笛吹いてたら弟子に推薦された   作:へか帝

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こっそり更新しちゃうぞ


顔馴染み

 

 慌ただしい到着をした五期団たちの迎合もひと段落つき、調査団は本格的に新大陸の調査に乗り出した。

 古代樹の森には一度ジャグラスの討伐で数名が出向いているが、その際にゾラ・マグダラオスの痕跡らしき岩石と、それに伴って気が立ったプケプケが確認された。

 ゾラ・マグダラオスの痕跡調査を行う前にまず、周辺の安全を確保したい……のだが、いかんせん拠点が少ないのでまずは手始めに調査をより盤石に進めるためのキャンプ設営を行うことになった。これには他の五期団たちと違って初めの海難で装備を海に流されなかった件の弟子たち+セレノアの編纂者を合わせた四人組が矢面に立ち、事を進めた。

 

 調査の初動を担う重要なクエストだが、彼女らはキャンプ候補地を巡ったついでに候補地をそのまま縄張りとするクルルヤックを討伐するなど、獅子奮迅の活躍であるそうだ。厳めしい表情が印象的な総司令も順調な滑り出しに満足そうな笑みを浮かべていた。

 現在彼女たちは続く古代樹の森の調査を他の調査員に任せ、アステラから東へと海沿いに進んだ先にある『大蟻塚の荒地』というフィールドに向かっている。調査に向かう学者たちの護衛任務だそうだ。

 普段のハンター業務には滅多にない類のクエストになる。俺よりよっぽど修羅場を越えているであろう彼女たちでも、幾分手を焼くクエストではなかろうか。

 

 まあ、なんとかアドバイザーとかいう詳細不明の役職にぶち込まれた俺にはあまり関係のない話だ。

 俺の今のところの主な業務は、次々と運び込まれる新素材の運用について工房の親父や若い連中も交えて相談するくらいだな。

 現役のハンターたちに聞けばいいと思うかもしれないが、調査団のハンターは皆例外なく多忙で、調査に出向いては帰り次第武器の強化や修理依頼を工房に持ち込んで、瞬く間に寝て起きてまた調査に向かっていく。傍から見ていると本当にすさまじいもので、ハンターという人種の人間離れしたスタミナを実感せざるを得なかった。

 

 そういう訳で、工房の人間たちも悠長にハンターと話をする時間が作れないってんで、ハンター歴の長いロートルの俺が有り余った時間を使って口を挟ませてもらっている。

 工房の強化方針はひとつのモンスターの素材を用いて徹底的に強化するよりも様々なモンスターの素材をどんどんと付け足していくようなものとなっている。

 また、新大陸のモンスター素材についてはまだ造詣が浅く、工房としても従来のように強化に合わせて武器の外見を大きく変えるような強化が困難だという事情もあった。

 幸い五期団のハンターは狩猟笛を主に扱うハンターが多く、俺が口を挟める余地はそれなりにあった。

 さて、あとはソードマスターとの約束もある。彼に助力を頼まれた任務とは、各地で発見される"棘のような何か"について調査。新大陸ではモンスターの死骸にマーキングするかのように、謎の棘の突き刺さっていることがあるそうだ。その痕跡の持ち主を探るのが任務。が、どうもソードマスターが言うには尋常ならざる相手が持ち主だというので、大層な厄介ごとの気配を感じずにはいられない。

 

 とはいえ、今のところは調査の方も進展があまり芳しくない。弟子連中が新しいエリアの開拓をしてくれるのを気ままに待ちつつ、昼間から食堂で食事をさせてもらっていた。

 

「ややっ! その辛気臭い顔はゲールマンだな!」

 

 唐突にくぐもったハスキーな声で呼ばれ、俺の神聖なランチタイムを妨げるのはどこのどいつかと顔を向ける。

 そこには金属製のマネキンのようなものが立っていた。

 

「お前は……ローランか。ローランだな。お前のような奇人を俺は他に知らん」

「私のような常識人を捕まえて奇人呼ばわりとは、とんだご挨拶じゃないか」

「せめてその時代錯誤なパワードスーツを脱いでから言うんだな」

 

 彼女が装備しているのはアーティアと呼ばれるシリーズの防具だ。薄く緑がかった金属で全身を覆う防具で、表面には流れるような溝が彫られている。明らかにモンハンの世界における現時点での技術力を超越して作られたもので、俺のオルゲールと同様に掘り当てた遺物を研磨して利用した装備だ。

 全身を隙間なく覆う曲面の鎧はまさにマネキンのようですらあり、頭装備に関しては構造的に明らかに前が見えない。まあローランの様子を見るになんらかのテクノロジーで視界は確保されているらしいが。

 しかし装備そのものの希少性含め、これを好き好んで着用するようなやつを奇人と呼ばずしてなんと呼ぶのか。

 

「パワードスーツという概念はよくわからないが、こいつの性能は本物だよ。私がこれを磨いて以来、未だに傷が一つも増えていないのが何よりの証拠だ」

「だがよくあの難破で溺れなかったもんだ。流されなかったってことなら装備したままだったんだろう?」

「ああ、それなら」

 

 ローランの言葉の途中で、彼女の背後からぬっと大男が現れた。2mは超えるだろうか。

 

「俺が岸まで運んでやったのよ。よう。久しいなゲールマン」

「お前、ボリスか」

「中々顔を出せなくて悪かったな。大急ぎで装備をこしらえててよ」

 

 懐かしい顔だった。彼も俺と同じ流れのハンターで、村々を旅するさなか、しばしば顔を合わせたものだ。何度かパーティを組んだこともあるが、大きな図体と粗野な口調に反して、丹念な準備をしてからクエストに臨む男だった。一方で予め用意した作戦にこだわるような頭でっかちでもなく、柔軟に立ち回れる。上級ハンターの体現だ。誰かに信頼できるハンターを一人紹介しろと言われたら、俺はきっとボリスの名を上げるだろう。

 

 しかしアーティアシリーズで身を包んだ女を一人抱えて岸まで運びきるとは中々人外じみているが、そういえばボリスはタンジアの港で身を興したハンターだと、いつかの酒の席で聞いたことがある。タンジアの港のハンターといえば水中をも狩りのフィールドにすることで有名だ。多彩な男だとは思っていたが、まさか泳ぎまで堪能だとはな。

 また一つボリスという男の評価が上がってしまった。

 

 しかしボリスは平凡な装備だった。貧相と言い換えてもいい。黄色い外套を見るにジャグラスの素材を用いたものだろうが、ボリスの実力を鑑みれば悲しいほどに不釣り合いだ。

 

「お前も海に流されたか」

「まあ時の運ってやつだ。嘆いても仕方がねぇ。潜って探しても良かったが、ローランが沈む方が早くてな」

「うん、その折は世話になった」

 

 ローランが鷹揚に頷く。アーティアの頭装備はのっぺらぼうで一切表情がわからないが、本人のコミカルなジェスチャーのお陰で外観に反して無機質な印象は全く受けない。多分才能だぞそれは。

 

「まあ、"バズソー"の看板も守れたことだしな」

 

 ボリスが到着して、二人は俺と同じテーブルに着いた。

 誰とでも馬の合うボリスは、しかし永らく固定パーティを組むことはしなかった。譲れないポリシーか、過去の因縁か、それとも単なる本人の気まぐれか。残念ながら本当の理由を俺は知らない。ただどういう風の吹き回しか、ある時期を境にローランとパーティを組み続けている。金属人形とずんぐりした大男の組み合わせは良く目立ち、そして実力もある。直接会わずとも彼らの噂をよく耳にしたものだ。

 そして二人に付いた通り名が"バズソー"。丸ノコギリという意味のそれは、ローランの得物《アルトエレガン》を象ったものだろう。

 

「海水で錆びないか不安だったけどねぇ。何ともなかったよ、うん」 

「古代文明の遺物は流石だな」

 

 ローランが背に吊るしていた《アルトエレガン》をテーブルに立てかけ、しげしげと眺める。いや、鉄仮面で表情は窺えないので予測なのだが。

 

 スラッシュアックスと言えば剣形態と斧形態を使い分ける武器だ。必然、その機構は複雑なものになる。だが《アルトエレガン》のそれは常軌を逸している。

 回転ノコギリと大刃のチェーンソーという徹底的にモノを断つことにだけ特化した二つの姿は、その内に尋常ならざる技術の粋が詰まっている。

 包み隠さずに言ってしまえば、これは"スラッシュアックスに似た構造の何か"である。

 

「いやあ、ロマンだよねぇ。私の《アーティア》とおんなじ材質だよこれ。夢が広がるねぇ」 

「お前の学者気質にケチつけるつもりはないけどよ。あまり深入りしない方がいいぜ」

「おや、第一人者からの警句かい?」

 

 第一人者って……。でもまあ、そういうことになるのか。

 俺が火山から《アヴニルオルゲール》を発掘した時点では前例が無かった。"古代文明の遺物が優れた狩猟武器になる"という事例を最初に作ったのは俺ということになる。

 そういうことなら、強くは否定できないな。

 

「エピタフプレートと、エンシェントプレートっつう大剣がある。知ってるか」

「お、エピタフプレートなら知ってるよ。解読不明の碑文の刻まれたやつ」

「俺もエンシェントプレートを担ぐハンターが知り合いにいる。べらぼうに強力な龍属性を秘めているそうだな」

 

「そこまで知っているなら話が早い。ついこないだ、エピタフプレートの碑文を解読した学者が失踪した」

 




念願の男ハンター登場。わあい

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