三千世界の果ての先で、女王は往く   作:廃棄物13号

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03三千世界の果ての先で、脅威は女王に追われる

かつて、ランカ・リーと呼ばれた歌姫(じょおう)は、女王(うたひめ)となって銀河の果てから銀河へと渡り歩きあてのない旅を続けていた。

そんな中、彼女の前に姿を現した異なる惑星の軍艦。交戦を経て、彼らの船の主砲に危機感を感じた彼女は、異空間に飛び込み逃走を図る軍艦を追い始めた。

その姿は、彼女の世界の住人で、彼女がいた時代の人間であれば、バジュラそのものの行動に見えるだろう。

だが彼女は、自分が取っている行動が何なのか理解できずに、流されるように彼らを追う。

そこに一切の悪意も、殺意も、敵意もない。

 

あの人たちを追いかけて、何日か経ったと思う。と言っても日時なんてだいぶ前からわからなくなっている。何年経ったのかも、分からないや。

みんなの元に還ってだいぶ経っている気もする。最初の頃は、息を吸おうとして吸えなくて苦しくないのに苦しくなって、顔も声も思い出せない誰かに助けを求めた。

落ち着くにつれて、わたしはもう私ではないんだなって。それからは、どんどん私がなくなって、わたしがその隙間を埋めていった。

あの人たちが潜む空間は、よく見ると歪んで見える。離れているとそうでもないけど、近づくとその歪みが見えてくる。隠れるためのものじゃないのかな。

 

生き残り、本星に情報を伝えることを託されたユグドラシル22番艦の艦長は敵の中枢生命体を見て忌々しく感じた。相手の感情なんて分からないし、考えたこともないが、あれは今こっちを見ているというのは分かる。

誤算だったのは、あれが亜空間に潜行した艦を察知することが出来たということだった。

しかし、今亜空間から飛び出しても待っているのは全滅だけ。

このまま進むしかない。しかし進めば少しは希望は持てる。

親帝国派を撃退した帰りの第7艦隊の帰還ルートと交差するからだ。

長距離通信の範囲に入ったら通常空間に帰還しすぐに救援を要請しよう。第7艦隊の旗艦は建造中の戦艦を除けば最強と名高いオーディン級超弩級戦艦。護衛はユグドラシル級以来の大型巡航艦のヴァルキュリア級全艦。

ニーズヘッグ級は無残な最期を遂げたが、今度はあれがああなる番だ。

艦長はその様子を想像しながら、じっとこちらを見ているそれに向かって、見えていないことを祈って笑った。

 

あれと遭遇したのはいつものように、宇宙怪獣狩りの帰りだった。

その時仕留めたのは、帝国は白鯨(モビーディック)と呼んでいた遊星生命体だ。

遊星生命体というのは、決まった定住地を持たず宇宙空間で生活している生命体のことで、白鯨はその中でも代表的なやつだ。

帝国には、鯨という水棲生物がいて、それに似ているからそう名付けたと記録にはある。

その記録の鯨は、どこか穏やかそうな印象だったが、白鯨は似ているだけで別物だ。

白鯨は船を食うし、小惑星帯の豊富な氷塊や貴金属まで食い荒らしてしまう。

おまけに抵抗するときは体内のエネルギーを変換してビームを撃ってくる。

採算が合わないとなるとすぐに撤退する海賊の方が追い払うのは楽だ。

今回は大きな個体を仕留めて、それを22番艦のアンカーに繋げて戻っていた時にフレースヴェルグの砲雷長があいつらを見つけた。

記録にない新種もとい未確認生物。見た目は虫っぽかったが、大きさは一般的な遊星昆虫を簡単に越えていた。そればかりか、船みたいな外見のやつなんて共和国のデカイだけの戦艦並みにデカいしどう見ても強そうだった。

俺は16番艦とフレースヴェルグに急いで本星に帰ろうと言おうとした。

だが、言うより早くフレースヴェルグがあいつら目掛けて発砲した。多分、追い払おうとしたんだろう。

実体弾をわざと当たらない距離で炸裂させていたところ、ニーズヘッグに乗っていた共和国のバカがマジで撃ちやがった。しかも陽電子砲をだ。

俺たちが馬鹿野郎と叫んだのと、放たれた陽電子ビームが連中の戦艦クラスに直撃して虫より獣みたいな悲鳴が聞こえたのは同時だった。

それからあとは思い出したくない。

でも、あのバカがくたばってくれたのは嬉しいと、俺は思った。巻き添えで仲間が大勢死んだが。

船が揺れる。そういえば仕留めた白鯨を繋げたままだったことを思い出した。

 

おなか、空いたなあ。あれから何も食べてないし、飲んでない。

何が好きだったのか覚えてないけど、とりあえず何か食べたいなあ。

いろんな星に降りた気がするけど、一面岩か砂しかないような星か、大きい星と思ったら周りがガスに包まれてて中身はひどい嵐で降りられるようなものじゃなかった星ばかりで、食べられるようなものは見当たらなかった。そもそも水も空気もなかった。

でもわたし、今はどんなものを食べれるんだろう…

今までどんなものを食べていたのかも、覚えてないなあ…お肉かな?魚かな?野菜かな?

 

彼女が女王になってから、彼女はエネルギーを新たに取り込んでいない。前女王が残していたエネルギーをそのまま引き継いでいたので必要なかったのだ。

しかし数回のフォールド、更に「彼ら」との戦闘でエネルギーを使い果たしつつあった。

空腹感は彼女が微かに遺していた人としての残滓だ。

 

目の前のこの子、リンゴみたいでおいしそうだなあ。ちょっとだけかじってみようかな。

 

そう思い、彼女が重兵隊級に齧り付こうとした瞬間。

追跡していた時空の歪みに動きがあった。顔を上げると、ユグドラシル級が何か巨大なものを切り離して、もう一度亜空間に戻ったところだった。

それは白い鯨のような巨大な生物。彼らが彼女に遭遇する前に撃退し、捕獲した白鯨と呼ばれる宇宙怪獣の一種だ。

見た目は確かに白い鯨なのだが、ヒレは鯨より多く赤い目が四つ並んでいる。

 

ユグドラシルの船員は、囮として白鯨の死骸を切り離しあれらを引き離すことを思いついた。早速一瞬だけ亜空間から戻って白鯨を切り離し、急いで再び亜空間に潜行した。

艦長はモニターを見る。小型を両手に掴んでいるそれは、間違いなく白鯨に目を奪われていた。

 

引っ張っている白鯨を連中に差し出して食べている間に逃げよう。

そんなことをヴェルダンディから生き残ったパイロットに提案された時、誰も異論は唱えなかったが賛成の声も上げづらかった。

他の遊星生命体なら、例えば「宙豚」だったら食える場所も多いし、焼けた部分から漂う匂い(宇宙空間で匂いを感じる奴は稀だが)で可能性は高い。

だが白鯨は金属や合金、エネルギー結晶を主に食べる。食べるところは少ないしそもそも食用ではなく体内に溜め込んだ金属や合金、エネルギーを貯める臓器が目当てで狩猟される遊星生物だ。今追いかけているあいつらが肉食なのかわからないし、食物を摂取する類いの存在かもわからない。

だが他に策もなかった。ユグドラシルの艦首砲じゃあれに傷をつけることができないのは16番艦が命を持って実証済みだし、航宙機の攻撃なんて考える意味もないのは、全員知っていることだったからだ。

俺たちは帝国が信仰していたさまざまな神様に祈りながら、引っ張っていた白鯨を切り離して急いで戻った。

 

…あっちの方がおいしそうだ。みんなからアブないヨ、ヤメようという声は聞こえない。

わたしの手の中でもがく子を放して、鯨のような生き物に近づく。

動かないから、死んでいる。でも何であの人たちが持っていたのかは分からない。

なんだか分からない覚えていないことだらけだなあ。まあいいや。

いただきます。

 

金属や鉱石を食べる(ので鉱石生命体からは蛇蝎のごとく嫌われている)白鯨の肉体は下手な巡航艦より頑丈で知られている。

その頑強さは宇宙怪獣の残骸で船を作る種族からは莫大な高値で取引されることからも明らかである。それは巨大であればあるほど値は上がり、今回の個体であれば小国の国家予算くらいの価値が与えられるだろう。

体内の凝縮されたレアメタル、合金、高純度のエネルギー結晶もそれぞれ高値で取引される。

そんな宝の山のような白鯨は、今喰われている。

白金を彷彿とさせる白い肌に容赦なくランカの歯が食い込み、同サイズの宇宙船に衝突しても傷一つつかないその肌をあっさりと喰いちぎった。仕留めてからだいぶ経っていたからか本来なら液状のエネルギー触媒として多くの星々のエネルギー問題を救った体液はあまり出なかったが、やや黒ずんだ赤色の体液が空間を漂う。まるで鮫が鯨に食いつくように彼女は白鯨の巨躯に歯を突き立ててはその皮を引き裂き、その下の脂肪状のエネルギー体と少ない肉を咀嚼して、飲み込む。自分の頭ほどの穴ができると、穴に頭を突っ込み食事を続ける。

 

鉱石生命体からは悪魔の化身みたいな見方をされているが、多くの種族からは生きた宝の山のように白鯨は見られている。個体数が少ないわけじゃない、だけど乱獲されるから大きく育った個体は少ない。俺たちが仕留めた奴もお宝の中のお宝みたいなやつだ。

「あぁ、勿体無い…」とこの作戦を提案したパイロットがボヤいていた。

お前が提案したんだろと言いそうになったが言わずにおいた。

もったいない気持ちも分かる。切り離す直前まで心臓やエネルギー貯蔵器は抜いておくかで揉めていたのだから。手をつけると警戒するかもしれないと船医が諭したが、奴が一番もったいないと悔やんでいた。

そして命の危機をかけて白鯨を実空間に切り離した俺も、むしゃむしゃと食べられている白鯨を見てもったいないなあと思った。

あとパイロットことPB-77098RFは食いついた瞬間「まさか食いつくとは…」とも呟いていた。

言い出しっぺのお前も引っかかるとは思ってなかったんだな…

 

このお魚、あまり味がしないなあ。歯ごたえのあるけど味のしないお肉みたいだ。

でもがぶりついて、青白いプリプリしたものと一緒に噛み砕いて飲み込むとお腹に入っていく感覚がするので私は満足だった。手づかみとか行儀が悪いとか、誰かや皆に言われそうだけど、その誰かが誰なのかわたしは覚えていないし、みんなじゃない皆が誰なのか分からないし、その人たちは遠い場所にいる。

わたしは生きているんだって、目の前の生き物に思いっきり噛み付いて、その肉を食べるたびに実感する。食べたあとから溢れる綺麗に光る液体を飲み込むたびに、歌ってばかりだった喉が潤う感覚が気持ちよくて、手が止まらない。

 

ばき、ぶちぶちぶち…っ、じゅる、じゅるるる…ごくんっ

音声変換で宇宙空間で鳴っているとされる「音」が艦内中に響く。

砲雷長がガンカメラで彼女の姿を拡大して確認すると、あのニーズヘッグを「惨たらしく殺した」時と同じ、ちゃんと物を見てるのか分からない虚ろな目をこちらに向けながら、全長約100メートルの白鯨を平らげようとしていた。

喰いちぎって開けた穴に頭どころか肩まで入り(がぼっぶちっ…ぐちみちみちみち…)青白い火花と共に臓器を引きずり出した。(ずりゅ…バチバチッぐちゅ、ビビッ)

ユグドラシルの船員が摘出して残そうと最後まで揉めたエネルギーの貯蔵器官だ。

この臓器だけでも平均的な文明惑星の年収を越える価格で取引されるし、中の液状エネルギーで動力を賄うことも可能だ。

(ぢゅる、ぢゅるるるるっごくっごくっ…)その液状エネルギーを火花を発しながら飲んでいるところを見た船医が魂が抜けたような顔をして膝から崩れ落ちた。

(ぶちっぐちゅぐちゅ…ごくん、がぎっぶちぶちっぶちん、くちゃくちゃ)

高値で取引される部位が次々と食い荒らされている光景を見ては卒倒する欲深い船員と、それを見て笑い転げる船員。

しかしーーー

(ぶちぶちっごりゅっぐちゅ、ばきっぼきっ、ごくん、げぷっ)

見る見るうちに捕食音と共にボロボロになり、無くなっていく白鯨を見て行くうちに気づく。

彼女たちは、白鯨を喰いながらこっちに迫っていたことに。

 

喰われていく白鯨を見て船医が倒れて医務室に運ばれていったのと、提案者のパイロットが青ざめた表情で速度を上げた方がいいとブリッジに飛び込んで来たのは同時だった。

映像を回した頃には、白鯨は見る影もなく残骸になって捨てられたところだった。

満腹になったのか奴は最初の倍近い速度でこっちを追いかけていた。完全に作戦ミスだ。

だが馬鹿騒ぎでみんな忘れてたようだが第7艦隊までもう少しだ。

…しかし不思議だ。今までろくに感情を出したことがなかったのに俺も含めて全員個性を表現している。目の前で仲間が一方的にやられて死んでいくなんて何回も見ていたのに、あの時は何故か「こいつらの死を無駄にしたくない」「必ず仇を取る」と強く思ったんだ。

俺たちは帝国からの思考操作で感情を持たないはず。個性はあっても、出す感情はプログラムのようなものだ。なのに今俺たちは、普通に感情を持っている。

心から怖がって、笑って、怯えて、怒っている。

あいつらと遭遇してからだ。俺たちに何が起きたんだ?

これが本能からの恐怖というものなのか?誰か、誰か教えてくれ。

 

あの人たちが切り離した生き物を食べ終わり、お腹も一杯になった。

これでまた遠くまで行けそうで、たくさん歌えそうだ。そうか、さっきはお腹が空いていたからみんなに伝わらなかったんだね。もう大丈夫だよ、今ならもっと、もっとみんなに伝わるはずだから。

だから速く、早くあの人達に追いついて、思いっきり歌ってあげよう。

どんな歌がいいかな、どんな歌があの人たちは好きかな。

そんなことを思って、わたしはみんなと一緒にあの人たちに迫る。ほら、もう目の前。

歪んだ空間の先に、あの人達の船が見える。さっきの生き物とあの子で掴む加減はわかってる。今のわたしは見知った乗り物よりも大きいから壊しちゃうかもしれない。

そーっとそーっと触れて…あれ?

 

彼女は歪みの中の船に触れようと手を伸ばす。しかし、実空間とは別の領域にいるため、彼女の手は歪みを通り過ぎてしまう。不思議に思った彼女は歪みをすくうように手を振ってみるが、歪みの中に見える船に触れることができない。

しかし、船の周りを取り囲むように艦隊が回った。先程白鯨を出した時と同じように、元の空間に戻ったところを捕まえるためだ。そのため、先回りして重機動級が待機した。

もっと近くで歌を聴かせられると思った彼女は、笑みを浮かべた。

 

ユグドラシルはでかい船だが下手な巡航艦より速いし加速力もいい。

帝国は元々高速輸送艦として作っていたらしいから当然と言えば当然だ。

それに白鯨だって捨てたからもっと速いはずだ。

なのに、奴らはあっさりと追いついて取り囲みやがった。ついでにあいつに至っては船に触ろうとしてきた。ゾッとする以外の感情が俺には浮かばなかった。

ブリッジに船員が飛び込んできた。恐怖に耐えかねて誰かが船から飛び出したと思ったら、気がついた船医が窓を見て奴らと目が合ったとかでまた倒れたそうだ。

船医はどうでもいいとしてこっちはどうでもよくない。既に通信範囲には入っているんだが、実空間に戻らないと長距離通信できない。

砲雷長がよせばいいのにあいつの顔を見て、笑っていると情けない悲鳴を上げた。俺たちを追い詰めて笑っているんだろうな。当然といえば当然の感情なんだろう。

だが、諦めるにはまだ早い。

俺は艦長として生まれ、艦長の役目を果たすために生きている。仲間に艦長としての有用性を常に証明してきた。

どこか親しみを感じる笑みを向けるあいつにも、俺の有用性を見せつけてやる。

俺はCR-66308M。第三世代の生産者(レプリカント)で、ユグドラシル級大型巡航艦第六期生産22番艦の艦長だ。

 

艦長が頬を叩いて気合を入れるのと同時に、ユグドラシル級が艦首を下に向けて実空間に戻った。より深く潜るように、しかし元の空間に戻ったユグドラシルは、垂直ランチャーから何かを彼女に向けて発射する。8発のそれは顔の前で強烈な光を発した。

発射したのは信号弾。信号弾といっても閃光弾に近いものだが、宇宙怪獣に対する目くらましとしても使われるほど光量が高い。

効果を確認せずに艦隊から離れ、遠くの方に見える複数の光を目指して全速力で向かいながら、救難信号を放った。

 

あの人たちの船が遠ざかっていく。元の空間に帰ってきたと思ったら眩しい光を放って物凄い速さで遠くの方まで行ってしまった。

やっぱり怖かったのかなと思ったけど、わたしがそもそもあの人たちを追っていたのは、あの痛い光をあの船も持っていたからなのを思い出した。わたしも怖いから、怖いから…?

だからどうしてわたしは、あの人たちを追わなきゃいけないんだろう…。

ミンなにおネガいして、アノ人たちが何処へ行ったのかを調べてもらわなきゃ。

危ないからそれを向けないでと言いたいのか、わたしのウタを聞いてと頼みたいのか、まだ分からない。

…カナり遠くニ、アノ人たちと、その仲間みタイなフネが沢山いるのが分かった。

あの人たちは、とても危ない。でも、わたしも引くわけにはいかない。

…みんなが言う何処かへ行くまで、邪魔はさせない。

 

22番艦が第7艦隊旗艦の「オーディン級超弩級戦艦」に接触し、艦長がオーディンの艦長に会うために通路を通っているのと同時に、艦隊の中心部にランカたちがフォールドした。

多数のナイト級、戦艦級、駆逐艦級を従え、虚ろながらにはっきりと22番艦と、その隣のより巨大な戦艦を見つめた。オーディン級の近くにいた「ヴァルキュリア級護衛艦」の一番艦「ブリュンヒルデ」の艦長は中心にあるランカを見て絶句する。

そしてユグドラシルの艦長がオーディンのブリッジに到着し、彼とオーディンの艦長は同時に上方に浮かぶ巨大な人型、ランカを見上げた。

彼は悲鳴をあげて腰を抜かし、艦長こと「副官」は上方の敵性体に対して攻撃を命じた。

 

私は副官。われわれの軍を指揮する「提督」の補佐を務めている。

型番はKA-70385H。第三世代のレプリカントで、指揮官として活動するのが存在意義だ。思考記録装置に、この思考を記録している。

ユグドラシル22番艦が救難信号を発しながら飛び込んで来て、艦長から顛末を聞いた直後にその生命体を見たとき、何もかもが唐突すぎて脳が理解と思考を放棄した。

だが私は、攻撃を命じた。腰が抜けながらも22番艦の艦長は中止を進言していた。

だが逃げるわけにもいかない。

何故ならこの先はわれわれの星だからだ。距離的には遠いとはいえ、宇宙的には目と鼻の先。22番艦を追って未知の方法でワープしてくるような生物だ。このまま逃げても追いかけてくるだろう。

帝国がない今、われわれに残っているのはわれわれの星だけだ。それすら失ったら、われわれは本当に何も無くなってしまう。それだけは、嫌だったからだ。

例え、ここで滅ぼされたとしても。

 

ゼントラーディ。わたしが、私だった頃、私が生じる前、ヒトと争っていたヒト。

顔は思い出せないけど、わたしと知り合いだったヒトの中にも、ゼントラーディがいた。

とても攻撃的だったって、何処かで見たか聞いた。あの人たちに最初に歌った歌は、わたしがそのヒトたちに向けて歌った歌で、その時はみんな戦うのをやめた。

けどこの人たちは、戦いを続けている。わたしに武器を向ける。

まだ歌わないといけない。もっと大きな声で、もっと歌わなきゃ。

何もおぼえてなくて、何も分からないわたしが出来る、たったひとつのことだから。

例えわたしが「やめて」といっても、みんなの声でかき消されてしまっても。

 

三千世界の果ての先で、女王と彼らは戦う(うた)

 

ヴァルキュリア級一番艦「ブリュンヒルデ」と大破したナイト級が衝突し爆沈する。

その隣の二番艦「ヘリヤ」も、重兵隊級の攻撃で大破し炎上していた。

彼らの艦隊で最強と他者から言われる第七艦隊は、バジュラと正面からぶつかり大混戦へと発展していた。全方位に敵と味方が混在し、双方それぞれの指揮系統中枢がいなければ同士討ちすらあり得る状況になっていた。

ニーズヘッグ級3隻が主砲を乱射しながらランカに迫る。うち一隻は艦首砲を展開している。

その前を戦艦級が塞ぎ、重ビームを斉射した。一隻が直撃を受け艦首部が吹き飛んで航行不能になり、もう一隻はブリッジを吹き飛ばされながらも砲撃を続け、その一発が戦艦級の援護をしていたナイト級に命中し撃沈した後に爆発した。

残りの一隻が艦首砲を発射する直前、船底に超重兵隊級二体が体当たりをして射線をずらすも、発射された荷電粒子砲はランカの前を塞いでいた戦艦級の艦首にあたる部位を吹き飛ばし、更にその後方斜め上にいた駆逐艦級を「分断」した。

そうして開いた穴に二隻の小型艦を細い鉄骨で繋いだような船「フギン・ムニン級合体駆逐艦」が突入し、体当たりの衝撃で航行不能になったニーズヘッグの横を通り過ぎながら、間に搭載した大型空間魚雷を発射した。

6発の魚雷は全てランカに向かい、それに気づいた重兵隊と機動兵隊が迎撃する。

まず2本が中口径ビームに撃ち抜かれ爆発。その爆風に巻き込まれて一本が爆発する。

次に一本が生体ミサイルの雨を浴びて吹き飛ぶが、残りが迎撃網を突破してしまう。

だが、彼女の頭上から緑色の重兵隊級に似たバジュラが急降下し魚雷をエネルギー機銃で撃ち落とした。分離したフギン、ムニンは主砲や魚雷を乱射するが、ナイト級の砲撃が直上からフギンを貫き、ニーズヘッグに体当たりした超重兵隊級の重ビーム砲がムニンの側面を貫いた。

オーディンとユグドラシル22番艦、そして護衛のヴァルキュリア級は空母とともに後方で待機するも、機動兵隊を伴った重機動級が進入。空母からシュワルベが次々と出撃し迎撃に入る。この空母には「竜騎士」はいないのか、赤い塗装の機体はなかった。

まず長距離航宙ミサイルを一斉発射。超高速で直進するミサイルに対処できずに次々と機動兵隊級が撃墜される。次に中距離ミサイル。重兵隊級と重機動型に発射したが全て回避されるか迎撃された。最後に短距離ミサイルを放って突入だが、相手が一気に速度を上げて突貫してきたため短距離ミサイルを抱えたままシュワルベは敵に相対した。

 

航宙機としても戦闘機としても大型のシュワルベをバジュラは機動性で優っている。

その証拠に一機の機動兵隊がシュワルベの一機を捕捉し頭上を取った。が、その瞬間シュワルベが飛行機の形をした乗り物ではありえない挙動をした。

まるで強風に持ち上げられ弄ばれるようにその場で機首を上に向けて機体を90度傾け胴体に取り付けられた25mmガトリングレーザーポッドで攻撃。機動兵隊を撃墜した。

帝国はシュワルベに「“別次元”の機動性能と攻撃力」を求めていた。その答えが4門の30mmビーム機関砲と、周囲の重力波や重力、自身が放出する動力を自在に制御し「機体を振り回す」独特の制御システムだった。

ランカの世界の兵器でも似たようなことはできる。だがシュワルベの場合、変形機構を使うことなく、かつその場で瞬時に機体を“振り回して”半ば強引に方向転換を可能とするのだ。

当然機体とパイロットにかかる負荷は凄まじい。そのためシュワルベのコックピットに特殊な対G機構を搭載したり、専用のスーツを開発するだけでなく先天、後天問わず身体が頑丈な人間を優先的にパイロットとしている。

なお、他の帝国軍航宙機にはこの制御システムは搭載されていない。理由は単純明快で「使いこなせない」ケースがほとんどだったからだ。

 

勿論、彼らもその無茶苦茶な機動性能を完璧に使いこなせるものは多くはない。

「竜騎士」の中にも多くなく「三つ星」のごく少数のみがシュワルベの性能をフルに発揮できると「彼ら」は思っている。

現に、先程のシュワルベは機首を戻した時に多少フラついていた。物理法則に中指を立てるような機動でパイロットと機体が悲鳴を上げているのだ。

別のシュワルベはその場で一回転し後ろから迫る重兵隊級に向かい合って交差。そして上昇し背後を取ろうとしたところで機体の短距離レーダーが別の重兵隊を察知。パイロットは歯を食いしばりながら迫る敵に上面を向けるようにロール。そして後部に搭載された可動式迎撃機銃で攻撃し追い払い重兵隊を追い続け、短距離ミサイルを発射して離れる。ミサイルは指定距離で信管が起動して炸裂するが、重兵隊はギリギリで振り切り、調整破片や鉄針を浴びながらも生きていた。

 

膠着状態になりつつある戦況を打開すべく、副官は艦隊を前進させる。オーディンの艦首砲である「グングニル砲」を中枢生命体、ランカに撃ち込んで決着をつけるために。

ヴェルダンディと異なり一隻の大型空母の「フレイヤ級装甲空母」と、双胴でやはり大型の「アングルボダ級双胴空母」がその後ろに、前方には離れるタイミングを失ったユグドラシル22番艦、「フェンリル級高速戦艦」「ラタトスク級巡洋戦艦」、ヴァルキュリア級の生き残りが壁のようになって混戦状態の戦場へ入った。

 

あの人たちの仲間とわたしたちは戦っている。争い以外にわかり合うことを知らない生き物同士みたいに、入り乱れて殺し合っている。…どうして、こんなことに。

わたしは、私は、こんなことしたいわけじゃないのに。どうして、なんで。

私の疑問は胸に食い込む棘のようで、わたしの苛立ちは掻き毟るように。

あぁ、またあの光だ。もうやめようとみんなに言うけど、私の声は、届かない。

無数のみんなの中では、私はわたしたちに過ぎない。だから、歌おう。

生き残りたい。あの人たちも、わたしも。まだ、まだ生きていたいから。

 

歌が聞こえる。あの人型が歌っている。決意を秘めたような声で、強い意志を感じる。

意志。決意。どれも、われわれは持っていない。帝国が必要ないと言っていたから。

だけど、歌を聴いていると、第1世代と第2世代から引き継がれた記憶の帝国の顔が浮かんだ。

…どうして、彼らはあんな顔を…?

我々の疑問は、彼女からの攻撃で思考から消え、同時に仲間も消し飛んだ。

 

星が何回廻ったかも分からない今、世界の真ん中かもしれない場所でわたしとあの人たちは相対している。

何処かの森で蝶が舞うようにみんなやあの人たちの戦闘機が飛び交っているのが見える。

綺麗に見えるのだけど、その光の中で命が失われている。

巡洋艦クラスの船体を持った「マーナガルム級駆逐艦」がアドラーとファルケの航宙攻撃隊を率いて先行して127mm連装陽電子砲を発射する。放たれたビームがナイト級の右舷に命中。攻撃されたナイト級がマーナガルム級の方を向く。その艦首目掛けてファルケの編隊が大型航宙魚雷を一斉発射。2発が艦首に突き刺さり炸裂。爆音と絶叫が響く。

他の魚雷も回頭が遅れた駆逐艦や戦艦の側面に命中し有効打を与え、動きを鈍らせる。

その隙を突く形でラタトスク級が350mm3連装陽電子砲を発射。精密砲撃のためある程度進むと一本のビームに集束され魚雷を受けた戦艦級に直撃。撃沈する。

 

わたし達とあの人たちはそれぞれが守るドアの鍵のように、デタラメだ。

…私は何を言っているんだろう。歌に集中しないと、でもすればするほど変な言葉が浮かんでくる。デタラメはむしろ私の方だね。

恥ずかしいけど、あの人たちは舐め合ってくれそうにないしみんなが苦戦するくらい強い。

でもワタしたちだッテ、ツヨいンダよ?

反撃とばかりにナイト級から大型のロケットのような形をした物体が大量に射出される。

彼らの空間魚雷を真似たバジュラの生体魚雷だ。本来は機動兵隊などを格納する母艦のような個体だが、彼らに対抗するために格納スペースを全て魚雷に回したため数が彼らの比ではなかった。個体識別のように艦首に模様が追加されていた。

その上で戦艦級が次々に砲撃。加えて超重兵隊級が重ビーム砲を発射。更に対艦生体ミサイルを抱えた機動兵隊の編隊が出撃し彼らを徹底的に攻撃する。

フレーズヴェルグが変形して超大口径ビームを発射しながら艦首を動かして魚雷を薙ぎ払って役目を果たしたように重ビームの餌食となり、続いて「リントヴルム級巡洋艦」の艦首が開いてガンランチャーを露出。400mm4連装リボルカノンから4発の実体弾が発射され、ある程度飛翔したのち炸裂。無数のフレシェット弾へ変わり機動兵隊を鉄針の雨が打ち据えた。

そのリントヴルムもフレーズヴェルグが撃ち漏らした魚雷が船体に突き刺さり起爆。大穴を開けられて轟沈した。今度はユグドラシルのアンカーで牽引されたニーズヘッグが実空間に艦首砲発射態勢で出現。複数が一斉に艦首砲を発射した。

戦艦級すら一撃で撃沈する集束ビーム二本がランカに向かい、1発が彼女の右目付近に直撃、もう1発も左わき腹に命中。凄まじい水蒸気の煙に紛れて血のような体液が噴き出した。

 

きゃあっ!痛い!イタい!いタイ!おなか痛い!

チ、血が凄い出てる、死んじゃう、このままじゃワタシがしんじゃう…

…生きたい!イキたい!死にたくない!嫌だ!イヤ!

虚ろな赤い瞳が虚ろのまま、緑に変色する。傷ついた箇所を押さえながら彼女は歌い続ける。その声は決意に満ちて、そして殺意に溢れた。

そんな危ないものは捨てて、ワタシのウタを、聞けーっ!

瞬間、彼らの耳に入ったのは歌に紛れた、悲鳴のような叫び声のような音だった。

彼らは彼女が自分に対して怒鳴ったかのように思えて、身を竦めた。

そしてその次に起きたのは、別の場所にいたバジュラの艦隊の一斉フォールドと、それらからの砲撃だった。

必然的に前に出ていたニーズヘッグ級がその砲撃の最初の餌食となり、続いて後を追ったマーナガルム級、ラタトスク級が容赦ない砲撃の雨を受けた。

しかし彼らも怯まなかった。砲撃の雨に艦首を向けたラタトスク級が艦首砲を発射。

フルチャージではなかったがニーズヘッグの比ではない威力の集束荷電粒子砲が生体ビームの雨をくぐり抜け、その先の艦隊に到達。前方の群れを貫いて戦艦級二隻を貫通した。

高出力の生体ビームを弾きながらラタトスクとニーズヘッグが砲撃を続ける中、後方から空母を伴ったヴァルキュリア級四番艦「ランドグリーズ」と六番艦「スクルド」が援軍として到着した。

 

ワタシの声は東に向かう風のように、あの人たちの光は氷河を襲う高気圧のように。

遠巻きな物語よりも言葉を交わさず、命をかけて骨の奥までかじり合うのかな。

…アノ人たチハ危なイカら、ソレでいいカモ?そんなの胸が辛い、辛いよ。

これは、この光景は、ホントにワタシが望んだモノなの…?

砲撃の応酬を繰り返して、彼らと彼女らは戦っている。この戦いで艦艇型バジュラは大型の生体ミサイルや生体魚雷を生み出し、彼らはこの世界では二番目に強力と言われる(ただし旧式で野蛮とされる)陽電子砲と実体弾で反撃する。

意外にも戦況は互角。しかし限りのある彼らが次第に押されつつあった。

防護フィールドが減衰限界に達したニーズヘッグの艦底を削るように生体ビームが通過し爆発。その前のガルム級は生体ミサイルの雨を浴びて爆散。その隣にいたリントヴルム級もビームが直撃し轟沈した。

しかし数の多いバジュラ側も損害が大きくなっていった。

720mm空間魚雷がナイト級に命中し、艦首部で炸裂して撃沈。駆逐艦級もニーズヘッグの砲撃で大破。超重兵隊級といった大型も被弾し倒されていった。

 

生き残りたい、イキ残りたい。まだ生きていタイよ。枯れたココロがそう叫んでる。

本気のカラダ見せてでも、あの人たちの生きたいと言う願いに勝ちたい。

眠らず(目を背けず)に、あの人たちが分かるようになるまで、ワタシは負けない。

もっと前へ!モッとまエヘ!アノヒトたちのココロの中まで!

 

ダメだ、まるで歯が立っていない。私はブリッジの中で思った。

編成を立て直すまでは良かった。だがそれっきりだった。

亜空間から奇襲をかけたニーズヘッグの攻撃で中枢生命体が被弾し損傷した瞬間“彼女”が叫んで、どこからともなく奴らの援軍が現れて、しかも目標を定めたように進撃してきた。

私は、私の有用性が彼女の歌でヒビが入った気がした。

 

ナニしにウマれたの?(何をするためにワタシは生まれたの?)

なにしにココにいルノ?(何をするためにワタシはここにいるんだろう?)

アレはどこで生まれたんだ?どこで作られたのだろうか?

アレはここにきたのだろう?何処かへ向かっているのか?

ワタシの疑問はこんな時に膨れ上がってくる。でもみんなは答えてくれない。

生死がかかっているのに私はそんな疑問を抱いた。だが誰も答えられなかった。

 

バジュラの艦隊が即席の防衛ラインを突破。彼らの艦隊、オーディンの艦長は覚悟したように椅子に座り直し指示を出す。艦首砲用意、一撃に全てをかけると。

前方を守るのはフレイヤ級空母とヴァルキュリア級護衛艦二隻。

ラタトスクは減衰限界に達した時に戦艦級から放たれた生体魚雷5発と重ビーム砲3発を受けて中破している。フェンリルもマーナガルム級を庇って砲撃を受け艦首と機関部が破損していた。ユグドラシル級も攻勢に飲み込まれて何隻もやられ、ニーズヘッグに至ってはとうとう全滅した。

ヴァルキュリア級も連装4重集束荷電粒子砲を構え、残った全戦力が玉砕の覚悟を持つような構えを取り始めるが、それは今までずっとやってきたことだ。

帝国が彼らに教えた「命捨てがまるは今」の教えに従っての行動だった。

ただ逃げて死ぬのではなく、守るか攻めて死ねと。要は、玉砕である。

 

前に出ていると思ったら、われわれは後退していた。要は押し返されていたのだ。

帝国の正規艦隊であればこうはならなかったはずだ。私たちだから、負けているのか。

だから、彼らは私たちを捨てたのだろうか。我々の不甲斐なさを嘆いて。

…そんなことはない!我々は優秀だ!一番最初に帝国に忠誠を誓った!

お前に、おまえ達に、我々が優秀だという証を見せてやる!

 

あの人たちもワタシたちも、生き残りたいとくどいくらい思っている。願っている。

だからみんなはワタシの歌ではどうしようもなくなっている。生き残りたいから。

ワタシも死にたくない。デモ…ワタシは…。忘れていたと思っていた、前の私の記憶が叫ぶ。胸に食い込む棘のように。こんなことしたくないと叫んでいる。

だけど、ワタシも所詮は、大きな流れの一つに過ぎないのかな…。

 

オーディン級の艦首が上下に開き、中から荷電粒子砲が8つ顔を見せた。

これが8重集束荷電粒子砲、別名「グングニル砲」である。彼らの艦艇が保有する武装の中で最強クラスの射程、破壊力を有している。具体的には巨大な軍事衛星を1発で貫通し破壊できるほどの威力を持っている。もちろん、バジュラも食らえば一撃で終わりだ。

では何故今まで撃とうとせず近づいて撃とうとしたのか。

宇宙空間において砲撃は距離が空けば空くほど命中率は下がると彼らは考えている。

僅かな逸れでも距離が開くに連れてどんどん大きくなり、目標地点に行く頃には全く見当違うの方向に飛んで行ってしまうこともある。宇宙空間ではそれが特に顕著だった。

故に可能な限りまで接近して近距離で発射するのだ。長い時間をかけて弾道計算をするよりはすぐに済むからだ。最も、最近では技術も向上して遠距離での乱射でも命中が見込めるようになったのだが。

それはもう、彼らにはどうでもいいことだった。何せ後ろを見ればなんと彼らの母星。

本当に後がなかったのだから。

装甲に塗布されたコーティングを機能させるためのエネルギーも回して即座に発射態勢に移行。と同時に回避行動を取らせないため即発射した。

だがランカの目には、既に荷電粒子砲の光が見えていた。そして発射の直後彼らは信じられないものを目にする。

 

まるで盾のように艦首を真下に下げた戦艦級二隻が彼女の前を遮り、グングニル砲を受け止めたのだ。この時彼らも彼女も知る由はなかったのだが、高出力の生体エネルギーを一種のバリアフィールドにように展開したのだ。そして超高出力の荷電粒子砲を受け止めて、更に弾道を捻じ曲げていった。

彼女も彼らも呆然とする中、さも当然のように荷電粒子砲を受け止めた戦艦級二隻は艦首を起こし、仕返しとばかりに艦首部に大口径生体ビーム砲を形成し発射。

まず1発目がオーディン級の左舷を削るように掠めていき、2発目が艦首に直撃。

1発目の衝撃で我に返った彼らが即座にエネルギー分配を切り替え、被弾直前にコーティングの機能を取り戻させるも艦首砲が大破。次に立ち直ったヴァルキュリア級が艦首砲を発射しようとするも、トドメ、またはフィナーレと言わんばかりにバジュラ艦隊が一斉射撃を開始。大小様々の生体ビームが彼らの艦隊へ殺到していく。

ヴァルキュリア級四番艦「ランドグリーズ」は両舷の艦首砲含む構造体、第1と第2砲塔、ブリッジに重生体ビームが直撃し轟沈。六番艦「スクルド」も同様の運命を辿った。

続いて波状攻撃を行おうとした航宙部隊が点を線で結ぶように撃ち抜かれ、その線は全て空母に向かい、フレイヤ級装甲空母を「溶解」させた。放った航宙部隊よりも多い重兵隊級からの生体ビームの、的確な狙撃によるものだった。

 

残っていた巡洋艦も反撃する間もなく撃沈されるか大破して航行不能にされていく中、旗艦のオーディン級だけが反撃を続けていた。4連装陽電子両用砲があらゆる方向に砲撃を放つも焼け石に水が相応しい状況で、逆に戦艦級からの砲撃で砲塔を吹き飛ばされ、船体を特大のレーザートーチでなぞるように振り回された生体ビームで焼かれていた。

その時、後方で何かが衝突したような衝撃がブリッジを揺らした。ユグドラシル22番艦と生き残ったユグドラシル級がアンカーを無理やり船体に装着していた。

そして戦艦級の砲撃が放たれたのと同時にユグドラシル級はオーディンや巡洋艦を最大出力で牽引し亜空間に突入。実空間から消失したことでバジュラの攻撃から難を逃れ、母星へ退却していった。

 

亜空間の中、ユグドラシルの艦長とオーディンの艦長が通信で会話している。ユグドラシル級のアンカーは通信ケーブルとしても機能する。

「ダメだCR663、母星に戻るのは危ない、奴らが来る」「そんなこと言ったって、どこに逃げ場所、死に場所があるんですか、母星の艦隊で撃退するしかない」「共和国の奴らが来てるから母星や付近に待機していた艦隊は全部出払っているんだ、それに…」

「それに、あいつらをここまで持って来てしまったのは俺たちだ。せめてあんたたちを助けさせてくれ、処罰なり何なりはその後に聞く」「そんなこと、奴らが母星に来れば何もかもどうでもよくなる」「だから母星に居る共和国様の「光の戦士」とやらに任せればいい、元はあいつらが話聞かずに撃ちやがったのが悪いんですよ」「グングニル砲を二隻で弾くような連中を共和国が倒すのは不可能だ。あと話は最後まで聞いてくれ」

「一体何が起きてるんですか、本当に光の戦士とやらが俺たちを啓蒙するためにご降臨でもなさったんですか、師匠殺しと親殺しと子殺しと隠居が趣味みたいな蛮人らしいけど」

「光の戦士なんてどうでもいい。タイミングが最悪すぎたんだ」「何が?」

 

「“ラグナロック”が完成して、今まさに観艦式と進宙式をやっているんだ」

 

あの人たちがまた見えなくなっても、みんなは追いかけていく。気づけばワタシも、一緒に向かっている。そうか、ワタシもみんなと一緒だったんだね。ワタシは特別じゃなくて、自我があるだけのモノ…。

今、ワタシはわたしの中で眺めているような状態だ。みんなに主導権を奪われたわたしは、まっすぐあの人たちの星を目指している。ワタシはあの人たちにウタを聞いて欲しくて、危ない光を閉じて欲しいだけだったのに。

あのヒトたちがわルイのカナ?それともワタシがわるイノかな?

せめて、わたしがあの人たちを滅茶苦茶に壊してしまう前に、みんなとわたしを取り戻して、早くここから離れよう。でも、どうやって?

 

三千世界の果ての先で、女王は前進(ぼうそう)する。彼らは窮地に立つ。




最初にPC(iPadのメモ帳で書いていて書き終わったら転送している)に送った時の日時を見たら一か月ぐらい経っていました。

書きたいことをただただ書いていたらここまで長くなりました、そうでもないかも。

後からランカちゃんの捕食シーンがやりたかっただけでプロットでは
母星まで追いかけられるだけの話でした。なのにここまで大きく。
残酷な表現に入りそうなので必須タグに追加しました。

次回はもう少し早く投稿できるよう頑張ります。

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