「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート 作:ダイスケ@異世界コンサル(株)
ジオニック社からの帰り道、不機嫌にむっつりと黙り込んだアランとは裏腹に秘書のマリーは興奮を隠せない様子で、有り体に言えばハシャいでいた。
「アラン様、ジオニック社の技術陣は素晴らしかったですね」
「そうだな。その点に異論はない」
ジオニック社の技術陣はジオン軍上層部の無茶な要請を、その高い技術力で以て無理矢理に解決しようとしていた。
彼らの熱意と知力と献身に疑いを挟む余地はない。
「ですが、ご不満のように見えますが・・・」
「不満はある。ジオンはモビルスーツに頼りすぎる!戦車も飛行機も潜水艦も全てをモビルスーツで相手にするつもりなのか?」
アランの詰問に、マリーは少し困ったように笑顔を浮かべた。
「それは・・・ジオニック社はMS06を作ったの自分たちだ、という自負もありましょうから」
「ある種のデモンストレーションだ、というのか?」
「ええ。ジオニック社の立場からすれば軍部にそのようなイメージを売り込むのが当然でありましょう」
「軍上層部の方が乗せられている、ということか」
「ジオニック社のMS06はドズル閣下の肝煎りですから」
またザビ家、か。
アランはマリーに気づかれないよう、心中で小さくため息をついた。
ジオン公国が非合理に見える決断を下すとき、そこには常にザビ家の影がちらつく。
宇宙移民こそは選ばれたエリートではなかったのか?人類の革新である、とジオン・ズム・ダイクンは言わなかったか?
実際にやっていることは、中世紀の古くさい貴族政治ではないか。
「地球侵攻作戦のモビルスーツ以外の地上兵器の情報は見られるか?開発はどこの企業か」
「早急に調べて報告します」
「頼む」
地球はとてつもなく広く、荒々しい自然が待ち受けている。
地球の全てに侵攻し、占領するなど全てのジオン国民を動員しても不可能だ。
ましてモビルスーツだけで戦争はできない。
◇ ◇ ◇ ◇
0079年 3月5日
結果から言えば、アランは間違っていた。
「・・・その情報は本当か?」
「はい。間違いありません。複数の情報ルートから、地球侵攻作戦は成功裏に終了した、との報告が入っています!」
メモを読み上げるマリーの表情が、珍しく興奮で上気している。
「詳細は?」
「はい。ジオン公国軍地球方面軍は宇宙巡洋艦ムサイ級大気圏突入艇及びHLV400機により電撃的に地球機動へ突入。0079年3月1日。ムサイ級大気圏突入艇及びHLVにて大気圏を突破し、宇宙基地制圧隊は連邦軍バイコヌール基地を降下攻撃。守備隊の抵抗を排除し占領に成功。続いて3月4日。旧ウクライナのオデッサ鉱山へ公国軍資源発掘隊が降下、占領に成功し第一次地球侵攻作戦は成功裏に終了した、とのことです」
「宇宙基地と鉱山を抑えたか・・・」
宇宙基地を最初に占領したのは兵理として筋が通っている。
軍隊というのは、最初に撤退するための手段を確保しておくものだ。
まして地球降下作戦のようにリスクの高い大作戦であれば尚更だ。
宇宙港を抑えておくことで、ジオン軍の兵士達にはいつでも宇宙へ退却できる、という心理的な安心感を与えることができるし物理的には宇宙からの補給や援軍を受け取りやすくなる。
また、軍事的には連邦軍の宇宙への打ち上げ能力を一カ所潰すことができる、という意味もある。
オデッサ鉱山を抑えたのも大きい。
ジオン公国は小惑星資源開発コロニーを前身としたコロニー国家であり、木星船団との繋がりも強いため基本的な鉱物資源とエネルギー資源については自国で賄うことができる。その自給自足に近い経済体制がまた独立の機運を生む遠因ともなったのだが、ただレアメタルについては小惑星資源からは算出せず、大いに不足する状況にあった。
レアメタルを豊富に産する鉱山の占領は、コロニー経済の高度産業化を抑圧し、サイド3を単なる鉱山コロニーに押しとどめんとする連邦資本の搾取に耐えてきたジオン公国にとっては戦略目標として譲れないものであり、また経済・軍事両面での悲願でもあっただろう。
「作戦の損害は?」
「大気圏突入時にHLVが数機失われた以外は、極めて小、とのことです」
「実質的な抵抗はなかったわけか」
ある日、空から巨大な人型兵器が大量に降ってくる、という事態に対応できる軍隊があるだろうか。官僚組織は想定外の事態に弱い。
まして連邦軍は先のルウム戦役により地球に落着したコロニーの影響で指揮系統も通信状況もズタズタだったわけで、十全に準備したジオン軍に対し為す術もなかったのだろう。
完璧な奇襲だ。
「それにしても中央アジアを狙うとは・・・ギレン総帥の政治的センスも侮れないな」
「・・・どういうことです?」
軍事戦略以外の地球の状況に疎い秘書に、アランは説明する。
「バイコヌール宇宙基地がある旧ロシア連邦カザフスタン共和国・・・どんな場所か君は知っているかな?」
「お待ちください・・・ソ連時代からの伝統ある宇宙基地である、とだけ。鉱山も枯れておりますし」
秘書の言葉に、アランは頷いた。
「そう。何もないところさ。宇宙基地以外にはね。あの土地は連邦に見捨てられた土地だからね」
「見捨てられた・・・」
「地球環境保護のため、地球から多くの人が宇宙へと送り出されて80年になる。中央アジアからも多くの人々が宇宙へと移民した。今では、あそこには何もない。ごく少数の独裁者あがりの金持ちと、独自の文化を持つ民族が少々いるだけさ。抵抗なんてあるはずがない。宇宙基地の警備部隊程度では、相手にもならないさ」
勇ましい戦闘の末に勝利した、という栄光に満ちた物語ではないかもしれない。
しかし、それだけにギレン総帥の戦略眼が際だつのだ。
「それでは、オデッサ鉱山は・・・?」
「ウクライナだからね。あそこは昔から旧ロシア系との間で民族紛争が耐えなくてね。連邦になってからも小競り合いばかりしていた。多分、そうした内紛も利用したんだろう。政治というより謀略の次元の話かもしれない」
地球連邦は秩序と理想に裏打ちされた一枚岩の組織ではない。多くの民族や地域のエゴと欲求がぶつかり合うモザイクのようなピースの寄せ集めだ。
それがジオン公国との戦争、という一大事に対し団結することなくバラバラになろうとしている。
いや、そうした政治的動きを読み切って攻勢をかけたギレン総帥の手腕だと言えるだろう。
ジオンには10年という準備期間があった。
それはモビルスーツ開発のみならず、地球の抵抗勢力への秘密裏の資金提供やジオンに好意的な人物や組織への切り崩しという形で表から裏から粘り強く行われていたに違いない。
ジオンは兵器の優秀性に頼ることなく、謀略と政治で連邦に勝利した。
0079年3月1日。それは宇宙移民100年の歴史において、初めて征服者として宇宙移民が地表に降りたった日でもある。
人類の歴史は巨大な転換期を迎えた。
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