笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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最後に更新したのアイスボーン発売前だった去年の四月ってマジ???




蟻塚の調査

「……これだけ? 私が懇切丁寧に語ってやった内容の一割も使ってないではないか」

 

 アイリーンの苛立ち交じりの声は、音の無い大蟻塚の荒地には良く響いた。

 

 古い木の甘いにおいを乗せた夜風が、そびえたつ蟻塚の隙間を音を立てて通りぬける。

 夜の大蟻塚の荒地は、月明かりを受けて白く輝いていた。

 周囲には苛烈な狩りの痕跡が残っており、傍らに立てかけられた絶衝鼓【虎舞】には赤黒いフォルムを一層赤く変える血化粧が施されている。

 

 今回は大蟻塚のふもとに確認されたゾラ・マグダラオスの痕跡の調査が目的である。既に障害となりうるモンスターの討伐は完了しており、今は狩りを終えたあとの、小休止のひとときであった。

 

「さっきから何読んでるんですか?」

 

 アイリーンの零した独り言に興味をもったセレノアが、狩猟笛に付着した血を拭う手を止め、アイリーンの手元の本に視線を合わせる。

 

 果たしてそれはケバケバしいデザインの表紙だった。赤や黄色など目に刺さる痛々しい原色をこれでもかというくらい敷き詰めてある。

 言い方は悪いが、チープな本だった。

 あまり視界にいれたくない類の配色だったが、それでもセレノアは興味を惹かれたので、悪趣味かつ大げさに変形されたタイトルを読み取ってみることにした。

 

「『古今ハンター大全』……ですか」

 

 口に出して読んでみたところで、アイリーンから溜まり切った不平不満をいっしょくたにしたようなため息を共に本を投げ渡された。

 

「その題目通りさ。各地で活躍するハンターの勇姿と逸話を集め記した本だ」

「はぁ……」

 

 これが? と言いそうになったのをセレノアはぐっと堪えて、パラパラとページをめくってみる。

 セレノアの予想に反してその内容はしっかりとしたものだった。ハンターの人となりや狩りの逸話が独特の雰囲気のある文章で端的に紹介されており、傍らには装備の細部まで丁寧に描かれた挿絵もある。挿絵の出来映えはとても完成度が高く、モンスターの素材を利用した武器防具の特徴をよく捉えている。

 

「なんとギルドからのバックアップを受けた書籍さ。挿絵は王立書士隊が担当している」 

 

 下品なデザインの表紙からは想像もつかないほどの上質な出来栄えの理由はそれだった。

 

「表紙で損してますよね、これ」 

「村の英雄たるハンターの在り様に憧れる、年若い少年少女に向けた本だとさ」

 

 改めてセレノアは本の表紙を眺めてみる。確かにしつこいほどに主張するこのデザインはチープでげんなりする要素ではあるが、カラフルで大仰な構成は無邪気な子供の興味を引くには適しているだろう。

 

「私が納得いかんのは先生の項目だ。あのすっとんきょう共、先生の情報が欲しいと言うから快く取材に応えてやったというのに……。ふん、体のいい広告塔にされたらしい」

 

 アイリーンがそう吐き捨てる。本の内容に目を通せば、アイリーンとシルリアの二名は大きくページを使って大々的に特集が組まれてることがわかった。

 

 両名は女性でありながらトップクラスの実力を持つ敏腕のハンターであり、近年急速に話題を集めている狩猟笛の使い手である。付け加えるならば彼女らは固定パーティを組まずに各地を流浪する流れのハンター。

 個人やペアで活動するハンターであれば、運が良ければ狩りを共にできることもある。

 じわじわと数を増やす女性ハンターと、美女を侍らすことを夢見る男性ハンター。その両方から憧れの眼差しを向けらている。

 

 そうした背景から、この本では二人を重点的に起用しているのだろう。話題性は抜群である。

 

 対するに先生もといゲールマンの項目だが、大変遺憾なことにかなり後ろの方のページに小さく区切られ、他の有象無象ハンターと一緒くたにされていた。

 羅列した文字列に素早く目を通す。その文章量及び情報量はごくわずか。

 先述のアイリーンたちとは比べるべくもない。

 

 

『ゲールマン』 

 年々増加傾向にある狩猟笛使いのハンターにおいて、今なお最強の呼び声が高いハンター。

 狩猟笛という狩猟武器の先駆者としても知られる。

「歩く絶対クエスト成功する券」「一番新しい古龍」など、耳を疑う大げさな通り名の持ち主。

 

 一方で、現代においてはその活躍を目の当たりにした者はごく少なく、若年層にはその実力を疑う者も多い。

 

 

「いや、全然じゃないですかこれ」

 

 文面に目を落としたセレノアも、アイリーンとまったく同じ感想を抱いた。

 確かにこれはひどい。確かに間違った事は書いていないものの、これでは偉大なる師の偉業がなにひとつとして伝わらないではないか。第一にスペースが少なすぎる。見開きはおろか、丸々本を一冊書くべきだろうに、この分量はいったいどうしたことだ。

 それだけでも業腹なのに、書いてある内容のほとんどが曖昧で中身が伴っていない。

 まさかアイリーンが師の語りに手を抜くとは到底思えないので、これは明らかにインタビューをしたものの怠慢。アイリーンが憤慨するのもわかるというものだ。

 

「余裕だな。苛烈な狩りだったと記憶しているが」 

 

 セレノアがアイリーンと気持ちを同じにして憤激していると、男性の低い声が耳に入った。

 声の持ち主の名はルート。今回の大蟻塚の調査を共にしたハンターである。

 

「そうかね? 相応に楽をさせてやったつもりだったが」

 

 セレノアに代わり、手持ち無沙汰となったアイリーンがルートに応える。

 

「ああいや、随分と助けられた。……狩猟笛。話には聞いていたが、噂以上だったよ」

 

 黒い骨の『ドーベル装備』に身を包んだルートが感慨深げに言う。

 

「狩猟笛とパーティを組むのは初めてと言っていましたね」

「ああ。今回は修羅場になると踏んでいたが……当てが外れた。嬉しい誤算だ」

 

 ルートも酒場のハンターたちが大げさに狩猟笛使いの存在を囃し立てているのは聞いたことがあった。命が惜しけりゃ笛使いを捕まえろ。初めにハンターを志して間もないとき、そう声を掛けられたことは覚えている。

 

 だが狩猟笛使いというのは絶対的に数が少なく、そこからフリーの者となるとまず目にすることはない。

 一度でも狩猟笛使いとの狩りを経験したパーティは、以後血眼となって笛使いをパーティに加えようとする。だからこそ狩猟笛使いは固定パーティを組んでいる場合がほとんどで、滅多に狩りを共にすることはできない。

 

 ルートはまさにそれで、噂ばかりは聞くものの肝心の機会はないままベテランと呼べる実力までのし上がっていた。

 だが、そこでアイリーン達との狩りである。

 

「連中の言葉は、決して大げさなんかじゃあなかったな」 

 

 彼女らの組織だった活動は広く世に知れている。アイリーンら姉妹に限らず、月の狩人を師と仰ぐ彼女らは卓越した技量を持つ一方で固定パーティには属さず、街から街を渡る流れの狩猟笛使いたちだった。

 

 目的はと問えば、皆一様に布教するためと答える。すなわち、ゲールマンに始まり興った狩猟笛の価値の布教だ。

 その活動は正しく実を結んでおり、事実狩猟笛使いをパーティに求めるハンターたちは枚挙に暇がない。そしてそれは、なによりも彼女らのハンターとしての実力の高さに依る部分が大きかった。

 

 他の武器に無い狩猟笛の特性は、まさしくその支援能力にある。

 ライトボウガンや操虫棍などの武器にも支援行為は可能だが、狩猟笛のそれは他の追随を許さない。攻撃強化や強走に始まり、寒冷・温暖適応や防音などその範囲は多岐に渡る。

 

 押し迫る脅威を正面から斬り伏せんとする豪腕の大剣使いに、更なる破壊力で以ってそれを約束しよう。

 舞うようにしなやかな斬撃を繰り出す太刀使いには、会心を見切る達人の世界に至らしめよう。

 攻守を併せ持つ片手剣は、これより攻防一体の『汎用』を『全能』の域へと押し上げよう。 

 鬼の如き連撃が閃く双剣に、訪れる乱舞の終わりを忘却させよう。

 

 砦と見紛う防御を構えるランスを、何物にも怯まぬ剛体を伴った無敵要塞に作り替えよう。

 烈火の息吹で吠えるガンランスの前には、めまいを起こした無防備なモンスターを差し出そう。

 天を貫く剛角をさえへし折らんとするハンマーに、咆哮も意に介さぬ横行覇道を用意しよう。

 変形を活かした猛攻を繰り返す剣斧に、おのずと傷の癒え続ける不滅の狩りを許そう。

 

 合体と分解による威容が映える盾斧に、致命の逸れる加護の下で大技を振舞わせよう。

 縦横を闊歩する操虫棍は、無尽蔵の体力で今日から好きなように好きなだけ空を舞わせおう。  

 大地を右へ左へ駆ける弓に、弦を幾度引こうと緩まぬ剛腕を贈ろう。

 一心に弱点を穿つボウガンが、ただそれだけに没頭できる環境を構築しよう。

 

 こんな狩りの経験を忘れられるハンターが、いったいどれだけいる?

 どの武器であろうと抱える、大小さまざまな悩み。その悉くを、狩場に響く旋律がかき消す。

 これが狩猟笛という武器の真髄だった。

 

「こんな楽な狩りをしたのは初めてだったぜ」

 

 ルートの使う武器は大剣である。大剣はどうしようなく重く巨大な武器であり、代償に動きは鈍重になる。咄嗟の逃走ができなくなるため必然的に命の危険も大きい。だからこそ大剣使いにはパーティメンバーのフォローが不可欠だった。

 

 狩りにおいて、ハンターは常に余裕という言葉とは無縁の環境に置かれる。人間という脆く矮小な存在がモンスターという大自然の暴威を相手に命の取り合いをしようというだから、それは自明の理である。

  

 重尾を斬り落とす剛剣も、堅殻を砕く鉄塊も大いに結構。だが、世にあまねくハンターたちが心底から欲するものはそれではない。

 必要なのは使いきれぬほどの莫大な金銭でも、希少なモンスターの幻とさえ語られるレア素材でもない。

 

 それらを五体満足に生きて持ち帰る力だ。

  

 ハンターの能力を後押しする狩猟笛の存在はありがたいものだが、裏を返せばなくてもよい存在でもある。それでも多くのハンターたちに求められるのは、狩りをより快適にする狩猟笛の存在がハンターの生存率の向上に大いに貢献するからだった。

 

「一つのパーティに二人の狩猟笛なんて、そう経験するものでもないでしょうから」

「ああ、とんでもない贅沢をした気分だ」

「楽をしたのは我々も同様だがね」

 

 狩猟笛という最大の欠点は、決定力の無さにある。

 一見すると巨大な狩猟笛も、その中身は演奏の為に空洞の空間が設けられており、その攻撃力は重厚なハンマー等には一歩劣る。

 だからこそ、重い一撃を見舞うことのできるルートの存在は構成として上手く噛み合っていた。

 それは狩りの戦闘に限った話ではない。セレノア達は大蟻塚の台地に赴くのはこれが初回であったが、ルートは事前に蟻塚の調査を実施しており、土地勘の強さがあった。

 ルートがパーティに加わっている最大の理由はそこにある。

 

「男一人がおんぶにだっこじゃ、格好がつかねぇだろう」 

 

 大蟻塚の地図は既に作成済で、モンスターを追跡する導虫もある。けれど、それだけではままならないのが狩りの難しいところ。

 原生の植生を利用した対応もまたハンターの力。現状ではまだ回復薬及び回復薬グレートの入手は現地での調合による調達がほとんどを占める。

 限られた回復手段の入手を怠るような愚かなハンターはいない。もしいるとすれば、それは死んだハンターのことだ。

 

 そうした環境利用の助言、忠言をルートは適時共有していた。

 このフィールドの知見においては戦闘以外においてもルートは一日の長がある。彼はそれを存分に活かしていた。

 ルートもまた五期団のハンターに相応しい能力の持ち主であった。

 

 セレノアが興味本位で手元のハンター名鑑を索引通りにめくってみれば、ルートの名もまた名鑑に載っていた。

 

"龍骨"ルート。

 墨を落としたような黒ずんだボーン装備のハンター。

 ボーン装備はいわゆる駆け出しハンターの装備であり、黒く汚れた骨を見て「ボーン装備すら満足に整備できない粗末なおちこぼれ」と嘲笑される姿が見受けられる。

 だが、黒骨の正体は【ドーベル】と呼ばれる古龍種の遺骨を用いた超一級の装備。古龍はただの骨と化してなお尋常ならざる威圧を放つ。

 だからこそ、それすら感じ取れぬ未熟者ばかりがルートを指して「落ちこぼれ」と評するのだ。

 

 ルートは、そうした青二才には寡黙にして言い返さず、また自らの実力を誇示するような真似もしない。

 誰に何を言われようと、彼の実力は彼が内に秘めた狩りの記憶が保証してくれるからだ。

 誇りはいたずらに他人に見せびらかすものではない。ただ、自らの心の中にのみあれば良い。

 そうした彼の静かな背中に憧れるハンターは多い。

 

 かなり好意的な文章だ。

 踏み入った描写は無いが、この名鑑においてもルートという人物を高く買っていることがわかる文面である。事実それに見合う力をセレノアは目にした。

 少しばかり気になるのは、敬愛する師よりも文章量が豊富なことくらいだろうか。

 

 そうして休憩がてらに時間を潰していると、近い場所に二人の人影が見えた。

 アイリーンが前に出て応対する。

 

「戻ったか」

「はい。学者のおじい様方の調査は完了しました。安全圏までの護送も完了しています。これにてクエスト完了です」

 

 片方は雪のように白い甲冑。アイリーンの妹、シルリアだった。

 だが、もう一人は見知らぬ人物。男性だ。尖った耳は竜人族の証。

 

「さて。そちらの方はどなたかな?」 

「一期団のハンターだ。良ければ話を聞かせてもらえないか。訪れたのだろう? また、古龍の渡る時期が──」

 




"英雄"ヴィンセント
 凄惨な狩りで知られる凄腕のハンター。
 特別な信条を持たず、モンスターを殺す愉悦を目的にハンターを続ける人物。
 その振る舞いから、実力とは裏腹に彼を嫌うものは多い。
 我欲に身を委ね、愉悦を貪るその狩りは、
 だが背後で滅びに瀕した村々を救い続けた。
 故にこの狩人は英雄である。


 登場予定どころか性別も未定です。

感想にたくさん元気もらってます、いつもありがとうございます。
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