笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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今まで海の上で堅物指揮官したり前線で日記つけてたりしてました。
気が向いたときにまた更新します



おはなし

「君、セレノアっていったか。お前さんの言うお師匠の名前は僕も知っとる。どれだけ凄いハンターなのかも、少しくらいは聞いたことがある」

「でしたら」

「でもそれとこれとは話が別やろ」

 

 この方言交じり竜人族の研究者と話してもうどれくらいになるだろうか。竜人族とセレノアの会話は、ずっと平行線をたどっていた。

 

「古龍渡りが、老いた古龍が死に場所を求めるためのものであるっちゅうんは、我々研究者も有力な説だとは考えとる。けどな、その古龍を狙う古龍がいるっちゅうあたりからきな臭いんや。僕はそんな古龍は聞いたことがない。僕やて遊びで新大陸の生態研究のてっぺんやっとるわけやないのは、後ろの資料みればわかるやろ。まあ、ちょっと散らかっとるけどな。

 そんでこんなぎょうさん古本読み漁っても、君の言う古龍と同じような特徴を持つ古龍はどの文献にも記述がないんや」

「未確認の新種という可能性は」

 

 そもそもこの状況の原因はゲールマンにあった。ゲールマンを迎えに行ったセレノアは、それからすぐに生態研究所の所長に伝言を頼まれてしまったのだ。なにをどうやったのか、未知の古龍の情報を入手したのだと言い、必ず伝えるようにと釘を刺されてしまった。

 他でもないゲールマン師からの頼まれごと。セレノアは必ずやり遂げなくてはいけないと意気込んだ。とはいえ、あくまでも単なる伝言。難しいことはない、軽く済ませればいいかと考えていたのだが――。

 

「それは確かに大いにありうる話や。現に新大陸で見つかっている多くのモンスターが、完全なる新種な訳やしな。だが、君の言うそいつには、物的証拠がないやんか」

「うっ」

 

 この調子であった。まったく相手にしてもらえていない。いや、真剣に向き合ってはくれているのだろう。ただ、信用されていない。セレノアはゲールマンの名前を出せばすぐに話が進むと思っていたようだが、実際はそう甘くなかった。

 

「せめて鱗や爪痕のついた痕跡のひとつでもあれば、また違うんやけどな。申し訳ない話ではあるけど、僕たちも暇やないんや。動かぬ証拠が見つかるまでは、僕も君の話に真面目に付き合うことはできん」

「うー。まあ、わかりました。とにかく伝えましたからね、失礼します。貴重なお時間をありがとうございました」

 

 結局、伝言は真面目に取り合ってもらえないまま会話は打ち切られてしまった。だが、ゲールマンからはとにかく伝えればいいとだけ頼まれていたので一応、伝言の任務は果たした形になる。だが、どうしても不安は残る。

 

「これで、良かったんですかね……。師もどうしてこんな訳の分からない伝言を。だいたいなんなんですか『しじまの向こう』って……」

「待ちぃや」

 

 セレノアが拭いきれぬ不安を誤魔化すようにぶつくさと独り言をぼやきつつ、来た道を戻ろうしたことろで所長から鋭い声で呼び止められた。なにか、気に障るようなことを言ってしまったのだろうか。そう勘ぐるほどに、切羽づまった声色だった。

 

「……何でしょう?」

「今、僕の聞き間違いでなければ、『しじまの向こう』と言ったか?」

 

 振り返ってみて見た所長の顔は深刻そのものだった。

 

「え、まあ、はい。先生はこの情報を『しじまの向こう』からの伝言だと仰っていましたけど……」

 

 言い終わるのとほぼ同時に、生態研究所の所長は頭を勢いよく下げた。

 

「これまでの非礼を詫びる! だからどうか、先ほどの話をもう一度詳しく聞かせてはもらえんやろか。そうか! いや良い返事が聞けて嬉しいで! ああ少し待っててもらえるか今記録するものを取ってくるで!」

「あの、まだ何も言ってないんですけど……」

 

 所長はセレノアの返事も待たずに背後の本の山に突っ込みペンと紙を探し始めてしまった。非礼を詫びるどころか、現在進行形で加算する行為であった。

 

「待たせたなさあ話してくれて構わんでまったく君も人が悪いんやから真っ先にその名を出してもらえれば僕も初めから一言一句漏らさず聞いて議論に議論を重ねて真剣に検討したっちゅうのに!」

 

 埃をかぶりながら本の山から所長が飛び出してきた。

 流石のセレノアも、ずっと難色を示し続けていた所長の豹変ぶりについていけなかった。

 

「ま、待ってください。どうして急に信じる気になったんですか。それに『しじまの向こう』って……」

「なに? まずはそこからになるんか。ふむ。まあええで。いい機会や、じっくり話しちゃる。

 ええか? 『しじまの向こう』っちゅう名は、古龍を研究する者であれば一度は耳にするもんや。古龍研究の歴史において、その研究が飛躍的に進歩をしたとき、必ず裏には『しじまの向こう』の影があった」

「はあ」

 

 気の抜けた返事をしつつ、ゲールマンの言葉を思い返す。

 思えばゲールマンが意味の分からない言葉を会話の最中にこぼすのは、今までも稀にあったことだった。

 セレノアは単にそれをゲールマンの生まれ故郷にある慣用句の一種かなにかだと思っていたのだが、あれはそんな単純なものではないらしい。

 

「『しじまの向こう』は我々に古龍研究の中枢を為すような価値のある情報をもたらしてきた。それは誰も知りようのないものであると同時に、常に一種の絶対性を持っとった。なにせ研究が進めば進むほどその情報を裏付ける証拠が増えていくわけやからな」

「何者なんですか、一体」

「知らん。僕も実際にお目にかかったことはないで。ただ一つ分かっとるのは『しじまの向こう』が、すなわち姿なき声であるということくらいやな」

「姿なき声、ですか?」

「そうや。えー……確かこれとこれと、……これにも出とったはずやな。君、字は読めるか? ここ見てみぃ」

 

 所長が本の山から本をひきぬき、それぞれページ開いてセレノアに差し出した。

 

「えっと、壮年の男性。母親の声、こっちには童子のわらべ歌? どれも統一感がありませんね」

「おもろいやろ? それ全部『しじまの向こう』の言葉を参照した研究書や。参照元で、ぜーんぶ特徴が違うんや。遭遇したっちゅう奴の話を聞いても、その声の特徴がまるで一致せん。

 困り果てた僕らはいっぺん、『しじまの向こう』を全力を挙げて調査しこともあるんやで。ま、結局なーんも分からんまま終わったんやけどな。

 結局、『しじまの向こう』っちゅうんは古い竜人族の末裔かなんかが集まった組織で、何らかの理由から姿を隠して接触してきているんやないやろうかーなんてふんわりした通説があるくらいや。君、たまごシンジケートは知っとるか」

「え、あ、はい。知っていますよ、あの有名な秘密結社ですよね」

 

 突然転換した話題に、慌ててついていく。

 たまごシンジケート。ハンター活動をしていると、時折耳にする名だ。

 でも、いったいたまごシンジケートと今の話に一体何の関係があるのだろうか……という疑問よりも、ずっとセレノアが思っている事がある。

 

(話が長い……!!) 

 

 長い、長いのだ。いちいち細かい説明がある上に話があちこちに脱線していく。そもそも軽く伝言を伝えるだけのはずが、全然聞いてもらえず粘り続け、結局諦めて引き返そうとしたところでこれである。

 

「有名な秘密結社という肩書もなかなかおもろいもんやけどな。我々の認識もまたたまごシンジケートと似たようなものなんや。一体なんの関係があるかわからんやろ? でもな、ちゃんと理由があるんや。

 そもそもたまごシンジケートっちゅうんは──」

 

 ようやく伝言を聞いてもらえるかと思ったのに、この脱線ぶりである。進展する気配がまったくない。ただ、時間だけが過ぎていく。

 

「――ただその存在のみが知れ渡っているものの、肝要な目的・思想の一切が不明。ただ、我々が拝領するその知識に値千金の価値があるってわけでな。おい、ちゃんと聞いとるか」

「き、聞いてます」

「ならいいんや。話の続きなんやが……」

 

 

(先生、もしかしてこれの身代わりの為に私を使ったんですか──!!)

 





三人称むずかしい。違和感しかない。でも今からこだわりだすといよいよ更新できなくなるで妥協した。今度修行する。
こちら後半にゲールマン視点が入る予定だったんですけど、ここからまた忙しくなって更新できなくなるので突貫工事で仕上げたものになります。

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