シャドウミラーの襲撃から数日たった。
普段と変わらない学校からの帰り道、義切は悩んでいた。
(あの時、互角に戦えていたが、あのまま続けていたら勝てる自信はなかった、魔裝機が本調子じゃなかったようだからよかったものの、次戦うことになればどうなるか・・・)
そう、アクセルと戦闘した後危機感を感じていた、決して劣っていた訳ではない、しかしそれは魔裝機が完璧ではなく相手が本気を出せなかったからであり、もし本気を出されていたら殺されていてもおかしくなかった、アクセルはそれ程の使い手だったのだ。アクセルに対する対策を考えているうちに家に着く、鍵を開けようとして異変に気付く、
(鍵が・・・開いてる?)
確かに出るとき鍵は閉めたはずだ、しかし今家の鍵は開いている。
そこで義切は一人の女性の顔を思い出す、
「そういや、今日帰ってくるんだったっけ・・・」
そのまま家に入りリビングに向う、案の定そこには予想通りの人物がいた。
「おかえり、いやただいまか?レイ。」
「ん?あぁ義か、ただいま、そしておかえり。」
レイと呼ばれた、少し薄い色の赤髪のストレートロングの髪型をした女性はリビングのソファに座ってTVを見ていた。
義切は軽く挨拶を交わし、自室へ戻って着替えを済ませた後再びリビングへ向かい、レイに話し掛ける。
「楽しかったか?箱根は。」
「うむ、流石観光地といったところじゃ、お土産はそこに置いてあるぞ。」
「お、サンキュー。」
レイは義切の同居人で相棒である。
彼女は大の旅行好きで暇を見つけてはあちこち旅にでる程である。
今回も今日まで箱根へ旅行に行っていたのだ。
義切はお土産と思われる袋を一つ取って中身を確認する、
「山葵チップスって、お前・・・」
「そーいえば、麻帆良に帰ってきたら用事が有ったんだ、付き合ってくれ。」
「別に良いけど。」
そういって二人は街に出た。
そしてレイに連れられてやってきたのはケータイショップだった、
「そろそろ機種変したかったんだ~。」
義切は呆れていたが、すぐに気を取り直す、
「時間掛かるだろ?俺は夕飯の買い物してくるぞ。」
人の話を聞いているのかいないのか、わかったと言いながら携帯に目を奪われていたレイを見て義切はため息をつきつつケータイショップを後にした。
買い物を終えてスーパーを出ると一匹の猫がうろついていて、義切と目が合うと足下までやってきて鳴きながら義切の足にすり寄ってきた、義切はしゃがんでその猫をなでる、
「なんだお前、首輪着けてないようだし野良か?」
それに答えるかのように一鳴きすると背を向け走り出す、途中で一旦止まり振り向いてもう一回鳴く、
「・・・ついて来いってことか?」
猫を追いかけて建物の間や裏路地を通っているうちに空き地に着いた。
そこには猫達に餌をやっている黄緑色の髪をした少女がいて、義切を案内した猫はさっさと少女の下へ走って行き餌を貰っていた。
義切は少女へ近づいていくと少しおかしなことに気づいた、少女の耳が異様に大きい、いや大きいのではなくカバーというかヘッドフォンというかとにかく機械的なものがついていた、義切が近づくと少女の方も気づいたのか顔を上げる、義切は少女の顔に見覚えがあったがどこで見たか思い出せず必死に頭を捻り記憶を呼び起こす、
「え~と、絡繰・・・茶々丸さんだっけ?」
「え?はい、私を知っているのですか?」
「あぁ、まぁ少し・・・有名だからな。」
義切はネギの支援という依頼を受けている為一応3年A組のクラスメイトの名前と顔を覚えている、さらにロボットで闇の福音の従者となればおのずと頭に入ってくるというものであろう。
「そうですか、あなたの名前は?」
「俺は漆川 義切だ、よろしく。」
義切の名前を聞いた茶々丸は少し考える様な仕草をした後口を開く、
「検索完了しました、漆川 義切、麻帆良学園男子中等部3年C組の出席番号3番。」
「おっ、流石だな俺の名前も覚えているのか。」
「はい、私には学園の関係者全員の名前がインプットされてますから、それで漆川さんは何故ここへ?」
「義切でいいよ、俺はそいつに連れられて来たんだ。」
義切はここに案内した猫を軽く指差して言った、茶々丸はそうですかと言うと再び猫に餌をやり始めた、
「ここの猫達には毎日絡繰さんが餌をあげてるのか?」
「はい、それと私のことは茶々丸で結構です。」
「えっ?」
予想外の言葉に義切は聞き返す、
「ですから私のことは茶々丸とお呼び頂いて結構です、苗字で呼ばれるのは慣れていません、それに・・・」
茶々丸が視線を義切の足下に移す、それにあわせて義切も足下を見ると義切を案内した猫がすり寄っていた、
「あなたは信用に値する人のようですから。」
「そ、そうか。」
義切は照れるのを隠すように頭を掻く、すると携帯電話の着信音が聞こえてきた、
「ちょっと失礼する。」
義切はポケットから携帯を取り出して電話に出る、
「もしもし。」
「あっ、義、こっちは終わったぞ。」
「そうか、じゃあすぐ行くからショップで待っててくれ。」
レイからの電話を切ってポケットにしまって茶々丸に向き直る、
「じゃあ俺は帰るけど、俺もたまに来て構わないかな?」
「はい、構いません。」
「ありがと茶々丸さん、じゃあ。」
「はい、さようなら。」
挨拶を交わした義切はレイの待っているケータイショップへ向かい、レイと落ち合うと空き地の猫のことを話した、
「へぇ、そんなことがあったのか、面白そうじゃから明日私も連れてってくれ。」
「ああ、いいぞ。」
次の日
昨日の約束通り義切はレイを連れて猫のいる空き地へ向かった、やはりそこには先客として茶々丸が来ていたが少し様子がおかしい、焦っているようでオロオロしている、何があったのかと義切りは声をかける、
「やぁ、茶々丸さん、どうかしたのか?」
「あ、義切さん、そちらは?」
「あぁ、こいつはレイ、俺の仕事仲間ってとこだ。」
「よろしくのぅ、茶々丸。」
「それで、茶々丸さん、なんか焦ってたみたいだけど、なにかあったのか?」
「そうでした、実はこの子が・・・」
茶々丸は明らかに困った顔をしながら猫を抱いていた、猫は義切を見て一鳴きしたがあまり元気が無いようだ、よく見ると血が滴り落ちている、よく観察すると猫の前足には少し大きめの切り傷があった、
「怪我をしてるのか、何かに引っ掛けて切っちまったみたいだな。」
「そうなんです、どうしましょう。」
茶々丸は不測の事態なのかかなり狼狽していた、対して義切は冷静にどうするか考える、
「本当は獣医に連れて行った方がいいんだろうが飼っているわけじゃないし・・・、仕方ないか、頼むレイ。」
「いいのか?こんな所で、茶々丸もおるし。」
「見られても大丈夫な人しかいないから頼んだんだ。」
「何をするんですか?」
「まぁ、見てなって。」
レイが目を閉じ集中して茶々丸の抱いている猫の切り傷の部分にてをかざす、そしてレイが何かをしようとするその瞬間・・・
「げっ、雨降ってきやがった!」
いつの間にか空一面に暗く雲がかかっており雨が降ってきたのである、レイは集中が途切れたのか義切に文句を言う、
「あー!お主が大声出すから集中が途切れたじゃろうが!」
「雨降ってるとお前の力弱くなるだろ!しかし困ったな、猫を濡らすわけにはいかないし、一旦どっかで雨宿りするか。」
「ここからでしたらマスターの家の方が近いのでそちらに行きましょう。」
「いいのか?っていうか初対面の人間を入れてくれるのか?」
「私が説明すれば特に問題は無いかと思われます。」
「大丈夫ならいいんだが・・・」
「では急ぎましょう。」
そうして茶々丸の案内により、義切とレイの二人はエヴァンジェリン宅に雨宿りすることとなった、
「只今帰りました、マスター。」
「遅いぞ茶々丸、まったく何をやって・・・ん?」
「ど、どうも~。」
茶々丸の後ろから気まずそうにおずおずと入ってくる義切とレイ、エヴァンジェリンはそんな二人を怪訝そうに睨んでいる、
「なんだ貴様等は。」
「マスター、実は・・・」
茶々丸は昨日と今日あったことをエヴァンジェリンに説明した、しかし説明を聞いてもエヴァンジェリンは怪訝そうな顔を崩すことはなかった、
「そうか、しかし私が初対面の、しかも男を家に入れるわけあるまい、出ていってもらおう。」
(やっぱりそうなるよなぁ。)
「わかった、だけど猫の治療だけさせてくれ。」
「・・・好きにしろ。」
義切が目で合図するとレイは頷き茶々丸の前にいき先程ど同じ様に猫の前足の切り傷のある場所に手をかざすと目を閉じ集中する、
「・・・・・・はっ。」
「!?」
猫の傷がみるみるうちに治っていった、それを見ていたエヴァンジェリンは驚愕していた、
「んじゃ、失礼しました~。」
「ちょっと待て!」
そそくさと帰ろうとする義切とレイを呼び止めるエヴァンジェリン、
「なんだ?」
「魔法でも気でもない、今のは一体なんだ?」
「何って、神通力だけど?」
「神通力だと?」
「その調子だと神のことも知らないっぽいな。」
「神、話は聞いたことはあるが本当に実在するとは・・・」
「神・・・?」
エヴァンジェリンは物珍しそうに、茶々丸は不思議そうにレイを見つめていた、
「二人とも詳しく知らないようだから説明しておこう、ここで言う神とは全知全能で世界を作ったなんていうものじゃなくて、妖精みたいなものだと思ってくれていい。」
「妖精・・・」
「この場合の神は龍脈とか霊峰とかの魔力や気が集中する場所にそれらの力が長い年月を掛けて木等の自然物に蓄積していき、蓄積量が一定量まで溜まったときそこに人々の意識とか願いが流れ込むと蓄積された力は形を持ち、神と呼ばれる存在と成る。」
感心したように頷くエヴァンジェリンだがある疑問を口にする、
「なる程な、しかし力が蓄積されるのはいいとして人間の意識が流れ込むなんて都合の良いことが簡単にあるのか?」
「日本は他国に比べて狭いうえに力が溜まりやすい山が多い、それに昔から日本人はそういう山々に集落を作ってきた、稲作の為に山から来る川の近くに村を作ったり、山中に城を作ったりな、そういう地理的、文化的要因から神が生まれるには事欠かなかった、だから日本は八百万の神の国なんて呼ばれている。」
茶々丸は唖然としており、エヴァンジェリンは話に聞き入っており、さらに疑問を口にした、
「しかし私は神なぞ一度も会ったことが無いぞ。」
「それは神の性質に原因がある、さっき言った通り神は土地に集まった力に人の強い想いが合わさって誕生する、だからその土地と縁で繋がっている為その土地の外に出ると形を維持出来なくなるから神は生まれた土地から動けない、だから神は目撃例が極端に少ない、しかし絶対的な力を持つものとしてそこに存在している、だから人々は山に神社を作り神を崇め、祀るようになった、人々の想いが強くなればそれだけ神の力も増すから神にとっても好都合なんだ。」
「しかしレイさんも神ならばここにいるのはおかしくないですか?」
「普通ならな、神を形をもってこの世に繋ぎとめているのは縁だ、ならば神を生まれた土地から外に連れていきたいのなら新しい縁を作ってしまえばいい。」
「それなら貴様等は・・・」
「そう、仮契約(パクティオー)している。」
暫くの沈黙が続くが考え込んでいたエヴァンジェリンが笑い始める、
「ククク・・・アーハッハッハ!神に博識の坊主か、貴様等気に入ったよ、名前は?」
「漆川 義切。」
「不死鳥の神、レイじゃ。」
「義切にレイか、いいだろう我が家に入ることを許そう。」
「そりゃ有り難い。」
「ただし、私の暇つぶしに付き合ってもらおう。」
そういって茶々丸に合図すると碁盤と碁石が運ばれてきた、
「囲碁か・・・」
「どうせ雨が上がるまで暇なんだ、構わんだろう?」
「私はできんが、義はできるかの?」
「あぁ、カズに付き合わされて何度かやったことがある、退屈させない程度には出来るだろう。」
そう言って碁盤を挟んでエヴァンジェリンの対面に座る義切、エヴァンジェリンは黒、義切は白の碁石を使い対局するのであった、
20分後・・・
「なん・・・だと・・・」
「俺の勝ちだな。」
義切が勝っていた、エヴァンジェリンと茶々丸は唖然としていて、レイは何が起こったのか理解していなかった、
「クッ、もう一局だ!」
「構わんぜ。」
更に二十分後・・・
「負け、か・・・」
「フッ、私が本気を出せばこの程度。」
次はエヴァンジェリンが勝っていた、これで一対一、普通ならもう一回やって勝敗を決めるが、義切は立ち上がる、
「雨が上がったし、これで失礼させてもらう。」
「ちょっと待て、こんな中途半端な所で終わらせはせんぞ。」
「こういう事は次を残しておくのが面白いと思うんだが?」
義切の言葉を聞き、エヴァンジェリンは少し考え込むがすぐに口を開いた、
「ふむ、それも一理あるな、いいだろう決着は次の機会に取っておこう。」
「それじゃあ夕飯の支度もあるし、失礼する。」
「うむ、またいつでも来るがいい、貴様は特別に許可してやる。」
「そいつは重畳だ。」
そう言って別れの挨拶をして帰ろうとする二人を茶々丸が見送る、
「今日は色々とありがとうございました、あんな楽しそうなマスターは久しぶりです。」
「いいってことさ、こっちもエヴァンジェリンさん宅に入れるようになったしな。」
「はい、それにレイさん、猫を治療してくださってありがとうございました。」
「当然のことをしたまでじゃ、生きとし生けるものを救うのが神の務めじゃからの。」
「んじゃ、さよなら、茶々丸さん。」
「はい、さようなら。」
(漆川 義切か、調べてみる価値はありそうだな。)
手を振る義切とレイ、二人にお辞儀をして見送る茶々丸、そして窓からその様子を見ながら思考にふけるエヴァンジェリンであった。