急いで選手席へ向い、カズの隣に座る。
刹那とエヴァが舞台に上がる途中だったのでどうやら試合には間に合ったみたいだ、
「ん?義、どこへ行っていたんだ。」
「まぁちょっと用事があってな、何とか試合前には終わったよ。」
『2回戦最終試合、マクダウェル選手対桜咲選手!!』
そうこう言っている内に試合が始まるようだ、エヴァは能力はほとんど使用できないが、第一試合では普通に相手を一撃で沈めていた、はてさてどうなることやら・・・
『第十四試合、Fight!!』
試合が始まるが、両者ともすぐには戦う気配が無く距離をとって様子見状態だ、何か話しているようだが、大方刹那が攻撃を躊躇しているのだろうが、その油断は命取りになるぞ。
エヴァが左手の人差し指を引くと刹那の右腕が空中に縫い付けられたように動かなくなり、もう一度指引くと刹那が吹き飛んだ、
「糸か、まったく、油断しやがって・・・」
「見えるのか?」
「あぁ、なんとかな。」
忘れていたが、エヴァは人形使いだったな、繰り糸の扱いはお手の物だろう、これは厳しいかもな、
体勢を立て直そうとするも糸によって舞台の床に縫いつけられているようだ、あれを抜けるのは中々辛いだろう、
その状態で舞台上の二人は何やら話している、いや状況的にはエヴァが一方的に語りかけているのに近い、
そこで何か言われたのか刹那の目付きが変わり、糸の拘束を破った、
「おぉ!!」
そのまま手にしたデッキブラシでエヴァに攻撃を仕掛けるが、鉄扇でいなされて再び床に倒される、体勢を立て直そうと後ろに跳ぶが糸に足をとられ転んでしまう、それでも尚立ち上がろうとするがエヴァの掌底がクリーンヒットし三度床に叩き付けられる、
外見上は10歳の少女であるエヴァが圧倒している為か会場は歓声の嵐だ、俺の目的としては好ましい状況ではあるんだが、正直あまり気分がいいとは言えないな、
しかしエヴァの先ほどからのあの動きは合気道か、やはり伊達に年を取っているわけではないらしい、
糸で締め付けられ、宙に磔にされているように拘束されている刹那に再びエヴァが語り掛けている、集中して耳を澄ませばなんとか聞き取れるか?
「・・・貴様、幸せになれると思うのか?私と同じ人外のお前が・・・いや、貴様は半分だったか。」
!?
「・・・フフ、お前のその背中の翼、白かったな。」
あの野郎・・・!!
「その黒髪はどうした、染めたのか?」
やめろ、それ以上・・・
「瞳は、カラーコンタクトか?」
それ以上言うんじゃねぇ!!
「くぉらーっ!こぉのバカエヴァちん!!」
「っ!?」
俺が席を立とうとした瞬間、選手席にいた神楽坂さんがキレて大声で怒鳴り始める、完全にタイミングを潰された俺は席に座り直した、
すると舞台上の二人は目を合わせて微動だにしなくなる、
『両者目を見開いたままピタリと動きを止めました、これは一体・・・』
「なんだ、幻術でも使ったのか?」
「多分そうだろう、邪魔がはいらないようにな。」
「そうか、・・・それと義。」
「あん?」
「殺気立つのは止めろ、回りの空気がピリピリしている。」
カズの言う通り、無意識に回りに殺気を出していた為、俺の周りの雰囲気が重くなっていた、
「・・・・・・悪い。」
ふぅと溜息を一つ吐き、気持ちを落ち着けた、
両者が動かなくなって30秒位経った、ざわめく観客と反対に動かず静寂を保つ二人、
「・・・来るぞ。」
カズの言葉が合図の如く、舞台上で小爆発が起こる、立ち込める煙の中から刹那が飛び出し、一閃が走る。
攻撃を受けたエヴァの体が吹き飛び、床に倒れる。
『逆転!?きまったぁーっ!!』
朝倉さんの声と同時にワッと湧き上がり、会場が割れんばかりの歓声に包まれる。
そしてエヴァがギブアップして、試合は終了した。
『10分の休憩を挟み、三回戦に入りたいと思います。』
「んじゃ、準備してくるわ。」
「ああ。」
アナウンスの終了と共に会場が再び騒がしくなる中、俺は立ち上がり選手席を後にした。
準備を終えて会場へ向かう途中の道でエヴァと会った、
「そういえば、次の試合は貴様だったな。」
「・・・・・・」
「ま、せいぜい頑張ることだな。」
軽く手を上げ、俺の横を通り過ぎていく、
「・・・おい、待てよ。」
振り向いて背中を向けているエヴァに木刀をつきつける、
「今俺は貴様をバラバラに切り刻んでやりたい気分だ・・・!」
怒りを込めて吐き捨てる様に言葉を放つ、
「フフ、いい殺気だ。」
エヴァは振り向かないが不敵に笑っているのがわかる。
俺はエヴァを睨みつけたまま、木刀を下げた、
「・・・だが、止めておいてやる、あいつが弛んでいたのも事実だからな。」
踵を返し背中を向けて、その場を後にする。
「クク、本当に今日は歳を感じる日だ。」
エヴァと別れ、再び会場へ向かっている途中で刹那と神楽坂さんが目に入る、二人は何か話していたが、俺に気づくと話しかけてきた、
「あ、義切、次のしあだっ!?」
言葉を遮る様に刹那にデコピンをかます、突然の痛みに少し涙目になって額を押さえる刹那、
「な、何を・・・」
「バカか、お前は!油断しやがって、魔力も使えない相手にあれだけやられるとは気が緩んでいる証拠だ!」
「う、それは・・・」
「まぁまぁ・・・」
俺の叱咤に畏縮してしまう刹那、間に入って俺を宥めようとする神楽坂さん、それを見て感情的になったのを少し反省し気分を落ち着ける、
「・・・まぁ、あのエヴァンジェリンを倒したんだ、よくやったと褒めておくべきか。」
「あ・・・」
刹那の頭に手を置き、少し撫でてやる、最初はキョトンとしていた刹那だがだんだん自分が何をされているのか理解し、顔が赤くなっていく、
「ちょっ、義切!?」
「次は俺の番だな。」
刹那の頭から手を離して、会場へ向かう、
「義切、頑張ってくれ!」
「ああ、決勝で会おうぜ。」
軽く手を振り、応援に応えると、再び会場へ向かった。
会場に着くと相手はもう舞台の上に立っていたあとは俺が舞台に立つだけだ、観客も準備万端とばかりにざわめいている、
あの人の力は小太郎戦に見せてもらった、かなりの使い手だろう、正直俺だって勝てるかどうか怪しいレベルだがさっき決勝で会おうなんて言ったからな、負けるわけにはいかない、
「うし、行くか!」
自分の頬を叩いて気合を入れると舞台上へと向かう、
『漆川、クウネル両選手が揃いました、これより三回戦、第一試合を始めたいと思います!』
朝倉さんがそう言うと、一気に観客が沸きあがる、
「きみもかなりの実力者のようですね、未成年ではこの学園内でも最強クラスでしょう。」
舞台上で向かい合うと向こうが話しかけてきた、
「そう言うあなたこそ、相当の達人かと見受けますが?」
「フフ、しかし残念ですがきみも私に勝つことはできないでしょう。」
「・・・あなたの目的も正体も俺にはどうでもいいことだがこっちにも負けられない理由があるんでね、簡単に勝てるとは思わないことです。」
「ではお相手いたしましょう。」
『それでは、三回戦第一試合、Fight!!』
その声を合図に瞬動を使い切りかかるが、障壁に拒まれる、
「うおぉぉ!」
「む!?」
しかし、もう一度木刀を振り上げ、今度は渾身の気を込めて障壁もろとも相手を叩き切る一撃を放つ、攻撃は障壁を砕き直撃する、筈だった
「!?」
障壁を突破し攻撃が当たる、いや当たった瞬間相手の姿が消え、攻撃が外れた、
「惜しい。」
いつの間にか後ろに回りこまれ、攻撃が放たれる、回避も防御も間に合わない、
なんとか体をずらし、攻撃の当たる位置を芯から外すことはできたが、舞台の端まで吹き飛ばされた、
「ぐあっ!」
ダメージ自体はたいしたものではなかったので受身を取り、素早く立ち上がる、
しかし今頭の中を支配しているのはダメージや攻撃云々ではなく、何故攻撃が外れたのか、たしかにこちらの攻撃は当たった筈だ、しかし当たった瞬間奴は消えて後ろに回りこまれた、ならば俺が切ったのは残像か?いや残像なら動きの軌跡が見えるが、さっきはその気配すらなかった、だったらなんだ?それを見極めない限り、勝ちは無い・・・
額の冷や汗を拭いながら必死に頭を動かすが、答えは出てこない、
「どうしました?来ないのならば、こちらからいきますよ。」
「くっ!」
そう言うと攻撃を仕掛けてきた、それをなんとか回避し、距離を離す。
相手の攻撃の基本は体術、レベルは非常に高いが、なんとか当たる前に避けることが出来る、だがこのままではジリ貧になることは必至だ。
再び正面からくる攻撃を往なしカウンターを仕掛けるが再び姿が掻き消える。
次の瞬間、またしても背後を取られるが想定の範囲内、後ろに蹴りを放つ、
相手は少し驚いたようだが蹴りは防御される、その隙に畳み掛けるように攻撃を仕掛ける、
それに対して相手は攻撃を放ち、こちらの攻撃を相殺する。
「む、これは少し・・・」
『凄い撃ちあいですが、これは漆川選手が少し優勢か!?』
顔面への攻撃を当たる直前に後ろに一歩引き避ける、一瞬できた隙に木刀に気をこめて一撃を放つ。
「その隙、もらった!!」
今度の攻撃は確実に捉えた、捉えた筈だがまったく手応えが無い、まるで豆腐を全力で斬ったみたいだ、
「今のは結構驚きましたよ。」
加えて相手は無傷ときたもんだ、どうなってんだ。
こっちの攻撃は効かず、あっちは自由自在、まるで悪霊相手にしているみたいだ。
「ん?悪霊・・・、霊体・・・、実体がない・・・?」
いやまさか・・・、しかしそう考えると全て納得できる、
「・・・クウネルさん、そいつはちょっと卑怯じゃないですか?」
「おや、気付きましたか。」
大して驚いた様子は無い、気付かれても負ける気がしないからだろう。
この無敵状態の正体は分身体だ、魔力や気で作られた分身体は本体の自由な意思で動かすことが可能だ、さらに魔力や気の密度が濃ければより本体の力に近いものを作り出すことも可能、もちろん大分に能力は落ちる筈だがそれでいてこれだ、とんだ規格外だな。
勝つ方法はあるにはあるが、それにはその分身体を消さなければならない、それだけの気力を持つのはこの大会では居ない、無論俺を含めてだ、レイがいれば話は別だが・・・
「実質無敵とはかなり反則気味ですよ。」
「申し訳ありません、どうしても決勝に行かなければならないもので。」
「まぁいいです、勝つ手が無い訳じゃないですから。」
15分耐え切れば勝敗はメール投票、観客に委ねられることになる、そこでなら確実ではないが勝てる可能性もある、もっとも耐え切れればだが・・・
「だから、本気で行かせてもらう!!」
「先ほどまででも十分わかりますが
あなたはそうとうお強い、私も本気を出させてもらいましょう。」
クウネルが手を前方にかざした瞬間、義切を衷心に周りの床がバキバキと音を立てて重いものが地面に落ちてめり込む様に崩れる、小太郎戦でも使われた重力魔法である。
床が崩壊して、土煙が巻き上がる。
「む、終わってしまいましたか?」
「まさか。」
「!?」
クウネルは空を見上げた、そこには太陽を背に木刀を振りかぶった義切がいた、
「うぉりゃあ!!」
魔力を纏った斬撃、紅蓮剣を放つが後ろに跳び避けられる、それを追撃するために瞬動を使い距離を詰める、反撃の隙を与えない怒涛の連撃を放つ。
再び撃ちあいが始まった、
『両者とも一進一退での攻防です!!』
「正に烈火の如き攻撃、ですが。」
こちらの一撃が避けられ、カウンターを放たれる、しかしその攻撃を往なし懐に入り込み右手に持っていた木刀を左手に持ち替え、右手に力を込める、
確かネギ先生は魔法の射手を三矢収束させていたがこっちは五矢だ、見様見真似でパクリになってしまうがまぁ問題ないだろう、
収束した魔法の射手を右手に込めて、相手に踏み込むと同時に拳を突き出す!
「食らえ、閃華鳳拳!!(今命名)」
「これは!?」
義切の閃華鳳拳の一撃はクウネルを舞台外へ吹き飛ばした、技の衝撃で水煙が起こり、クウネルの状態を窺い知ることはできない、
『あーっと!漆川選手の一撃でクウネル選手吹っ飛んだぁ!大丈夫か!?』
「・・・やっぱり無傷だよな。」
水煙が晴れたところには、何事も無かったように無傷のクウネルがいた、
「驚きました、まさかここまで出来るとは、あなたは単純な強さとは別に相当の戦闘経験があるようですね・・・」
クウネルが両手を翳すと空から黒い球体の様なものが数個落ちてきて、舞台周辺の堀に着水すると水飛沫と煙を巻き上げた、
「くっ、何を!?」
「これならば観客に見られてしまう恐れもありません。」
クウネルは袖からある物を取り出した、
「パクティオーカード!?」
「まだ誰にも見せる予定ではなかったのですが、粘りきられて負けては元も子もありません。」
来れ(アデアット)の声と共にクウネルの周りに無数の本が螺旋状に出現した。
「剣士には剣士にてお相手いたしましょう。」
クウネルはそのうちの一冊を手に取ると本を開いて栞を挟み閉じる、その状態から栞を引き抜くとクウネルが光に包まれた。
光が収まり、クウネルがいた場所にはまったく別の人物が立っていた。
「え、詠春・・・さん・・・?」
「ほう、詠春を知っていますか。」
ありえない、詠春さんがここにいるなんて、それに目の前の詠春さんは見た目随分若い、
「幻・・・影?」
「いえ、幻影ではありませんよ、本人というわけでもありませんが。」
目の前の詠春さん?が語る、口調からして本人ではない、おそらくクウネルさんが先程のアーティファクトの力で変わったのか、
「特定の人物の外見と身体能力の再生、それが私のアーティファクトの能力です。」
「なに!?」
身体能力もということは、今のクウネルさんは詠春さんに限りなく近いということか、
「さて、あまり時間は掛けられません、行きますよ。」
「っ!」
夕凪を構えるクウネル、それに木刀を構え、突っ込む義切り。
身体能力までそのままということは、勝てる可能性はまず無い、だが何もしないで負けるという選択肢はない、この一刀に持てる気を全て掛ける!!
「うおぉぉぉぉ!!」
水煙の中、クウネルが変身した詠春と義切の攻撃が交差し、その衝撃により煙が晴れる、
『煙が晴れました、果たして勝負は着いているのでしょうか!?』
煙が完全に晴れ、観客にも舞台上の状態がはっきり見えるようになった。
舞台の上ではクウネルが立ち、義切が倒れていた、
『あぁっと!これは義切選手ダウンです!!』
そしてカウントが始まった、
『1、2、3・・・』
「相当できるのでかえって手加減できませんでしたが、起き上がることは出来ないでしょう。」
「ぐ・・・う・・・」
カウントを数える声が聞こえる、負けたのか・・・
相手は詠春さんだ、仕方ない、
『4、5、6・・・』
仕方ない・・・
・・・
「ま、まだだ、まだ負けてない・・・」
「なんと!」
何とか木刀を杖代わりに立ち上がる、もう立ち上がるまいと思っていたのかクウネルさんは初めて驚いた顔をしている、
『義切選手起き上がったぁ!!しかしフラフラだが大丈夫か!?』
正直大丈夫なんかじゃない、足はガクガクするし、攻撃を食らった箇所は激痛が走っている、立っているのがやっとだ、
それでも【仕方ない】程度で諦めるほど俺自身聞き分け良くはない、それに・・・
「あんまり、格好悪いところは・・・見せ・・・られない・・・んだよ・・・」
しかし体が限界なのか再び舞台に倒れる、
「く・・・そ・・・、やっぱ駄目か・・・」
そして今度は義切が立ち上がることなく10カウントが数えられた、
『激闘の末、クウネル選手の勝利!準決勝進出が決定しました!!』
瞬間、観客席から割れんばかりの歓声が轟く、
「さっきは少し焦りました、しかし気に入りました、あなたもお茶会にご招待しましょう。」
クウネルさんのその言葉を最後に俺の意識は闇にしずんでいった・・・