「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
食事を終えて支払いの段でアランは思わぬトラブルに遭うことになった。
「お代は配給チケット14枚になります」
「配給チケット?連邦ドル(※注1)ではダメなのか?カードは・・・」
「ダメです」
貫禄のある女将が一歩も引かない様子を見せたので困り果てたアランがマリーを振り返ると、頼りになる秘書はプラスチックのカードを取りだして支払いを行った。
「総帥本部の経費で落としておきますから」
「・・・すまん」
すでに戦時なのだから統制経済に突入している、と考えるのが普通なのだ。
敵国の通貨である連邦ドルが通用すると思う方がどうかしている。
ましてカード払いとは!
通信が寸断され、信用元となる金融機関の存続さえ定かではない状態で、ジオン公国が保証する以外の現物、現金以外の決済手段がまともに通用するはずがない。
戦争が終わり何らかの協定が結ばれれば、また交換できるようになるだろう。
もっとも、その頃にはジオンと連邦の力関係は大きくわかっているだろうから交換レートはずいぶんと悪くなっているかもしれないが。
「それにしても・・・本当に平和ボケしているな」
アランが己の認識の甘さに嘆息を漏らしていると、マリーが金融機関に寄ってはどうか、と提案してきた。
「今でしたら、ジオン中央銀行で交換できるかもしれません。額の制限やレートについては保証できませんが」
「それもそうだな。車を回してくれ」
国と国が戦争状態にあったとしても、エスタブリッシュメント達は常に財産を逃がす手段を用意しているものである。
アランもそれなりの階層の出身であり、ザビ家の係累というコネもある。
庶民なら追い返される中央銀行でも、何らかの便宜を図ってもらえることだろう。
現地通貨で現金を保持していないと何かあったときに身動きがとれない。
「金塊でも買っておくか」
その時は冗談のつもりで、アランは軽口をたたいた。
◇ ◇ ◇ ◇
「MSー06ザクⅡの調達費用ですが、正確な価格を出すことは困難です」
と、担当の若い事務官は言った。
「理由は?」
「開発費用が不明なこと、調達機数が不明なこと、の二点に拠ります」
「そんなことがあり得るのか?」
「開発は公国総帥監部の権限ですから」
女性事務官は官僚特有の文法で「自分には関係ない」と言外に主張しながら答えた。
ジオン公国の組織はデギン=ザビ公王を頂点として、その下に4つの部門、軍部、総帥監部、行政府、議会が互いに協力しながら国家を運営する、ということになっている。
ただし、軍部、総帥監部、行政府の3つの組織の長はギレン=ザビであり、議会はギレンの方針を追認する機関でしかない。
総帥監部は戦争遂行にためにギレンの強力な指揮下にあり、新兵器や技術開発などを担っている。
そのために行政府の一部門でしかない財政院では実態がわからない、と主張しているのだ。
「しかし開発費用の予算請求は来ているのだろう?」
「来てはいますが正確ではありません。独立前は連邦の監査がありましたので様々な要項に別名目で開発費が請求されているからです」
秘密兵器の費用請求が普通に行われているはずがない。
これも、考えてみれば当たり前のことだ。
ジオン公国の成立前、サイド3は当然ながら連邦政府の地方行政単位に過ぎなかったわけで、進駐軍も受け入れていたし、行政府への監察も受けていた。予算使途についても軍事部門は取り分け厳しい監査があっただろう。
そうした目を潜るため、ジオン公国では新兵器開発の費用を様々な名目で外部から解らないよう、物理的にだけでなく経理的にも10年近くに渡り隠蔽してきたわけだ。
ジオンは国家ぐるみで二重帳簿をつけてきた、と言い換えてもよい。
そして、その実態を末端の事務官にうかがい知ることはできない。
兵器開発費用が各兵器の製造単価に配賦して上乗せされることで、はじめて価格を出すことができる。
だから会計の原理的にザクの価格は出せない、ということになる。
「調達機数が不明というのは?」
「先のルウム戦役での被害がまとまっていないからです。それと今後の軍の方針も」
こちらも、もっともな答えである。
一般に、兵器というものは作れば作っただけ単価は安くなる。
兵器開発費用、工場建設費用、機械設備費用などのいわゆる固定費が製造数に対して割り振られるのと、同じものを作り続けることで製造に従事するもの達の学習曲線が向上することで製造単価が下がるからだ。
ルウム戦役でジオン軍は大勝したとはいえ、3倍の敵と戦ったのだから被害が少ないはずはない。
また、本格的な宇宙戦闘に従事したモビルスーツをどの程度の戦闘時間で交換すべきか、部品疲労度などに関するデータも十分に集まっているとは言いがたい。
なにしろ、人類初の新兵器なのだから。
とはいえ、戦争に大勝した今、これ以上にザクを製造するかと言えば軍部としても迷うところだろう。
モビルスーツは宇宙空間戦闘用の兵器であって、地上で戦うためには作られていない。
宇宙軍で採用の噂のあるツィマッド社の新型機に注力する方針も考えられる。
今後の方針が決まり調達機数が読めなければ、価格も出せない。
「なるほどなあ」
経営計画が投資家に説明され、財務情報が法律によって開示される民主国家の手続きとは何もかも勝手が違う。
本当の全貌を把握しているのは、ギレン=ザビ総帥一人だけかもしれない。
アランは行き先の困難を予想して嘆息した。
注:連邦政府通貨については調べましたがわかりませんでした。仮の単位として、連邦ドル、ジオンマルク、と設定します。
オフィシャルな統一設定が判明した時点で置き換えます。
土日も更新します。感想、お待ちしております。