなんだ。このもやもやは。吐き出したいのに言葉に出来ねぇ。

 

「必ずしも問い直す必要は無い、問いそのもの変えたっていい。かな?」

 

「!…うす…。」

 

そうなんだ…ろうな。あの人達を見ていて、何となく感じた。問い自体が皆人それぞれなんだ。それを一々全員に強制する必要…共有する必要は無い。皆の問いを自分で解こうとするあまり…軋轢が、食い違いが起きてしまう。それが…。

 

『今はあなたを知っている。』

 

『やっはろー!皆で打ち上げ行こー!』

 

あいつらにいらねぇ気を使わせたんだろな…。

 

まぁ、直ぐには変わらないだろうそれでも…。

 

「自分の問いを見つけたか?」

 

「!…あの、先生もしかして最初から…「そろそろ腹が減って仕方ない。喋るのは食い終わってからな」…うっす。」

 

ま、今はらーめんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静「さぁ着いたぞ比企谷!ここがぐぅらーめん本店だ!」

 

八「うおぉ!駐車場でけぇ!店せめぇ!

 

静「チャーシュー麺大盛り薬味増しと餃子とライス二つずつ!」

 

八「えぇ!?そんなに「大丈夫だ食える!」…。」

――――

八「うおぉマジだ!このスープ濃いいのにすげぇ癖になる!チャーシュートロットロでうめぇ!ライスめっちゃ進む!」

 

静「ふっふっふそうだろうそうだろう!」

 

――――

 

八「旨かった…食いきった…先生ご馳走様です。」

 

静「…。」

 

八「どしたんですか?」

 

静「ゴメン。センターで煙草買ったら足らなくなっちゃった。比企谷、500円貸して…。」

 

八「…はあ…禁煙しましょうよ。」

 

静「うぅ…ゴメン。」

 

ま、今日だけは課外授業料って事で払いますよ。

 

 

 

 

 

 

 

お終い。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。