ハルケギニアでは一応、作家活動をしていたので。
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平和な世界で平和な日本という国、戦争も今は特に起きてはいなかった上に、子供達が元気に小学校へと向かう姿が見られた。
そんな世界の日本という国の、埼玉県の中に存在している膨大な空地にユートは呆然と佇んでいる。
別世界なら麻帆良市と呼ばれる土地ではあったが、この世界に麻帆良市は存在しないが故に、空地となって一種のアンタッチャブル的な扱いだ。
尚、埼玉県は本来の――受容世界より麻帆良が存在する分くらい大きい。
「さて、どうするか……」
取り敢えず、ゲートを抜けてやって来た平行異世界の地球だったが、グルッと世界を巡った限りでは人間同士の当たり前な争いこそ有れど、超常が幅を利かせていたりおかしな超科学が発達していたり、若しくは有り得ない某かが蠢いたりといった事が何も無い。
受容世界と変わらない、何の変哲も無い世界だ。
「こりゃ、ユーキ視点でも調べるしかないかな?」
ユートには解らなくともユーキなら?
だからコストを自らを削ってまで捻出し、義妹にして恋人でもある緒方祐希を招喚するべく動く。
コストを支払わない招喚は遠慮したいが、この場合はやるしかないだろう。
「身体はどうするかな?」
基本的にユーキ招喚は、その世界の物質で構成された器となる肉体が居る。
彼女が仮契約した閃姫であるからだ。
当然、高倉翔子――嘗ての橋本祐希の彼女であった娘も同じくである。
閃姫契約の条件は心身共に契約主――ユートへ全てを捧げる事。
ユートを愛し、処女を捧げて初めて閃姫契約は成るのだから、処女を捧げていないユーキと翔子は本来だと契約は出来ない、
だが、仮初めの契約なら可能だったから二人はその契約で括られた。
ユーキの場合は初志貫徹で恩師と結ばれ、その恩師が老衰で亡くなってから後に契約をしている。
処女は恩師に捧げた。
翔子はそもそも橋本祐希の恋人であり、彼の死後にユーキが使い魔召喚の儀で召喚をしているが、翌年の最終決戦前にユートに抱かれて閃姫契約をする。
何しろ、翔子の処女などユーキが前世で戴いている訳で、どうしたって初めてを捧げる事は出来ない。
とある理由から勃たない祐希が、流石に物別れとか嫌だから何とかリビドーを全開にして勃たせ、どうにかこうにか抱いたというものではあったのだが……
「裏技……しかないか」
まさか、ユーキ招喚の為に誰かしら殺すなんて訳にもいかないし、死体を病院から盗み出すのも拙い。
とはいえ、不可能を可能にする奇跡はそれで難しいとあっては、やってみるしかないであろう。
受容世界に似ていても、正確には受容世界ではないのなら、この世界に冥界を構築してやると良い。
構築された冥界とユートの箱庭な冥界、それを繋げてやればあら不思議。
この世界の物質混じりな冥界が完成した。
其処からユートは所謂、生体錬成を行って人間を形作る物質を創る。
ユートが普段から権能で冥闘士を喚ぶ為の器とする人形、それをユーキの形にて生成をした。
使う冥衣は鳳凰星座。
ユーキバージョンで造った鳳凰星座の青銅聖衣――神聖衣版という豪華さ。
「汝、我が仮初めたる使徒に名を列ねし存在。造りたる者、虚無の担い手、永遠なる連理の枝・比翼の鳥よ……言之葉に応えて来よ! 我が仮閃姫!」
生命無き肉人形に宿るは緒方祐希の幽星体と魂魄体と意識体、それが渾然一体となったユーキその者。
それが目を覚ます。
「身体が重たい……」
「済まない、コストも無く肉体も無い状態で無理操り招喚したからさ」
「ああ、だからか。肉体的な能力が通常の二分程度しか無いし、精神由来のエネルギーでさえ六分が精々。以前に言っていた裏技ってので喚んだんだねぇ」
それは普通の人間であれば最強の格闘家すら霞むであろう実力が出せるけど、ユーキからするなら可成りの弱体化であったと云う。
闘氣や魔力、小宇宙など用いれば敵無しな実力だとはいえ、神々の勢力なんかは言うに及ばずだろうし、魔力を用いてもリリなの的なランクで原作八神はやてレベルに落ちている。
「それだけあれば充分だ」
「どゆ事さ?」
冥衣……処か一糸纏わぬ姿でコテンと小首を傾げる様は中々に可愛らしい。
まあ、見た目はタバサがポニーテールにした様な姿だから当然だけど、局部も諸出しなのは慎みに欠けるのではなかろうか?
ユートしかその場に居ないから、隠す必要性を感じないのだろうけど。
何しろ今更だ。
ユートに何度、抱かれたのか数えるのもバカらしいくらいだし、今更ながら恥ずかしがる仲ではない。
「この世界な、そもそも敵が居ないんだよ」
「無敵?」
「それは何かが違うだろ。そうじゃなくて、敵対者が存在しないんだって話だ。ザッと見て廻ったんだが、魔力持ちや闘氣を発する者すら居ないし、霊能力とか超能力みたいなオカルトな力も、超科学の類いすらも存在していない普通の世界ってやつなんだ」
「はぁ? だけど基本的に漫画やアニメやラノベ的な世界なんだよね?」
「どっかの受容世界でなければそうだよ。否、それでも錬術が存在していた」
氣を練り上げて纏う技、念能力みたいなモノが確かに存在していた。
そもそもユートは【緒方逸真流・錬術】に関してであれば、あの世界でも随一の使い手であったのだ。
「この世界には【緒方逸真流】すら存在しないから、当然ながら氣を扱う技能も発達しなかったらしい」
見世物レベルなのは別にして、本物はやはり空想の産物程度の認識だ。
「成程、だから見方を変える為に無理を承知で裏技に走った……と?」
「ああ、どうせ敵が居ないならパワーダウンも問題にならないからね」
「確かに……」
一般人レベルなら億にも及ぼうが何ら問題も無く、格闘家のプロだって大した問題じゃあないのだから。
「んじゃ、ちょっと探索をして来るけど構わない?」
「ああ、服さえ着ればな」
ユーキは其処で初めて、頬を赤らめながら渡された青いワンピース、白いショーツとブラジャーに赤い靴と白い靴下など受け取り、身に付けて結界の外へ。
勿論、ユートが用意した紙幣と貨幣が詰まる財布を持って……である。
数日後、麻帆良区域へと帰って来たユーキ。
嘆息しながら語った。
「確かにこの世界は普通。争い事はあるにせよそれはボクらが干渉するレベルの問題じゃなく、解決は政府の役人――政治屋の役目。ハッキリ言えば兄貴って、何しにこの世界に来たの? ってな感じかな」
「やっぱりか」
理解はしていたのだが、少しヘコむユート。
「取り敢えず、この世界が何の世界なのかは判明したから教えておくよ」
「判ったのか!?」
「ああ……ま〜ねぇ」
ユーキにしては歯切れが悪い物言いに、多少違和感を感じてしまう。
「で、何の世界なんだ?」
「【エロマンガ先生】」
「……………………」
暫しの沈黙。
「――は?」
「だ〜か〜ら〜! 此処は【エロマンガ先生】の世界なんだって!」
果たして義妹はナニを言っているのだろうか?
目が点になるユート。
「えっと、えっちぃ漫画を描くのが仕事なのかな?」
「違くて、エロマンガ先生ってのはペンネームだよ。まあ、そんな風に呼ばれても『そんな名前の人はしらない』と言うらしいけど」
「じゃあ、何でそんなペンネームにしたんだ?」
「知らない。これはボクも詳しい訳じゃないから」
「どういう意味だ?」
「白夜さんと情報交換した時に聞いたんだ。あの人はアニメで知ったらしいよ。実際には【俺妹】の作者が兄貴の死んだ後に発表したラノベみたい」
「え? アレのか?」
二度のアニメ化もあり、ユートはこれを識っていたりする。
「って事は、ひょっとしたら【俺妹】と繋がっている可能性も?」
「何年後か前から知らないけど、有り得ない話でもないんだろうね」
実際の作品間に世界的な繋がりが無くとも、こういう場合は繋がりを持つ世界も在るから油断ならない。
「ヒロインは原作開始時点で一二歳の中学生相当」
「相当?」
「引き篭り体質らしくて、部屋からも出ないから学校に行ってない。義務教育も何のそのってねぇ」
「それはまた重篤な……」
ギャスパー並だろうか? とか思うユート。
「然し、いの一番に挙げたならメインヒロインか?」
「うん、義妹だってさ」
「また妹がヒロインとか。まあ、前回の【俺妹】だと実妹だったけどな」
当然、逝き着く先にまでは逝けないだろうが……
「義妹なら充分にアリか」
血の繋がりが無いから、その気になれば不可能という訳ではない。
法律上で可能とはいえ、決して奨励はされていないにも拘わらず、来世に於いて伯母や大叔母に粉を掛けるユートよりはマシか?
精神的には実妹であった白亜を抱いたからだろう、少し倫理観が歪んだのかも知れない。
「それで、主人公とヒロイン達って普通に学生か? ストーリーは引き篭り体質な義妹を引っ張り出す?」
「誰が読みたいのさ、んな噺を……」
「ペンネームとか言ったな……って事は漫画家か?」
「ハズレ。義妹ちゃんだとイラストレーター、主人公は義妹ちゃんがイラストを描くラノベ作家らしいよ。何十万部かの」
「中堅より少し下?」
「さあ?」
少なくとも百万部以上を売る売れっ子作家という程ではないが、それなりながらファンも居る様だ。
だから商業誌で書ける様になったのだから。
「確か……白夜さん曰く、義妹ちゃんはロリ専みたいなイラストレーターとか」
「ロリ専?」
「よく判らないけど」
現実に存在するモノは、見た事が無いのは描きたくない性質らしく、自分自身の肢体を参考にしていたらロリしか描けない……なんて話になっていた。
「後、義妹ちゃんはエロいらしいねぇ」
「エロいって、ビッチってやつなのか?」
「うんにゃ、女の子なのに他の女の子の肢体に興味津々でさ、本来はクラスメイトの娘の縞パンをずり脱がせた事もあるらしいよ?」
――『可愛い縞パン』とか頬を赤らめながら、ファッションビッチなクラス委員長の縞パンを脱がしたという前科持ち。
それも兄の目の前で。
【エロマンガ先生】……恐ろしい子!
「じゃあ僕はどうするか? この世界から出るにしてもすぐにとはいかないし」
「Web小説作家になる」
「……は?」
またユーキがおかしな事を言い始めた。
「実はヒロインの一人に、兄貴が好みそうな娘が居るんだよね」
「僕が? ねぇ……」
「ペンネームは千寿ムラマサという、一千万部を越える累計売上数を誇るラノベの大作家。主人公たる和泉マサムネにベタボレなんだけど、切っ掛けがWeb小説が面白かったかららしい」
「ムラマサ……ね。僕からすると縁深い名前だな」
妙法村正を持つユート、確かに名前的に縁深い。
「どうせ、主人公のメインヒロインは義妹ちゃんなんだろうし、兄貴がヒロインを一人くらい奪っても問題は無いさね。彼女関連でのイベントは潰れるけどさ」
どんな影響が出るのか、それは判らないのだが……
「ま、戦いが無いからすぐにやるべき事は思い付かないからね」
「原作時点では一四歳……黒髪ショートボブで着物を着て初登場らしいよ」
中学三年生という事。
「へぇ」
食指は確かに動く。
こうしてユートは麻帆良を出ると、主人公の近所に住居を持ってネットワーク構築を行い、ハルケギニア以来となる作家活動を再開する事となる。
数年後。
Web小説作家から商業誌に転身して、主人公と同じレーベルで同じ編集担当となって……
「緒方ユート君……君、私のモノになりなさい!」
見事、本来は和泉マサムネが言われるべき科白を、千寿ムラマサから引き出す事に成功するのであった。
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飽く迄も『っぽい噺』だから本来は短いです。