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ゴブリン。
それは妖精が堕ちた小さな鬼の総称。
とある世界ではその小鬼が慢性的に人々を襲撃し、その被害は一般人からすればシャレにならないものがあった。
とある世界の小さな村、何処にでも在るそんな村がゴブリンに襲われる。
男は殺され女は弄ばれる中で、小さな少年は息を潜めて親が殺され、姉が凌辱される様を見つめていた。
血の涙さえ零しかねない悔しさと、そして家族を殺された憎悪と共に。
十年後に彼はゴブリンにとってのゴブリンとなる。
それはこの世界で恐らくはいつでも身近と為り得る悲劇、そんな地にユートは原典の知識も無い侭に降り立つのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルド。
嘗て、ユートがハルケギニアに設立した事もあり、この騒々しさは愉しい。
受付嬢が美人さんなのはやはり、カウンターに顔役――ボス的な意味ではなく――が必要なのだろう。
ムサイおっさんなんて、やはり御呼びじゃない。
ハルケギニアでの冒険者ギルドでも、人妻ではあれ美女たるラピス・フォルトーナが担っていた。
元々は夫のファイゼルが改めて組織した傭兵団体、【フェンリル】の弓術士の纏め役の隊長であったが、アルビオン戦役から邪神戦役までの空白期間に結婚、ラピス・リッターとなって冒険者へと転身した。
結婚後は冒険者をやりながらも、夫婦性活も宜しくヤっていたラピスは程無くして妊娠をしてしまって、激しい運動を控える様になった為に同じ頃に完成したギルドで受付嬢をする事となったのだ。
うん、美人受付嬢はやはりジャスティスである。
ユートは正義って言葉が嫌いだけどね?
とはいえ、ユートも空気はある程度だが読める為、御莫迦な冒険者とは違って行き成りナンパはしない。
しても絶対に失敗する。
受付嬢が余程のあーぱーでない限り、冒険者からのヤワいアプローチにかかずらったりしないのだから。
「という訳で、ちょ〜っと良い仕事は無いかな?」
「……まあ、白磁等級でも出来る仕事なら御紹介しますよ? それが私の仕事な訳ですし」
フレンドリーに白磁等級の冒険者になったばかり、そんなユートをジト目で見つめる受付嬢。
尚、この世界では名前が表示されません。
ユート以外は。
でも、設定上では名前で呼び合っています。
きっと。
「白磁等級でなくても基本的にはパーティを組みますけど、ユートさんは何故かソロで居ますね」
白磁等級とはこの世界の冒険者のランク。
アルファベットで表されたり、他にも幾つか存在しているのをユートは識っているし、白磁等級というのが最低ランクなのも承知をしていた。
「パーティを組んでくれそうな人に心当たりが無いからね、ソロでやっていくしか無いんだよ」
「危険な仕事なのですし、パーティを組む事も考えて動いて下さい」
「了解」
「さて、お仕事ですが」
受付嬢が白磁等級の仕事の書類に目を通したけど、ハッキリ云って碌な仕事が無かった。
「一応、ゴブリン案件が」
と、提案をしてきた。
ゴブリン案件は正直に言えば、余り相手にされないものである。
先ずを以てリターンが少ないのが問題、ゴブリンを駆逐するなら他にも稼げる案件は幾らでも有った。
ゴブリン退治は白磁等級でも更に駆け出しクラスが受ける案件、すぐに卒業をしてもっと遣り甲斐のある案件を求める。
所詮はゴブリン。
頭も身体能力も子供並、ゴブリン退治も一回や二回が失敗でも、三回目になれば退治出来てしまうから、国軍が動いたりもしない。
そういうものだった。
「じゃあ、この案件を」
依頼ボードではなくて、受付嬢に訊いたのはやはり美人だからだ。
「ゴブリン討伐ですね」
美人受付嬢が少し嬉しそうにしているが、恐らくは潰しても潰しても沸いて出るゴブリンなだけに、依頼は幾らでも来るけど討伐者が少ないからだろう。
実入りが少なく面白味の無い存在だから。
この世界では世界を滅ぼす存在に成り得なくとも、人々を脅かす存在たる小鬼の討伐は必要不可欠。
とはいえ、ゴブリン故に報酬も少ないのが現状で、討伐を引き受けたユートに感謝しているのだろう。
ユートはソッコーで仕事を片付けた。
囚われていた少女達は、皆が神殿行きを望んだから連れていく。
数人の生き残りだけど、全員がゴブリンの体液にて汚れ、涙すら乾き果てての表情は元は可愛らしかったであろう顔に生気は無く、ボーッとしているだけ。
これが白磁等級冒険者、ユートによる最初のゴブリン討伐であった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一ヶ月後、神官っぽい服を着た金髪少女が受付嬢の許へ訪れる。
「え、っと、冒険者になりたい、んですけど……」
明らかに成人を迎えたばかりで、御登りさんといった感じでカッカラを持つ。
腰まで伸びた綺麗な金髪に青い瞳、白を基調とした神官服に錫杖をその手にする少女は、何と無くだけどアーシアを思わせた。
神官少女は受付嬢に促される侭、冒険者記録用紙に記入をしていく。
冒険者ギルドの身分証、〝白磁のタグ〟を与えられて冒険者に成った。
それを見計らってユートは声を掛ける。
「良ければ一党を組んでの仕事をしてみないか?」
「――え?」
タグを見れば同じ白磁等級と判る。
「簡単な仕事で冒険者としてのやり方を覚えるのも、駆け出しとしては大事な事だからね」
「えっと……」
困った表情で受付嬢の方を見遣る女神官。
「その人も一ヶ月前に登録したばかりだけど、意外と教えるのが上手いって他の白磁等級の冒険者さん達が言っていますよ」
「そ、そうなんですか?」
「ええ、まぁ……」
決して嘘ではない。
女の子限定で白磁等級の駆け出し冒険者を見付け、一ヶ月の間に何人か冒険者としてのノウハウを仕込んでやったし、僅か一ヶ月足らずで白磁等級として中堅にまで成長させた。
勿論、ヤる事もヤっているから受付嬢も余りお奨めとはいかない。
とはいえ、確りと成長をさせているし関係も精算済みとなると、後は当事者の問題だから文句も言い難いらしい。
そもそもユートは聖闘士と呼ばれる集団に所属し、師匠と呼ばれる立場に居た事も多々あった。
更には麻帆良学園都市と呼ばれる学校や凰華女学院など、教師として教え導く仕事もしていたくらい。
教える事には慣れているとも云えるし、それに何よりもユートには【教導】というスキルが本人の与り知らぬ処で付いていたから、教わる方に資質とやる気が在れば必ず血肉となった。
まあ、この世界では女性に限定で教えていた訳で、確りと対価を貰っていたから趣味と実益を兼ねていたりもする。
「えっと、それでは御願いします……」
「じゃあ、行こうか」
「は、はい!」
また毒牙に掛かる女の子が一人か……と、受付嬢は溜息を吐いてしまう。
だが、生命や尊厳を喪う事に比べたら単純に純潔を捧げるくらい、許容範囲内と考えるべきだろうか?
この先で、あの女神官が最初の冒険でゴブリンに当たりでもしたら、間違いなく一党が全滅した挙げ句にゴブリンに捕まり、死よりも辛い目に遭わされる。
初めての相手がゴブリン――辛い処ではない。
ならば、冒険者として学べて初めての相手が人間となるなら、それもベストではないがベターかも……と思うしかなかった。
かと思えば、何だか揉めている様にも見える。
白磁等級の冒険者一党、ざんぎり頭に鎧を身に付けた剣士、黒髪をポニーテールに結わい付けた武闘家、三角帽子にローブを身に纏う目付きの鋭い魔法使い。
三人がユートと女神官の前に立ち塞がり、男の剣士がユートと言い合っているみたいだ。
「どうかしましたか?」
仕方がないと受付嬢が訊ねてみると、どうやら二人が揉めている原因は女神官にあったらしい。
そう聴くと女神官を挟んだ三角関係に聴こえるが、剣士の目的は女神官の魔法であり、ユートの目的とは女神官に冒険者のノウハウを仕込んだ上で、巧みに誘って愉しむというものだ。
女神官は成人したばかりで冒険者になったばかり、神殿から出たばかりと初めて尽くしであり、駆け出しの白磁等級たる剣士達と行くべきか、同じく白磁等級とはいえ冒険者としてみれば明らかな玄人のユートと行くべきか?
受付嬢には判断がつかない問題であった。
「なら、女神官さんはそもそもユートさんと行く予定になっていた訳ですから、ユートさんも加えれば宜しいのでは?」
別にテレビゲームではあるまいし、一党の人数には特に上限は無いのだ。
勿論、狭い場所に行くなら自然と人数も限られてくるのだろうが、四人が五人になる程度は許容範囲。
「チッ、まあ良いけど」
別に剣士もハーレムを望んで男を排除したい訳でもなかったし、妥当な提案を受けて舌打ちこそしたものの一応は受け入れた。
単に必要だったのが水薬の代わりの回復役なだけ、戦力を増やすのに否やなど別に無かったからだ。
取り敢えず受付嬢は安堵の溜息を漏らす。
上手くすれば駆け出しの冒険者が三名、無事に依頼を片付けられるだろうし、女神官がユートの毒牙に掛からないかも知れないと。
だけど、そんな受付嬢の期待は初めから脆くも崩れ去るなどと、神ならぬ身に解る筈もなかった。
ユートのレクチャーを、剣士が煩いと文句を付けたのが切っ掛け、ユート的には確りとレクチャーをしておきたかったが、慢心に心を奪われた剣士にはユートのレクチャーなぞ馬の耳に念仏でしかない。
結局、ユートが一党から追い出される形となる。
とはいえ、既に女神官とは一党を組む約束をしていたから、〝目印〟となる物を渡しておいた。
そして、ユートは剣士の一党が洞窟に入った時点で入口に入り込む。
剣士の一党は洞窟内部を探索し、変なオブジェを見付けるが特に気にせず進んでいき、遂にターゲットのゴブリンと出会う。
最悪な形で。
女神官が背後から声が聞こえた気がすると、女魔術師に言っても聞き入れられる事もなく、敢えなく背後から襲われたのである。
女魔術師は魔術師として命にも等しい杖を奪われた挙げ句の果てへし折られ、更にはゴブリンから短刀で腹を刺されてしまう。
剣士は果敢に戦ったが、狭い洞窟内だったが故に剣を壁に取られ、その隙を突かれて複数のゴブリンに寄って集られて切り刻まれ、その若い命を散らせた。
女武闘家は女魔術師へと肩を貸す女神官を逃がそうと戦うが、ホブゴブリンに蹴りを受け止められて掴まれてしまい、散々に攻撃をされてフラフラな処で服を破り取られてしまう。
この先の運命に怯えながらも逃げろと促すものの、ホブゴブリンの醜く汚ならしいナニかを秘裂に押し付けられ息を呑む。
一党潰滅。
その瞬間、光と共に転移してきたユートがホブゴブリンを蹴り殺す。
「ふん、やはりこんなもんなんだろうな」
ユートにとっては規定の路線に過ぎない。
自分の実力を過信して、相手方の最大戦力を侮って潰滅する一党。
よく見る光景だった。
「こ、こうなると判っていたんですか?」
「判らない理由が無いな」
「そんな……だったらどうしてもっと早く!」
「一党を追い出したのは、あの剣士だろう? そして僕個人はこの依頼を受けてないから来る理由は無かったって訳だ。一応、君だけは本来の一党だったから、危機が訪れたらすぐに判る様に目印を渡したんだよ」
「目印? あ!」
別れた際に一人だけ渡された腕輪。
「そいつから警鐘を受けたから、合流呪文の目印にして跳んで来たんだ」
粉末化したルラムーン草を聖水に浸し溶かした水、それに浸け込んだ腕輪には合流呪文の目印となる効果が付与されている。
「さて、時間も無い事だし質問をする。助かりたいか或いは、この場に捨て置かれたいか?」
「どういう……」
「僕は君らを救いに来た訳じゃない。そんな義務も無ければ義理も無いからね。だから報酬を支払うならば助けよう。僕が一党の一員なら要らなかったんだが、既に僕は剣士君の一党じゃないからね」
つまりは当然の要求。
「な〜に、難しく考える事じゃ無いんだ。ゴブリンに犯されて孕まされたいか、この場を生き延びて僕に抱かれるかの違いだよ」
言われた途端に真っ赤になる女神官。
「この侭で放っておけば、すぐにもゴブリンに集られて犯される。僕なら助けられるだろうが……そこで血を吐いてる女魔術師もね」
「っ!」
「言っておくが助けるのは終わった後、僕に抱かれると契約する者だけだから、女魔術師が助かりたいなら……聴こえてるんだろう? 契約を受け入れるのならすぐに頷け」
はたと見れば、女魔術師が涙を流して受け入れると頷いていた。
「で、君らは?」
最早、答えは決まっているであろう。
その後は阿鼻叫喚の世界であったと云う。
ユートは先ず女魔術師に解毒呪文のキアリーを掛けると、更にはベホマで回復を促してやる。
次に女武闘家に新しい服を与えてやり、それに着替えたのを確認したらユートは三名を伴い、一度は下がってオブジェ――トーテムが有った場所まで戻ると、横穴を目敏く見付けて襲い来るゴブリンを殴り殺す。
ユートはゴブリンの気配を探知し、罠なども呪文で看破していき確実に殺して回った。
因みに、彼女らの小水や汗の臭いは特殊な消臭薬で消しており、別の世界線でゴブリンのハラワタに塗れる事は無かった。
囚われの女性を救出後は巨大な呪文で洞窟内を焼き払い、呪文で洞窟そのものを潰してしまう。
尚、ゴブリンの子供など手刀で全てが真っ二つ。
何が起きたのかさっぱり理解が及ばなかったけど、取り敢えずは生命も純潔も助かったし、それを喜ぼうと考えるしかなかった。
その後は散々に冒険者としての心得など、ユートからのレクチャーを受ける。
そして三日を掛けて三人はユートから、守り切ったというか守って貰った純潔を散らされた。
それからも何と無くだったが、ユートの一党として三人は残る決意をする。
因みに、本来の世界線では現れたゴブリンスレイヤーは現れていない。
ユートの行動から彼が動く予定も本来の世界線とはズレてしまい、ゴブリンスレイヤーの行動も一日分だが変化していたからだ。
そのゴブリンスレイヤーとは、あれから一ヶ月以上が過ぎて合流をする。
蜥蜴僧侶や鉱人道士……妖精弓手と共に。
女神官達は何故かユートを気に入った妖精弓手に、ジト目を向ける事になるのだが、それはつまり一ヶ月くらい未来の出来事であったと云う。
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