Sword Art Online:Early Break 作:Happy-snow
「戦闘開始!」
ディアベルの号令で雑魚処理のG,H隊が左右に展開し、タンクのA隊の後ろにサポートのC隊、アタッカーのE隊、その後ろにスイッチ要員のB,D隊と俺達のF隊の順に突入する。
「A隊ブロック!C隊、E隊!ソードスキル一本!」
素早く背後に回ったE隊の攻撃で1本目のHPバーが1割ほど減少する。
「A隊!隙を逃すな!縦切り一本!C隊援護!B,D隊スイッチの準備!F隊はもう背後に回れ!」
「了解!行くぞ!」
全ては順調に進んでいた。この時までは。
「HPあと1本だ!油断するなよ!」
異変はそこからだった。片手斧と盾をすてるモーション。本来なら最後のHPバーが2割をきってから発生するはずのモーション。モーションこそベータとも一回目とも変わらないが、タイミングが全く違う。
「ディアベル!これは情報になかった!どうする!」
苦虫を潰したような表情をしながらもディアベルは指示を飛ばし続ける。
「続行だ!ここまで来て退くわけにはいかない!皆!絶対にボスの背後に回るな!範囲技がッ!」
ダアァァァン!
鳴り響く轟音。
それが示すのは突然のボスの跳躍。モーション時に距離を取っていたのにも関わらず、その距離をタンク隊を飛び越してサポート部隊を狙うかのような上段突進技。
「全員伏せろ!」
そう叫び、ほぼノータイムで片手剣突進技、ソニックリープを発動する。上段同士の技は、刀と片手剣の重量差、ボスと俺の重量差でお互いに相殺されるはずであった。
剣筋が一瞬ぶれたように見えた。しかし、その意味に気付いたときには既に遅く、上段から交わろうとした野太刀の軌跡はグラリと揺れて水平切りに切り替えられ、刀の芯にあたる最も威力の高くなる部分が俺を襲った。辛うじてソニックリープの軌道をずらして剣を間に挟んだものの、HPの6割を超える致命傷を負ってしまった。
「キリトくん!」
たまらずアスナが駆け寄ってくる。
「参ったな、流石に想定外だった。ボスがあんな技を持ってるなんて……」
「いいから早くポーションを!」
「タンク部隊は距離を離さずヘイトを引きつけろ!サポートもタンクの裏からヘイトを引け!アタッカーを下がらせろ!」
事態を重く受け止めたディアベルは当初予定していたものよりもさらに防御重視の戦術をとっている。幸い、武器変更モーション中に回復を済ませていたおかげでタンク隊のHPは多いままだ。しかし、攻撃の手段がサポート部隊のディレィ攻撃だけでは、先にタンク隊のHPが尽きてしまうだろう。
「ディアベル!提案がある!」
「何だ!」
流石に今は余裕がないのか爽やかなイメージは崩れ去っている。
「アスナをボスの背後に回せ。俺がボスの範囲技を打ち落とす。転倒状態を一斉に叩いて、回復する直前に隊を戻すことでこれを繰り返す。どうだ?」
「ちょっとキリトくん!それじゃあ、キリトくんが一番「アスナ、いいんだ」っ……!」
ディアベルが苦悶の表情を浮かべる。俺一人に全てを任せるような真似をリーダーとして実行していいのか迷っているのだろうか。
「やるのか、やらないのか!どっちだ!早く決めろ!」
普段の俺なら間違いなく上げないような怒号が俺の口からほとばしる。
「……頼む。ただし一度でも失敗したら全員で撤退だ」
「了解!アスナ!」
「ああ、もう!知らないわよ!」
フードを剥ぎ取ったその瞬間、その姿はステータスの数値を上回る速度で消え去り、すぐさま背後に現れる。
「ハアッ!」
ズガアアァァァン!
ヴォ―パルストライクにも迫る神速の突き。それだけでボスのHPバーが5%ほど削れる。
残りHP9割。
「ヴォオオォ!」
ケツに破壊的一撃をくらったボスが半ば自動的に飛び上がり刀全方位攻撃スキル、旋風を発動させる。
「セェアア!」
システムに依存しない助走と身体の回転のブーストにより、本来のソニックリープよりも明らかに速く俺の体が飛翔し、ボスの腹を深く穿った。
「全員!一斉攻撃!囲んで構わん!全力攻撃だ!」
ディアベルの怒号が飛ぶ。この分だと転倒状態から立ち上がる前にはソニックリープのクールタイムが終わるはずだ。
「全員退避!立ち上がるぞ!」
立ち上がると同時に再び包囲状態に陥ったボスはおう一度飛び上がる。今度は少し遠いか。
「ヴォォオオオオォアアア!!!」
「届けえェェ!」
何とか浅く腹を抉った攻撃により、再びボスが地に堕ちる。残りHP1割弱。体力に余裕のあるプレイヤーがとどめの一撃を打ち込まんとして、ボスに肉薄する。
ガキィィィィィン!
けたたましく響いた金属音の正体は、ボスがその得物を地面に叩きつけて立ち上がった音だった。
「そんな馬鹿な!」
名も知らぬ誰かの声が響く。不味い、これは想定していなかった。ボスが大きく前傾姿勢を取る。
動け、動くんだ。そう動きの鈍い足に念じて必死に足を前に出す。
せめて一人は道連れにする。そんなボスの執念を感じるような眼光の威圧感。
スローモーションになった視界の端で巨躯が舞い、低い弾道の放物線を描いて跳んでくる。
ソニックリープはまだクールタイム中で使えない。そもそもソニックリープでは速度も射程も足りないだろう。使うのはレイジスパイク。地を這うかのような片手剣最速の突進技。これ以外に選択肢はない。
「ガァァァアアアアアッ!」
最早自分とボスのどちらの絶叫か分からなかった。視界は色を失い、スローモーションのままゆるやかに、でも確実に刀は指揮官の首を落とさんと近づき続ける。
モノクロになった視界は外側からさらにぼやけて見えなくなっていった。
最後に分かったのは剣の刀身全体が肉の中に沈みこむ感触だけ。
俺のアニールブレードは、一部が刃こぼれしながらもボスの両目と脳を貫いていた。
俺は砕け散ったポリゴン片の圧力に押されるようにして力を失ったまま崩れ落ちた。
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