「ギャンか、それともゲルググか、それが問題だ」次期主力MS選定レポート   作:ダイスケ@異世界コンサル(株)

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第36話 第二次地球侵攻作戦

0079年3月12日

 

その後もアランの予測に反し、ジオン公国地球侵攻部隊の快進撃は続いた。

 

3月11日、つまり昨日には「北部アメリカのキャリフォルニアベースを無血に近い形で占領した」という信じがたいニュースが入ってきた。

 

北アメリカに宇宙世紀が始まってからも強大な経済力と広大な穀倉地帯を抱えた戦略的重要拠点であり、政治的にもニューヤークに連邦議会ビルがが存在する。

重要さに比例して配備されている軍事力も強大なはずであり、紛争地帯の鉱山でしかないオデッサや見捨てられた土地の宇宙基地に過ぎないバイコヌールとはわけが違う。

 

「プロパガンダニュースの類ではないのか?」

 

「いいえ。総帥本部からの正式な発表です。間もなく国営ニュースでも同じ情報が流れるはずです」

 

ーーーーー

 

国営放送では、きっちり髪がセットされた女性アナウンサーが総帥府から発表された原稿を喜々として読み上げていた。

 

軍の広報部から提供されたものであろう映像には、地上攻撃で破壊された基地の様子や、キビキビと動き回る精鋭ジオン軍の兵士達、そして兵士達を指揮する前髪の長い若い士官の姿の良い様子が長時間に渡り映っている。

 

「ーーニュース速報です。地球降下部隊が北米地域の制圧を完了しました。詳細はまだ明らかにされておりませんが地球方面軍司令ガルマ・ザビ閣下の指揮する地球攻撃軍が数に勝る連邦軍に圧勝したとのことです。ガルマ司令はデギン公王のご子息であらせられ将来を嘱望された身でありながら兵士達と共に前線で戦われています。兵士達の間ではルウムの戦いで大勝利を納められたドズル・ザビ閣下に勝るとも劣らぬ英雄であると賞されていますーーー」注)

 

ガルマ・ザビ。言うまでもなく実質的なジオン公国の支配者であるザビ家の三男である。

軍人というよりアイドルでもしていた方が似合いの甘いマスクだが、ジオン公国国民の女性達には絶大な人気を誇るらしい。

 

「さすがのデギン公王も末っ子には甘いらしいな」

 

「ガルマ閣下は士官学校も主席で卒業され立派に任務を果たしておられます!」

 

うっかり呟いた皮肉に女性秘書から猛烈な反駁を受けたという事実が、人気を端的に示している。

 

とはいえ、婚約者が地球で行方不明だというのにホテルに軟禁されている身を鑑みれば、同じザビ家の一族として皮肉の一つ言いたくなるのが人情というものではなかろうか。

いや、同じとは言えないか。アラン《自分》とガルマではザビ家の血の濃さが違う。

 

中世的な血族主義を支配原理とするザビ家からすれば、ガルマ・ザビは本流も本流で日のあたる道を歩ませるのが自然。

そして亡きサスロ・ザビの婚約者の血族で地球育ちの傍流は、使い捨ての任務につかせ軟禁して当然というわけだ。

 

それにしてもデギン公王も思い切ったものだ。

猫可愛がりしていた末っ子を地球に降ろすとは。作戦に余程の自信がなければできないことだ。

 

あるいは、そもそも作戦前に成功を確信していたか。

 

「たかが数百機のモビルスーツ降下部隊程度の戦力で北米基地を占領できる方がおかしいんだ」

 

「たかがではありません。モビルスーツ1機は巡洋艦1隻に相当します。正面戦力でジオンは連邦を遙かに優越しております」

 

「モビルスーツ1機は巡洋艦1隻、ね」

 

MS06は優秀なモビルスーツであり、ルウム戦役での歴史的大勝利に貢献したために言われだしたプロパガンダだ。

確かに数字上はそれだけの戦果を上げたのかもしれないが、モビルスーツを使用した初の会戦であったこと、連邦軍側にミノフスキー粒子を前提とした装備やドクトリンがなかったことなど、幾つかの好条件が重なった結果に過ぎない。二度目の再現はないだろう。

 

また、地上の占領はコロニーとは違う。

大気循環装置と宇宙港湾ドックを抑えることで住人の生殺与奪を握れる宇宙コロニーと異なり、地球ではどれだけの軍隊を送り込んでも人から空気を奪うことはできない。

北米では多くの住人が家に銃器を持ち、都市を占領しても郊外へ逃げることも、また逆に潜入や密輸も容易である。

住民を敵にまわせばゲリラ化し易く殲滅は難しい土地柄である、とも言える。

 

「キャルフォルニアには海軍基地もあったはずだが」

 

「そちらも抑えた、との情報があります」

 

「ならば、決まりだな」

 

無血占領を達成したということは「現地の軍人もしくは政治家にジオン公国に強いパイプを持つか連邦政府を裏切った人物がいた可能性が高い」ことを示している。

でなければ強大な軍事力を抱える北米地域全体が、たったの1日かそこらで占領されるわけがない。

 

戦勝の暁には北米大陸の地球連邦からの独立でも約束したか。あるいは単に人口密集地を抱える政治家としてコロニー落としから市民達を守るために早期に降伏した、ということもあり得る。

 

「ガルマ閣下の見事な指揮とお人柄の賜でありましょう」

 

「そうとも言えるかもな」

 

ガルマ・ザビに心酔している秘書には、とりあえず頷いておく。

 

特集番組で繰り返し移される純粋そうな末っ子の表情を眺めているうちに、アランの中であるアイディアが形を成しはじめた。




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注)アナウンサーのニュースの内容は「ゲーム:ギレンの野望のオデッサ占領のナレーション」に準拠しております

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