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十数年前、トゥスクルという國は戦争をしていた。
それは主軸となった青年――ハクオロの戦い。
前文明の滅びた人間より更に前、その頃の人間に憑いた“神”が関わる。
そして彼は勝利する事により、トゥスクルを興した祖皇となったのだ。
とはいえ、彼は自らを封じねばならなかったが故、義兄弟の杯を交わした義弟――オボロや、オボロの妹と結ばれたユートに後を託したのである。
本来、オボロの妹であるユズハと結ばれたのは彼、ハクオロ本人であったのだが原典を識らぬが故にか、ユートがユズハと仲好くしてしまい、結果としてそうなってしまった。
まあ、ハクオロには初めから傍に居たエルルゥが居たから、ユートは彼女こそハクオロと結ばれる娘だと思っていたから。
元々の原典がエロゲだった為、ユートはコンシューマーで出てもアニメ化されても興味を示さなかった。
アニメとしてのタイトルだけは識ってたし、主人公のハクオロとヒロインであるエルルゥの名前は一応、記憶の中にあったというのも拍車を掛けてしまう。
そんな訳でオボロを
幸いというか、ユートの子供は基本的に相手側の方の遺伝子が強く出る為に、クオンの容姿も特に違ったりはしない。
違いは原典より強くなっているという事。
それも誤差の範囲と呼ぶにはちょっとあれだ。
刻は流れて……
クオンはヤマトの國へと入り、其処で一人の記憶喪失の青年と出逢う。
名前はクオンが付けて、『ハク』……とした。
一方のユートも一つ所に落ち着かない気質故にか、どうにも彼方へフラフラと此方へフラフラしている。
否、本人の気質というより最初の転生での最終決戦後にあった時空放浪。
あれが切っ掛けかも。
トゥスクルでのフラフラもいい加減で飽きてきて、ユートの方もクオンと同様にヤマトの地へ渡った。
本来、ハクオロが担っていた部分での女性関係を、それこそユート自身の持つナニかで受け持ったが故、基本的にエルルゥ以外での関係を深めていたユート。
ヤマトの帝都に存在する旅籠屋――白楼閣を拠点に定めて彼方此方の國を見聞している。
勿論、白楼閣の主や女子衆の一人が嘗ての仲間――カルラとトウカなのを理解した上での事だ。
トウカは『私を見ないで下さ〜い』と狼狽をしていたが……
クジュウリ國はオーゼン皇がヤマト八柱将が一人、また一五人にも亘る子供が居るのだと聴く。
どんな國か興味を持ち、中継地に丁度良い位置に在るエンナカムイ國まで足を伸ばし、先ずはこの國での見聞を広めた。
皇に興味を持ったのは、ハクオロの後に皇を継いでオボロにそれを渡すまで、自身でトゥスクル國の運営をしてきたからだ。
まあ、オボロに皇位を継がせたのは良かったけど、一応は国政に関わる立場に残って欲しいと請われて、トゥスクルには情を通じ合った娘も多数が居たから、大将軍としての地位で取り敢えずトゥスクルに何かが在れば、その地位を以て動く約束をして國を出た。
勿論、後発となっていたアルルゥや普通に交わったカミュらから、偶には帰って来て相手をして欲しいとも言われている。
とはいっても、余程の事がなければユートが帰るまでも無い戦力を、ベナウィに預けてある訳で。
約三メートルの巨体を持った
トゥスクル國の建國戦争でも使ったゲシュペンスト部隊、ハルケギニアに於けるアルビオン戦役や邪神戦争にも使われたソレ。
割とファジーで便利だ。
昔はそれ相応の魔力持ちでないと動かせない代物であったが、改良を重ねていった結果として魔力を持たずとも専用の指輪を持てば動かせる。
専用だからマイスターのユートか、指輪を与えられた者しか扱えない。
つまりは、敵が奪う事は不可能となっている上に、斃されたら土塊に還る。
それに多少のダメージは大気中のダークマタを回収して、自己修復をしてしまう反則気味な機能。
敵対者からしたら正しく悪夢でしかなく、ユートは悪夢を統べる皇――ロード・オブ・ナイトメア的な扱いを敵から受けていた。
飽く迄も彼らの言葉で。
「素朴な國……だな」
それは何処かトゥスクルを思い出させる。
とはいえ、ヤマトの帝都の喧騒も悪くなかったが、ユートはこういう雰囲気も嫌いではない。
「それは田舎と言いたいのです?」
「うん?」
振り向けば背の低めな、右目の下に泣き黒子がある少女が立っていた。
見た目には初めて出逢った頃のアルルゥくらいか、若しくは小さいだけでもう少し歳が上なのかの判断は付かないが、彼女とはまた違った系な元気タイプといった処か。
アルルゥは不思議系が入っていたし、元気なタイプとは違っていたから。
戦闘にも参加はしていたけど、アルルゥの場合だと戦闘力は基本的に白き大虎のムックル頼りだ。
尚、ムックルの攻撃とは敵を喰い殺す系である。
「僕の居た國に似た雰囲気だと思っただけだよ」
「貴方の國にですか?」
「ああ、割と最近になって成立した國だけど……な」
「そうですか」
少女は取り敢えず納得をしたのか頷く。
割と最近というのは間違いではない。
トゥスクル國は少なくとも十数年前には別の國で、ユートがハクオロやオボロを中心に、薬師トゥスクルを慕っていた連中などと共に元々の國へ反旗を翻し、謂わばクーデターで奪い取った訳だから。
「それにしても、行き成り話し掛けてこられたけど、君は? 僕の名はユート。海の向こう、トゥスクル國から旅をしてきたんだ」
「私はこの國の……そうですね、学士見習いみたいなものでネコネといいます」
「へえ、学士か」
見習いとはいえ随分と頭が良いのか、見習い学士とネコネは名乗った。
因みに、トゥスクル國が在るのは弓状列島であり、ヤマトと云いながらこの國は位地的にはロシアだ。
ユートはどうして大和――ヤマトというのかが気になったが、どちらにしてももう旧人類は存在していないに等しいし、解明しなければ気が済まないという程でもない。
ユートが確認をしている旧人類は、ユート本人――異世界人だけど――に加えて旧人類の更に前の世代となるだろうハクオロ、更にタタリと呼ばれている赤いゲル状の生物? だ。
赤いゲルだが、その真実は旧人類がこの世界で形を保てず変化した存在。
勿論、理由まではユートにも窺い知れない。
「そうだ、ネコネ」
「何です?」
「良ければこの國を少しばかり案内してくれないか? 初めて来ただけあって、不案内な土地だからね」
「ううん。此方から話し掛けて何ですが、兄さまから知らない人には付いていくなと言われてるのです」
「ふむ、成程。確かに怪しいかも知れないな。判った……無理は言わんよ」
そう言ってユートは手を振りながら歩き出す。
とはいえネコネはちょっと気になったのか、下手ではあるが尾行をしてみた。
「何なのです? さっきから畑を見ては土を触って、作物も見てるですが……」
ユートと名乗る異國人の不可解な行動に、ネコネは訝しい表情で見つめながらまた動き出したユートへと付いていく。
「やはり……な」
「何がやはりなのです?」
「良い國だ。だけど故郷に比べるとどうしても足りないモノがある」
「……」
驚くでもなく応えられ、逆に困惑をするネコネ。
「畑の土壌が良くないな。それと水が足りていない」
「そ、それは……インナカムイでは仕方ないのです。土地柄なのですから」
「十数年前の僕の國も大して変わらなかったけどね、それでも不断の努力により改善されている」
「っ! エンナカムイでは努力が足りていないと云うですか!?」
「努力はしているだろう。足りないのは知識」
「ち、知識?」
トゥスクル國はその成立前からハクオロやユートによる所謂、現代知識チート的なモノを用い様々な改革を行ってきた。
その結果、十数年が経過した今現在では少なくとも二人が干渉する十倍を越える収穫量、更には死に逝くヒトの減少による人口増加が見込まれてきたのだ。
尚、これはユートの識らない原典よりユートが干渉をした分、遥かに良くなって結果を出している。
治水冶金の技術や田畑の技術、鍛冶技術や芸術方面にまで手を伸ばしたし。
特に魔導具や科学技術は可成りアレだった。
エンナカムイはその周囲が険しい山々や深い渓谷に囲まれて、自然の織り成す城砦とも呼ばれている。
國の素朴さも相俟って、エンナカムイは樹立してより以来、外敵から狙われた事が無いと云う。
かといって鉱石に良いのが有るかと云えばそうでもなく、はっきり云えば侵略しても旨味が無い。
年老いてから住むのには向いている國柄であるが、少なくとも若者向けだとは間違っても云えなかった。
ヤマトの帝都みたいな、あの華やかさには及ぶべくもないのだから。
だけど緑はそれなりには有るものの、畑の土壌的にはやはり宜しいとはいえない状態である。
(まあ、余所者がしたり顔で講釈を垂れても……な)
此処はトゥスクル國ではないのだし、ユートが優先して干渉をするべき場所という訳でも無い。
「大きな水場も無いのか」
井戸くらいは有るけど、何処かから水を引いたり川が流れていたり、そういう水事情も宜しいと云えないみたいだ。
近くに湖でも在ったら、其処から引いてきているのだろうが、見当たらないのなら湖も無いのだろうか?
「湖なら在るのです」
「在るにしては使っている様には見えないな」
小さな小川くらいならば存在するし、井戸で地下の水脈を利用もしている。
飲み水や畑の用水に不備は無いが、充分とも云えないのが状況だろう。
実際、トゥスクルに湯船を張った風呂が存在するのだが、エンナカムイに在るのは謂わばサウナ。
因みに、ユートが泊まる帝都の白楼閣にはたっぷりのお湯を張った大風呂が、これでもかと謂わんばかりに存在している。
これは白楼閣の女将をするのが、トゥスクルから移り住んだカルラだからだ。
無ければ造るまでと。
この後、なし崩しに近いにせよネコネが案内人を買ってくれた為、観たい場所は今日の内に廻れた。
「皇の手際か? 決して恵まれた土地と云えないが、民は飢えや渇きに苦しむ事も無く穏やかに暮らしている良い國だな」
「……そうですか」
故郷を誉められたからか何処と無く嬉しそうだ。
実はちょっと人見知りをするネコネではあったが、どうしてかユートに対しては一般的な警戒くらいしかしておらず、自分自身でもこの不可思議な感覚が解らずにいた。
「こういう土地なら悪くはないし、暫くは逗留するのも良いのかな? ネコネは何処か旅籠とか知らない? クジュウリに行くまでの旅籠を捜したいんだが」
「クジュウリですか?」
「ああ、ヤマトを全体的に旅している訳だけどね……イズルハからエンナカムイまで来た訳だし、その次の國はクジュウリって訳だ」
海の國シャッホロから、ヤマト國の帝都へと旅をしてから、カルラとトウカの運営する白楼閣に宿泊してのんべんだらりと暮らし、帝都暮らしに飽きてきてからイズルハに向けて動き、今現在はエンナカムイと。
だから行き先としては、エンナカムイの次はその先に在る國のクジュウリ。
特に目的は無い。
イズルハもエンナカムイもクジュウリも、ヤマトの属國の一つとして観光する為だけに訪れたのだし。
クジュウリの観光が済めば帝都に戻り、また暫くはのんべんだらりとカルラやトウカと酒や食事を愉しみながら暮らし、次は反対側のナコク辺りに行こうとも考えてはいるが、目的意識なぞその程度でしかない。
ヤマトに来たのだって、ユートからしたら建國したトゥスクル以外、正確には弓状列島とは違う場所でのヒトが住む地を見たくなったのが理由である。
何故かロシアなのに
いずれにせよ、弓状列島とロシア方面以外でヒトが住んでいない可能性もあったし、住んでいるにしてもわざわざ行く程かとも考えると旅もヤマトの國を観て回る程度で良い。
そもそも、トゥスクル國の二代目の
「取り敢えず、家に泊まるですか? 母さまが居られますから食事くらいは出すのです」
「良いのか? 此方は助かるんだけどね……」
「構わない……です?」
「何故に疑問符?」
「判らないです……けど、構わないのです」
「そっか、ありがとな」
「良いのですよ……」
自分でもよく解らない、そんな気分だったがユートを外れに在る我が家へ招き入れるのだった。
ネコネの家。
それはエンナカムイの中の街中に在っても外れで、それなりに歩かないと着かないくらいだ。
「ただいまなのです」
「あら、お帰りなさい」
ネコネを見れば判るが、その母親は普通に美人だ。
何故かユートの母親――アリカみたく眉毛がアレになっているが、そこは別に構わないだろう。
「ちょっと御客様を連れて来たのですよ、母さま」
「あら、御客様?」
ネコネよりも後ろに居る此方を見遣る女性だけど、何故か視線が若干ながらも定まっていない。
(目が悪い……というより余り見えていない感じか? 一応、完全な盲目って訳でも無さそうだが)
少なくとも健常者という訳ではないだろう。
「初めまして、トゥスクルという國から見聞を広めるべく来ましたユートと云います。この度、エンナカムイにまで足を伸ばしましたが御息女に宿泊を薦められまして、御迷惑でないなら御願い申し上げます」
ネコネはああ言ったが、流石に母親までもが歓迎をするとも限らない。
まあ、駄目ならば駄目で旅籠に泊まれば済む話だ。
「まあまあ、御丁寧に……私はネコネの母のトリコリと申します。それにしてもネコネが……珍しい」
「は、母さま!」
珍しいとはネコネの気質にあるのだろう。
共に歩いた結果だけど、どうやらネコネは少しだが人見知りらしく、積極的に話し掛けたりはしないみたいだった。
勿論、誰かから話し掛けられたら応えるけど。
何というかネコネというよりコネコ?
うん、きっと気に入らない相手には『ふしゃーっ!』と威嚇するに違いない。
そんなネコネが自分から話し掛けた、奇跡とまではいかないだろうが母親からしたら『あらあら』といった感じなのだろう。
娘バカな父親なら寧ろ、父親の方が『ふしゃーっ!』と威嚇してきそうだ。
生憎とトリコリの旦那は既に故人らしいが……
(こんな美人な奥さんを置いて亡くなるとか、無念ではあったんだろうな)
ネコネが落ち着きのある大人になればこうなる……という見本の様な未亡人とは思えない若々しい女性、それがトリコリだった。
(けど、ネコネの眉毛とは違うんだな。何と云うか、
ネコネは普通だ。
(そういや道中で兄が居ると言っていたな。名前は確かオシュトル……)
若しやすれば兄はあんな眉毛なのかも知れない。
尤も、今のオシュトルは帝から与えられた仮面を被っていて、顔は見えないとの事だけど。
帝都に暫く暮らしていたからユートも知っている、それ程の有名人がネコネの兄でありトリコリの息子。
【
右近衛大将オシュトル。
左近衛大将ミカヅチ。
八柱将が一人たる【豪腕】のヴライ。
八柱将が一人たる【鎮守】のムネチカ。
特に両近衛大将などは、【ヤマトの双璧】と呼ばれるくらいの武人だ。
(八柱将……か)
要は八人の将軍。
武者頑駄無的に云うと、七人の超将軍だろうか?
「そういや、シャッホロで女の子に襲われたな」
「はぁ?」
『お兄さん、強いなぁ? ウチと死合いせぇへん?』
とか、ニコニコと可愛らしい顔に似合わぬ豪胆さ。
「取り敢えず腕一本を斬り落として勝ったんだが」
「それは恐らく、【シャッホロの狂い姫】なのです」
「く、狂い姫?」
「八柱将の御一人、溟海のソヤンケクル様の御息女だった筈なのです」
「うわ、上物な服だったから身分は高いと思ったが、八柱将のソヤンケクルってシャッホロの皇……」
「ハイです」
一応、メルキシル剤で治しはしたけどお姫様の腕を斬り落とした事実。
何というか、調子に乗ってバカみたいに造ったからだろう、事有る毎に使っている気もする薬である。
名前が可笑しくて気に入ってしまい、アーランド系の世界に行った際に造った物だった。
とはいえ、前にメルキシル剤は疎かエリキシル剤やその他のアイテムの一切、アイテム・ストレージに容れてなかった事があって、難儀した記憶もある。
だから造ったアイテムは根刮ぎ、ストレージに格納する様にしていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユートが泊まった翌朝、何故か艶かしい母親の声が部屋から聴こえる。
その余りにも淫靡な嬌声にネコネは真っ赤な顔に、その音源となる部屋に耳を澄ますと、それは明らかにトリコリの声であったし、相手の名前は『ん、良いですわユートさん……』と聴こえてきた。
「な、ナニをヤっているですかぁぁぁっ!?」
まあ、声だけを聴いたら“ナニをヤっている”様にしか思えないが……
扉を開いた先で半裸状態なトリコリと、指で彼女を触っているユートの姿が在ったと云う。
ガチャリと杖を掲げて、ハイライトの消えた瞳で睨み付け、ユートを焼こうというのか力を籠める。
「御待ちなさいネコネ!」
「は、母さま?」
「別に貴女が怒る様な事はしていませんよ」
「で、ですが!?」
「い、医療……行為……なのですから」
ポッと頬を赤らめながら言っても説得力は皆無で、ネコネの目が死んだ魚の如く濁り、Gでも視るかの様な蔑みが窺われる。
今にも攻撃をしそうで、それでも押し留めているのは他ならない、トリコリがすぐ近くに座っている為。
トリコリ自身も退く心算は無いらしい。
即ちそれは、トリコリが言う通り医療行為であり、決していかがわしい事をしていた訳では無いと云う。
ネコネから見ても本当なら四十路な母親は、未だに二十代後半か三十代前半の若々しさと、女性としての美しさを保っている訳で、ユートが血迷ってもおかしくないと考えていた。
どうやら母が曰く誤解との事だが、確りと言い訳を聞いてやると鼻息も荒く、ドカリと座り込む。
「さあ、話すのです!」
それは最早、弾劾の為の詰問でしかなかったとか。
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散りゆく者への子守唄の正史との違い……
ハクオロの相手はエルルゥのみ、ユートと仲好くなったユズハが生きている。
ハクオロ→ユート→オボロと皇は代わった。
クオンの父親が違う。
ユートは侍大将より偉いさん的な大将軍。