「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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杉花粉と年度始めのドタバタが過ぎ去ったので再開します
連休中はできるだけ更新します


第20話 アイランドイフィシュ

ジオン公国が地球連邦軍に先制して行った大質量による地上攻撃、ブリティッシュ作戦。

その実体は無人化されたコロニーに核パルスエンジンを取り付けラグランジェポイントから地球の大地へ突入させるという、コロニーの巨大質量自体を利用した地上攻撃である。

 

コロニーの質量はおよそ100億トン。それを地球連邦軍本部が存在する南米ジャブローへ落下させることで連邦軍中枢本部の撃滅と指揮能力の喪失を狙った作戦であった。

作戦は完全成功する目前で連邦軍の抵抗により落着位置は南米を外れ、一部はオーストラリアに落下したという。

 

「ばかな・・・そんな作戦を実施するとは。ジオン軍は、ギレンは狂ったのか」アランは呻いた。

 

「・・・地球連邦軍の士気を砕くには最適の作戦であると判断します」マリーの答えには揺るぎがない。

 

たしかに秘書が言うように、これから地球市民は空を見上げるとき、星が落ちてこないかと恐怖に怯えて生きることになるだろう。

中世紀の世界大戦で敵対国の市民に対する都市爆撃が総力戦理論として正当化されたのも、国民を恐怖に陥れることで戦争継続に対する意志を挫くことが戦争の勝利のためには必須である、と考えられたからだ。

 

コロニーのような巨大質量が落ちてくるとなれば、都市圏そのものが消滅する。なまじの防空壕などを掘ったところで地殻ごとえぐり取られることになる。

自分たちの手の届かない遙かな高みから、逃れようのない死が落ちてくる。それは圧倒的な恐怖のイメージだ。

その意味でコロニー落下作戦は、恐怖戦術として、これ以上にない効果的な手段である、とは言えるだろう。

 

だが、恐怖も行きすぎれば敵を窮鼠にする。

恐怖をなくすには、恐怖の対象に従うか、恐怖の対象を消すしかない。

コロニー落とし、という究極の恐怖戦術は、地球市民をして窮鼠にする効果しかないのでは、とアランは危ぶんだ。

 

「地球環境は・・・ようやく回復しつつあったのに」

 

「ジオン公国の管理下に入れば地球の環境は速やかに回復します」

 

「地球に住む人間がいなくなるから?」

 

無言は、すなわち肯定だった。

ジオン公国の国民達、スペースノイドにとって地球人類こそが抹消するべき存在であり、そのためには恐怖を与えて当然である、との世論の後押しがあったのだろう。

ある程度の世論の支持がなければ、例え独裁者のギレンであっても、これだけ人道に反する作戦が実行できる筈がない。

地球連邦の過酷な宇宙支配は、ここまでの敵愾心に満ちた手段を是とするスペースノイド達を育ててきたことになる。

 

「因果応報、か」

 

人々を無理矢理宇宙に追い出した結果、追い出された人々の家が恨みと共に落ちてきた、というわけだ。

だがアランにはもう一点、どうしても理解できない点があった。

 

「そもそも、落下させたコロニーはどこから調達してきたんだ。サイド7あたりから建設途上のものを輸送してきたのか?」

 

とはいえサイド7はサイド3から遠い。開戦と同時にコロニーを奪取したとしても、護衛しつつ地球軌道へ投入するには時間がかかり過ぎて地球連邦軍の迎撃体制が整うリスクがある。

あのコロニーはいったい、どこから来たのか。ひょっとしてジオン公国内で疎開させたコロニーを用いたのだろうか。

 

「落としたのはサイド2のコロニー、アイランドイフィシュです」

 

「サイド2だって?あそこには建設中のコロニーはなかったはずだ」

 

アランは仕事柄、コロニーの建設情報には通じていた。コロニー建設はいわば100万人単位の住居を建設する不動産投資であり各種の産業に膨大な影響を与えるからだ。

現在のところサイド建設はサイド7を除いて一段落している。そして建設中のサイドは管理番号で呼称され、入植が始まるときに名前がつく。

つまりアイランドイフィシュは人が住んでいるコロニー、ということになる。

 

開戦と同時に全住民を疎開させたのだろうか。だがサイド2やジオン軍にそれだけの輸送能力の余裕があるとは思えない。

コロニーの住民は1基あたり最低でも100万人にのぼる

その住民達が全財産を置いての疎開に同意などしないだろう。

 

アランはある恐ろしい想像にたどり着き、震える声を抑えながらマリーに訪ねた。

 

「・・・コロニーの住民はどうしたんだ?」

 

「化学兵器により全住民が死亡していました。連邦の攻撃によるものです。コロニー落としは連邦軍の蛮行に対するスペースノイドの復讐の剣となったのです」

 

秘書の声音は、アランの想像を越えて冷たかった。

 

◇ ◇ ◇

 

宇宙世紀におけるスペースノイドの故郷の大地であるスペースコロニー。

 

その実体は長さは35キロ、直径6.4キロの宇宙に浮かぶ細長い金属と岩石の筒であり、宇宙の広大さに比較すればごく小さな筒に再現された小さな地球をよすがとして100~200万人の住民が宇宙世紀の開始以来、数十年にわたり暮らしてきた。

 

彼らにとって母なる大地とは、天を仰げば雲の向こうに反対側の大地が映り、地平線とはせり上がった壁面を指す人工の大地を指す。

スペースノイドにとっての地球とは、虚空を隔てた遙か彼方の異国であり、異星ですらある。

スペースノイドがあと数世代を重ねれば、地球という大地は彼らにとって単なる観光地でしかなくなっていただろう。

 

だが、地球は宇宙移民達を放ってはおかなかった。

彼らは少なくとも宇宙進出に投資した巨額の資金を回収する必要があったし、回収するためにはスペースノイド達を強力に支配し、つなぎ止めるシステムが必要であった。

法律に基づく投資回収。すなわち課税である。

 

地球には存在せずコロニーだけに存在する税金は数多いが、その中でも悪名高い税金に「空気税」がある。

文字通り「息をすることに対する税金」である。

宇宙世紀の人頭税として「空気税」は全てのスペースノイド達から怒りを買っていたが、その実体はスペースノイド達が想像していたものとは少し異なっている。

 

スペースコロニーは凡そ100億トンを越える質量を持つが、その体積の多くを占めるのは大気である。

100万からの住民が息を吸い、息を吐く。地球上では全ての生物が行う天然自然の行為がコロニーの小さな環境制御能力には過大な負荷となって襲いかかる。

 

コロニー内の環境は完全平行状態を作り出すべく設計され、各種の大気浄化を行う植物も計算上は余裕を持って植生が成されているし、大気が滞留して住人が窒息することのないよう巨大なエアコンディショニング・システムがコロニーの肺として筒の中に張り巡らされている。

宇宙に浮かぶ大地では、エアコンが止まると人が死ぬ。

 

そのため、スペースコロニーの空調システムは何重にも冗長化され多少の電源が落ちたり、壁に穴が空いた程度ではコロニー住民の呼吸に支障なく動作するよう設計がなされており、維持管理に資金が必要なシステムとなっている。

 

空気税の多くは、この生存に欠かせない巨大インフラにつぎ込まれているのである。地球への返済はその15%に過ぎない。

とはいえ、それがコロニー住民の対地球感情を軟化させるものではなかったが。

 

◇ ◇ ◇

 

その日も、そのコロニーの住人にとってはごく普通の日として始まった。

朝食を摂り、学校や勤務先に向かい、友人や同僚と挨拶を交わして始まるはずだった朝。

爆音と共にコロニーの大地を突き破り、大気中で炸裂した砲弾から散布されたGGガスが、その全ての人々の営みを永遠に中断させた。

 

そのガスには臭いがなかった。色もなかった。ただ、ごく少量を吸い込むか皮膚に付着するだけで神経を麻痺させて呼吸を阻害する致命的な作用があった。

その日、致死性の化学兵器が歴史上初めてコロニーという閉鎖環境で大規模に使用されたのである。

 

膨大なシステムの努力に元に微妙なバランスを保っていたコロニーの空調システムへ無色無臭の化学兵器が撃ち込まれればどうなるか。

その結果は、火を見るよりも明らかであった。

 

通りを歩いていた住民達は逃げる暇もなく、苦しんで泡を吹きながら死んでいった。数十秒遅れて電気自動車の中にいた住民達も苦しみながら死んだ。

建物の中にいた住人達はそれより数十分は長生きすることができた。しかし完全に密閉されていない建物に住む多くの住民は無色無臭のガスの存在に気づけず戸口や窓を開閉し、他の住民の運命に続いた。

一部の建物には酸素マスクと簡易宇宙服が備え付けられており、異常に気づくことのできた幸運な住人はそうした設備を利用して立てこもり救援を待った。

しかし救援は来なかった。救援に向かうべき組織が壊滅していたからである。彼らも数日間耐えた後、窒息して死んでいった。

 

宇宙に浮かぶ母なる大地であるスペースコロニーは、その日、100万の苦しんだ人間の眠る巨大な棺となった。




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