まだ1965年です。
味方ジェット機はまだ本格登場せず、敵も味方もプロペラ回して飛んでいます。
空爆が基地を襲っていた。
単発機による襲撃なので、本格的な爆撃なんかと比べれば、規模は大したことない様なとか揶揄される状況なのだが、襲われるこっちの身になれば堪った物では無い。
「ハンガーが吹っ飛んだ」
「兵舎の方も全滅だ」
「対空砲! 対空砲は何してやがるんだ!」
悲鳴と怒声が辺りを交錯する。
間抜けにプロペラを停止した、単発の戦闘機が我が物顔にジェット音を響かせて低空をパスして行く。無論、その際に翼から12.7mm機銃をバラ撒き、ロケット弾を所構わず、ぶち込んで行く。
「あんなけったいな機体まで動員して、メカールの連中は本気だな」
掩体壕に潜り込んでいた整備主任のヤーケン・アトマイヤーは呟く。
雑誌でしか見た事が無かったが、あれは世にも珍しいアメリカ製の珍戦闘機だ。
確か、配備後直ぐに退役となった筈だが…。
「主任。情報によると全戦線で、メカールが攻勢を始めたそうです」
「使える物を何でも動員して来やがったな。反乱軍の野郎!」
その日、メカール共和国の一大攻勢作戦、作戦名『ギブリ』が開始されたのである。
★ ★ ★
対立するメカール共和国とエストビア連邦。
この中東に位置する二国は、元を正せば同じ国である。
しかし、二十世紀に入り、WW1後の民族自決運動が流行った時期に、宗教的、民族的、更に経済的な理由でも不協和音が起こり、メカールはエストビアから分離した。
エストビア連邦は正式名をエストビア連邦王国と称し、小王国、つまり砂漠の部族同士の寄り合い所帯である。
英国やフランスと言った西欧列強の植民地化から、独立の為に血を流し、勇猛な砂漠の勇士達(フェダーイン)を結集して、何とかそれをもぎ取る事に成功した歴史を持っている。
その後、国の近代化に着手したものの、欧米に反感を食らってしまった為に近代化の助力を後押ししてくれる国はおらず、長い間の停滞は続く。
また、近代化つまり、欧米化に反対する国内勢力も根強く、WW1までは前近代的な遊牧国家に過ぎなかったし、国民もそれで満足していた。
状況が変わったのはWW1である。
最初の世界大戦で。列強はエストビアの戦略的な位置とその資源に注目したからだ。
ガルフ湾に睨みを効かせられる国土。
加えて近代戦に欠くべからず資源である、油田の発見であった。
砂だらけの何も無い貧乏国が、一挙に重要資源地帯となったのである。
メカールのエストビアからの離脱を働きかけた影の主役は、この石油資源を狙う石油メジャーであった。と言われている。
エストビアはいち早く油田を国有化し、その利権をがっちりと握っていたからだ。
そこで、エストビアの一部ではあるが、宗教がイスラムでもスンニ派であり、民族構成もやや異なるメカール地方に石油メジャーは目を付けた。
当時のメカールはシーア派主体のエストビアに反感を持ち、経済的にも行き詰まっていた。ここを支援して独立させる事が出来れば、メカールの持つ油田を我が物に出来るのではないか?
無論、独立後は近代化を支援し、より豊かな生活を約束していた。
かくて1921年にクーデターは起こる。
それまでメカールを支配していたメカールの王家は打ち倒され、革命軍が首都(当時の首領都)を占拠。メカール地方を制圧したのだ。
石油の利権と引き替えに欧米の力を得たメカールは、それを背景に近代化を推し進める。
対抗措置としてエストビアも、遅まきながら近代化に着手する。
反乱軍の勢いはメカール地方のみならず、他のエストビア国土にも伸びて来たからだ。
メカールの後押しが石油メジャーな英蘭系であるのに対し、エストビアが頼ったのは中東への足がかりに出遅れた、米国とフランス、ソ連であった。
以後、両国は戦争を継続的に繰り返している。
WW2の頃には世界情勢もあって、一旦下火になった時期も有ったが、大戦が終結すると余剰兵機の流入もあって、戦争は激化の一途を辿り、1965年、つまり今に至る訳だ。
ギブリ作戦は、力を溜めたメカールが起こした最大規模の攻勢作戦だったのである。
★ ★ ★
空母ティアマットを下ろされた傭兵達の配属先は、沿岸航空隊のバース基地だった。
沿岸航空隊。別名、航空救難隊。
海上の哨戒を担当し、時々、難破船の救助とかも行う固定翼基地だ。
古い、くたびれた双発のプロペラ機とヘリがあるだけだ。
「ロッキードPV1ベンチェラか。初めて見たぜ」
お馴染みのP&W、R2800レシプロエンジンを響かせて飛び立つ哨戒機。
ティアマットで主力機だったF7Fと同じ発動機を積んだ双発機だが、こっちの方は爆撃機であって飛び方も鈍重だ。運動性とかも段違いに悪い。
「これで出撃しろと言われたら、御免被りたいな」
「まさか」
アトマイヤー主任はジンに笑いかける。
辞令ではジェット機への転換訓練な筈である。
「で、肝心なジェットだが…間に合ってねぇ」
「いや、マジステールが来てるぞ」
フランス製のジェット練習機が、格納庫の片隅にぽつんと置かれている。
物見高い傭兵達は、早速、機体の検分に入った。
マジステール練習機。双発の複座ジェットでぴんと立ったV字型の尾翼が特徴だ。
「豆鉄砲なら積んでるな」
「フーガ社、いや、今はポテーズ社の製品だろ。コンゴ動乱じゃ活躍したらしいが」
「レシプロ機相手なら、こいつでも何とかなりそうだな」
わいわいがやがや、たった一機の軽ジェット機に群がる傭兵達。
実際珍しいのだ。
中古機では無く、まだ製造工場からの何とも言えぬ匂いが染み込んでいる、まっさらの新品な機体なんて初めてかも知れない。
「まずはこいつに乗って訓練か?」
ヤーケン・アトマイヤーに尋ねるジン・ブラフマー。
主任は頷く。傭兵の中にはずっとレシプロ一本槍で、ジェット未経験の者も多い。
「実言うとな。俺も末期のドイツでHe162を弄った程度しか、ジェットを整備した経験が無いんだよ。まぁ、そんな訳で皆でお勉強大会だ」
「実用ジェット機はお預けか」
噂ではソ連製のMig19が回されて来るとの話であるが、あくまで噂レベルであって、その話の大元すらはっきりしてないから、余り宛てにはならない。
どんな機体が来るのかすら分からないのである。
★ ★ ★
翌日から、マジステール練習機による慣熟飛行が始まった。
実際、この機体は飛ばしてみると操縦性も良く、皆が惚れ込んだ良い機体だった。
流石に超音速機に比較すると鈍足だが、今まで乗っていたF7Fに比較しても100km/h近く優速なので、不満は余りない。
曲芸飛行すら出来る運動性に、
「チンケな練習機と思ってたが、見直したぜ!」
「武装さえまともなら、戦闘機としても使えそうだな」
との声すら挙がった程だ。
「しかし、実用の機体は来ないな」
「暫定としてシーベノム辺りを調達するらしいけど、フランスさんにも粉をかけてるって話だ」
「駆け引きの為か? イギリスが機体をくれなきゃ、フランスに鞍替えするって」
「かもな」
今日の昼頃まで、こんなのんびりした会話が待機所(ピスト)でのんびりと交わされていたのである。
「ジンの奴、大丈夫か?」
爆撃直前にマジステールで訓練飛行に出たインド人を心配する主任。
一応、練習機だが機首に7.5mm機銃を二挺積んではいる。しかし、メカール機は小口径機銃で墜ちる様な生半可な機体じゃない。
敵の襲撃が終わって数分後。
「マジステールです!」
「生きてやがったか、あの野郎」
真っ赤っかな派手な機体が滑走路へ降りて来る。
幸い、敵は重量級の爆弾を用意出来ず、ロケット弾と機銃掃射だけに終始したので。滑走路そのものは無事である。
が、破片はそこら中に飛び散っているので、タイヤがパンクしないかが心配だった。
V字尾翼が特徴的なジェットは、何とか着陸して煙に包まれたタキシーゾーンへと到着する。
「燃料を入れてくれ。それと弾だ。弾。こいつでまた出る!」
「俺は降りるぜ。単座の方が扱い易かろう」
キャノピーが開くと同時に、インド人傭兵とその後席に居るイタリア人傭兵が叫びだした。
インド人の方はジン。
イタリア人の方はカルロ。
どちらも海軍の傭兵パイロットだ。
「無事だったか」
「ああ、あのヘンテコな奴と空戦になった。しかし、豆鉄砲じゃ打撃力がねぇ。何とか一機に煙を噴かせたが、撃墜したかは分からん」
ジンはコクピットに収まったまま、バイザーを上げた。
「残念だが出撃は中止だ。実を言えば弾がない」
「んだとぉ」
フランス独自の7.5mmとか言う変な規格も相まって、あるのは実機に搭載分だけ、見本程度の弾薬は全てこの戦闘で撃ち尽くしてしまっているからだと説明する。
「主任。レーダーサイトから、敵機の二次攻撃隊が接近中」
「マジステールを掩体壕へ、トラクターは…ないか、総掛かりで押し込めっ」
飛行場の片隅でひっくり返ってる黄色い作業車を確認すると、アトマイヤーは整備員に掛け声をかけた。
★ ★ ★
「ライアンFR?」
「ファイアボールとか言うらしい。動力混合戦闘機だよ」
第二次攻撃が去った後、整備主任はアメリカ人パイロットから奴の正体を知った。
ライアン社、あの大西洋横断で有名なリンドバーグの乗った機体、〝スピリットオブセントルイス〟(セントルイスの魂)号を制作した会社が作った戦闘機だ。
ライアン社自体がマイナーメーカーであり、大戦中は他社の下請けとか、初等練習機しか作っていないのだが、そんな中で唯一戦闘機として米海軍に採用された機体である。
「要はジェットとレシプロの両方を積んでいる機体だな」
「なんでそんな面倒な事を…」
主任曰く「初期のジェットの低燃費のせい」らしい。
ジェットエンジンは高性能だが航続力が足りないので、それを補う為にレシプロエンジンでプロペラを回して目的地まで飛ぶのである。
「今だったら、ターボプロップで何とかやりそうだな」
「過渡期の技術だよ。だから、ジェットエンジンが高性能化するとあっという間に廃れた」
「さもありなん」
実際、キワモノの機体で有り、ライアン社に発注されたのは大手のまともな航空機会社が「こっちはまともな機体の生産で忙しいんだ。そんな飛行機作るリソースあるか」とばかりに、拒否したのではないかとも考えられる。
一応は形にはなり、空母へも配備されたが、WW2終結の為に生産は66機で終わり、配備された機体もたった二年でお役御免となった。
F9Fみたいな、まともなジェット機が登場した為である。
「だが、悪くない機体だったよ」
ジェームズ。アメリカ人がこの機体を擁護した。
聞けば昔、こいつに乗っていたと言う。
「本当か?」
「下手なレシプロ戦闘機なら敵わないぜ。P51とやっても負けやしない」
最大時速686km/h、上昇率1,463m/mの数値は確かに悪くない。
ただし、それはジェットが働いている時の数値だ。レシプロだけの時は当たり前だが、平凡な機体性能になってしまう。
「用廃になったのがどっかの国に供与されたって聞いてたが、メカールだったのか」
「聞いてる限り、まともに動く限りは強敵だな」
「どうやって攻めるか…」
「それ以前に、俺達には機体がねぇぞ」
そんな時、傭兵部隊の司令官がピストへ顔を出す。
アブラカーン・ムジャヘディン・アゼーバルク・ガブロサス大佐とか言う髭親父だが、覚えられないので髭の大佐と皆は言っている。
一応、上官だから居住まいは正して敬礼はする。
傭兵家業だけあって、ここらのゴマすりは全員卒なくこなす。
「諸君。反撃だ」
メカール軍の大攻勢は続いている。各地の戦線は破られつつあるが、機甲部隊が展開するまでにはまだ暫く時間が掛かる。
その間、対地攻撃を持って敵の進出を阻止するのが目的である。
と、司令官は説明するが、傭兵の方はぽかーんとしている。
機体がやって来ないのだから仕方ない。
「乗る機体がありませんが…」
「この基地のPV1を徴発した。双発機には慣れているだろう」
「んな、無茶な!」
同じ双発と言っても、乗っていたのは戦闘爆撃機のF7Fだ。間違っても、この基地にある様な哨戒爆撃機じゃ無い。
だが、不満の声を上げた傭兵を大佐はぎろりと睨んで、「飛行機があるのだから出撃するのが筋だろう。私は諸君を歩兵として投入する案も考えているのだが、そっちの方が好ましいのだな?」と、呟いたのだからたまらない。
小銃担いで敵戦車に当たれよりは、爆撃機で敵戦車を空爆する方がマシである。
出撃は明朝となった。
★ ★ ★
バース基地の被害は幸い、見た目よりも少なかった。
元々、海軍の哨戒機が駐留しているだけの補助基地みたいな物で、だからこそ重量級の爆弾を積めぬ、ライアンFRみたいな半端な機体しか派遣されなかったのだろう。
地上施設の被害は甚大であったが、滑走路とか地下の掩体壕とかはほぼ無傷だったからである。
「護衛機はお前のマジステールだけだ。機銃をブローニングのM3に載せ替えたが、照準の調整は大まかだから勘で撃ってくれ」
「勘かよ。弾数は?」
「片銃に200発ずつ、計400発」
マジステールは一晩かけて改修を施してあった。
真っ赤なのは目立ちすぎるので、エストビア海軍の標準塗装である水色に塗り替え、弾無しの機銃も廃品から取り外した12.7mmに取り替えた。
機首がその分、重くなってるかも知れず、また、照準器に対する調整もかなりアバウトであったが(一応、試射はやった)、時間が無い。
ジンの1機に対して、守るべきPV1は6機。積められるだけ爆弾やロケット弾を搭載しており、本当に飛び立てられるのかが心配な位である。
「まぁ、敵戦闘機が出ない事を祈るだけだな」
インド人傭兵それだけ言うと、キャノピーを閉めてタキシーゾーンを離れる。
6機のPV1はプロペラを回し、よたよたしながらも離陸へと入っている。
マジステールは一番最後に離陸した。
「またカットラスみたいな奴が出てきたら、一巻の終わりだろうな」
「縁起でもねぇ」
ジェームズが機長を務めるPV1の機内での会話である。
この哨戒爆撃機の最高速度は500km/hちょっと程度。レシプロ戦闘機相手でも危険なのに、超音速機が登場したら、単なるカモである。
胴体内の爆弾倉には225kg爆弾が6発。両翼下には8発の5インチロケット弾が搭載されており、一発でも食らったらあの世行きは確実であるからだ。
「情報によると敵機甲部隊は対空砲を有してるらしいぞ」
「進出が早すぎて随伴していない事に賭けたいな」
敵レーダーをかいくぐる為に低空で侵攻する。
空気が濃い為に燃費は悪くなるが、この機体の航続距離ならば充分に攻撃圏内だ。一番心配なのは上空のマジステールで、これは航続距離を稼ぐ為に遙か上空を飛んでいる。
そのマジステールが、機体を左右に振ってバンクした。
「どうした、ジン」
「敵機だ。ライアンFR。こっちが囮になって引き離す。お前らは一目散に直進しろ!」
「了解。全機銃座、歓迎の用意だ!」
一機だけ上空を飛んでいるので、レーダーで発見されたのであろう。
朝日が昇りつつある中、たった一機だけの護衛機が敵編隊へと空戦を挑んで行く。
「敵は四機か。何とかなりそうだが…」
上から見ると敵は間抜けな機体である。
直線翼、F4F風の寸詰まりの胴体にバブルキャノピーと言ったレシプロ艦戦その物のスタイルなのだが、回っているプロペラが次々と停まって行く。
からからと空転していたプロペラはフルフェザリングの位置に固定され、三翅が機体前面にぴたっと張り付いた世にも奇怪な姿となる。
当然、空中でジェットエンジンに切り替えているのだ。
「速いな!」
レシプロで飛んでいたのとは段違いに速度が上がる。
無論、初期のジェットなので加速は鈍いが、一旦、勢いが付くと猛烈な速度を発揮していた。
敵の一番機がロケットを当てずっぽうに撃った。
いや、対地攻撃装備を投棄したのだろう。ロケット弾は明後日の方向に空しく弾着し、砂丘を吹き飛ばしたが、それを境に機首がマジステールの方向を向く。
「うおっと」
四挺の12.7mmの弾道を躱し、そいつを無視してマジステールは残りの編隊へと襲いかかる。
まだロケット弾を投棄していないので、動きが鈍い内に食うつもりであった。
勘で撃てと言われた、機首の機銃が火を噴くと敵の二機に突き刺さった。
昨日の豆鉄砲とは違い、廃品でも12.7mmは充分な威力を見せて敵機をズタズタに斬り裂く。コクピットに命中したのか、煙も出さずにそいつは墜ちて行く。
続いて流し撃ちにしたライアンの、偶然だろうか翼下のロケット弾に命中した。
「おわぁぁぁ」
バガーンと空中爆発。
マジステールも全身に破片を浴びるが、悲惨なのは敵編隊だ。
敵三番機と四番機が爆発に巻き込まれて、文字通り空中で四散したのだ。
あれではパイロットが脱出する間もない。
「うわぁ、怒ってやがる!」
ただ一機だけ残ったFRが反転し、復讐の弾をマジステールへと撃ち込んで行く。
爆発の影響でがたがたになった練習機を操りながら、ジンは持てるだけのテクニックを使って必死に逃走に入った。
「見えたっ、敵機甲部隊だ」
一方の爆撃隊。
意外であるが敵部隊の進撃は停止していた。
実はアザーン(イスラム教の祈り)の時間なのだが、ムスリムではない傭兵達にとっては理解する事は無いだろう。
ただ分かるのは、格好な攻撃のタイミングだと言う事だけである。
「ああもシャーマンだらけだと、味方を攻撃するみたいで嫌だな」
「ロジャー、あれは敵だ。構わないからぶっ飛ばせ」
爆撃手のぼやきも分かる。
敵機甲部隊の車両は中古の米国製ばかりだからだ。元米国や英国出身者にとってそれはWW2で見慣れた味方車両にしか見えない。
「ヨハン、ボンボリーニ! まず対空車両からやれ」
「オーケー、ジェームズ」
「5インチを食らえ」
列機からの合図と同時に、まず口火を切ったのはロケット弾だ。
対空車両と言っても、M3系のハーフトラックに対空砲を乗せた自走砲が中心である。
M42対空戦車なんかも居る筈だが、そいつは見当たらない。
ロケット弾。次いで、機首に搭載されていた計5挺の12.7mm機銃が火を噴いた。
「やったぞ」
「敵の中心で爆撃だ。しっかり狙え!」
吹き飛ぶ対空車両群を尻目に、機甲部隊の中心にPV1は乗り入れた。
ただ飛んでいる訳では無く、前方機銃はあらん限りの火力を敵にぶつけている。
爆弾倉が開き、形式の入り交じったM4シャーマン中戦車の上へ、ぱらぱらと爆弾が落とされた。
225kg爆弾の威力は凄まじく、至近弾でも爆風で戦車が横転する。
「こなくそっ、こなくそっ」
爆発の中、上部の旋回銃座や胴体下部のトンネルガンに位置する銃手も、12.7mm連装旋回機銃を横へ向け、或いは7,62mm連装機銃を下に撃ちまくる。
戦車に効いているのかは不明だが、哀れなアラブ人共がもんどり打って倒れているのを見ると、歩兵にはそれなりの被害は与えている様だ。
アザーンの為に砂漠に敷物を敷いて膝を折っていたメカール兵達は、自分の持ち場から離れており、反撃の狼煙は全く上がらなかったのである。
拳銃や小銃で応戦した者も若干名存在したが、まぐれ当たりでも無い限り、航空機相手には殆ど効きはしない。
「全機無事か?」
「ボブ、生きてるぜ」
「ゴルカ様が死ぬわきゃねぇ」
「ヨハン!」
「大丈夫。ボンボリーニも付いて来てる」
操縦席のジェームズは編隊の安全を確認すると、帰投針路を取った。
「後はジンだが…。無事で居ろよ」
★ ★ ★
結局、ジンはその日、帰還しなかった。
敵のギブリ攻勢は半月間続き、メカールとエストビアの主力部隊同士は、ゴルダ高原の戦いで雌雄を決する。
イスラエルに範を取ったメカールの戦車戦略、オールタンクドクトリンはゴルダ高原でエストビア軍の歩兵戦略に完璧に打ち破られた。
RPG2やM20バズーカの様な携帯対戦車兵器。及び対戦車砲を組み合わせたパックフロントにより、戦車のみ中心とした機甲部隊は敗れ去ったのである。
機動性と攻撃力の高いオールタンクドクトリンは、AH-Ⅳみたいな旧式戦車ばかりであった旧来のエストビア軍対策には正解であったが、エストビア軍も昔のままである訳が無かったのだ。
特にソ連から供給された100mm対戦車砲は恐るべき威力を発揮し、チェコや英国製の骨董品戦車ばかりを揃えたエストビア軍とのイメージを払拭する事となる。
バース基地も連日爆撃に曝され、特に機甲部隊爆撃からこの基地の重要度が変わったのか、ライアンFRみたいな単発機では無く、B25やA20クラスの中型爆撃機が飛来する様になり、滑走路を始め、施設もぼこぼこにされてしまった。
PV1も可動機が尽き、開店休業状態になった時にジンが帰還した。
「死んだと思ったぞ」
「よせやい。何だか知らないが不時着後、傭兵と分かった途端、空軍の偉い人に首都へ連れて行かされたんだ」
「?」
「何でもジェット戦闘機の選定にアドバイザーとして参加させられてな」
顎で示した先には、トレーラーに乗せられた機体が次々と到着しつつあった。
ジンと一緒にやって来た補給物資である。
「マジステールに乗っていたと話したら、フランスさんに鼻薬を嗅がされちまった」
「賄賂かよ」
「まあね。だが、選んだ機体は悪くないぞ。中古だが」
ダッソー・ウーラガン。
余り有名では無いこの平凡なジェット戦闘機が、エストビア海軍初の実用ジェット戦闘機となる。
〈FIN〉
ゴルダ高原の戦いは、ゴラン高原のパロ。
サガーは配備されていませんが、代わりに強力なM1944型の85mmや100mm対戦車砲が、バッハ司祭のハルファヤ峠の様に火を噴きました。
M4中心のメカール機甲部隊哀れ。
AH-Ⅳはチェコ製の輸出戦車。設計は1935年だからその性能は推して知るべし。
これに若干の英国製戦車(バレンタイン等)が1950-60年代初期のエストビア軍機甲師団の中心でしたが、流石に1965年になるとT-34やT-54を導入しています。