我には青春ラブコメは不要である。
クラスの連中は誰と誰がねんごろになっただの惚れた腫れただのなんだのと毎日のように姦しいようだが我にはそのようなものは不要だ。
我にはライトノベル作家になるという大いなる夢がある。その夢のため邁進する孤高の存在それがこの剣豪将軍義輝なのである。
と材木座は恰好をつけてよく思ったりするが、実際はただのワナビであり人付き合いが少ないのも中二病的言動が原因、でもその言動がかっこいいと思っているため控えることもせず、孤高というより孤独な存在だということは薄々自覚があった。
だがそれに無理やり目をつぶって女なぞ不要!と言い聞かせている毎日だった。
材木座はその日、またまた自作のラノベの感想を聞きに奉仕部の部室を訪れていた
奉仕部の3人に囲まれ順々に感想を受ける。
一通り雪ノ下の圧迫面接にも似た強烈な感想が終わり次は珍しく由比ヶ浜の番である。
最初に持ってきた時以降由比ヶ浜に文章の感想を求めるのは無理ということが分かったので、その後はずっと比企谷と雪ノ下の2人による感想ばかりだったのだが、今回珍しく由比ヶ浜も感想を言うと力説していたため、コピーを渡していたのだ。
彼女曰く「あたしも奉仕部の一員なんだから今回は頑張る!」だそうである。
「うーん相変わらず難しい漢字いっぱい知ってて中二はすごいね!」
おそらく愛想笑いであろうニコッとした笑顔を向ける由比ヶ浜、材木座は、あーやっぱりと思いつい由比ヶ浜の顔を見てしまった。
材木座は今まで数回感想を聞きに奉仕部を訪れているが由比ヶ浜から笑顔を向けられたのは今回が初めてであった。
その笑顔を見た瞬間体中に電気が走るような感覚に襲われた。
これが一目惚れか
材木座は初めての感覚に戸惑い由比ヶ浜を見つめたまま固まってしまった。
実は以前から奉仕部の部室に来るたびになんとなく由比ヶ浜のことを意識はしていた、だが女子とまともに顔を合わせることなどできわけもなく常に比企谷の方か下を向いて話していたので、まともに顔を見合わせるのは今回が初めてだったのだ。
「…おい、どうした、おい!!!」
肩をゆすられはっと我に返る
振り返ると比企谷が肩をつかんでおり前を見ると由比ヶ浜が不安そうな顔でこちらを見ている。
「材木くん、もしかしてあなた、由比ヶ浜さんを見ていかがわしい妄想とかしてたのではなくて?」
雪ノ下が氷のような目線でこちらを睨む
「い、いや、めっそうもない!、か、感想が感想というレベルにも達してなくてなんというかその、驚いただけだ」
「なにそれ!中二ひどいよ!」
由比ヶ浜がぷくっとふくれて怒ったポーズをとる
あ、怒った顔もかわいい、そう思った材木座は照れくさくなり下を向いてしまう。
「ひどくは無いぞ由比ヶ浜、今回頑張るんじゃなかったのか?お前の方がひどい、じゃあ次は俺だな、今度はなんのパクリだ?これもこれもどこかで見たことあるぞ?」
次は比企谷だが、さっそく元ネタをばらしにかかってきた。
「んでだな…」
またも強烈な追撃が始まりる。
一通り感想終わり精神的に満身創痍にされ椅子に力なく座っていると。
「お茶にしましょう、材木くんにも特別に御馳走してあげるわ」
そう雪ノ下がいい紙コップを用意する。
紅茶を飲んでる合間にチラッと由比ヶ浜の方を見る。
彼女は先ほどと比べ物にならないぐらいの笑顔をこの部室にいるもう一人の男子に向けていた。
その視線の先には比企谷がいた。
「ふん、自分ではボッチだなんだ言っておきながらちゃっかり女子に好意を向けられてるではないか」
材木座はぼそっと言う
あの笑顔を自分に向けて欲しい。そう思ったがそれは無理な望みだとすぐ否定する。
今まで女子はおろか人に好意を向けられたことがない自分には無理だろう。八幡はああ見えてやる時はやる男だ、現に近くで見てきたし色々聞いている。
中には信じられないほどの悪評もあったが、それは嘘だということはすぐわかった、そもそもそんな悪い人間であれば奉仕部から追い出されてるはずであるし、むしろこうやって自分の未熟なラノベの感想をしてくれるそんな奴が悪い奴とは到底思えないからだ。
惚れて当然、本当のイケメンとは奴のことを言うのだろうな、目は腐ってるけど。
それにそもそもあの二人も比企谷と一緒に行動することが多いから奴の内面を知る機会も多かったのだろう、では我は?見た目は全然よくない上に口を開けばアニメやラノベの話題、こんな自分の内面を他人に知ってもらう機会なぞあるわけがない、これでは勝負にならない、戦う前から敗北だ。
そう考えてすごくしょんぼりした気持ちになる、あれこれ失恋?一目ぼれから失恋まで早くない?
我の初恋即日終了
「こういうのを片思いと言うのだろうな」
奉仕部からの帰りについ独り言をつぶやく
「これだからラブコメは苦手なのだ!」
つい大声になった独り言が誰もいない廊下に響いた。
とはいえやはりネットは怖いうえにラノベを読んでくれるのは奉仕部しかなく、また由比ヶ浜の笑顔が見たい思いもあり奉仕部へ通い続けることになる。