ポセイドンが星矢を呼んだ事になってるけど……
本当は対談の様子だけ、軽く書くだけの予定だったのに、ユートまで出してしまったり。
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二〇〇八年……
きらびやかな煌めきを放つ黄金聖衣を纏い、夜中のスニオン岬の近くに在る、嘗て敵対をした大神が一柱――海皇ポセイドンが遣わした海闘士の雑兵がアテナを浚って、先代の
月夜が綺麗な夜の砂浜、其処で星矢は自らの宿星を仰ぎ見るかの如く夜空を眺めながら、ふと黄金聖衣に触れて想い耽る。
「先代のサジタリアス……アイオロスよ。俺は貴方の様な聖闘士に成れているのだろうか?」
「ふぅ、考えても詮無い事だったな。俺はアイオロスには成れないのだからし、俺は俺としての射手座を目指すしかない」
自分に出来る限りの事をやるまでだ……それが星矢の結論であった。
マント代わりのスカーフが潮風に棚引き、静寂の中で微かに聴こえる細波……元より風情を解する繊細な感性を持ち合わせない星矢だったが、今宵はいつもと違う気持ちの所為だろう、少しのセンチメンタルに耽ってしまったらしい。
「さて、そろそろ時間の筈なんだがな」
星矢がこの砂浜を歩いているのは、何も感傷に浸る為の散歩ではなかった。
今宵の待ち合わせの相手が居り、それが故に沙織と光牙を三日月島に置いて、わざわざスニオン岬の砂浜にまでやって来たのだ。
黄金聖衣を纏っているのは戦闘も視野に入れていたが、聖衣とは決してそれだけのモノではなくフォーマルスーツの役割も果たしている。
謂わばこの姿は正装。
何しろ、これから会おうという相手は立場的に見れば兎も角として、本来なら格上の存在なのだから。
その存在の許へと案内をするべく遣わされる者が、今宵の星矢の待ち合わせの相手なのだ。
そう……嘗ては敵として星矢達の前に立ち塞がり、一度は斃された存在。
〜♪ 〜〜♪
近付く小宇宙と共に耳朶を打つ美しい音色、それはその昔にアンドロメダの瞬が散々、苦戦をした敵の吹く横笛の音。
「来たか、海闘士・七将軍が一人……
「久しいな、ペガサスよ。いや、今はサジタリアスと呼ぶべきかな?」
女神アテナが聖闘士を擁する様に、海皇ポセイドンも神の闘士を擁する。
即ち、
中でも
星矢の目の前に現れた男もその七将軍で、
前回の海皇との聖戦で、七将軍以外には雑兵くらいしか現れなかったものの、本来は他にも海闘士は居た筈なのだ。
一応、
海底神殿の入口の方で、
七将軍以外の海闘士に関しては、ポセイドン自身があやふやな覚醒だった為、鱗衣の適格者が目覚めなかった可能性がある。
また、ポセイドンの神殿は星矢達が攻め込んだ場所以外にも存在すると云われており、恐らくは海皇に侍る人魚姫と七将軍以外は、そちらの神殿に安置されていたのだろう。
「ソレント、こいつを俺に寄越した真意を問いたい」
瞑目した星矢が懐から取り出したのは、一通の封筒に入った手紙だ。
「何ね、我が主たるポセイドン様の御命令なのさ」
「ポセイドン……再び目覚めたとでも云うのか?」
「心配をしなくとも良い。今のポセイドン様はジュリアン・ソロ様を依代とし、貴方に話したい事があるだけなのだよ」
「何故、俺なんだ?」
ソレントはニヒルな笑みを浮かべると……
「フッ、アテナを直接呼び出しては要らぬ争いになるやも知れない。これは海皇ポセイドン様の御気遣いというものよ」
「成程……な」
「まあ、本来なら〝彼〟を呼びたかったのだが、今はどうにも捕まらなくてね。教皇になったドラゴン……紫龍だったな、彼以外では黄金聖闘士を纏めているのは君だろう? 〝彼〟以外なら君が適任だったのさ」
「彼……その呼び方は好きではないらしいぞ?」
「ふむ、そうなのか。なら改めよう」
冗談めかして言う星矢の言葉に、顎を擦りながらもそれに応えるソレント。
「彼……否、名前は優斗だったな。優斗はポセイドン様の御力を奪いし存在だ。だが、それが故にだろう、目覚めた新しい
「見付からず、だからこそ代役に俺という訳か?」
「気を悪くするな」
「いや、構わないさ」
一時的とはいえポセイドン復活の余波からだろう、側仕えの
「では、そろそろ案内をしようか」
「ああ……だがその前に」
「ふむ、招かれざる客から始末せねばならないか」
星矢とソレントが振り向けば、其処には深い緑色の鎧を身に纏う人間が居た。
猫背に槍を持つ画一的な鎧を着ている、謂わば彼らは雑兵なのだろう。
何処と無く海闘士が纏う鱗衣みたいに、鱗をあしらった感じの鎧であったが、コイツらが海闘士でないのは纏わり付く様な気持ちの悪い小宇宙から、絶対違うと自信を持って言えた。
「ふぅ、話とはつまり奴らの事なのだろう?」
「その通りだ、サジタリアスの星矢。我らが主も大いなる大海を汚す奴腹を赦せないらしくてね」
何年か前からか、散発的に現れていた海に
勿論、海皇ポセイドンの手の者では有り得ない。
「
「我ら海闘士も、大海を汚す者を赦しはしない!」
海を汚す――ポセイドンにとっては目障りな邪神共の
星矢とソレントが小宇宙を燃焼して高めると……
「な、なにぃ!?」
「この、恐ろしく強大なる小宇宙は!」
自分達に迫る程……否、勝るとも劣らないくらいに強大な小宇宙を感じる。
ならば神の闘士だろう、然し小宇宙の感じが目の前の
「この小宇宙の感じだと、聖闘士でも海闘士でもないけど、何処かで感じた事のある小宇宙の気配……」
星矢には小宇宙に心当たりがある。
個人の小宇宙ではなく、神の闘士という括りで。
その小宇宙の持ち主が、星矢とソレントの傍に降り立った。纏う鎧はまるで、冥界の鉱石の如く漆黒をしており、サジタリアスの様な大きな翼を持つ。
胸部の脹らみから女性なのが判り、東洋人と思しき顔立ちにポニーテールに結った長い黒髪、年の頃なら二十歳前後だろうか?
「冥衣だと!? 莫迦な! 冥王ハーデスが亡き今、
女性が纏うのは冥王軍の証したる
ある意味では冥衣こそが本体だとも云える冥闘士、ハーデスの加護を喪ってしまえば、単なる鎧と殆んど変わらないというのにだ、彼女の小宇宙は
冥界三巨頭とはつまり、天猛星ワイバーン、天貴星グリフォン、天雄星ガルーダの名を持つ最強の三人。
だが、彼女の冥衣は星矢の知るどの三巨頭とも異なっており、それは三巨頭ではない通常の冥闘士である事を示している。
恐らくは自分達と出会う前に、黄金聖闘士か誰かに斃された冥闘士。
前の使い手が弱かったのか或いは、黄金聖闘士すら苦戦を強いられながら斃したのかのいずれかであり、故に星矢達は出会う機会が無かったのだろう。
「ふふ、貴殿方なら海魚兵に苦戦はしないでしょう。ですが、御話に加えて頂きたいので加勢させて貰いますね? 射手座・サジタリアスの星矢さんと
「どうやら名乗る必要は無さそうだが、貴女は?」
女性の言葉に反応して、ソレントが訊ねるとたおやかな微笑みを浮かべると、女性は自らの名を名乗る。
「私の名前は朱璃。天暴星ベヌウの朱璃」
「
ソレントの知識に有ったベヌウを語ってみた。
とはいえ、ベヌウというのは中国の不死鳥と謳われる鳳凰の様な雌雄同体などではなく、完全なる雄であった筈なのだが、どうして女性なのだろう?
なんて、場違いな事も考えてしまった。
「それで、共闘の御話はどうかしら?」
「……」
「……」
一切、崩さない微笑みに気圧される星矢とソレントだったが、すぐにも算盤を弾いてみた。
敵対は論外だろう。
黄金聖闘士並、海将軍並の冥闘士を相手にしつつ、文字通り雑魚の雑兵だとはいえ他の神の闘士を敵に回すのは得策とは言えない。
何しろ、三巨頭ではないだけで三巨頭クラスに違いはないのだから。
それに冥闘士との敵対はハーデスとの敵対からで、彼女――ベヌウの朱璃という女性は、ハーデスの手下の冥闘士ではない筈。
流石に詳しい話を訊いている暇は無いし、こうなれば仕方がないとソレントは考えて、一つだけ訊ねる。
「貴女の主とはハーデスではないのか?」
「ハーデス? あんな骸骨の手下ではないわね」
「「骸骨!?」」
ベヌウの答えにソレントばかりか星矢までもが驚く、ソレントは直接的に見ていないが伝承などから知っているのだ。
ハーデスは、その美しい肉体が神代の刻にペガサスにより傷付けられて以来、真の身体をエリシオンの奥深くに眠らせ、復活の折りには地上で最も清らかなる魂を持つ人間の肉体に憑依すると。
星矢は直に見ているから知っているが、ハーデスは所謂処の
故に二人は顔を見合わせて首を傾げた。
「ああ! 骸骨なのは私が
「元居た世界? 此方側の世界って、アンタは異世界から来たとでも?」
星矢からの質問に我が意を得たりと首肯する。
「解った。兎に角、全ては奴らを片付けてからだ」
流石にいい加減で動き出した
だが、雑兵などでは数は関係無かった。
「ハァァァァァッ!」
それは星矢が纏う聖衣、
秋の夜空を彩る大四辺形から成る一三の星の軌跡、それは即ち……
「ペガサス流星拳っっ!」
『『『アギヤァァァァァァァァァァァアアッ!』』』
自分の方へと真っ直ぐに向かって来る海魚兵達を、光速の流星拳によって駆逐してしまった。
ソレントは、手にしていたフルートの吹き口に口を付けると、息を吹き込んで美しい音色の曲を奏でる。
だけどこれは、美しくも恐ろしい死を誘う音。
「
小宇宙の音色で頭脳へと直接響かせ、それによって五感を侵す魔曲で、交響曲が最高潮へと達した時に、敵は死を迎えるのだ。
「
『『『グギヤアアアアアアアアアアッ!』』』
曲を聞かされた海魚兵がバタバタと倒れ、息の根を止められてしまっていた。
ベヌウは自らの肉体を、漆黒の焔で燃え盛らせる。
「
『『『ウピャァァァァァァァァァァァアアッ!』』』
強力な焔による熱風を放って、
百は越える海魚兵だが、やはり所詮は雑兵でしかないが故に、全てを一撃の元に討ち斃す三人。
一人たりとも動く海魚兵が居なくなり、取り敢えず一息を吐いた星矢は、朱璃の方を見遣ると気になる事を訊くべく話し掛ける。
「ベヌウ……」
「朱璃」
「――え?」
「ベヌウではなく朱璃と呼んで頂けますか? 貴方もペガサスとかサジタリアスと呼ばれるのは憚るのではないですか?」
「む、う……判った。それじゃ……朱璃……さん」
敵は兎も角、そうでない相手にはさんやちゃん付けが基本な星矢は、引っ掛かりながらも名前を呼ぶ。
朱璃は満面の笑顔を浮かべて頷いた。
「貴方はソレントで宜しいですか?」
「構いませんよ、朱璃」
ソレントもやれやれといった風情で頷く。
「それで朱璃……さんは、どうして? 先にも言った通り冥王ハーデスは討たれた筈なのだが?」
「それに関しては私も言いましたよ? ハーデスなど私には関係がありません。私の世界では単なる骸骨神ですしね。まあ、強いのですけど……」
「やはり異世界の地球から来たのか?」
この世界のハーデスは、決して骸骨神ではない。
星矢とてユートの存在を知っていれば、その考えに思い至れるものだ。
「朱璃さん、貴女はユートの知り合いなのか?」
「はい、我が主ですから」
「「は?」」
この女性は今、何と言ったのだろうか?
我が主? 誰が?
星矢ばかりかソレントも茫然自失となる。
「貴殿方も御存知なのでしょう? あの方がハーデスの力を喰らった事を」
「っ! だが、アイツは確か力を使える訳では!」
「彼方側で状況が変わりました。とある出来事を経て神の力を形──権能に変換して、我が主は使える様になったのです」
「権……能……?」
喰らい、溜め込んでいた神々の神氣だが、人間では力として殆んど扱えない。
弾丸に詰めて一時的に、一部と呼ぶのも
「私はその権能によって、束の間の生命を与えられていたのですが、とある事情からその枷も無くなりましたから」
「時間制限……か?」
束の間の生命、ハーデスは嘗て十二時間の限定で、黄金聖闘士や白銀聖闘士を甦らせ、黄金十二宮を制圧させんとしたのだ。
それを鑑みれば可成りの忌々しい力と云える。
サガが、デスマスクが、アフロディーテが、更には白銀聖闘士達が、そして嘗ての教皇であるシオンまでもが……だ。
悲しい闘い――デスマスクとアフロディーテはノリノリだったが――を繰り広げねばならなかった。
「ハァー、力は所詮力か。アイツらしいな」
嘆息をする星矢。
「現・冥王とも云える我が主の命により、アテナ様とポセイドン様に接触をしようと動いていた矢先、貴殿方の小宇宙を感じたので、此方に飛んで来ました……本来ならポセイドン様との接触は、この宝玉を介して行う予定でしたが、海魔女のソレントが鱗衣を纏っているのなら、今は微睡みの中の半覚醒状態……といった処なのでしょう」
「その通りだ」
「ならば好都合というものです。直にポセイドン様に謁見して、海を騒がす聖戦が行われる事を御報告申し上げられますから」
「海を騒がす聖戦……か、では貴女や優斗の敵というのはやはり?」
ソレントからの問い掛けを受けた朱璃は、穏やかな笑みを湛えた表情の侭で、真面目な瞳の輝きをみせると首肯して言う。
「はい……我らが敵である
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
此処は数あるジュリアン・ソロの別邸。
三ツ又の矛……トライデントの穂先の如く形状をしたタラッサ島の一角に建てられた邸だった。
邸のリビングルームでは三人の男性と、一人の女性がソファーに座りながら、テーブルを囲んでお茶を嗜んでいる。
勿論、話し合いをする為に居るのだから聖衣も冥衣も鱗衣も纏っていない。
「成程、どうやらあやつめは我が力をも使い熟せる様になったか」
「はい、ポセイドン様」
カップをソーサーへと戻しながら、ポセイドンと呼ばれた青神の男性は遠い目をして呟き、それに肯定の意を示す朱璃。
肉体はジュリアン・ソロのモノを借りた状態だが、中の意識は海皇ポセイドンとなっており、凄まじいまでの
「それで? どの様に力を発現させたのだ?」
「権能銘は【
「はっは、成程な。聖書に於けるノアの方舟に倣ったという訳か!」
台風や津波など、これらの操作が権能の内容となるらしい。余り攻撃には向かない力だと云える。
以前の闘い、ポセイドンは神氣を喰らわれ激昂をしたものだったが、今は寧ろ愉しそうに聴いていた。
暫くは四方山話に花咲かせて歓談を楽しみ、時間もいい加減で経った頃合いを見計らい、朱璃は本題となる話題を切り出す。
「それで、
「構わぬ、本来なれば私がせねばならぬ事だ」
朱璃の確認にポセイドンは鷹揚に頷いた。
今生に於けるジュリアン・ソロの代で、ポセイドンの完全なる覚醒は最早無いと言っても良い。
故に、ポセイドンが邪神たる
そうなると、地上の愛と平和を守護するアテナと、アテナの聖闘士に全てを託すより他になく、彼もそれが故に星矢を呼んだのだ。
力を貸し与える為に。
ポセイドンがソレントを見遣り頷くと、心得たと謂わんばかりに立ち上がり、趣味が悪くない程度に装丁が豪奢な木箱を、奥の部屋から持ってくる。
箱を開けてみるとまるで蒼海の如く蒼い宝石が入っており、その宝石から異様な小宇宙が感じられた。
「これは?」
「アクアドロップ」
朱璃から質問されてそれにポセイドンが答える。
「「アクアドロップ?」」
朱璃も星矢も聞いた事が無いアイテム名で、同時に首を傾げてしまう。
「このアクアドロップは、全部で七つが存在する」
箱の中には三つしか存在しておらず、要するに四つばかり足りていない。
「嘗てのアテナ軍との聖戦で喪われたが故に、幾つかは聖域の何処かしらに隠されていよう。そしてこれを七つ全て揃えて再びこの地に来れば、大いなる力を得られる筈だ」
「
確かに聖域は隠し部屋の類いには事欠かないから、或いはまだ見付けていない部屋に在るかも知れない、星矢はそう考える。
事実として、随分と昔に黄金聖闘士がまだ幼かった頃に起きたとされる聖戦、その際に隠し部屋が発見されて、強大なる力を持った大地母神ガイアがティターン十二神族に与えた
嘗ての獅子座の黄金聖闘士アイオリアが、一三歳の小僧共ぉぉぉっ! だった頃の話である。
そんな神具がどれだけの数を封印されてるのかは、既にアテナにすら判らない事だろう。
「なら、そのアクアドロップは朱璃さんから優斗へと渡してくれ」
「判りました」
頷くと、蓋を閉めてその手に箱を取る朱璃。
「さて、私も暫くは眠りに就くとしよう。ソレント、後は任せたぞ」
「ハハッ、ポセイドン様の仰せの侭に!」
ソレントが跪いて応えるとポセイドンの意志が消えてしまい、ジュリアン・ソロの肉体だけが残される。
「それではそろそろ御暇をさせて頂きます。私も主に報告をせねばなりません」
「朱璃さん、アイツはいつ此方に戻りますか?」
「そうですね。今暫く忙しいですが、それが終わればすぐにも聖域へ御挨拶に行くのでは?」
「そっか……」
星矢も納得をしたのか、何処か嬉しそうに頷く。
「それではまた御会い致しましょう。
闇黒の
輝火が纏っていた本来のベヌウの冥衣に比べると、女性らしいヒップラインやウェストラインを持って、胸部も脹らみが判る形状となっているが、全体的には間違いなくベヌウの冥衣と理解が出来る。
翼を広げて飛び立つ朱璃を見送ると、星矢も
「
射手座の星の並びが浮かび上がり、黄金に煌めいた半人半馬で弓矢を番えているオブジェが顕れ、分解がされて星矢の身体を鎧う。
そして星矢も聖域に向けて飛び立った。
それを見送るソレント、すぐ
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
星矢が聖域へと戻って来たなら、
「瞬!」
「ああ、星矢か。戻って来たんだね。どうだった?」
「ポセイドンとの話し合いは上手くいった。けれど、アイツ――優斗の手の者とも会ったんだがな」
「優斗の? じゃあ、帰って来ていたんだね」
「ああ、その内に挨拶に来るってさ」
「そっか……」
瞬にとってもユートとは
二百数十年前の前聖戦の時代へと、星矢を救うべくアテナと共に向かった際、やはりユートも手を貸してくれたし、自分が先代に当たる乙女座の黄金聖闘士・シャカが次代の乙女座だと言っていたと伝えてくれたのも、共に過去の十二宮を登っていたユートだ。
ユートはあの無限戦争になり兼ねない闘いに、瞬が介入をした時に天馬と一緒に跳ばされた際にも、動く事はなく後に顛末を語ってくれたのである。
シャカとその先代になる乙女座のシジマとの会話、シャカが瞬を気にする理由こそ、瞬が次代の乙女座となるべき聖闘士だからだと語り合っていたのを。
瞬は天馬と共にシジマの力で、処女宮の沙羅双樹の園に引き上げられていたとはいえ、その時の会話自体は聞いていない。
まあ、後に聞かされる事になる訳だが……
紆余曲折があり乙女座を受け継いだ瞬はこれより後の闘いでは、
何よりも人々への慈しみの心から、瞬は救った人達から『最も神に近い男』と呼ばれ、崇敬されている。
更に、嘗てはハーデスの依代として魂を受け容れたからか、魂の容量と強度が弥増した瞬は小宇宙的にも『最も神に近い男』だと呼ぶに相応しい力を得るに至っていた。
「そういや、瞬はどっかに行くのか? 処女宮を空けるなんてよ」
「うん、詠がそろそろ修業を始めたからね。僕はまた少し世界を巡るよ」
「そうか、判った。十二宮は優斗が戻れば任せるか。三年以上も空けてたし」
「クス、そうだね」
これより後にユートが戻ったなら、十二宮の守護と後のオリオン星座の聖闘士エデンに修業を付けるという仕事が待っている。
瞬と別れた星矢は十二宮の最上部、教皇の間まで行くと報告を聞く為に珍しく此処で、黄金に煌めく飛竜の飾りを持つ教皇の冠に、白い法衣を身に纏う教皇の座を継いだ紫龍と会うと、ポセイドンとの話し合いの顛末を語った。
その後、三日月島に戻った星矢だったが、義息子の光牙が聖闘士の事を知り、聖闘士になりたいと言い出した事に驚愕したものの、シャイナと共にペガサスを継げる聖闘士に鍛えるべく動き始める。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
財団法人【OGATA】の東京本部ビル……
天暴星ベヌウの朱璃が、冥衣の姿の侭に跪いて報告を上げていた。
気怠そうに、ベッドのシーツを身体に巻いた状態で朱璃に近付くと、朱璃が両手に持って差し出している箱を受け取り、蓋を開けてみれば三つの海色の宝石――アクアドロップが光を反射して煌めいている。
眠たそうな瞳で気怠いと言わんばかりな態度、朝の朝っぱらから帰還を聞かされて無理に起きたのだから仕方ない。
可成り遅くまで仕事をしており、一段落をしたから眠ろうとしていた矢先だ、ウトウトとし始めていたら秘書をしている幼馴染みが部屋に乗り込み、叩き起こしてくれたのである。
後で幼馴染みは――性的に――いぢめてやると心に決めて応対していた。
「コレは聖域にも有るんだな?」
「はい!」
「判った、これは近い内に本当に聖域へ行かないとな……」
アクアドロップの入った箱を、亜空間ポケットへと仕舞いつつ呟く。
「それじゃあ、暫くは喚ぶ事も無いだろうから、元の世界で
「オホホ、それでは御前を失礼しますね」
朱璃は笑いながら部屋を出て行った。
朱璃は人間だが、堕天使の組織の【
飽く迄も
緒方優斗、この世界に於ける戸籍上の年齢は未だに一五歳の少年……
だけど地上暦二〇〇三年の事、麻帆良学園都市に於いてはとある事件に巻き込まれ、二十数年前に跳ばされる。
それ故に、聖闘士の聖戦にも参加をしていた。
そしてその所為もあり、北欧のアスガルドには
また、
全ては本来の世界線に近い歴史を辿った、未来からの来訪者の起こした事。
彼女からの情報により本来の歴史ではマルスはまだ斃されておらず、数年後の二〇一二年には再び侵攻を開始したのだと云う。
だが、それはもうマルスを降したこの世界線で起きる事は有り得ないが故にこそ、マルスの時とは違う聖戦が代わりに起きるのだと云う。
そうなる事は二〇〇〇年以降で、散発的に
聖戦を闘うべき相手が、あの
「やはり因縁……だな」
ユートはまるで燃える様な赤毛を、ツインテールに結っている
.
世界観は、ユートが転生をしなかった世界線から、聖闘士星矢Ωの歴史を歩んでおり、星矢以外のレジェンドが魔傷で黄金聖衣を継がなかったから、イオニアの企みが成功したりしています。
新しい世界線でイオニアは没していて、山羊座になる事は有りません。
この世界がネギま!との習合をしている事実だけは変わらない為に、百年後ではマルスとの闘いで火星がボロボロとなり、完全に枯れてしまった設定です。