刹那と真名が義切に邂逅した次の日、
ネギは学園長に呼び出された、何でも紹介したい人が居るらしい。
「いったい誰なんだろうね、カモ君?」
ネギは肩のオコジョ、アルベール・カモミールに話しかける。
「いやぁ、俺っちに言われても分かんねーな。」
学園長室の扉を開けて中に入る、すると室内には学園長、刹那、木乃香、そして赤い髪の少年義切がいた。
「おぉ、来たようじゃなネギ君、では紹介しようこちらが・・・」
「始めまして、漆川義切と言います以後お見知りおきを、ネギ・スプリングフィールド先生。」
そう言うと義切は頭を下げた、
「あ、こちらこそ。」
ネギも頭を下げる。
「さて義切君、依頼ことじゃが・・・」
「依頼?」
ネギはなんのことか分からず首を傾げる、
「それは俺から説明しましょう。」
義切はネギの正面に立ち、説明し始めた、
「まず、説明を始める前に俺の仕事の説明からしなければならないんですが、遊撃士という組織はご存知ですか?」
「遊撃士、ですか?聞いたことはありません。」
ネギは知らない様子だったが、カモが遊撃士という単語に反応した、
「遊撃士ってあの遊撃士か!?」
「カモ君知ってるの?」
「ああ、遊撃士っていやぁ・・・」
遊撃士協会は主に魔法世界で活動している組織であり、表立ってはいないが現代世界でも活動している。
遊撃士協会に所属している者は遊撃士(エレフセリア)と呼ばれ、遊撃士は物資の移送などから要人の警護や魔獣の討伐、時には国々の仲裁など多岐に渡り、民間だけでなく国からの依頼も受けるときもある。
遊撃士は個々の技量によりランク分けされており、新人は低いランクから始まり、最高ともなると凄腕遊撃士などと呼ばれるようになる、しかしランクが上がるに連れて危険な依頼は増えていくのでランクを上げるのは楽ではなくなってくる。
「そう、遊撃士は魔法世界を中心に活動する民間組織です。」
「魔法世界!?」
魔法世界という言葉に今度はネギが反応した、
「遊撃士の仕事は多岐に渡りますが一言で言うならば、『人助け』ですね。」
「思い出した、漆川義切といやぁ、15歳で活躍してるっていう注目度の高い遊撃士じゃねぇか!」
カモが興奮したように叫ぶが、義切は自嘲気味に笑う、
「俺なんてまだまだ、世界には俺より強いやつなんてごまんといますよ。」
「話が脱線しました、それで俺は遊撃士として二年前から詠春さんの依頼を受けています。」
義切が少し間を置いてから話を続けた、
「その依頼内容ですが、大まかに二つあります、まず一つ目は近衛木乃香様の護衛を秘密裏に補佐すること。」
「!」
刹那は少し驚いた様な顔で義切を見ていた、一方ネギは義切に疑問を問う、
「秘密裏というけれど、顔を見せてしまっていいんですか?」
「その答えが今日ここに来た理由なんです。」
義切は学園長の方に向き直り話し始める、
「修学旅行の一件の後、俺は詠春さんに追加の依頼を受けました、それが二つ目の依頼、ネギ・スプリングフィールド及び周辺人物の援助、しかも秘密裏ではなく直接顔を合わせて助けてやって欲しいと。」
「学園の防衛?」
「はい、もし学園で何か事件が起こったとき、又起こりそうなとき、さらにその事件が解決されそうにないときに秘密裏に事件に関する痕跡を何一つ残さず解決し学園を守る、もちろん、魔法生徒や魔法先生にばれずに・・・」
事実、義切がこの二年間学園にいて秘密裏に事件を解決していたことはネギや刹那はおろか、魔法生徒や魔法先生達は知らない、たった一人を除いては・・・
「まぁ、一人で学園に潜伏するだけならともかく、一生徒として生活してる上で魔法生徒はともかく魔法先生にバレないようにするなんてのは無理だ、知り合いもいるしな。」
義切の言葉は暗に協力者がいるということを示していた、さらに恐らくはこの場に居る全員が知っているであろう人物、
「そう、想像通り協力者がいるってことです、誰だと思いますか?」
義切が悪戯っぽく口の端を上げて全員に問う、だが誰も分からないようで沈黙が続く
「じゃあヒントです、一、まずは俺を知っている人物、二、情報を改竄できるということは学園内でも一定以上の地位のある人物、三、こんな質問をするということはここにいる全員が知っている人物。」
ヒントを聞きネギ、刹那、木乃香は答えを導き出す、
「まさか・・・協力者って」
「そう、わしじゃ。」
学園長が口を開く、次に木乃香が口を開く、
「おじいちゃんもグルだったん?」
「すまぬのぅ木乃香、しかしこれもお主を危険な事に巻き込みたくないと思ったからじゃ、わかっておくれ。」
「ううん、別にウチ怒ってへんよ。」
「そうゆう訳で学園長の協力もあって俺は二年間誰にも気付かれることなく学園にいたってことです。」
「まぁ俺の仕事についてはこれくらいです、これからよろしく。」
そう言って義切とネギは握手をして学園長室を後にした。
「これで義君も一緒やねー。」
「まさか二年も同じ学園内に居たのに気付かなかったとは。」
「三人は知り合いなんですか?」
「義君は幼馴染なんよ。」
そう、義切と刹那、木乃香は幼なじみで幼少期は共に京都にて育った、その後義切が10歳のとき彼は遊撃士になった、遊撃士はその性質上忙しい、ましてやランクの低い遊撃士には簡単な依頼が優先して回ってくるので当時の義切は多忙を極めた、次第に二人に会う機会は少なくなっていき、ランクが上がると移動することも多くなり一カ所に留まることが少なくなると連絡の回数も少なくなって義切がどこにいるのか二人にもわからなくっていった、実際には二年前から学園にいたのだが。
「そうだったんですか。」
そう言って各々が自分等の教室に向かおうとして別れようとしたときに刹那が義切に声を掛ける
「義切!」
「ん、なんだ?」
「さっき言っていた護衛の補佐、あれはどういうことだ?」
「どういうことも何もそのまんまの意味だよ、まぁ気にせずにいつも通りに過ごせばいいさ。」
「・・・そうか。」
刹那は何か納得いかない様な感じだった、
「何はともあれ、刹那も木乃香様もネギ先生も何か困ったことがあれば連絡くれれば良心価格で力になりますよ?」
「えっ、お金取るんですか?」
「冗談です。」
じゃあなと言い義切は三人と別れ、男子校舎に向かった。
数日後、ある日の昼休み・・・
義切は昼食をとるべく食堂に来ていた、
「ラーメン、醤油で。」
「あいよ。」
しばらくして出来上がったラーメンを受け取って席に座る、するとクラスメートが隣に座ってきた。
「今日はお前も食堂で昼食か。」
「カズお前もか、お互い大変だな。」
カズと呼ばれた少年、名前を風原 一騎という、剣道部に所属する義切の親友である、そして何よりも二人の共通点は・・・
「真夜中まで仕事の依頼が来るのは勘弁してほしいよな。」
二人とも遊撃士なのである。
ふだん二人は弁当を自作して持ってきているのだが夜中まで依頼が入っていると翌朝弁当を作っている暇が無くなり、結果的にその日の昼食は食堂ということになるのであった。
prrrrr・・・
その時義切の携帯電話がメールの着信を告げる、
「誰からだ?」
義切は携帯を開き、新着メールを確認する、
「なん・・・だと・・・」
画面を見て固まる義切、何事かと一騎が画面を覗き込む、
メールの差出人は刹那からであった。
今日の夜、仕事を受けることになった、
手伝ってもらえるならば返信してくれ。
と書いてあった、
どこもおかしい所は無い、しかし義切は固まったままだった、
「どうかしたのか?」
義切の様子が変なので一騎が声を掛ける、
「あいつ・・・メール使えたのか・・・」
「おいおい・・・」
バカにし過ぎである、
「特に今日は仕事は入って無いみたいだし手伝ってやるとするか、大丈夫だぞっと。」
返信して暫くするとまたメールが来た、
感謝する、今日の午後10時に世界樹のある広場まできてほしい。
とのことだった、
「了解っと。」
返信して手早く残っていた昼食を食べて二人は教室に戻って行った。
六時限目も終わり、放課後。
「義切、じゃーなー。」
一人の男子生徒が義切に挨拶した。
「おう、じゃあな、また明日。」
軽く挨拶を返し帰路に着く、
義切は寮ではなくエヴァンジェリンの様なログハウスに一人で住んでいる為他の生徒とは帰り道が異なる。
家に着き玄関の扉を開ける。
「ただいま、つっても誰も居ないけど。」
暇を潰し夕飯を作り、食べ終わった頃には8時半になっていた。
服を着替えてハーフコートの内側にあるホルスターに対妖魔用の術の施された銃弾の装填されたハンドガンをしまう。
義切の着ているハーフコートは特別製のもので見た目や触り心地は普通のハーフコートと変わりないが対魔術の効果がある素材で作られており、魔法障壁の代わりになる、さらにコートの内側と外側に武器や道具をしまえるポケットやホルスターなどが多めに作られている機能性が高いコートであり、仕事の際の義切の正装である。
そして部屋の壁に立て掛けてある群青色の刀、義切の愛刀である朧火という名のこの刀は普通の刀より刀身が長く、刹那の使っているような所謂野太刀である、この刀も特別製で義切の為に作られた専用の刀である、刀身はトラコニュウムという魔法世界で採れる希少な鉱物を使用している、この鉱物は魔力や気の伝導率が高く、刀身に魔力や気を纏わせた斬撃、所謂魔法剣と呼ばれる技の際に無駄な魔力を使わず刀身に力を纏わせることができる、さらにトラコニュウムは純度が高くトラコニュウムで出来た武器は高い切れ味を誇る。
朧火を手に取り、靴を履く、この靴も特注品であり、つま先と踵の部分に鉄製のプレートが付いている、このプレートは重心を安定させると同時に蹴りの威力を上げる効果がある戦闘用の靴である。
用意が終わったとき、時刻は九時を過ぎていた、義切は家を出た。
そして世界樹広場に着く、すでに刹那と真名がそこにいた、
「よぉ、二人共。」
手を上げて義切が二人に挨拶する、
「来たか、任務の手伝い感謝するよ。」
「いやいや、それより、敵はどれぐらいいるんだ?」
「昨日確認しただけでも約三十体位。」
「結構な数だな。」
時刻は午後九時五十分、
「そろそろ時間だ、場所は何処だ?」
「・・・ここだ。」
義切が後ろを振り返る、そこには妖魔の大群がいた。
「昨日より数が多いな。」
刹那が夕凪を構える。
「おーおー、いるいる、・・・見えるだけで四、五十はいるなぁ、でも下級だけじゃねぇか。」
「二人共、準備はできてるか?」
義切と刹那は答える。
「いつでも。」
「いける。」
「では、行くぞ!」
三人が跳ぶ、真名は空中で二丁拳銃を取り出すと同時に妖魔に撃つ、その弾丸により妖魔が二体消滅した。
刹那が夕凪を振るい妖魔を切る。
「おっと、早く参加しないと来た意味がないな!」
義切は朧火を抜刀し構えて魔力を込める、すると朧火が炎に包まれる、義切が最も得意な技の一つ『紅蓮剣』である、義切は幼少期に刹那と共に神鳴流を学びそれと様々な技術を融合させ我流として発展させた、この紅蓮剣は神鳴流の雷鳴剣を元にした技で雷を刀身に纏わせる雷鳴剣に対し、紅蓮剣はその名の通り刀身に炎を纏う、
「燃えろっ!」
朧火を振り下ろすと衝撃と共に纏っていた炎が妖魔に襲い掛かり何体かが燃えて消える、
更に義切は妖魔に素早く接近し、左手でパンチを繰り出し妖魔を吹き飛ばす、すかさずハンドガンを取り出して妖魔を撃ち抜く。
「流石だな、こちらも負けてられない!」
刹那と真名も負けじと妖魔を次々と消し去る、
義切が妖魔に囲まれるが、義切は余裕の笑みを浮かべていた、
「わざと囲まれてやったのに気づいてないのか?」
義切が朧火を振るう、すると熱風が巻き起こり周囲の妖魔を一斉に燃やした、義切の得意とする技の二つ目『紅葉』である、こちらは百裂桜花斬を元にした技で、周囲の敵を斬ると同時に熱風で焼くことにより威力を上げた技である。
「これで終わりか。」
最後の妖魔を消し去り、刹那が夕凪を鞘に収める。
「ふぅ、んじゃお疲れ~。」
朧火を収め、帰ろうとする義切に真名が声を掛ける、
「漆川、ちょっと待て、まだ話がある。」
「なんだ?」
「明日も手伝ってもらえるか?私は別の仕事があって出れないんだ。」
「別に構わないぜ、時間と場所は今日と同じでいいのか?」
「ああ、すまないな。」
「刹那一人じゃ心配だからなぁ。」
義切が溜め息混じりに言うと、刹那は少し顔を赤くした、
「なっ」
「どうした?顔が赤くなってるぞ。」
意地の悪い笑いを浮かべ義切はふざけて言う、
勿論刹那は怒り心頭である、
「義切!」
「悪い悪い、冗談だ、半分はな。」
「え・・・?」
刹那が確認する間も無く義切は二人に挨拶すると帰ってしまった。
次の日
義切は昨日と同じ場所に向かう、
そこには昨日と同じように刹那がいた、勿論真名は居ない、
「よう、今日も早いな、待ったか?」
「いや、別に。」
時刻は九時半、昨日は指定された時間の少し前に着いた、刹那と真名が二人で来ていると思ったからだ、しかし今日は真名は居ない、いくら剣の達人でも女の子を夜中に一人待たせるというのは男としてまずいだろうと思ったので昨日より早く出て余裕を持って30分前に着くようにしたのだが、刹那は義切の予想を上回っていた、
(早く来たつもりなんだがな、次はもうちょい早く・・・)
と思っていると、刹那が声を掛けてきた、
「義切。」
「ん、何だ。」
「昨日言っていたこと、あれは・・・どういう意味だ?」
「昨日言っていたって、なんのことだ?」
「昨日最後に言っていただろう、半分は冗談だって。」
刹那が少し顔を赤くし顔を背けながら聞くのを見て、義切は少し笑った、
「あぁ、そのことか、あれはな・・・」
言いかけるが二人は気配を察知して刀に手をかける、
「奴さん、随分タイミング悪いねぇ、いや良いのか?」
「今日は気配が違う、上級が来るか?」
二人は背中合わせになり死角を補い合い、どこから来ても迎撃できるように構える、しかし気配はするものの、妖魔が現れることはない、
「っ!囲まれたか、面倒だな。」
気付いた頃には二人は妖魔の大群に囲まれていた、
「数も多いし、上級の妖魔までいやがる、チャンスとばかりにこっちを潰しに来たな。」
「どうする?」
「時間を掛ければ人数が少ないこっちが不利だ、一気に上級の奴らを片付けたい、いけるか?」
「もちろんだ。」
「なら、行くぞ!」
二人は抜刀し構える、狙うは上級の妖魔が集中している所、飛び込むタイミングが重要となる、義切が集中してタイミングを計る、二人と妖魔は膠着状態になる、
「・・・・・今だっ!」
義切の合図と共に二人が跳ぶ、
「俺が合わせる、桜花斬だ!」
「ああ、わかった!」
突然のことに妖魔の群が怯む、その隙を逃さず刹那が妖魔の群れの中に降り立ち、技を繰り出そうとする、
「百烈・・・」
義切も降り立ち刹那の動きに合わせて技を繰り出す、
「紅蓮・・・」
風が巻き起こり周囲にいる妖魔を巻き込む、
「「桜華斬!」」
桜が舞い敵を切り裂き、熱風が桜の花びらと共に敵を燃やし尽くす、
「よし、強いのは片付いた、後は手分けして叩くぞ!」
「わかった!」
二人は別の方向へ跳ぶ。
その状況を観察しているものがいた、
「ガキどもめ、邪魔しおって。」
そのローブの男は一昨日、昨日、そして今日現れた妖魔を操っていた術者であった、その男は気配を消して気付かれない距離まで近寄った、
「遊撃士がいるなど想定外だ、ふん、俺が捕まるのも時間の問題か、ならば、あの小娘だけでも。」
男は刀を抜き一気に飛び出し刹那目掛けて突進する、
「何!」
最初に気付いたのは義切であったが、刹那と距離を離しすぎ、男の攻撃を妨害するのに間に合わない、
(あれは、対魔用の刀か!?まずい!)
刹那は人間と烏属のハーフである、勿論その体には魔属としての血も流れている、対魔用の武器による攻撃も純魔属とまではいかないが、十分に致命傷になりうる可能性がある、下手をすれば死に繋がる。
次に気付いた刹那だが妖魔を相手にしていたので反応が遅れた、
(駄目だ、回避が間に合わない!)
刹那は目を瞑った、
「刹那っ!」
「道連れにしてくれる!」
義切は刹那に駆け寄ろうとするが、それより早く刀が振り下ろされる、
(何だ、痛みを感じない?)
「なっ!?」
目を開けた瞬間、刹那は驚愕した、目の前では義切が身を挺して自分を庇い斬られていたのだ、
「ぐぁ・・・。」
「何だと!」
男も驚愕している、義切は倒れそうになるが片足を前に出し、踏みとどまる、
そして男の刀を掴むとへし折り、男に渾身のパンチを打ち込む、
「ごふっ。」
男は吹っ飛び気絶した、
「後は学園側がなんとかしてくれるだろう。」
「義切!大丈夫か!?」
刹那が義切に駆け寄る、義切は背中に大きな切り傷を負いそこから血が流れて地面に滴り落ちていた、
「はっ、問題ない、これくらいで・・・ぐっ。」
義切が倒れこむ、それを刹那が抱えた、
「なんであんな無茶を!」
「知れたことだ、あんなもん烏属の血を引いてるお前が食らえば、タダではすまんぞ。」
「それなら義切だって!」
そう、実は義切も人間と烏属、両方の血を引くハーフなのである、だからこそ刹那の弱点や苦悩などを一番よく理解できる、
「体使って、お前を守れたんだ、言うことねぇさ、それにな俺は人間の血の方が濃いんだ、こんなものただの切り傷だ。」
「くっ、とにかく治療を!」
刹那は義切の腕を掴み肩組みした、
「歩けるか?」
「あ、ああ。」
「とりあえず義切の家へ行こう。」
刹那は義切を半ば引きずりつつも義切の案内で家へ向かった。
義切の家に着き刹那は義切を床に座らせ、背中の傷を診る、
「酷い傷だな。」
上半身の服を脱がす、切り傷から結構な勢いで出血している、
血を拭き取り止血剤を傷に塗る、
「痛っ・・・。」
「我慢してくれ。」
止血剤をしまい包帯を取り出し体に巻く、
「あた、あいたたたた、もうちょっと丁寧にできないか?」
「う、うるさい、贅沢言うな。」
包帯を巻き終わり、義切をベッドへ寝かす、
「悪いな。」
「いや、謝るのは私の方だ、もうちょっと早く気付いていれば・・・」
「気にするな、俺が勝手にやったことだし俺もお前も生きてる、それでOKだろ?」
「そう言ってもらえると・・・助かる。」
刹那は俯き黙ってしまう、暫く沈黙が続いたが義切がその沈黙を破る、
「なぁ、刹那。」
「ん、何だ?」
「昔の頃さ、俺はお前とある約束したの覚えてるか?」
「約束?」
「そう、約束。」
義切がゆっくりと語り出す、
今より約十年前
義切、刹那共に五歳の時、二人は詠春に拾われ共に神鳴流の道場にて日々修行に明け暮れていた、そんな中、二人は将来の夢について語り合っていた、語り合っていたといってもまだ小学生にもならない子供である、そんな仰々しいものではなかったが幼心の内に確かな夢があったのである、
「あんな義君、うちな夢があるんや。」
「へぇ、どんな?」
「うちが大きくなって、もっともっと強くなったらお嬢様を守るんや。」
そう言って笑った、それを聞くと子供の義切も夢を語る、
「それなら僕が大きくなったらせっちゃんを守る、それが僕の夢だ。」
「うん、約束やで。」
そう言って二人は笑い合った。
「まぁ、十年も前に五歳の子供がしたどこにでもあるようなありふれた約束、だけど俺は鮮明に覚えてる。」語り終えたとき、義切は目を閉じていた。
(そうか、護衛の補佐の本当の意味、お嬢様を守る私を守るということ、私が必ずお嬢様を守ると信じて、そして十年前からその約束を守ってくれている・・・)
義切の言葉の真意を知り、刹那は微笑む、その頬には涙は伝っていた、
「・・・ありがとう、義切。」
しかし返事は返ってこない、
「寝てしまったか。」
次の日
部屋に朝日が差し込んでくる、
「うーん、朝か。」
義切は起き上がった、
「いたた、時間は・・・」
時計の針が八時半を指していた、
「やばっ、学校が・・・」
言いかけたがカレンダーを見て安心する、今日は土曜日だったのだ、
ふと傍らを見る、そこでは寝息を立てて刹那が寝ていた、
「一晩ずっとここにいたのか。」
そんな刹那を見て義切は微笑む、
「ありがとな・・・」
「ふふ、どういたしまして。」
「うわぁ、起きてたのか!?」
刹那が笑いながら顔を上げる、
「い、いつから起きてた?」
義切が顔を真っ赤にして聞く、
「学校があると思って焦ったところから。」
「ほぼ、全部じゃねえか。」
「さすがに朝になったらお腹空いただろう、何か作ってくる。」
椅子から立とうとしたしたとき、床に置いてあった救急箱に足が引っかかり倒れかけたのを義切が受け止めるが体勢を崩した、
「っ!」
そのせいで二人の顔が近くなる、
「傷・・・大丈夫・・・か?」
刹那は顔を赤くして言った、
「ああ・・・だいぶ良く・・・なった。」
義切の顔も真っ赤になっている、
二人の心臓の鼓動が高鳴る、次の瞬間、
ガチャ、
「義君、だいじょーぶなん?ふぇ?」
部屋のドアが開き最悪のタイミングに木乃香が入ってくる、
「え!?」
「げっ!」
驚愕する義切と刹那、木乃香は二人の状況を見て顔を真っ赤にした、
「ご、ごめんな、う、うちはなんも見とらんよ、ごゆっくり!」
谷○ばりの勢いで木乃香は慌てて部屋を出て行った、
「え!?ちょ!お嬢様!」
「あ!おい!」
刹那が追いかける、それを義切が追う、
「明日菜、ネギ君、帰ろ、うちら邪魔みたいやし。」
木乃香はリビングにいた明日菜とネギに言って帰りを促す、
すると後ろから刹那が出てきた、
「あれ、刹那さんなんでここにいるの?」
明日菜が理由を聞こうとするのを慌てて木乃香が制する、
「邪魔したらあかん明日菜!」
「ああ、そうゆうこと・・・」
瞬時に状況を理解(誤解)した明日菜は顔を赤くする、
「ご、誤解です!」
刹那が弁解しようとするが、勘違いした二人は止まらない、一人状況が飲み込めないネギが不思議そうな顔をしてる、
「木乃香さん、どういうことですか?」
「ネギ、邪魔しちゃ駄目よ、帰ろう。」
明日菜が帰ろうとすると、部屋から義切が出てきた、
「まってくれ、本当に誤解なんだ!」
「ほな、うち等帰るから、ごゆっくり。」
「待ってください、木乃香様ー!」
「誤解です!お嬢様!」
「明日菜さん、どういうことなんですか?」
「あんたにはまだ早いわよ!」
「「ちがぁーう!」」
義切と刹那の声が虚しく木霊する・・・。