Sword Art Online:Early Break 作:Happy-snow
体の内側から溶けていくような感覚。それが最後の記憶だった。
そのはず、だったのだ。
噴水のある広場、二年前と何も変わらない感動に満ちたゲーマー達の声、キャラ作りのために伸ばした長髪、その全てが二年前に戻ってきてしまったことを示していた。
「なんだ、これ……」
俺はあのボス戦の後75層でヒースクリフを、茅場晶彦を、SAOのラスボスを倒したはずなのに……
「また、やり直し、なのか……?」
この二年間で俺の命を救ってくれた直感が早く自分を強化しろと騒ぐ。その直感に従ったところで聞き覚えのあるおっさんの声に呼び止められ、出鼻を挫かれてしまった。
「おーい、そこの兄ちゃん!」
その声は僅か十数分ほど前に聞いたばかりのはずなのにとてもとても懐かしく感じられたのだ。
「あんた、その迷いのない動き、ベータテスターだろう!ちょいとレクチャーしてくれよ!」
奇跡的とも言える再会に思考が停止してしまった俺はあの時と同じように「あ、ああ」としか答えることができなかった。
「なあ、頼むよぉ」
「わかった、わかったから、とりあえず武器屋から行くぞ」
「おお!サンキューな!オレ、クライン、よろしくな」
「俺は、キリトだ、よろしく」
「じゃあ、まずは俺が見本を見せるから横で見ていてくれ」
あの時の実践形式の練習はHPが0になってもなんの危険もないと思っていたからこそできたことだが、これが俺自身が経験したSAOならば迂闊にHPを減らすような行動は慎むべきだろう。
拾った小石を投剣スキルを使わずにフレンジーボアに命中させる。すると、フレンジーボアのカーソルが中立のオレンジから敵対の赤に染まり、俺に向けて突進を繰り出してくる。この色の濃さが敵のレベルの高さを示しているのだが、始まりの街周辺ということもあってそこまで色の濃くない朱色に染まっている。
ブオオォ!
身体を半身になり、剣を腰だめに構える。ここから少し剣を引き絞るだけでソードスキル:ホリゾンタルが発動する構えだ。猪型モンスターの突進に合わせて剣をわずかに引くとシステムの見えざる力によって俺の体はひとりでに動きフレンジーボアの体を上下真っ二つに叩き斬った。
「よっと、まあ、こんなものかな。コツはソードスキルの姿勢に持って行ってからほんの少しだけ溜めを作って一気に放出する感じかな」
「ほうほう、それじゃあいっちょ猪退治と行きますかね」
「俺も近場にいるから何か分かんないところがあったら言ってくれ。死に戻りは時間の無駄だから躊躇せずにポーション使えよ」
「おう、丁寧にありがとな」
その後、俺は来たるデスゲームに備えて狩れる限りの猪を狩り続けた。無論、クラインには最初見せなかった自身の力によるソードスキルのブーストを駆使して、だ。このSAOが前回通りデスゲームになるのであれば、できるだけ自らを強化し、犠牲者を減らさなくてはならない。20体ほどの猪をポリゴン片に変えた頃にはすっかりあたりは橙色に染まり、一万人を絶望へ陥れる時間は着々と近づいてきていた。
「何度見てもここがゲームの中だなんてよぉ。作ったやつは天才だぜ」
夕日を眺めて黄昏ていた背中に声がかかる。
「そう、だな……」
「ん?どうしたキリトよぉ。なんかオレ変なこと言ったか?」
「いや、これを作った茅場晶彦は本物の天才だよ。一度是非会ってみたいぐらいだ」
「会ってみたら天才の例に漏れず変人だったりしてな」
「「アッハッハッハ!」」
その笑い声はまるで嵐の前の静けさを保っているかのように思える荒野に響き渡った。
「俺ァこの後別のゲームで知り合った連中と合流する予定なんだが……どうだ、お前さんも一緒に来ねえか?」
「あ、いや、俺は……すまない、遠慮しとくよ」
「いやいや、勿論無理にとは言わねえよ。また会う機会もあるだろうしな。そんときはちゃんと今回の礼をさせてもらうぜ。じゃあ、俺は飯食ってくるわ」
「あ、ああ」
そろそろだ。前回通りならクラインは……
「あれ、ログアウトボタンがねぇ」
やはりそうなのかと思うと同時に開いたメニューには見慣れたログアウトボタンだけが消失したメニューが存在していた。
「ま、今日はサービス初日だしこういうこともあるか!」
「ああ、そうだな……」
「GMコールも繋がらねえってことは皆一斉にコールしてるせいで応答できねえってことか?」
「まあ、全員に不具合が生じているなら全員強制ログアウトになるんじゃないか?」
「それもそうか!だけどよぉ、キリト。オレは五時半に熱々のテリマヨピザとジンジャーエールを注文してんだよ。なんかすぐにログアウトする方法はねえのか?」
「ないよ、マニュアルにも緊急切断方法は載ってなかったし、今の俺達には現実の体を動かしてナーヴギアを外すのは不可能だ」
「じゃあ、オレらは事実上ここに閉じ込められたってことになるのか?」
そういうことになるな、と言おうとした時あの鐘の音が響き始めた。あの時と全く変わらない強制テレポートによって招かれたのはやはり始まりの街の中央広場だった。
広がる赤い天井の警告、現れたフード姿の茅場晶彦、彼の放った言葉、与えられた手鏡、その全てがあの時と同じで、最後に放った
「プレイヤー諸君の健闘を祈る」
その言葉すらも一言一句違わないことが、俺にもう一度この場に来てしまったことを否応なしに認識させることになった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。いくつかあるSAO逆行モノですが恐らく二番煎じにならないはずなので暖かく見守って頂けると幸いです。
宜しければ作者のモチベーションにつながりますから一言でいいので感想または評価をお願いします。