三千世界の果ての先で、女王は軍勢を率いて虚空を旅する。
そこは銀河の果て、宇宙の何処か、あるいは次元さえ越えた虚空すら想起する。
幻想的な星雲、両目で捉え切れないほどの星々、決して届くことのない美しさの具現。
しかしそこは絶対零度さえ生温い。生半可な生命では生きることのできない孤独な空間。
彼女は、その美しくも孤独な空間に相応しい。
あの時がいつで、今があの時からどのぐらい経ったのか、もう分からない。
―――往こう。帰っておいで。誰かが私に呼びかけていたのは覚えている。
だから私は、タダいまとはっきり答えた。オかエリなサイ、とみんなが言ってくれた。
誰かがクイーンと融合しろと言ったのだけど、わタシはミんナのモトにカエることニしタ。
みんなの元に帰ると、私は深く、フかく、みんなと結びついた。
誰かが呼んでいた気がする。誰かがやめろと叫んだ気がする。
大勢が私を引き止めようとした気がする。
一瞬だけ誰かの顔を思い浮かべた気がする。だけどそれは無数の、銀河の果てにいるみんなに吸い込まれ、もう分からなくなってしまった。
三千世界の果ての先で、歌姫は軍勢を率いて銀河を目指す。
彼女がいた時代の、彼女の世界の住人であれば、それが何者かを理解できるだろう。
しかし、何故彼女たちとなっているのかは、永遠の謎だろう。
バジュラ。ランカ・リー。バジュラクイーン。そのいずれでもあり、どれでもない。
歌姫は、女王となりエーテルの波の向こう側を目指す。
ミンなのモトにかえッタわたしハ、何をすればいいのか分からなかった。
何をしたかったのか、今まで何をしてきたのか、これからどうすればいいのかも。
でも、目の前に映る人々が発する光は、とても見覚えがあるものだった。
ーーアぁ、ソウだ。分かり合いたいと思ったんだった。ヒトとバジュラ、バジュラとヒト。
歌。ウタを歌えば、みんなは繋がる。愛を、アイを思い出させれば、みんなは思い出す。
文化の力。愛し合う文化を思い出す。かつて人類とゼントラーディがそうであったように。
だカラ、ワタしはウタをウタおう。みんナを通じテ、大勢に聞かセルよウに。
でもまずは、私たちの星を壊そうとする、怖い人たちを追い返さないといけない。
多くのことを忘れてしまい、分からなくなってしまったけど、覚えた歌はちゃんと覚えている。
みんなが押し負けている。必死に応戦しているけど、遠くの方に大きな群れを感じる。
このママでハ、ワタシたちはまケテしマウ。だからこの歌を歌おう。
ずっと昔に、この歌を歌ったことで人は分かり合えた、愛を思い出したと聞いたから。
三千世界に広がる鴉を撃ち墜とす、女王の歌。
「おぼえていますか?」歌が宇宙に響き渡る。「今あなたの声が聞こえる」歌が聞こえる。
ハッキリとした歌姫の声で、しかし虚ろな歌声で。「ここにおいでと」
そしてその場にいた人々はそれを見る。新たな女王の誕生を。「目と目が合った時を」
「それは初めての、愛の旅立ちでした」
全長、超巨大という言葉が無意味に感じる巨体。
純粋さを感じる純白のワンピース。活発そうな鮮やかな緑髪。
そして、もう何も映さなくなった、虚ろに光を失った瞳。
歌に呼応して周囲のバジュラが一斉に集結する。女王の号令に従う軍勢のように。
その時人々は絶望した。同時に、新たな女王の誕生を理解した。
私の声を聞いたみんなが集まってくれる。私の歌を聞いた人たちが立ち止まる。
やっぱり、歌はみんなを繋ぐんだと、私は嬉しかった。私の歌が、昔の人と同じようにみんなを助けれるんだと。
彼女を狙った巡洋艦が放った主砲を戦艦級が庇い、重ビーム砲の反撃で撃沈した。MDE弾を装備したバルキリー隊が、到着する前に突如後方からフォールドした重機動型に蹴散らされた。
みんなを通して歌を広げる。銀河の果てまで届くように。
目の前の人たちに、私たちに近づかないで(私たちと話そう)と呼びかける。
そんな怖いものを構えないで。怖がらないで。
重兵隊型数機が集まり、戦艦の武装と機関部だけをピンポイントで破壊する。
抵抗できなくなった艦の側面に駆逐艦級が体当たりし船体を分断した。
もう殆ど何も覚えていない。けど歌は、ウタは覚えてる。
そこに込められている想いが愛。アイだということも。
あなた、あなた。そこにいるのでしょう?今からそっちに向かうよ。
女王がナイト級複数を侍らして前進を始める。母星を襲う脅威の中心へと。
バジュラ達は女王への攻撃を全て庇い、反撃でその脅威を排除する。
沢山の声が聞こえる。何故か悲しそうな、怖がる声ばかりだった。
私は疑問に思う。どうして怖がっているのか分からない。前の私ならワカったノかな?
でも、私に向けられる光を見ていると、なにかを思い出しそうだ。
あぁ。そうだ、ソウだッタ。ライトや、みんなが振るペンライトの光だ。
それなら、もっとみんなに喜ばれるように、歌わないと。
防衛線を強引に突破した彼女の周りを、守るようにバジュラがフォールドした。
周囲を包囲しているはずなのに、艦隊は女王を撃つことができない。
そして、彼女のライブから退席することもできない。
おぼえているよね?目と目があったときを。大切な人と目があった時を。
私はもう、ほんの一瞬だけ過ぎる誰かの目を忘れてしまったけど。
でもあなた達は思い出せるよ。ワタシのウタを、聴いて?
彼女が上げた手の動きに合わせて、機動兵隊型の大隊が一斉に生体ミサイルを発射した。
ミサイルはまるでピラニアの群れのように戦艦に殺到し、武装と機関部だけでは満足しないかのように、船体に次々と命中し木っ端微塵に爆砕した。
おぼえているよね?手と手がふれあったときを。大切な人と触れ合った時を。
私はもう、大切だった人の手も、思ってくれた人の手の暖かさを忘れてしまったけど。
まだあなた達は思い出せるよ!わたしのウタを、聞いて!
彼女の両腕は迎えるように掲げられ、その虚ろな赤眼が離れようとする艦隊を捉えた。
その艦隊目掛けて、超重歩兵級の大口径重ビーム砲が斉射され、機関部やブリッジを悉く焼き尽くし、機能停止に追い込む。
だけど、わたしとあなた達は一緒に居られない。
どうしてだろう?今から私は何処かに行かないといけない。ここではない何処かへ。
みんながそう言っているから仕方ないよ。もう少し歌っていたいけど…
彼女は目を閉じて、丸くなる。まるで胎児のような体勢になると、彼女と周りのバジュラ艦隊がフォールドを始める。
好機と見た艦隊が一斉射撃の用意を取る。
歌い終わり、旅立つ用意をした時、誰かが私をまた呼んだ気がする。
だけど顔を思い出せない。とても大切そうな誰かの声だった気がするけど、みんなに聞いても分からないみたい。
さようなら、忘れてしまった誰か。私を大切に想ってくれた人。
でも心配しないで…
もう、ひとりぼっちじゃないから。
別船団から放たれた砲撃が命中する寸前、彼女達は一斉にフォールドを開始。
女王は銀河の果てへと旅立って行った。ビームは彼女がいた場所を通過し、MDE弾は何もない場所で炸裂した。
三千世界の果ての先で、女王は軍勢と共に歌い続ける。
あれからどれぐらい経ったんだろう。とても美しい星模様、銀河の光景を見ながらわたしは思い出そうとするけど、みんなにとってそんなことなんてどうでもいいのか、思い出せないままになっている。
あの時、何人かが私を呼んでいた。思い出せないけど、私に深く関わる人だったのかもしれない。
あの人は、私を何と呼んだんだろう。とても聞き覚えのある言葉だった。
あの人は、私を何故呼び止めたんだろう。その人が頼んだからわたしはみんなに帰ったのに、その人は酷く慌てていた気がする。
あの人は、私をどう思っていたんだろう。歌を歌う人だった気がする。ライバルだったのか、友達として見てくれていたのかな。
彼は、私のことが好きだったのかな。だから最後までわたしを呼んでいたのかな。
みんなも、星空も答えてはくれなかった。
琥珀色の空間が広がっている。不気味だけど、不思議と綺麗で、懐かしい。
みんながあそこを抜けようと言った。その先に、私が行かないといけない場所があるらしい。
銀河を越えてみんなで行こう。どこか遠い場所へ。
.2
三千世界の果ての先で、女王は軍勢と共に往く。
バラのような形の星雲を背景に、女王と軍勢はあてのない旅を続ける。
途中手頃な惑星に立ち寄って休憩しつつ、女王は軍勢に流されるまま旅を続ける。
女王のかつての名前はランカ・リー。かつては歌姫として知られていたが、銀河を越え次元を越えた今では、誰も彼女と軍勢を説明できるものはいなかった。
宇宙。それはひとりぼっちだけど、とても綺麗な場所。
前のわたしでは簡単に行けなかったけど、みんなに帰った今では普通に触れることが出来る。
みんなに言われるままに琥珀色の空間を越えてもっと遠い場所に着いた。
昔、地球の本で読んだことがある。宇宙には馬の顔のように見える星雲があるって。
馬ではないけど、私の横にはバラのような形をした星雲が見える。
こうして気の遠くなるような遠さから見るから、銀河は美しくて綺麗なんだ。
きっとあそこから私のいる場所を見たら、私と同じことを思うよね。
三千世界の果ての先で、女王は脅威を前にする。
ウタを、歌わなキャ。みんながワタシのウタを聞きたがっている。
ずっと先に行ったみんなが、突然歌ってと言い出したからだ。
だけどどんな歌がいいのかな。遠くにいるみんなにも聞かないといけない。
だからわたしは前にいるみんなを呼び寄せた。
それは全く異なる世界に存在するものだった。
緑を基調とした、宇宙軍艦だ。それは二種類存在した。一つは艦首に行くにつれて緩やかに先細っていて、文字、または地図のような模様が刻まれている。
もう一方は艦首は四角いが、彼女の世界の兵器で例えるならかつてゼントラーディ軍で運用されていた軍艦、ブリタイ艦に非常に酷似していた。
先行したバジュラの群れはこの艦隊に遭遇。同時に砲撃を受けたのだ。
彼女の言葉を聞いた群れは直ちに彼女の元へ撤退する。が、艦隊も後を追う。
アレは、ナに?なんデ攻撃シテくルノ?
ワタシたち、なニモしてないのに。ここは、あの人たちの場所なのかな。
みんながわたしを守るために迎え撃っている。わたしは、必死に思い出す。
こんな時どんな歌を歌えばいいのかな。軍歌なんて歌ってことないし、歌いたくない。
あの人たちを追い返さないといけないけど、同時にあの人たちから早く離れないと。
ひとりぼっちになってしまいそうな速度で、離れないと。
その時、乗組員は奇妙な信号をキャッチした。
それは音声に変換できる信号で、遭遇し攻撃している生物の大群の、最深部からだった。
彼らの知らない言語での音声だった。そして、彼らは歌を理解できなかった。
彼らの文化は、遠い昔に失われて、何も、何も分からなくなっていたのだから。
「みんな!抱きしめて!銀河の、果てまで!」
軽快そうな音楽が流れ、最深部に居たのが、巨大な人型生命体だと分かった瞬間、人間の言語で翻訳すると「フレースヴェルグ級巡航艦」ブリダイ艦に酷似した軍艦が無数のビームに貫かれて爆沈した。
艦首が緩やかに先細っている「ニーズヘッグ級巡航艦」の砲雷長がその様子を見て驚愕し、艦長が反撃の指示を出した。同時に後方で待機させていた「ヴェルダンディ級多層式空母」と3隻の「ユグドラシル級大型巡航艦」に連絡。救援を要請した。
ずっと昔のように思えるけど、つい昨日のようにも思える。
わたしはこの歌を、みんなの前で歌った覚えがある。その時は誰かが困っていて、大勢の人が争っていた。そしてこの歌を聞いた大勢の人は、争うのをやめた。
ニーズヘッグ級が最深部の生命体目がけて主砲の200mm三連装陽電子砲を発射する。
しかし狙いが甘かったのか砲撃は彼女の頬をギリギリ掠めずに外れた。
反撃とばかりにナイト級が大口径ビーム砲を発射。強靭な生体エネルギーの光線が右舷に直撃。しかし彼らの軍艦は特殊なコーティングが施されているので、エネルギーを減衰させ装甲の融解を防いだ。
フレースヴェルグ級は旧式の上大掛かりな変形機構を持ち、そのせいで装甲が薄かったためにバジュラの生体ビーム砲の弾幕に耐えられなかったのだ。
だが減衰能力にも限界がある。その証拠に、今度は超重兵隊級が重ビーム砲を発射。間一髪で直撃は防いだが、左舷の装甲がコーティングごと融解し、抉れた。右舷側で高エネルギーを受け止めすぎたことで、一時的に減衰能力が低下したのだ。
わたしは目の前の人たちを見つめる。みんなも見覚えがない、見たことがない船だ。
あの子やわたしの髪よりも深い緑色に、白い模様が描かれている。
それでいて色々なところが明るいオレンジ色に光っていて、まるで生き物の目みたい。
なんだか今のわたしみたいに、ひとりぼっちに見えた。
ニーズヘッグ級の艦首の一部が開く。彼らの軍艦の必殺技、あるいは本当の主砲の艦首砲だ。四重集束式荷電粒子砲という名前のそれは「帝国」が艦隊戦で数々の大勝を収めた要因の一つであった。
欠点として一定時間の充填が必要で、また艦首砲に攻撃を受けると安全装置により充填がリセットされるのだが、それを補う凄まじい威力と射程距離を誇る。
本来は後方で充填し、完了次第前線へ急行し発射するのだが、先ほどの攻撃で機関部が中破し敵の軍勢から離れることができそうになかった。
ひとりぼっちなわたしと、孤独感を感じる目の前の人。
けれど、離れた所から向かってくる何かを感じる。キッとアのヒトたちの仲間だろう。
逃げずに私たちを攻撃してくる理由は分からないけど、みんなは止まっちゃダメ、もっと先に行こうと言っているから、わたしも負けるわけにはいかない。
特攻を覚悟したニーズヘッグ級の艦内に通信が届いた。内容はヴェルダンディ級が交戦領域に届いたのというものだった。同時に短距離亜空間移動でユグドラシル級2隻が両舷に出現した。
しかし、それは遅くも速くもなかった。
キラっ☆
突然空間を裂くように現れたあの人達の仲間の船は、ナイフのような形をしていた。
空間を切り裂く剣。そう思ってしまうくらいに、間に挟んだ船と大きく違った。
みんながざわめき立つ。あの人達の船の先端が光っているからかな?
デも、みんなの方が速かった。
彼女がかつてのように決めポーズを取った瞬間、周りの艦船型バジュラが一斉に砲撃。
狙いはつけられてはいなかったが、1発がユグドラシル級の右舷を抉るように通過。
その衝撃で姿勢を崩し側面を晒した所に戦艦級の三連装重ビームが直撃し、撃沈した。
チャージを完了したニーズヘッグ級が艦首砲を発射。四つの砲身から放たれたエネルギーが合体し、一つとなって彼女に向かうが、前に出たナイト級に命中。しかし胴体を貫通し一撃で撃沈させ、更に後方のバジュラを巻き込みながら彼女の右腕に当たった。
命中を視認した船員が湧き立つ。しかし艦長は見た。
虚ろであるはずの彼女の目が、一瞬だけ「生き物らしい」視線をこちらに向けたのを。
それは、彼の想像では「殺意」に等しいものだった。
…イタい。痛い!でモ、ウタい続けないと!
直後、複数の重兵隊級が生体ビーム砲をニーズヘッグ級に一斉射撃。
艦首砲、主砲、ミサイル砲台、発射管を次々と破壊し、締めに四本のビームがブリッジを貫通した。
ニーズヘッグの惨状を見たユグドラシル級の艦長は、自分が脂汗をかいていることに気づいた。砲雷長は、自分の足が震えていることに気づいた。
彼らは感情というものもよく分からなくなっていたが、今の感情は思い出していた。
それは―――恐怖だった。だが彼らに恐れ続ける時間はない。目の前の怪物を倒すか、逃げなければ。
ユグドラシルなら短距離亜空間転移で一気に距離を離せる、あとは逃げるか艦首砲を撃つのいずれかを考える時間がある。
だが数世代ぶりにも及ぶ恐怖は、想像以上に艦長の思考を奪っていた。
その時、レーダーに友軍反応があった。数は20。
それはヴェルダンディ級空母から発艦した艦上戦闘機、シュワルベだ。
その後方に艦上攻撃機ファルケと艦上爆撃機アドラーの編隊が対艦戦闘に備えている。
5機で鏃のような陣形を組み、シュワルベがバジュラの群れに突入する。
戦闘機を視認した機動兵隊級の群れが迎撃に向かい、すぐに交戦に入った。
その中に、幼体のように緑色をした重兵隊級のようなバジュラがいた。
シュワルベの編隊の中に、竜に跨った騎士のようなエンブレムを着けたワインレッドの機体が幾つか存在した。
あの人たちはいよいよわたし達を殺すつもりなのかな。やっぱり、歌で戦いは止められないのかな…。けど、それでもウタい続けないといけないと、私は思った。
みんなに混じって緑の戦闘機が見える。あれがあの人たちの戦闘機かな。
わたしが覚えているものよりも大きくて、変形するようには見えない。
…あれ、なんだかみんなとあの子が、一箇所に集められているような気が…
シュワルベと機動兵隊バジュラの戦闘は互角といったところだった。
戦闘機の機首とキャノピーの間にひし形に近い形の盾を被せたような外見を持つシュワルベは、機首に30mm相当のビーム機関砲を4門装備し、翼下や機体下部にも様々な種類のミサイルを搭載した重戦闘機だ。代償として旋回性能こそは低いが、それを補うように加速性能と耐久性能が高い。
対するバジュラは、生物由来の柔軟な動きに、ほぼ無尽蔵ともいえる武器、そして数で押していく。
「竜騎士」が前方に捉えた機動兵隊型三機をロックオンサークルに捉え、ビーム機関砲を発射。連射速度こそ遅いものの、高威力のビーム弾が機動兵隊を貫いていく。
その上では「翠」がシュワルベ一機を正確に捉え、生体ビームで爆砕している。
戦況は次第にバジュラ有利。しかしシュワルベの「竜騎士」のパイロットは、自分でも分からないうちにニヤリと笑った。
みんなが突然騒ぎ出した。上、うエにいルと言っている。私も上を見上げると、違う形をした戦闘機がたくさん急降下していた。ああ、この人たちも襲ってくるんだ。
…ふと、本当に一瞬だけあの人たちが憎らしいと思った。でも、そんな感情はすぐに失われ、わたしは歌を続ける。でも自分の手の甲に、そっと爪を立ててみながら。
艦上攻撃機ファルケ。空間魚雷と対艦ミサイルを装備した複座式の攻撃機である。
彼らの攻撃機と爆撃機はいずれも急降下攻撃ができる。シュワルベなどの戦闘機が敵の迎撃戦力を引きつけ、対空戦力が薄くなった敵艦隊の上部から奇襲をかける。これが彼らが帝国から教わった攻撃方法の一つだ。
艦上爆撃機アドラーは、精密誘導爆弾と対艦ミサイル、クラスターミサイルを搭載している。いずれも対艦攻撃力に優れているし、特に爆弾とクラスターミサイルは地上攻撃にも使われている。共和国などからは原始的で野蛮だと言われている。
陽動は成功。あとは自分たちの仕事だ。そうアドラーのパイロットの一人は思った。
だが敵の中枢と思われる生命体が、こっちを見ているように見えた。
それの口が動いている。言語を話すような動きをしているが、読唇術など持っていない彼には分からなかったが、それが「殺してやる」と言っているようには見えなかった。
「どうして?」と問いている気がした。そんなの、自分が知りたかった。
お前たちは何者なんだ?(あなた達は何者なの?)
先に手を出したのは自分たちだが、何故ここまで攻めてくるんだ?(どうして襲いかかってくるの?)
キラっ☆
流星のように尾を引きながら、あの人たちの飛行機が降ってきては何かを落として通り過ぎていく。
何かじゃない。ミサイルだ。前のわたしもよく見てた。それはみんなに向けられるものだったけど、今はわたしにも向かっている。
まずファルケが急降下攻撃を仕掛けた。目標は中枢生命体と敵の艦艇クラス。
地上攻撃用の40mmビーム機関砲が光線を撃ち、胴体と翼から放たれた空間魚雷とミサイルが真っ直ぐ彼女達に向かっていく。
ナイト級、駆逐艦、戦艦に次々と命中し爆炎をあげたり悲鳴らしき音を響かせているが撃沈には至っていないようだと、一機の副パイロットは思った。
次にアドラーの編隊が攻撃態勢に入る。シュワルベを示すシグナルがレーダ上から次々と消滅しているのが見えて、先ほどのパイロットはひどく焦った。
それに中枢の生命体には傷一つ付いていなかった。惨殺ならぬ惨沈されたニーズヘッグ級の艦首砲で傷ついた腕からは水蒸気らしき煙に混じって、鮮やかな赤色の血を流していたが、ファルケの攻撃では傷ついた様子がなかった。
ごめんね、ごめんね。わたしはみんなとあの人たちに謝る。
もっと歌えていれば、もっとみんなの心に響かせることができたら、こんなことにはならなかったのかな。
あの人達へ向けるごめんなさいの言葉は、宇宙で響くことなく、代わりにみんなの声で埋まって、潰れる。
直後、艦艇クラスから無数のビーム砲が上下に向けて発射された。
精密かつ瞬間的な狙撃に、攻撃を終えたファルケと攻撃する直前のアドラーは避けることもできずに光線に焼かれ、撃墜された。
同時にシュワルベ隊も「竜騎士」以外は全滅し、慌てたヴェルダンディ級の艦長が撤退を指示した。
残った戦力は、ヴェルダンディ級と「一つ星」の「竜騎士」たち、ユグドラシル級2隻のみ。
対する相手は不明生命体多数と艦艇クラスの巨大不明生物多数。
艦長は迷い、残ったシュワルベに長距離ブースターと増槽を装備させた。
それは、艦を捨てて逃げろという意味でもあった。帝国は、そう教えてくれたから。
そしてユグドラシル級の片割れも同じく覚悟を決めたように、片割れにシュワルベを連れて本星に逃げろと命じた。そして我々は化け物に遭遇したと伝えろと。
後を託されたユグドラシル級の艦長は、必ず仇を取ると誓った。こんな感情は初めてだった。今まで何十回も仲間の死を見てきたと言うのに。
一方的にやられたこともあったのに、何故、今この時はそんなことを誓ったのだろう。
彼は、どうしてもそれに答えを出すことができなかった。
戦闘機を出していた船を見つけた。かなり遠くにいて、さっきのナイフみたいな船もそこにいた。その後ろにもう一隻見つけたけど、それは何処かへ逃げようとしていた。
…逃げないで。こっちにおいでよ。何故か私はそう思った。
どうしてだろう?わたしたちは別にあの人たちを殺したいわけじゃないのに。
…孤独な流星に跨って、あの人たちに急降下するように会いに行こう。
なンデ?…とニカく、あのヒトたちを追わないと。
彼女の背後から現れたビショップ級が彼女を包み込むようにして格納し、艦隊とともに前進する。目標は、亜空間転移で逃げたユグドラシル級。
前進する艦隊を前に、ヴェルダンディ級は三隻の軽空母を合体した船体に残ったミサイル、無人機を全弾発射、全機発艦させる。
ユグドラシル級16番艦は、艦首砲の発射態勢に移った。
あの人たちは、仲間を守るために留まっている。わたしは、わたしたちは、あの人たちに追いついて、どうしたいんだろう…?
またあの痛い光が見える。あれはとテモ危険ナもノダって、みんなが言う。
だから、あの人たちを…どうするの?
二重集束荷電粒子砲のチャージが開放され、青白い光線が真っ直ぐ彼女を格納したビショップ級に進んで直撃するが、今度は損傷が与えられなかった。
反撃とばかりに発射された大口径生体ビームがユグドラシル級の艦首砲に直撃、そのまま貫通し消滅させた。
無人機が指定位置でミサイルを一斉発射。対宙ミサイルと対艦ミサイルが様々な軌道を描きながら周りの艦艇と小型バジュラに命中する。機動兵隊クラスには有効だが、重兵隊となると対宙ミサイル1発では難しくなり、対艦ミサイルはダメージにはなるが致命弾にはならなそうだった。
またみんなの中に戻る。でも戻っても前のように安心はできない。わたしは…どうすればよかったのかな…あの子に聞いても、あの子には分からない問題だ。
もちろん、みんなも分からないだろう。昔の私なら、分かるのかな…?
ナイト級の対空機銃が弾幕を張り、無人機を片端から撃墜している間に戦艦級が三連装重ビーム砲を無防備になったヴェルダンディ級に発射する。
まず右舷側の船体に直撃し一瞬で爆散。続いて左舷。この時点で指揮系統を失った。
トドメに生体大型ミサイルを発射。第3母艦に命中して、1発が船内に入り込み、残りは船体に突き刺さった。有機的な起爆システムが起動して、内部の生体エネルギーの爆発で船体が一瞬膨らみ、瞬間弾け飛ぶように爆発した。
三千世界の果ての先で、女王は脅威を追う。
殿を務めたあの人たちの仲間を倒した。サキににげタ人たチヲ追わナイト。
でもどうやって追えばいいんだろう?オトをきケバいイノ?
みんなは音を聞こうと言っているけど、宇宙では音が響かない。わたしの歌は、聞こえる人には聞こえるけど、みんなの声に合わせて送っているので分かる人には分かると言った感じで、実際には歌っていない。そもそも呼吸もしてない。
そんな状態で音を聞こうと言われても、そう思って声を出してみる。
声と言っても、音波のような信号の波を流しているだけだ。
でも、その信号が何かに触れると、返ってくる音が変わる。
例えば、何処かへ逃げていくあの人達の船が潜っている空間の歪みとか。
ワタシは、わたしは、みんなにその場所へ向かおうと言って、あの人たちを追いかける。
追いついた後で、あの人たちにどうしたいのかを考えよう。
書いてる最中ずっと「これバジュラじゃなくてバイドだ…」ってなりながらも書き続けてここまで行きました。
ひらがなとカタカナ交じりの部分は、ランカの思考とバジュラが混ざってる状態で、歌はランカの声を、バジュラ間のネットワークで増幅して発信、それを様々な機器で受信すると歌になる仕組みです。
フォロワーに聞いても「全く知らない作品だから地雷になるのか分からない」と返されてしまうし、今までロクな創作をやっていないのもあってこれが果たして地雷なのか、タグが正しいのかは分かりません。
「彼ら」の主な仕事は宇宙海賊退治と宇宙怪獣の狩猟です。
彼らの銀河のモチーフはステラリス。MODぶち込みまくって遊びたい放題やって放置したクリアデータをイメージしてます。
艦艇はガミラス帝国の軍艦をイメージすると分かりやすいかもしれません。
何で人間の言葉で翻訳できるのかはまだ秘密。
北欧神話なのは宇宙人っぽい言葉が浮かばなかったからです。