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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
ヴァリエール公爵家に於ける三女として生を受け、敬愛してやまない次女とは違い、長女や母親の身体的な特徴を受け継いでいる。
多分、そのピンクブロンドを始めとする顔形以外、次女は父親の遺伝子を受け継いだのだろう。
尚、長女はその金髪を見るに顔形の方を父親から受け継いだらしい。
然るにルイズはその殆んど全てを母親から受け継いでいるらしく、父親の血を見た目から受け継いでいるとは思えなかった。
というか、見た目だけなら母親の幼い頃と瓜二つのレベルである。
唯一、父親の血を受け継ぐ部分は見た目から判断が出来ないのを、今現在でのルイズはよく識っていた。
「シエスタ、悪いんだけどこれの洗濯を頼める?」
「はい、畏まりましたミス・ヴァリエール」
黒髪をショートボブにした菫色の瞳の少女、メイドのシエスタに洗濯を命じるルイズだが、普段は気の良い友人に近い付き合いだ。
自分が自分であるというアイデンティティーを取り戻した後、色々と調べたのだがどうやら似て非なるという世界らしい。
ルイズが識るシエスタと比べると、美というものが足りなかったのもあるし、何より〝彼〟が存在していなかった。
次女――カトレア以上に敬愛するお義兄様。
ちい姉様と結婚をして、義兄となった一つ年が上の子爵家嫡男……だった方。
巡り巡ってド・オルニエール侯爵家となり、更にはちい姉様との結婚によってラ・フォンティーヌ大公にまでなってしまったから。
そう、ルイズには前世の記憶が有るのだ。
嘗て、トリステイン王国のヴァリエール公爵家三女……ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールだった時の。
今と全く同じ立場だ。
違ったのはあの人が――お義兄様が存在しない事。
ド・オルニエール領には老貴族が所領としていて、それも約十年くらい前には亡くなって、後継者も居なかったから王領となっている僅か十アルパン程度の広さしかない土地。
確か『お義兄様』の父上であるサリュート子爵は、その老貴族の養子となって受け継いだ形だった筈。
だからこそ、という訳でもないが本来の家名を残して――サリュート・オガタ・シュヴァリエ・ド・オルニエール子爵となった。
元々はサリュート・シュヴァリエ・ド・オガタだったのが、養子となって継いだ際に名前が変わる。
シュヴァリエは一代限りの爵位であり、普通は継承などされないがオガタ家はシュヴァリエの爵位を全員が持っていた。
理由は簡単。
一代限りなら当代が活躍して、シュヴァリエの爵位を国王陛下より与えて貰えば済む話だからだ。
故に、ルイズの敬愛するお義兄様もド・オルニエールの家名以外にシュヴァリエの爵位も持っていた程。
そんなお義兄様から教わったのは、自分が虚無の担い手だという事。
そして、この生でも自分は確かに虚無の担い手。
だから誤魔化した。
全ての魔法を爆発させ、使えない振りをして。
ゼロのルイズとしてだ。
トリステイン魔法学院、二年生となったルイズ。
その最初の授業は当然、使い魔召喚の儀式である。
周りがサラマンダーやら風(韻)竜やらジャイアントモールやらを召喚する中、然しルイズは一向に召喚が成功する兆しが見えない。
ドカン! ドカン!
爆発音が響くばかりだ。
(サイト、来てサイト!)
そう、ルイズが召喚しようとしていたのは才人。
平賀才人。
嘗て、王配としてルイズと結婚をした彼だ。
ルイズはトリステインの女王となり、才人の両親にも挨拶に出向いた。
時折、才人は地球側に居るお義兄様の要請で出張? していたけど、概ね仲の好い夫婦だったと思う。
ドカン! ドカン!
何度やっても喚べない。
(召喚……出来ない……。やっぱりサイトは生まれ変わっていないんだ)
涙が零れ落ちる。
お父様もお母様もエレオノールお姉様もちい姉様も確かに居るけど、ルイズにとっての本当の家族だったあの人達はもう居ない。
それにお義兄様がイチャイチャしていたからこそ、誕生した妹のカリンは当然ながら生まれていないし。
カトレア――ちい姉様とお義兄様が人目も憚らずにイチャイチャしてたから、お父様とお母様が燃え上がって子作りに励み、結果として生まれたのがお母様が若い頃に使っていた偽名のカリンを与えられた妹。
エレオノールお姉様までお義兄様に嫁いでしまい、ラ・ヴァリエール公爵家はカリンが継いだ。
まあ、結局の処はカリンの息子もお義兄様が父親になっているのだが……
平賀才人は地球人にして日本人、行った事はあるのだからイメージは可能。
喚べないのは魔法の未熟ではなく、平賀才人が存在してはいないから。
ヘタリ込むルイズ。
寂しいのもこの日に才人を召喚すればと、甘く見積もっていたから我慢もしていられたのに。
(助けて、誰か助けてよ! 誰か……お義兄様!)
ルイズはジャン・コルベールの静止の言葉など無視をして、大声を張り上げて召喚の呪文を唱えた。
「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つのペンタゴンの頂点たる
転生していなかった才人を喚ぶのを諦めたのか? 遂にはお義兄様を喚ぶ為の呪文を行使する。
果たしてお義兄様に対してどんなイメージなのか、ルイズから見たお義兄様像は何やら凄まじい。
ズガァァァァンッッ!
一際に大きな大爆発。
「うわぁ! ゼロのルイズがやりやがった!」
「だからゼロなのよ!」
「ってか、さっき自分からゼロって言ったぞ?」
阿鼻叫喚である。
だけどルイズはそれ処ではなかった。
爆心地に目掛けて突っ走ったのである。
「お義兄様、お義兄様!」
もう必死だった。
「さっきのは召喚の鏡……あの塔は、此処ってまさかトリステイン魔法学院? 世界を越えて喚ぶという事は虚無の担い手か?」
懐かしい声が聞こえた。
「お義兄様!」
「うわっ!? なっ、君はルイズか?」
「ユートお義兄様!」
「って、僕の名前を知っている? 莫迦な!?」
「やった、成功した!」
ギュッと抱き締めながら泣くルイズに、お義兄様――ユートは何が何やら。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「まさか、ルイズが記憶を持って転生していたとは。しかもルイズ本人に……」
「あはは……」
「けど何で今更、僕を喚んだんだ?」
「う、サイトは転生? していなかったみたいで」
喚んでも来なかった。
「成程……な」
「お義兄様はいつ頃なんですか?」
「――ん?」
確かに色々とある。
最初の世界。
ハルケギニア時代。
ハルケギニア時代な異世界放浪期。
再誕世界。
再誕世界離脱放浪期。
最終決戦直後祝福世界。
柾木時代。
柾木時代だけでも異世界に行ったりしている。
「今の僕は柾木優斗と名乗っているな」
「マサキ・ユート?」
「その字面じゃ、目的地を綺麗に避けて迷子になってるみたいな感じだな……」
サイバスター! 的な。
「まあ、取り敢えず今現在は彩南高校に通ってる最中の高校生だよ」
「高校生というと、サイトが通っていた学院の?」
「少し違うがな……」
とはいえ、時期的に留守は拙いのだからユートは帰らなければならない。
「まあ、普段から使い魔を連れてるなんてタバサくらいなもんだし、僕は用事があれば喚ぶ感じでだな」
「と言いますと?」
「あっちでも起きた事件、それはこっちでも形は違えど起きるからね」
「アルビオン戦役!」
他にも多数。
「判りました」
結局、ユートは学院長やコルベールに事情を説明、取り敢えずは地球に戻る。
「然し、この世界にもまさかハルケギニアが在った上にルイズが居たとは」
「ユートさん、どうなさいまして?」
「いや、別に」
双子の婚約者の一人から話しかけられて、ユートは誤魔化をしながらも今後の予定を考えていた。
一方のルイズは……
「お義兄様とキス」
ファーストキスから始まる二人の恋のヒストリーを感じていたと云う。
飽く迄も転生してからはファーストキスだから。
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