笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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誤字報告が雪崩のように来るぞ。みんなありがとう。
あと観念してフロムソフトウェアのタグつけました。
先に言っておくと今回のオルゲールのイメージ曲は『スプラッターハウスED オルゴール』で検索してでてくるやつ。
『戦場のメリークリスマス』とか『失われた彩画』のオルゴールアレンジもええぞ



げきつよジジイ

「あ゛ぁ゛~。ようやく一息吐けそうだ」

 

 先ほどまでの緊迫した空気が嘘のように霧散した。

 作戦会議を終えてあの騒がしい弟子たちはアステラ付近の探索のために出払っており、心身ともにようやく休める時が来た。

 作戦会議場の椅子を引っ張り出し、全ての体重を預けるようにどかりと座り込む。

 

「そなたはまこと気苦労の絶えぬ男よな」

「言うな。あんたに言われると泣きたくなる」

 

 隣で同じく腕を組みながら座りこんだ全身鎧の男が、フルフェイスの兜の奥からくぐもった声で言う。

 要所にリオレイアの素材を織り込んだアーマーは紋章入りのサーコートの他に各所のベルトに小さなポーチやナイフがいくつも括り付けられ、それが見栄や形だけの代物ではなく、戦闘の為に洗練されたものだと分かる。

 全身にある膨大な量の細かい傷が、男の戦闘経験の証拠だった。

 

 

「驚いたぜ。ずっと昔に姿を消したドンドルマの英雄が、まさか海の向こうに居ただなんてな」

「好敵手を追ってここに来た。40年前の話だ」

 

 男はそれだけ言うと、静かに兜の傷を撫でる。見れば右肩と兜に巨大な爪痕が走っており、硬質のはずの鎧が粘土のようにひしゃげていた。よく鍛えられた上質の鎧にここまで大きな傷を残せる威力もそうだが、この百戦錬磨の男を相手に渡り合い、挙句の果てに有効打さえ見舞えるという時点でその好敵手とやらはおおよそ尋常のモンスターではないらしい。

 

「狙った獲物を絶対に逃さねぇのは相変わらずのようだが……新大陸にゃあんたをして好敵手と呼ぶような化け物がいるのかよ」

「炎王龍だ」

 

 男は何気なくその名を呟く。炎王龍といえばまずテオ・テスカトルの事で間違いない。古龍種の中でも攻撃的な性格で、爆発性の粉塵を巻き起こす危険極まりないやつだ。だが、その男……ソードマスターと呼ばれる男が好敵手として相手取るには幾分不相応に思えた。

 だってそうだろう。この寡黙な男は、俺の知るうちの最強を──黒龍ミラボレアスを討伐した、全てのハンターの頂きに立つ男だから。

 

 

 

 でもそれはそれとしてミラボレアス討伐の報せの翌日の夜、何食わぬ顔でいつぞやの黒いドレス少女がやってきた件。

 ちなみにその時、俺は発見されて間もない頃の古塔の調査に赴いており、塔の頂上でのんきに古龍の痕跡を探しながら、今日の空は重苦しくて不気味だなぁなんて考えたらなんか普通にしれっと来たのだ。いやほんと気が付いたら既にいたよね。

 

 その時は片目は潰れ衣服はずたずたに裂かれ、頭から赤いペンキのバケツを被ったように血まみれだった。限界までオブラートに包んで例えるとトマト祭りの参加者みたいな感じ。

 あれは誰かがあの場面を見ていたら問答無用でギルドナイトを呼ばれていたであろう程に危険な絵面だったな。実際にはそれ以上に危険だけど。無論社会的ではなく生命的にな?

 

 彼女は『疲れたから気の利いた曲のひとつでも寄越せ』とだけ言い残したきり、どさりと倒れこんでしまった。

 もはやどこからどう見ても弱り切っており、まさしく虫の息。なぜ彼女が健在で、どうやってここに来たのかは分からない。彼女の正体に感づいている俺には、手柄を求め彼女にとどめを刺す選択肢もあった。瀕死の彼女に何か一撃くれてやれば、きっと避けることすらできずにその命を終えて、俺は第二の黒龍討伐者として一躍名を馳せるだろう。

 

 しなかったけど。

 だってそうじゃん。事情は知らんけど俺のオルゲールの音を聴きに満身創痍の体引きずってここまで来た相手にそんな仕打ちできないね。そこまで落ちぶれた覚えはない。

 結局俺は、少女の傍らで夜が明けるまでオルゲールを奏でた。あんな長時間笛を吹いたのはあとにも先にもあれきりだ。普段の狩りでは一小節分しか吹かないのもあってそりゃもうしんどかったね。

 

 アヴニルオルゲールの奏でる音楽は時間とともに変わる。ゲームのテキストには未来を予言する力があると書いてあった。工房の親方はどこかと交信してるって言っていたか。人間の俺にはこのオルゲールの音がどういう意味を持つのかさっぱりわからない。しかし当時を生きた古龍や古代人は、きっと奏でる音の意味を理解できていたのだろう。

 あの夜にオルゲールが奏でたのは美しくて不気味で、なにより悲しい曲だった。狩りにおいては常に勇ましく戦う意志を昂らせるような音色のオルゲールが、今はこんな音楽も奏でられたのかと驚いたのは記憶に新しい。

 ずっと二人きりの塔の上で、ただオルゲールの静かな音だけが響いていた。

 いつしか横たわる少女の姿は無く、そこには静かに寝息を立てる黒龍があった。

 何十層にも重なる紫黒の甲殻はあちこちが剥がれ落ち、夜を包むような翼膜さえ隅々まで切り刻まれ、頭部の角に至っては目玉もろとも四本すべてが半ばから切り落とされていた。

 ちなみにそのあとは黒龍の目が覚める前に塔からスタコラサッサですよ。だって怖いし。

 死の半ばで深く眠りについてなおあの迫力ですよ。なんで一瞬でもとどめを刺そうなんて考えたんだろうね(白目)

 ていうかその時は俺の所に会いに来たとかうぬぼれたけど、思い返すと別にそうじゃなくね? ただ古塔に休みに行ったら顔馴染みがいたからついでに一曲献上しろやの精神だったよねアレ? 何勝手に勘違いして奮起してるわけ? やだ思いあがりすぎて恥ずかしい。いやそんなことどうでもいい。この記憶は隅に追いやり厳重に封印しよう。

 当時の俺は初めて目にする黒龍の威容もそうだが、それ以上に黒龍をあれほどまでに追い詰めたハンターの存在に心底慄いたね。

 お前のことだよソードマスター。

 

 だいたい俺と同じドンドルマからハンターとして身を立てた同期だっつーのにお前は新人のうちからココットやらポッケやらに派遣されては無双してるしよぉ。俺が笛布教の為に奔走してる間に同期のお前はシェンガオレンにクシャルダオラあげくの果てにミラボレアスと来た。生ける伝説、いや生けるチート。もうぜんぶお前ひとりでいいんじゃないかな。

 

 

「そりゃあまあ、確かに強大な相手だとは思うぜ。俺じゃ例え命が3つあったとしても手が届かないだろうよ。だが、だがあんたは違う」 

「──某もまた、老いた。昔のようにはいかぬものだ。敵は長きを生き抜いた歴戦の個体であった。時と場所が違えば、必ずや二つ名を有していたと確信できる程に。悠久を生きる古龍とは、かくあれかし」

 

 ソードマスターは少しの沈黙のあと、淡々と言葉を続ける。しかしそこに自らの老いと衰えを恥じるような色はなく、一心に相手を讃える気高さだけがあった。この男は、ずっと昔から変わらない。

 

「……やっぱあんたにゃ敵わねぇわ」

「フ、面白いことを言う。であるなら、某もまたそなたに同じ言葉を返そう。

 モンスターをいたずらに討伐するでも、闇雲に保護するでもない。ただそこにあるものとして調和に至る。まさに狩り人の本懐よ。狩りを全うするしか能のない某には、そなたが少し眩しく見える」

「そりゃ気のせいだ。だいたいあんたの狩りは世界が違うじゃねぇの。やめだやめだ、話を変えようぜ」

 

 これほどの男にそう言われるとまあ悪い気はしない。しかも世辞でない本心からの言葉だというのだから始末に負えねぇ。だいたい俺は小胆なんだ、勘弁してくれ。

 

「意固地な男だ。ならば……そうだな、そなたは何故この新天地に参った?」

「柄じゃないのもわかっちゃいる。弟子に引きずり込まれたんだ」

「ならばここにいるのは、そなたにとって不本意ということか」

「実をいうとな、そうでもないんだ。なにせここの連中は俺を知らないんで居心地がいい。俺が妙にかしこまられたり敬語を使われるのを嫌うのは知ってるだろ? 弟子どもはほとんど言っても聞かねえしな。

 俺とて引退間近の身だ、狩人として最後に一つ成し遂げてみるのも悪くねぇ。今回の調査は渡りに船だった」

「ふむ。であるなら、そなたにひとつ頼みがある」

「あんたが俺にか」

 

 

 なにそれこわい。俺に何をさせる気だ。肩慣らしと称して古龍相手の大連続狩猟みたいなデスマーチに連れていかれるんじゃなかろうか。

 

「総司令よりとある古龍の調査を頼まれている。そなたの力を借りたい」

「さっき言ってた炎王龍か」

「否。別件だ」

 

 うーむ。ソードマスターがてこずるレベルの炎王龍が相手ってわけでもない……とはいえ、それでもソードマスターにまで依頼が回ってくるくらいには相手も相応の古龍なんだろう。申し訳ないが今回は頷きかねる。

 

「悪いが下りる。無茶のできる体じゃないのは、俺も同じなんだ」

「そう、か。いや、無茶を言ったな。すまぬ」

「……どうした、あんたらしくもない。妙に弱気じゃねぇか」

「やはり老いばかりは隠せなくてな。新しき装いもさっぱり身につかぬ」

「まあ俺たち老いぼれが気張らなくたってよ、若い芽は確実に育ってる。無理することはねえさ、気楽にやろうや」

「同感だ。が、最後のそれは否だ。某も弟子を持って身の振り方を考えるようになった」

「弟子だって? あんたの?」

「総司令の孫に大剣の扱いを仕込んだ。あやつは将来化けるぞ」

 

 調査班リーダーがソードマスターの弟子だと。確かに奴の背中の大剣『オオアギト』は年齢に見合わず随分と使い込まれた代物だと思っていたが、元々ソードマスターのものだったとしたら納得がいく。

 

「師なくして弟子はなく、弟子なくして師なし。ただ衰えるばかりの某が、新しい弟子を得たのだ。暗い諦観の中で、だが確かに光の糸を見た。某とていつ満足に体が動かせなくなるかわからぬ。最後の大舞台、弟子に晴れ姿を見せたいと思うのはおかしい事か?」

 

「そういうのは最初に言え馬鹿野郎が。 

 ──いいぜ、あんたの為に笛を吹いてやる」

 

 





ゲールマンとらぶらぶちゅっちゅしたいのが白いほうだけだと思ったら大間違いだぞというエピソード。
ところで黒いほうの公式テキスト漁ったら『再生』だの『蘇る』みたいなワードがいっぱい出てきた話する? まぁ伝説の黒龍が殺したくらいで死ぬわけないよね(白目)
ちなみにこの作品のソードマスターのモデルはMH2主人公です。公式で黒龍やっつけてる人。ポッケとココットの英雄はどちらもドンドルマからの派遣ハンターで、のちに行方不明になってるし正体は新大陸のお前ダァーッ!(捏造)

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