「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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お金の話は一旦とばして、あとで触れます


第14話 2つの世界とジオン飯

「ようやくのお出ましだね」

 

朝早く来たというのに、今は昼近くである。コロニーの太陽灯が最も強く輝く時間帯だ。

士官や職員に食堂の場所でも聞いておくんだった、と後悔する頃にようやく逃げていった官僚が戻ってきた。

ただ、1人ではなく上司らしき年配の男性と、実務担当の事務職らしき若い女性をつれている。

 

「護衛と弾除けつきか。勇敢なことだね」

 

年配の上司は自分の立場を援護してもらうため、若い事務職はいざという時に説明の責任をかぶせて自分は逃げ出すため。

官僚の立ち居振舞いとしてはエース級だ。戦争が起きても味方を犠牲にして生き残るタイプだ。

 

「お待たせして申し訳ありません。それでは早速ですがご用件の確認を。たしか、我が軍の新兵器であるモビルスーツMSー06ザクⅡの調達価格をお知りになりたいとか」

 

”MSー06ザクⅡ”それが、ジオン公国をルウムの大勝利に導いた新兵器モビルスーツの正式名称である。

ジオニック社がドズル将軍の命令で10年をかけてコロニー建設機械用のパワーローダーを元に開発した人型兵器。

核融合炉を主動力とし、高い機動力と大口径の射撃武器の装備により熟練したパイロットが操縦すれば、その戦力は連邦の宇宙巡洋艦に匹敵する。

とは、ジオニック社のシュミット氏の説明である。

 

「ええ。だいぶ待ちましたとも」

 

これぐらいの皮肉は許される範囲だろう。

心なしか、握手した相手の握る力が強いように感じる。

 

「念のために確認させていただきますが、アラン様はジオン公国国民でいらしゃいますか?」

 

「生まれはジオン公国ですね。幼少期に学業のため地球に移住しましたが、そのころは未だジオン公国は成立しておりませんでした。市民権は地球連邦市民のままのはずです」

 

すると、得たりとばかりに官僚氏がとうとうと解説を始めた。

 

「そうですか。MS06ーザクⅡはジオン公国の新兵器であり関連情報は高いレベルの軍事機密として指定されています。失礼ながらジオン公国国民でなく、また軍での階級をお持ちでないアラン様へは情報を開示致しかねます」

 

官僚らしい回答であるが、よく考えるとおかしい。

そもそもジオン公国という仕組みは、つい先日に成立したばかりの概念である。

なかなか、わかりやすいサポータージュである。

 

アランは、軽く肩をすくめると傍らに立つ頼り甲斐のある秘書へ視線を移した。

 

「そのあたり、どうなってたっけ」

 

話を振られたマリーは挑むように一歩踏み出して答える。

 

「アラン様は総帥命令4402号に基づき、現在は一時的に軍属として佐官相当の地位が与えられています。また、事故で亡くなられたザビ家次男サスロ様の係累にあたられます。申し上げるまでもありませんが、ジオン公国軍部においてザビ家の血筋の方は通例として一階級上の扱いをすることになっております。該当の情報を参照するのに十分な資格を有している、と考えますが?」

 

「な、なるほど・・・それはこちらの認識違いでした」

 

官僚氏が言葉を失い、一歩下がった。

とりあえず、こちらが一本先取。

それにしても、なにが「認識違い」だ。こちらの情報ぐらい調べていないはずがない。

 

「それで?要求した情報は開示していただけるんでしょうか?」

 

再度、強く迫ると年若い女性事務官が「私がお答えします」と前面に立った。

この女性が実務と情報を持っているらしい。

 

「結論から申し上げると、正確な調達価格は財政院でも把握しておりません。仮の数字でしたらお答えできます」

 

しかも、奇妙なことを言い出した。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

小一時間後、財政院を出たアランは適当なところで運転手に高級電動車を停めさせた。

 

「何か?」訝し気に問い返す護衛を兼ねた運転手にアランは話しかけた。

 

「君は非番の日には、どんなところで食事をするんだい?」

 

「下街の食堂です。美味いソーセージとポテトを出すところがあるので」

 

「そうか。ソーセージもいいな。そこへ連れていってくれ。ホテルの食事は飽きた」

 

無言で助けを求める運転手に、秘書のマリーが「いいわ」と許可をする。

 

「・・・わかりました」

 

黒い電動自動車は大通りを離れると港に近い街に向かって走り始める。

 

「港付近の方が地価が安いんです。中央付近のように完全に平らでなくて重力が安定しないので。軍人や港湾関係者は港付近に住んでいます」

 

「へえ。軍人さんと港湾労働者の街か。食事が美味しそうだ」

 

港湾労働者は仕事場が宇宙港であるから付近に住むのは当然として、宇宙軍の軍人も何かあれば宇宙艦に駆けつける必要があるので、円筒形コロニーの両端にある宇宙港付近に住むのが合理的なのかもしれない。

 

しばらく電気自動車が走ると、道幅が狭くなり、建物の密度が上がってくる。

 

「コンパクトで住みやすそうだね」

 

「いやあ、まあ賑やかではありますねえ。隣の夫婦喧嘩も壁越しに聞こえますんで」

 

「一般家屋の壁は薄いんです。地震が起きませんから」

 

運転手の言葉を、秘書が補完した。

 

◇ ◇ ◇ ◇

 

運転手の兵士が案内してくれた大衆食堂は、昼時のピークを過ぎたためかすいていた。

 

「スーツは目立つね」

 

「軍人と労働者の街ですから」

 

「大丈夫ですよ、このあたりの連中はそういうことは気にしません。ところでご注文は?」

 

「あー。よくわからんから君がいいと思うものを。支払いはこちらで持つから」

 

「そうですか。では合成肉の茹でソーセージを3人前。あとは芋と肉とニンジンのシチューと、芋団子のソースかけも3人前。ビールはなしだ。勤務中なんでな」

 

「芋団子?」

 

「ええ。この店の名物なんです。このあたりの連中はガキの頃から、これを食って育つんですよ」

 

「それは楽しみだ」

 

アランは店内を見渡した。金属とプラスチックが組み合わされた装飾は重厚感にこそ欠けるものの掃除が行き届き清潔に保たれている。

 

「べたついた感じがないのがいいね」

 

厚いプラスチックとスチールテーブルのさらりとした感触を確かめつつ、アランは称賛した。

 

アランが寄宿学校時代に敷地を抜け出して通っていた地球の大衆食堂といえば、油をたっぷり使った揚げ物や安い肉を強い香辛料で味付けした料理が相場である。

思いでの中の大衆食堂は、天井は黒ずみテーブルも床もいつもべたついてたような気がする。

そこと比べれば、ジオンの大衆食堂は驚くほど清潔だ。

 

「空気も只ではないですから。調理機も空気を汚染しないようになっているんです。火気も禁止されていますから電磁調理が基本です。ここからキッチンが見えますよね。すべての調理行程で臭いが漏れないように機械がシールされています」

 

マリーの指で示した先には、食堂のキッチンが見える。

 

「キッチンというか工場みたいだね」

 

様々な食品加工用の機械がところ狭しと立ち並び、シェフはその間を縫って忙しく立ち働いていた。

もしも一行の中に旧世紀のファーストフード店の知識のあるものがいれば、有名ハンバーガーチェーンのキッチンを連想したかもしれない。

 

「お待たせしました!」

 

例え調理手順に愛想がなくとも、でっぷりと太った女将が運んできた料理の皿からは湯気があがり、どれも美味そうに見えた。

 

「これ!この芋団子がないとねえ」

 

握り拳よりも大きな芋の団子へ嬉しそうにフォークを突き刺す運転手にアランは尋ねる。

 

「軍の食堂よりも美味いかい?」

 

「そりゃあ、まあ、戦争中ですから」

 

言葉を濁した運転手に、アランは質問を重ねた。

 

「普段はどんなものを?」

 

「俺たち、いや自分達は”石芋”って呼んでますがね。そいつを食ってます」

 

「石芋?どんなものなんだい?」

 

「軍の標準レーションの一種です。原料は芋なんですがね。芋のペーストをフリーズドライしてブロック状に固めてあるんです。ビタミンなんかも添加されて栄養成分が調整してありましてね。そいつだけ食ってれば兵士としての健康には何の問題ない、とお偉いさんたち、おっと失礼、は言ってます。まあ、熱い湯があればふやかしてして食えますし、食えないしろもの、ってわけじゃありません」

 

「・・・お湯がない時は?」

 

「水につけて食うか、それもなければ、そのまま食うんです。シチューかスープが支給されていれば、それで浸して食うんですがね」

 

アランは思わず傍らの秘書を振り返った。

 

「・・・マリー、君は食事をどうしているんだい?」

 

「食事は士官食堂でとっています。ご心配には及びません」

 

「ならいいが・・・」

 

ご機嫌に芋にフォークを突き刺して忙しく口に運んでいた運転手の動作が、ソーセージを運ぶ作業に移る。

 

「アラン様、地球では生きた肉を食べると聞いたことがありますが、本当ですか」

 

合成肉のソーセージを頬張るうちに、地球のソーセージの味を知りたくなったらしい。

 

「生きた肉は食べないかな。アジアでは魚を生で食べる習慣があると聞くけれど、私は馴染めない。きちんと処理された肉を食べているよ。牛とか豚とかのね」

 

「ははあ・・・やはりお金持ちは違いますなあ」

 

動物の肉は、サイド5のような農業サイドからの輸入品であり、かなりの贅沢品である。

それを毎日食べていた、というアランに運転手が羨望の声をあげた。

 

「いやいや。地球では天然肉の方が安いのさ。人工肉もないわけじゃないが、あまり競争力がない」

 

アランは運転手の思い違いをただした。だが、この人工島で生涯を過ごしてきた人間に、地球の広大な大地をどう説明したら伝わるのか、アランにもあまり自信はない。

 

「海ってものに住んでいる魚とかいうやつも、一度は食べてみたいですねえ。どんな味がするんですかね」

 

「わたしはちょっと・・・・生きたものを食べるのは抵抗があります」

 

「生きたまま食べる訳じゃないよ。専門の調理人が手順を踏んで焼いたり煮たりするよ」

 

「でも・・・目玉や骨がついているんですよね?正直なところどうも・・・」

 

「美味いんだけどね」

 

まして無限の水量をたたえた海の広さと深さを、湖すら見たことのないスペースノイド達に伝える自信となると、アランには手段が思い浮かばなかった。

 

地球と宇宙。アースノイドとスペースノイド。

暮らす場所が異なれば、習慣が異なり、常識も異なっていく。

 

今回の戦争がなくとも、この2つの世界の人々が分かり合って暮らすことは難しかったのかもしれない。

 

運転手お勧めの食堂名物の芋団子は、かかっているソースの塩気が強すぎるようにアランには感じられた。

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