「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
100万人を化学兵器で虐殺。
あまりに数字が大きすぎて現実感がない。
「もし・・・」
「事実です」と秘書がアランの迷いを断ち切るように断言した。
「もしも地球連邦政府が、そんな蛮行に手を染めたとしたら地球連邦政府は終わりだよ。人類史の続く限り、地球連邦政府はスペースノイドの仇敵になるだろう」
アランは、今やこの戦争の性質がハッキリと変化したことを確信した。
この戦争は、決してジオン公国独立やスペースノイドの自治権を確立するための、政治や外交の一手段としての戦争に留まることはない。
アースノイドとスペースノイド、どちらかが絶滅するかまで終わらない種族生存戦争へと変容を遂げたのだ。
南極条約が結ばれたのも、そうした戦争の質的変化に指導者達が怯えたという一面もあるのだろう。
この戦争は、文字通り人類の存亡に関わる絶滅戦争へと至りかねない道である。
「連邦のレビル将軍も余計なことをしてくれた」
アランは、無駄と知りつつ愚痴らずにはいられなかった。
もし戦争を終わらせることのできるタイミングがあったとすれば、1週間前の南極条約のタイミングでしかあり得ない。
たしかに先制攻撃で戦力を失ったことは地球連邦という国家には屈辱かもしれない。
しかし、ジオン公国の要求はたかが一サイドの独立運動でしかないのだ。
歴史的な流れを考えれば遠隔地の植民地が独立を志向するのは当然のことだ。
穏当な条約を結び相互に利益のある経済条約か何かを結べば良い。
「あの将軍は、もっとも人類を殺した男になるかもしれないな」
地獄への道は善意で舗装され、平和への道は白骨で埋め立てられている。
一人の老人の初戦の敗戦を濯ぐ、という信念だけのために、これからアースノイドとスペースノイドは種族の存亡をかけて戦うことになる。
「まったく迷惑な話だ」
このとき、アランは100万人の死者という数字の大きさと目の前に迫った戦争継続の可能性にとらわれて正常な判断能力を失っていた、と言えるだろう。
普段のアランであれば気がつくことができたはずである。
サイドの住人を虐殺することで最も利益を得たのは誰なのか
先制攻撃を仕掛けたジオン軍に先んじて連邦軍がコロニー住民を虐殺することが可能なのか
そして生きた住人のいなくなったコロニーに取り付ける核パルスエンジンを、ジオン軍が予め用意できたのはなぜなのか。
その全てが指すところは一点しかない。
それでも人間の想像力には限界がある。
仮にアランの頭脳が正常に働いていたとしても、後に一週間戦争と呼ばれるジオン軍の先制攻撃で死んだ人間の数が、たったの100万人どころではなく、およそ30億人に上るということは想像の埒外であったことだろう。
◇ ◇ ◇
とにかく、戦争は続くことが決定的となった。
アランは、今や無価値となったレポートの代わりを再度、作成しなければならない。
ギレン総帥に功績を認めさせ、何よりも、まずは自分自身が生き残るために。
「では、どうなさいますか」
秘書の問いに、アランはこめかみを押さえつつ思考を巡らせる。
「そうだな・・・まずはジオン公国の作戦計画が知りたい。今後の戦場はどこになるのか。地球軌道上か。それともルナツー要塞か。あるいはサイド近辺の防衛なのか。相手は強化された宇宙戦闘機なのか、それとも大気圏から打ち上げられる宇宙戦艦なのか。あるいは、その全てなのか。他に開発中の兵器があれば、そうした兵器と組み合わされた戦術なども検討されているはずだ」
「つまり、どこでどんな使われ方が想定されているかを知りたい、ということですか?」
「そうなるね。先日訪問した作戦局の士官に・・・会うのは難しいだろうね」
「でしょうね。今、あそこは戦争計画の練り直しで厳戒態勢でしょうから」
「そこは資料ぐらいは要求するとして・・・ジオニック社の彼はなんていったっけ」
「シュミット氏ですか?」
「そう。シュミット氏と会いたいね。アポは取れるかな?」
「民間企業の方ですから作戦局よりは容易だと思いますが。理由をお聞きしても?」
「戦争を継続するとしたら、今のところ手元にあるMS06で遣り繰りするしかないだろう?おそらくはMS06改修の要求仕様が企業の方に来ているはずさ。そこから何か読みとれないかと思ってね」
「すぐに連絡をとります」
一通りの指示を終え、連絡のために席を立つ秘書の後ろ姿を見送りつつ、アランは椅子に座り込み力なく天を仰いだ。
今、生き残れるかどうか試されているのは自分だけではない。
宇宙に進出した人類という種族そのものが生き残れるかどうかが、試されている。
翌日、ジオン公国総帥本部より「地球方面軍」の設立が発表された。
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