笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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俺はただ狩猟笛を讃えたかっただけなのにどうしてこんなものができあがってしまったのか


笛吹いてたら弟子に推薦された

 これは詳細を省くが俺は転生者で狩猟笛使いのおっさんだ。

 

 

 

 いや詳細を省きすぎだろとか脈絡がなさ過ぎてもはや意味不明だとかそういう意見は受け付けない。

 俺は転生者で、狩猟笛使いで、そしておっさんである。

 大切なのはこの三点で、これさえわかっているなら詳細などどうでもよいんじゃないか。少なくとも俺はそう思ってる。

 この三要素で、俺が一度死んで別世界に転生して、そんでその先がモンハンの世界だったもんだから狩猟笛が得物のハンターとして生計を立てており、おっさんと呼べる年齢まで頑張りなおしたと。

 ここで俺の精神年齢においておっさん+おっさんの式が成り立ち、おっさんという外見に対して思考が枯れ始めているのも致し方なき事。

 それだけの情報が読み取れるはずなのだ。だから自己紹介はあれでいい。

 肝心なのはここからだ。

 俺とてかつてのモンハンブームの経験者よ。なかなか世界観への対応も早いもんだった。やっぱり既知って大事。

 というかこの世界の住民より知っている部分があったりなかったり。

 例えば。この世界においてずっとずっと古くから語り継がれてきた黒龍伝説。今や形を変え誰もが知るおとぎ話。

 どこの誰に聞いたって空想上の怪物、あるいは子供たちを戒めるための童話だっていうだろう。

 

 

 ──かの龍は実在する。 クソ恐ろしいことに転生者の俺はその名を知っている。

 公式が徹底的な情報統制を行い、告知や公式攻略本においても正式名称はおろか特徴などの情報すら皆無という徹底ぶり。

 

 ゲームで遊んでいた当時適当に目を滑らせていた装備詳細テキストの『装備した者は"居るはずのない何か"の存在を感じとり、やがて狂気に身を落とす』という類のものが真実であったと痛感せざるを得ない。

 当時の「ファーww装備説明文のインフレわろすwwww」とか思っていた自分のお花畑っぷりが今や懐かしいよ。いらなかったやいこんな転生特典は。

 というかいかにも黒龍伝説にまつわることは危険でっせと匂わせているが、実は迂闊極まりないことに俺はその名を口に出したことがある。ハンターとしての活動が安定し始めてしばらくのときのことだ。

 ようやく生活の足場が固まってきて、気が緩んでいたのもあるんだろう。マイルームで天井を見つめながら

 

 『やっぱハンターなら最終目標は■■■■■■とか■■■■■かな~なんちってHAHAHA!』

 

 といった具合で。

 

 もうね、アホかと。バカかと。

 直後、シュレイド城のある方角(知らないがきっとそう)からちびるほど(かなり控えめな表現)の圧と視線を感じたよね。ばっちり二つ。

 不思議だなーおかしいなー俺の知る限り亡国シュレイドはギルドが完全封鎖していて、モンスターはおろか古龍すらも立ち入らない領域だったとおもうんだけどナー。

 

 というか名前だって地域によっては詩の内容に記されてたりするジャン?ナンデ?ナンデ?

 アッ、【実在を確信していて】【何処にいるのか知っていて】【姿を明確にイメージしていた】のがキーですか?そうなんですか?だから逆探知されたんですか?

 そういえば実在を知っている人物はいても、その姿を目の当たりにして生還している者は誰一人としていないんでしたね……?

 

 

 とまあ、当時はおっさん×2回分の人生のなかでぶっちぎりトップで焦ったんだが、実際は何か起きたわけでもない。

 いや、以来日にちを跨ぐにつれてどんどんどんどん気配が強まってきて、やがて赤衣の男を連れた黒いドレスの少女と、古めかしい騎士を従えた白いドレスの少女が訪れてきたが特に関係はないだろう。

 彼女らは何か目的があったようだが、俺の愛用の笛【アヴニルオルゲール】に興味を惹かれていたので、一曲奏でてみると満足して帰っていった。彼女らは今でもふらっと現れては音色を聞きに来る。ちょっとした常連だ。

 超がつくほど怪しいが、素性に関しては考えないこととする。

 先日、「特別に許す!」とシュレイド城への招待状として渡された、ひとりでに輝く純白の鱗があらゆるモンスターの鱗の特徴と合致しないことや、それでいて全てのモンスターの鱗の原型として、マスターピースの如く合致することについても考えないこととする。いいね?

 

 そうそう、さっき名前を出したこの【アヴニルオルゲール】にも強い思い入れがある。

 俺がまだまだ青臭かったころ、火山の奥地で一つの巨大な金属塊を発掘した。

 それを持ち帰った時、火山からの帰りの便の船長はでかくて重くて邪魔だから捨てろといわれたが、俺は風化した鉄塊の奥でうすぼんやりと光る花緑青の光を見たときに、これが古代文明の遺産であると確信していたから、無理を言って載せてもらったものだ。あの親父殿には本当に感謝している。

 

 だが、その鉄塊を磨き上げるにも莫大なゼニーと研磨材として大量の【大地の結晶】が必要だった。

 どちらも日々の生活すら危かった当時の俺には到底用意できないものだ。

 だが明確な目標を得た俺のハンターとしての働きは、まさしく獅子奮迅の働き。モチベーションという意味ではあの頃が最高だったと思う。

 ほぼ全てのクエストでどこかに【大地の結晶】はないかと血眼で探し回ったものだ。

 工房で研磨を依頼するときも、その作業に同席させてもらった。

 初めて心臓部の黄金の円盤が露出したときは、目を輝かせて親方と共に手をたたいて喜んだものだ。

 

 やがてその姿を現した【アヴニルオルゲール】の全容は、まさしく異様。

 その機械的な外見もさながら、光を飲み込む漆黒のフレームと金色に輝く巨大な円盤は、他の狩猟笛とは一線を画す雰囲気だった。

 オルゲールの名の通り、息を吹き込むとゼンマイと円盤が回り音を奏でる。

 演奏中は黒いフレームと円盤に赤い文字が浮かび上がるのが、なんとも神秘的だった。

 工房に聞けば、これが何でできているか徹頭徹尾わからないという。

 だがこれが恐ろしく硬質であり、狩り武器として何ら不足がないことは保証してくれた。

 しかもどうやらこの狩猟笛は何らかの情報を受信、それに応じて円盤が変容し、奏でる音楽が変わるという。

 それはパーティにもたらす狩猟笛の支援が不安定になりかねないデメリットでもあったが、むしろ無限の可能性を秘めていると前向きにとらえた。

 そんでどこに行くにしてもこのオルゲールを担ぎまわしてたら、どうやらそれなりには名が知れてきたらしく、知らずオルゲールの男、ゲールマンと呼ばれるようになっていた。

 

 なんかとてつもなく話がそれたな。そう、肝心な話があるんだ。

 というのも俺の使う狩猟笛に関する話だ。

 この世界において狩猟笛使いといえば、とにかく珍しいことで有名だ。

 かの【幻獣キリン】に例えられるほどと言えばわかるか。

 なにせ笛使いとパーティを組むと幸せになれるなんて与太話があるくらいだ。四葉のクローバーかっての。いや四葉のクローバーの方がまだ多いけどさ。

 

 このままでは笛使いが絶滅してしまうと危惧した俺は、笛使いを増やすべく行動してきた。

 具体的には、右も左もわからない新人ハンターを捕まえて笛を握らせ、いくつかクエストに連れていく。

 特にやむにやまれぬ理由でハンターにならざるを得なかった者たちに照準を絞った。

 

 望んでハンターになるような連中は多くの場合、武器や狩りに何らかのこだわりを持っていることが多い。

 だがそうでない者たち、ハンターというものに憧れやら尊敬を持ち合わせていない者にとっては、狩りとは安全がすべてだ。とにもかくにもまずはハンター稼業を安定させて、実家に仕送りやらなんやらをしたがっているはず。

 ──そこで狩猟笛だ。

 サポートに重きを置いた狩猟笛は攻撃力こそ他の武器に一歩劣るものの、狩りの成功率を上げるという一点においては他の追随を許さない。

 ゲームの時と違って正真正銘命懸けのこの世界では、その価値は計り知れない。

 

 昔俺はオルゲールの資金繰りのため一つの街に留まらず、旅をしながらあちこちでパーティに参加してきた。狩猟笛をパーティに組み込んだ時の安定感の違いは昔より知れている。旅の途中俺以外の笛使いを見てないしな!

 今や『絶対に失敗できないクエストには狩猟笛を呼べ』というのがハンターの常識。

 

 何が言いたいってつまり狩猟笛使いが歓迎される地盤は既に整ってるって話よ。

 例えぺーぺーの新人であろうと"狩猟笛が扱える"というただそれだけでパーティの勧誘率がぐんと上がる。というか将来有望な笛使いを囲わんと競争が発生するレベル。幻獣キリンと並び称されるだけのことはあるのだ。

 なんなら重量とリーチの長さに物を言わせて適当に振り回しても強いからな!

 

 熟練の狩猟笛使いは支援旋律を切らさずに演奏でモンスターの気を引き、そしてモンスターの頭に的確に攻撃叩き込むことでめまいを引きおこしチャンスを生み出す。そうして狩りを共にしたパーティはもう狩猟笛のいない狩りなど考えられなくなるだろう。

 この域まで達した笛使いの需要は絶大であり、まさしく引っ張りだことなる。

 そうして狩猟笛の悦びを知った新人ハンターは狩猟笛を尊ぶのだ。

 具体的には新人がやがてベテランとなった暁には、新たに新人を指導するときその手にそっと狩猟笛を握らせることだろう。

 

 つまりまったくそれでよいのだ。

 そしてついには『狩猟笛離れもできてねぇ坊主が』みたいな慣用句が生まれるに違いない。

 そんな妄想をしながら活動し始めたのが数年前。具体的な数字は忘れた。

 教え子の人数も把握してない。一応顔を見ればそうとわかるんだけどな。

 というか新人ハンターを捕まえては強引に狩猟笛を与え扱い方を叩き込んでるだけだしな。もはやテロである。

 しかしこんな乱暴なやり方でも当初の目的通りにいっているらしく、時折俺の居場所を突き止めて礼を言いに来る奴がいたり、感謝の手紙が届いたりする。

 そうして今も、俺の教え子が訪ねてきていた。

 

「師ゲールマン、お会いできて嬉しいです」

「久しいな。最後に会ったのはユクモ村のときか?」

 

 タマミツネの装備で身を固めた女性だ。精悍な顔立ちが印象的な美人といえる。

 前に会った時はジンオウガの装備だったと思うが、新調したらしい。彼女は新人の時から定期的に俺の元を訪れているが、その度に身に着けている装備が変わり、身体つきもよりハンターとしても女性としても成長していた。

 彼女に狩猟笛テロを仕掛けたのはまだ少女と呼べる年齢だったし、成長期真っ盛りなんだろう。

 ずっと変わらないのはその静謐な印象と、背中の武器。

 

「お前はずっと、バグパイプだな。変えないのか?」

「師のくださった大切な狩猟笛です。それに銘もフォルティッシモに変わりました」

「確かにフォルティッシモは良い笛だ。相手を選ばぬ安定した性能に、対応力の高い攻防一体の旋律効果。鉱石で強化しやすいのも良い。だが──」

「──師よ、私はこれで良いのです。これが良いのです。

 この狩猟笛こそが私のハンターとしての全て。私の魂の場所なのです。

 好きな笛を、好きなように吹く。私たち狩猟笛使いはずっとそうしてきて、これからもずっとそうしていくのだと。そう教えてくださったのは、他ならぬゲールマン師ではないですか」

「──そうか、そうだったな。

 無粋なことを言った。忘れてくれ。」

 

 教え子が想像以上に狩猟笛カッコガチになっていてビビったとか言えない。

 軽い気持ちで与えた量産型のメタルバグパイプをあそこまで大切にされるとなんか心が痛むよね。

 しかも出来るだけ元の形を損なわない方向性の加工までしてるのがなんだか重……いやなんでもない。

 それにフォルティッシモが良い武器だという武器評も本当のことだしな。

 

「それに他の笛を持っていないというわけでもありません。ただ使う気が起きないというだけです」

 

 余計重くない??

 コレクションってわけでもないんでしょ??

 俺ひょっとして結構やべえやつを弟子にしてしまったのかな??

 眠れるディアブロスを高周波で叩き起こしてしまったのかな??

 

「しかし俺としたことが、そんな当たり前のことを忘れるとはなぁ。

  いよいよ焼きが回ったかね。ハンター稼業もここらで引退どきか「師よそこでお話があるのです」

 

 随分食い気味ですねぇ!?

 

「実は私、この度ハンターギルドより新大陸古龍調査の第五期団として推薦を頂いているのですが」

「ほ、ほう。栄誉なことじゃないか」

「師を引率の特殊アドバイザーとして推薦、無事認可されました」

「うん?」

 

 えっ?今なんて言った?

 

「帰りの便はありませんので、よろしくお願いします」

 

 

 




果たしては彼は招待状放ってどっかいっても大丈夫なんですかね

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