「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
「地球方面軍の設立?確かなのか」
正気か。と本当は言いたくなるのをアランは堪えた。
「確かです。正確にはガルマ・ザビ中将閣下を指揮官として地球制圧軍を設立。指揮下にアフリカ方面軍団、西部方面軍団、東部方面軍団、アメリカ方面軍団、戦略海洋諜報部隊が新規に設立されるそうです」
「正気なのか」
先ほどの決意を遠くに投げ捨て、今度こそアランは口に出して尋ねた。
ジオン公国は公国軍総司令部の元に、大きく分けると3つの方面軍を抱えてきた。
1つは実質的にはギレン=ザビの私兵である本国防衛軍、1つはキシリア=ザビ指揮下の戦略防衛軍、1つはドズル=ザビ指揮下の宇宙攻撃軍である。
そこへガルマ=ザビの方面軍を新規に設立するというのだ。
「ジオン公国といいながら、これではただのザビ家の私兵じゃないか」
ギレンはいい。冷酷な独裁者ではあるが、天才ではある。為政者としての資格と能力を十分に満たしていると言えるだろう。
ドズルも先日の連邦軍との決戦に勝利したことで指揮官としての才幹を証明した。
彼が軍人のトップに立つことに反対する者はいないだろう。
だが、ガルマ=ザビとは誰だ?ただザビ家に生まれて顔が少しいいだけの小僧ではないか。
戦争の指揮官が務まるとは思えない。
さらに発表された方面軍の組織割りの適当さもアランを混乱させた。
アフリカ方面軍団は、まだいい。アフリカには大した軍事力もなく狙いは鉱山だろうから一軍団で侵攻は可能かもしれない。
だが、それ以外の地理の適当さはどうだ。世界征服でもしようというのか。
極めつけにアランを失笑させたのは組織の最後に記された名称である。
「戦略海洋諜報部隊とは、何の冗談だ」
宇宙国家のジオン公国に、あの地球の広大な海洋を何とかできる蓄積があると思うのがどうかしている。
そもそも、殆どの将兵が海を見たことすらないだろう。
兵達が海で泳ぐことができるどうか。それすらも危うい。
「いったい何を考えているのだ。ジオンは地球を大きなコロニーか何かと勘違いしているのか」
地球育ちの自分に宇宙の広大さが想像できなかったように、コロニー育ちのスペースノイド達は地球の本当の大きさを理解していないのではないだろうか。
彼らは真っ直ぐな地平線を見たこともなければ、視界を覆い尽くす広大な海も、空の向こうに大地が見えない一面の夜空を見たこともない。
ただモニター画面と資料と数字で作戦計画を立てた危うさだけが感じられる。
秘書は自分の発言をギレン総帥に伝えるだろうか。
それでも構うものか、という投げやりな気分がアランを支配していた。
◇ ◇ ◇
予定時刻よりかなり遅くなって、シュミット氏の訪問があった。
「ジオニック社もかなり忙しいようだね」
額の汗を拭いて恐縮するシュミット氏に挨拶をすると、その大きな体を弾ませるようにジオニック社の営業マンは頷いた。
「ええ!いや、まったくです。社の方でも今朝の布告で事情を知ったような次第でして・・・」
「ジオニック社の方にも事前情報は来ていなかったと?」
「上層部の方はドズル将軍閣下から何かの情報があったのかもしれませんが、それにしても突然のことですから・・・」
南極条約が発効されたのは先日、つまりレビル将軍のアジ演説で連邦が戦争継続を表明してからわずか1日しか経っていないのだから、それも仕方がない。
ジオン公国としては、もう戦争を勝利で終えるつもりでいたのだ。
当然、ジオニック社としても戦後を見据えたMS開発に舵を切っていたに違いない。
それが、たった1日で覆されたのだ。
社内の混乱ぶりは想像するに余りある。
「それにしても本当なのでしょうか?地球侵攻軍が設立されるというのは。いえ、設立されたのは知っておりますが・・・」
言葉を濁したシュミット氏は「本当にジオンは地上に攻めるつもりがあるのか」と言いたかったに違いない。
政略の一部として、名前だけの軍団を設立することで敵方に攻撃の意志を示す、という方法もある。
その場合、実体としての兵器や兵力は必要ない。
その種の欺瞞作戦、とでも思わなければ条約発効翌日の新規軍団設立など、合理的に考えてあり得ない。
「わからない。なにしろ総帥の布告だからな。彼は常人とは発想が異なる」
合理的に考えれば、ジオン軍が連邦軍に勝利を収めることもあり得なかった。
ギレン=ザビの恐ろしさは合理性をつきつめて合理を越える天才性にある。
「それで、ジオニック社への要求仕様はどうなっているのか。そもそもモビルスーツは地球で行動が可能なのか」
資料では「月面で戦闘をしたことがある」「コロニーの1G環境下で試験はしている」とあったが、それは地球の地上で使い物になることを意味しない。
「MS06はかなりの改修が必要になります」
というのがジオニック社の営業マンの答えだった。
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