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【ラ・ヴァリエール領】から、私達はトリステイン魔法学院へ向かう。
私の名前はルイズ。
ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
現在、目の前には我がお母様たるカリーヌがおり、隣には愛する姉、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌが居る。
お母様の扱いがぞんざいですって? そ、そんな事は無いわよ……
今年、というか今日は遂に私もトリステイン魔法学院に入学の為に、住み慣れた我が家とも暫しのお別れとなる。
因みに、ちい姉さまは見送りに来てくれた訳じゃなかったりするのだ。
何をどうしてか、どんな伝手で勝ち得たかは窺い知れないのだけど、ちい姉様ってばトリステイン魔法学院で教員になったらしい。
病が治ってからちい姉様はとてもアグレッシブで、ちょっと付いていけない時も侭あった。
「それでは、ルイズ。確りと勉強をしてきなさい」
「はい、お母様」
「カトレアも、病は治ったとはいえ、丈夫とは言い難いのですから身体を厭いなさい」
「勿論ですわ」
ちい姉様はまるで太陽の様な微笑みを魅せながら、小首を傾げつつもお母様の言葉に頷く。
其処に偽りなどはきっと無いのだろう。
「それと……まあ、あれです……」
珍しい、お母様が何故か言い淀んでいる、しかも私達くらいの年齢の女の子っぽい仕草だ。
「貴女と彼、婚約者という事ですし……学院側とも話は着いていますが、羽目を余り外さない様に。彼への迷惑にもなりますからね」
「はい、お母様。重々承知しておりますわ」
その会話を聞き私もお母様と同様に顔が熱を持ち、思わず頬が紅潮していく。
よ、要するにアレよ!
た、確かに婚約をしているのだし、久方振りに逢うのだから少しやんちゃしても仕方ないのかも……だけどきっとちい姉様は自重をしないわよね。
だって、私は聴いちゃったんだもの。
ラ・フォンティーヌに泊まった日の夜、自分が降りて来るまで部屋に近付かない様に言われたのよね。
だけど折角、やって来た妹を追い出してまで何をやってるのか好奇心が働き、ついつい聞き耳を立てた。
そしたら、声はくぐもっていたけれどちい姉様の声が響いて来たのよ。
その……とてもおピンクで可愛らしくて、更に甘ったるい喘ぎ声が……
正直、凄かった。
私と同じピンクブロンドの長いフワッフワな髪の毛を振り撒きながら、桃色のネグリジェを乱れさせて、綺麗な白い肌も薄らと色付かせ、細い指を秘密の部位に触れさせると、ゆっくりと擦り始めたのよ。
し、知らない、あんなの知らなかった。
ちい姉様ったら彼の名前を呼びながら、ナニをヤっちゃってたわ。
私もつい……
そりゃ、ちい姉様もあの時点だと二二歳な訳だし、病も治ったから結婚だって出来るのよね。
しかも、貴族としては珍しく恋愛結婚だもの。
まあ、お父様とお母様もそうだったんだけどね。
そういえば数年前から、御二人は……えっと……
妹が誕生したのです。
つまりはそういう事で、色々とアレしてコレをして兎に角、色々なのよ!
だからって訳じゃないけど解るの……
す、好きな
思わず嫉妬で彼を爆破して殺りたくなったくらい。
勿論、殺らないけど。
多分だけど、ちい姉様は〝まだ〟だろうし……
ちい姉様の我が儘なんて珍しいものだから、お母様まで張り切ってしまって、学院に乗り込んだり王宮に乗り込んだりしたらしい。
嗚呼、伝手なんて関係なくお母様の力業かも……
だけど、学院でそんな事を〝致して〟も本当に良いのかしら?
注意:良い訳がない。
私とちい姉様は馬車に……いいえ、違うわね。
【でんどうかー】とか云うモノへと乗り込んだら、魔法学院へと出発した。
この【でんどうかー】は彼の名前で、我が家に贈られたモノらしい。
同じモノで、白くて
なんでも【ばいく】とかいう馬の様な乗り物を献上した際、姫様がそんな注文をしたらしく今回は先んじてそうした様だ。
姫様は大喜びだったとかお父様から聴いた。
安全の為、速度は落としているとか
しかも、全くと云っても良いくらい揺れない。
馬車で同じ速度を出せば可成り揺れるのだが……
「速いですね、ちい姉様。景色が流れる様だわ」
「そうね、流石はユート。あちらの世界の車をこっちに則した形で再現したわ」
「若しかして、ちい姉様が行った地球とかいう世界で走っていたんですか?」
「ええ、そうよ。お母様も吃驚なさっていたわ」
成程、彼の発想の一部にはそんな秘密があったという訳か。
何故か彼は地球とやらに詳しいみたいだし。ともあれこれなら馬車ではニ日の道程を、僅かに半日で済ませる事も可能だろう。
「あの、ちい姉様……」
「なあに、ルイズ?」
「本当に宜しかったのですか?」
「何がかしら?」
「ユートお義兄様に、ちい姉様の事を連絡しなくて」
「あら、だって吃驚させたいじゃない」
ちい姉様はまるで悪戯を思い付いた子供の様な笑みで言うと、コロコロと小鳥の如く囀ずりで言う。
私は現在、〝彼〟を名前にお義兄様と付けて呼ぶ。
ちい姉様と婚約をしたからには、私にとってあの人は私の
別にその事について忌避感は無かった、元々彼は──ユートお義兄様は一歳とはいえ歳上なのだし。
単にお義兄様とは年齢が近かったから、呼び捨てにしてただけだもの。
けどちょっとだけね……ちょっとだけちい姉様が羨ましくて、悔しいかな?
そう言えば直にお義兄様と呼ぶ機会はまだ無かった事を思い出し、そう呼んだ時の顔を考えるとついつい笑みを溢しそうになって、ユートお義兄様がどんな顔をするか、今から楽しみになってきたかも知れない。
ゴメンねユートお義兄様……私もちい姉様の事を言えないわ。
でもそのくらいは赦して欲しいの、だって私の初恋は貴方なんだから。
きっと貴方は、お義兄様は受け容れてはくれない、だって私の相手は別に居るみたいな事を言ってたし。
悪戯な
きっと、ちい姉様もお義兄様も自重はしないのだと思うけど、やっぱり自重はして欲しいなと願うのは、勝手なのだろうか?
若いから無理ね。
【でんどうかー】には、そんな想いも一緒に乗せていたのだが……
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一人称は難しい……