「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
いろいろと軍人の助けを借りて検討しても、どうしてもアランには理解できないことがあった。
「それにしても、ジオン公国は、ギレン総帥は地球に降下して何がしたいのだろう?」
淹れたての熱いコーヒーを啜りつつの呟きを秘書が「何が疑問なのですか?」と聞き咎めてくる。
「ああ。地球で育った者としては、ジオン公国が何を求めて地球に軍を派遣するのか、よく理解できなくてね。せっかく重力の井戸を抜け出して宇宙で勝利できているのに、地球で何を手に入れるつもりなんだろう?」
「アラン様が何を疑問なのかは理解できかねますが・・・一般論を申し上げますなら、連邦の政治的・軍事的中枢を叩いて降伏を引き出すためです」
「つまり、戦後交渉のため戦略だと?」
「そうなります」
「それはさっきの見解と矛盾しないかな。連邦は100万人のコロニー住民を虐殺した。これは決して消せない十字架だ。そんな政府と交渉が成り立つものかな」
「政府勢力の一部の暴走、ということで交渉に応じる可能性はあります」
100万人を殺して「一部の暴走」で片づける、という倫理観は一民間人に過ぎないアランの想像を絶する。
もっとも秘書の表情をみる限り「政治の世界で確実なことなど何もない」という格言通りのことが起きるだけなのかもしれない。
「すると攻撃は連邦政府の中枢のニューヤークか、あるいは軍事中枢のジャブローになるのかな」
「そうなります。実質的には軍事中枢のレビル将軍一派の抗戦意志を挫くことが目的になるでしょう」
またしてもレビル将軍か。
アランは画面で何度か見たことのある灰褐色の髭を蓄えた老将軍の姿を思い起こしていた。
あの好々爺然とした老将軍が敗北を認める寸前であった地球連邦軍をして再戦の意志を固めさせたのだから、人は見かけに寄らない。
ギレン総帥、そしてジオン公国民からすると殺しても飽き足らない人物筆頭である、と言えるだろう。
逆に言えば、レビル将軍と麾下の一派を除くことができればジオンは勝利することができるわけだ。
「軍事中枢ジャブローは地下要塞化されているでしょうから、核や質量兵器が禁止された以上はモビルスーツを中心とした降下部隊で穴蔵から叩き出さねばなりません」
秘書の勇ましい発言を、今度はアランが咎める番だった。
「連邦軍の中枢ともなれば、もの凄い防備がひかれているよ。常識で考えてもちょっとやそっとの爆撃ではどうにもならないだろうし、陸軍を突っ込ませるなんて無謀だよ。南米ジャブローと言えば、アマゾン川流域じゃないか。MS06は河川や泥濘まじりの密林を踏破できるのかい?」
「シミュレーションと事前の訓練で万全を期すことはできます」
「訓練?」
今度こそ、アランは鼻を鳴らして笑った。
「コロニーにアマゾン川の再現でもするのかい?あの繁茂する緑の絨毯をコロニーでどうやって?川はどうするんだい?コロニーに流れているような1キロもない綺麗な飲み水のことじゃない、細菌と寄生虫と泥と野生生物がカクテルになった茶色い何千キロも続く泥水の流れのことだよ?サイド3には昆虫だっていないのに」
「寄生虫、といいますと?」
「そうだよな、そこからだよな」
アランは秘書の無知に天を仰ぎたくなった。
おそらく、この地球環境に対する感覚の鈍さはマリー1人の問題ではない。ジオン公国全体に共通する気分なのだ。
アランは強い口調にならないよう、言葉を選んで説明をはじめた。
「まず、地球の野外の水は直接飲んだら危険なんだ。君たち生粋のスペースノイドにも理解できるように表現すると、生物的に汚染されている、と言い換えてもいい。地球上のどこの水にも1立方センチあたり数千から数万の細菌が含まれていて、そのまま飲むと消化器系に大きなダメージを受ける。免疫的に耐性のないスペースノイドなら、そのまま死亡してもおかしくない」
「うっえ・・・」
「吸血昆虫の運ぶ疾病や寄生虫も問題になる。地球の熱帯には蚊という小さな吸血昆虫が飛んでいて、熱病を媒介している。繁殖期になると何百万匹も集まって繁殖し、何億もの卵を生むんだ。そうした卵がジャブローを流れる河川には含まれている。それを飲めば体に悪いことぐらいわかるだろう?」
「ううっ・・・」
「もっと悪いのは、直接口にしなくとも、目や鼻などの粘膜や、手足のちょっとした傷口から体内に入り込む寄生虫の存在だ。体内で孵化した虫は出口と餌を求めて人の体内を食い荒らす。寄生された人間は激痛を覚えるだけでなく、実際に失明したり内臓に重大な疾患を抱えることになる」
ドキュメンタリー番組などで見た内容を具体的に説明してやると、嫌悪感を覚えたのか秘書が一歩退いた。
失敬な。地球育ちであってもコロニーに入島する際に徹底した健康診断と疾病管理処置は受けているのだが。
「地球連邦の中枢に攻め込む、というのはそういう劣悪な環境で何カ月も泥にまみれて虫に悩まされながら泥水を啜って戦う、ということだよ。いかにMS06があってもスペースノイドのジオン公国軍に、そうした地上での戦いが可能だとは思えない。地球育ちの常識からするとね」
アランは説明を締めくくったが、宇宙育ちの秘書には応じる言葉もないようだった。
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