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「私も魔法を使いたいわ」
ある日、突然部屋に乱入をしてきた月村 忍が言い放った科白である。
西暦二〇〇五年。
【闇の書の終焉】も文字通り終わりを告げており、いつでも次の事件となるであろう【闇の欠片事件】が起きても構わない様に準備をしている真っ最中な為、少し困った表情となってしまうユートだが……
「詳細を話してくれる?」
月村家に居候中の身で、流石に無碍にする訳にはいかないか……と話を聞く。
「なのはちゃんにフェイトちゃん、そしてアリサちゃん処かウチのすずかまでが魔法を扱えるわ。だというのに姉の私が魔法を使えないのは納得がいかない!」
無茶苦茶に自分本意な言い分であったと云う。
ふと見れば、脇の方にて高町恭也が『スマナイ』と合掌している。
「はぁ、やれやれ」
とはいっても、すずかとアリサは曲がり形に魔力が有ったから、ちょっとした方法で増幅して時空管理局で云うCランク程度に魔法が扱える様になったけど、調べた処で忍は魔力を増幅してもFランク。
つまり、時空管理局基準で魔法が扱えないレベルでしかない。
普通に時空管理局準拠の数値で百万越えななのはとフェイト、その十分の一は確保出来たアリサとすずかという四人、単純な魔力だけならトップのはやて。
それに比べて一万にすら満たない忍は、魔法を行使するにはまるで足りていなかった。
此処で云う魔力とは威力や修得度に関わる絶対数値であり、マジックパワーとか呼ばれるDQ的にMPとはまた別物。
此方は異能を扱う回数などを表す精神力である。
精神力は誰にでもあるのだが、ゲーム的に不必要だから魔法を使わないタイプ――ローレシアの王子とか戦士と武闘家――にMPは設定されていないだけで、持っていない訳ではない。
というか、持たない生物は普通に居ないだろう。
忍も精神力は高い。
魔力が足りないから魔法を使えないだけで。
(霊力も念力も無いから、霊能もPSYON系魔法や超能力も無理。【夜の一族】として血を飲めばサイコキネシスみたいな力とか、超再生なんかは使えるみたいなんだがな……)
常時、扱える力ではないのに加えて【夜の一族】の力は秘匿が義務。
現在のこの世界に於いて霊能やHGS、そして魔法は完全に認知をされている力であり、そのアンチ機能も重要な場所に設置義務がされている。
例えば、国会議事堂みたいな場所はAMFやキャストジャミングなどにより、それらの力が行使出来ない様になっていた。
当然ながら力を好き勝手に振るい、破壊や死を齎らしたら刑罰が下る。
HGSの軍事利用にしても念力を阻害する物質によるキャストジャミングは、目下の処は上手く機能をしていて超能力の戦時的優位を覆していた。
ヒト・クローンを造ったりの資金や労力に比べて、キャストジャミングは安価に出来る為に、造るだけの価値が見出だせなくなってもいるらしい。
「ふむ、前世でこの世界へ来た際に造った戦術オーブメントで往くか」
「ああ、そういえば造ったって言ってたねぇ」
ユートの言葉にユーキが頷きながら言う。
「戦術オーブメント?」
「【魔法少女リリカルなのは】みたいなアニメや小説やゲームの一環、【軌跡シリーズ】と呼ばれるゲームの中に一貫して登場してるアイテムでね、
「オーバルアーツっていうのは何かしら?」
「魔法の一種なんだけど、魔力の代わりに導力を使うから、戦術オーブメントを持ってれば基本的には誰にでも使える筈」
「へぇ」
キランと忍の目が光る。
勿論、適正とか云々など普通にあるのだから使えない人間とて居るかもだし、それが忍ではないと云える訳も無かった。
「どんな物か知りたいわ。ちょっと庭で見せて貰えるかしら?」
ニコニコと促す忍と更に合掌する恭也、恋人とはいえ止められないのだろう。
(大学生だし婚約者に進化したんだったか?)
どちらにせよ不甲斐ないとは言うまい。
普段はしゃんとしているカシウス・ブライトでも、娘のエステル・ブライトにタジタジな事もあるから。
「これを使うか」
「それ、【ARCUSII】?」
「んにゃ、【ARCUS EX】。僕が造った物だよ」
とはいえ【ARCUSIII】の機能を拡張しただけでしかないし、然して代わり映えはしていないと思うが……
ユートはちょっと変わった形で【軌跡シリーズ】に関わっており、それ故にか各主人公やヒロイン達とも普通に交流があった。
最初はヨシュアがブライト家に来たその日、同じ日にブライト家の屋根をぶち抜いてエステルに保護をされている。
見た目にはエステル達と同じ年齢、身長は高かったから歳上と思われたけど、現在の身長と本来の年齢での身長を鑑みて判断した。
エステルとヨシュア……二人が一〇歳で、ユートが一一歳という話に。
そして一六歳になる頃、準遊撃士となった。
とはいえ、ユートの方が歳上として設定していたからユートの方は一年前から準遊撃士、正遊撃士を僅かな時間で駆け上がる。
しかも、カシウスに本来の年齢――肉体年齢的には一六歳――を教えており、遊撃士協会もそれを知らされていた為、民間協力者という役職を持たせカシウスのサポートに付けていた。
故に、正遊撃士の資格もあっさりと取れた訳だし、あっという間にエステルやヨシュアを牛蒡抜きにするランクアップ、セルゲイからの話を受けるまでに彼の【風の剣聖】と同じSへの打診すら受け、クロスベルの【特務支援課】に配属される際に停止した遊撃士の資格はSランクだった。
勿論だが、約五年の間にアリオス・マクレインとは顔見知りである。
カシウスがアリオスへと紹介をしたから。
それに実力的にもユートが上なのは、そもそも何年何十年何百年と生きて研鑽をしたからには当たり前。
寧ろ、三〇年か其処らの研鑽しかないアリオスに敗けるのもどうなのか?
尚、当時のユートは肉体的に視ればアリオスと変わらない人間である。
最高位にまで筋繊維的に鍛えてきた為、機能はとても高くなっていた。
筋肉は赤い遅筋【タイプⅠ線繊維】と白い速筋【タイプⅡb線維】が1:1で存在している。
ユートの筋肉は鍛えなければそもそも現れたりしない筋肉――【タイプⅡα線維】で固まっていた。
白い速筋に赤いミトコンドリアが増えてピンク筋肉となるが、それがユートの体内に張り巡らされた筋肉である。
どちらの機能も併せ持つが故に、鍛えなければ中途半端となってしまうけど、最大限に鍛えれば持久力と瞬発力を持ったアスリート向けの筋肉で、寝ていても糖質を消費してくれるからダイエットや、糖尿病を防ぐ事にも繋がっていた。
【緒方逸真流】なんて、莫迦げた舞闘を成立させるには、どうしても持久力と瞬発力を両立していなければならなかった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
庭に出た一同はユートへと注目をする。
「【ARCUS】、駆動」
生憎と現在、ユートの持つ【ARCUS】に填められているクォーツは、初期の物ばかりであるからド派手な
精々がクォーツの属性の初期段階の導力魔法だ。
「ソウルブラー!」
時属性の攻撃系アーツ。
派手さは無いが凍らせたり燃やしたり吹き飛ばしたりしないだけ、こんな場所で扱うには良い導力魔法だと云えた。
尚、対象を気絶させてしまう効果を持つ。
「他にも家が燃えて良いなら炎系とか?」
「それは止めて欲しいわ」
忍が引き攣りながら拒否を示す。
「ねえ、それって私にも使えるのよね?」
「これを……というなら、無理だよ」
「どうして? 優斗君の話では導力を魔力代わりにするから誰でも使えるって」
その質問には訳を知っているユーキが答える。
「戦術オーブメントは一機一機で個人用の調整が要るんだ。その【ARCUS】には兄貴の為の調整が成されているからね」
「そうなのね……」
機械類に強いだけに理由にも納得して頷く忍。
「一応、未調整な前世代型戦術オーブメントを譲るのは構わない。それを基にして新たに造るも良しだし、或いは自分で使っても構わないよ」
「前世代型?」
「クォーツは戦術オーブメントが新型になると新しくされるからね、古い型のは文字通り使えなくなるからエステルやヨシュアの持っていた旧型を貰ったんだ。どうせ破棄するしかなかったからね」
ユートが見せたのは謂わば【空の軌跡FC】にて、エステル・ブライトが使っていた戦術オーブメント。
填めれるクォーツの数もスロットが六個と少なく、そもそも新しいクォーツに適応されていないが故に、二人も新型を使うに当たって旧型をユートに譲った。
「ふ〜ん、そのエステルというのは異世界での恋人かしら?」
ピクリとすずかが反応をする。
「いや? エステルなら、ヨシュアと仲好しだから」
実際には【空の軌跡FC】〜【空の軌跡SC】までの間に、エステルの空いた穴を埋めてやれば五年間の絆もあって堕ちたかも知れないが、それでヨシュアの居場所を奪う心算なぞ更々無かった。
ヨシュアは、【
【白面】が正体を明かしたのを切っ掛けに、彼女やユートの前から姿を消したヨシュア、暫くは本当に酷い有り様だったエステルを堕とすのは、本当に簡単にいったであろう。
だけどユートは義理人情が無い訳ではなかったし、ヨシュアの事も気に入っていたから、出来れば幸福な人生を過ごさせたかった。
なので、“エステルに関しては”誤解である。
「エステルはヨシュアと……か。エリィ、ティオ、キーア、ノエル、リーシャ、【零の軌跡】や【碧の軌跡】の連中は?」
ユートは即効で目を逸らしたものだった。
「【閃の軌跡】は?」
「うん? 【閃の軌跡】ってのは……エレボニア帝国を中心に起きた件か?」
「兄貴の知識が【碧の軌跡】までなのは識ってたよ。【閃の軌跡】はリィン・シュヴァルツァーを主役とした物語だね。そもそもにして【ARCUS】はその時に使われた戦術
「やっぱり続編だったか。サラに誘われて最初は教官をやらないかと言われていたんだが、何しろ【碧の軌跡】の先を識らなかったからな。寧ろ生徒として潜り込んだんだよな。リィンが主人公なら正解だったよ」
何しろ当時は神殺しの力も無かった頃、ディケイドの力に収束された【這い寄る混沌】の神力を使うので精一杯だった訳だ。
「にしても、ディケイドの力に収束されたっていうのはあらゆる世界にとって、福音だったかもだよねぇ」
「……まあ、いざとなれば全てを破壊し全てを創るを実践すれば良いからな」
【仮面ライダーディケイド】本編でも紅 渡が言っていた――創造は破壊からしか生まれませんから……残念ながら――という科白の通りかは定かではないというより、イメージがそうだったから付加されていたらしい能力が【ATTACK RIDE DESTRUCTION】と同じく【ATTACK RIDE CREATION】だった。
但し、この力は飽く迄も最後の最後にどうにもならない状況にまで詰んだ際、卓袱台を引っくり返すのに等しい行為として使う。
どちらにせよカード一枚で破壊と創造とか、正気の沙汰とは思えないモノだ。
問題はどんな効果なのか判らない事、だからユートは一回だけ使ってみた。
興味本位もあったけど、その世界は言ってしまえば世紀末、科学文明がとある時期に途絶えてしまい代わりに魔法文明が栄えたという世界であり、主人公からして凄まじいまでの人格破綻者だったし、試すのには丁度良かったのである。
主人公に近しいヒロインを攫い、その後の成り行きを見守ってから世界が破滅したのを確かめ、【ATTACK RIDE DESTRUCTION】にて世界を破壊、【ATTACK RIDE CREATION】で創造した。
実際にどの様に破壊され創造されるのか、ユートは一部始終を視ていた。
破壊に関しては硝子でも割れるかの如くパリンと、後には何も存在しない無限の空間が広がるのみ。
創造に関してはその時の場合だと、巻き戻る感じでユートが来る前にまで世界は元通りに。
恐らくはユートの記憶を元に、在るべき姿へ還ったというものだろう。
創造というか再生に近いのかも知れない。
そして突き詰めればそれこそ世界の始まりからやり直しも可能で、その気になれば神の如く世界を自由に出来てしまう。
ある意味で恐ろしい。
改めてやっていないが、『恐らく』と枕詞が付くにせよ例えば、あの世界の神として天使を意の侭にだって出来るだろうし、美しい王女や凛々しい女騎士とて好き勝手に出来る筈だ。
神に額ずきひたすら愛を説き、文字通りに酒池肉林を味わえる。
ユートがそこまでやらない理由は、神の人形になど用が無いからだ。
故にこそ巻き戻しのみに徹したのである。
あれ以来、あのカードは効果を使う処か表に出してすらいなかった。
「そういやさ、兄貴?」
「どうした、ユーキ?」
「あの世界の七騎の騎神はどうしたのさ?」
七騎の
エレボニア帝国に伝わる七アージュ程度の大きさの人型機動兵器の事であり、【巨いなる騎士】とされる存在で、ユートが関わった事件にて七騎全てが公の下となった。
リィン・シュヴァルツァーが
【
クロウ・アームブラストが起動者の【蒼の騎神オルディーヌ】。
ルトガー・クラウゼルを起動者とする【紫の騎神ゼクトール】。
鋼の聖女アリアンロードが起動者の【銀の騎神アルグレオン】。
鉄血宰相ギリアス・オズボーンが起動者な【黒の騎神イシュメルガ】。
ルーファス・アルバレアを起動者とする【金の騎神エル=プラドー】。
ユートは【欠片】と自らの記憶さえ有れば、元の形に復元させる事も可能だ。
正確には複写だろう。
故に複写体でオリジナルという訳ではない。
完全に正確なコピー。
「まぁ、テスタ・ロッサはオリジナルを持ってきたんだがな」
「呼んだ?」
「呼んでないぞ、フェイトさんや」
「そう?」
再びなのは達の居る方へ戻るフェイト。
「テスタ・ロッサ、あれ? セドリックって起動者にならなかったんだねぇ」
「紅き終焉の魔王の呪い、それを丸ごと喰らって元の【緋の騎神テスタ・ロッサ】に戻した時。その時に、起動者になったからな」
「それじゃあ、セドリック・ライゼ・アルノールってどうしたのさ?」
「その場に居なかったのにどうやって成れと?」
「ああ、うん。アルノール家のモノなのにそこら辺はどうしたのさ? ってか、アルノール家の血筋じゃないと起動者になれないとか設定が無かったっけ?」
「後者は知らん。前者は……アルフィンの婚約者扱いでアルノール家の人間ですと体裁を整えた。オリヴァルトが苦労していたな」
アルフィンは寧ろ喜んでいたみたいだが……
「まぁ、テスタ・ロッサの能力は僕の戦い方に合っていたからな」
「呼んだ?」
「全く呼んでないからな、フェイト・テスタロッサ」
「そっか……」
またフェイトは戻る。
「って事は、テスタ・ロッサは動かせる状態でオリジナルを?」
「まぁな〜。何でか知らないが僕を起動者に選んだから面食らったよ。僕としては黒色のイシュメルガとか良かったんだが。灰の騎神ヴァリマールはザ・主人公騎って感じだったしな」
「あはは……ボクは兄貴だと【金の騎神エル=プラドー】なんか良くないかなって思うけどね。金色の女王の愛し子だし……さ」
「フォルムは確かに悪くなかったよ。百式やアカツキを連想する色合いだけど」
名前の通りきんきらきんだから仕方がないのだが、ゴールドスモーとか言わないだけマシか?
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「で、量産は本当に出来そうかな?」
「そうね、機構が私達の使う機械と異なる部分も多いけど、何とかなりそうではあるわ。なのはちゃん達のデバイスに近いかしら?」
結局、量産を目指し分解する用と自分で使う用で、二つ預かった忍は軽く見た見解を述べた。
「けど、このクォーツってのはどうにもならないわ」
「そりゃ、セピスから造った物だから。機械でどうこう出来ないだろうな」
精霊石みたいな物だし、ユートなら造れるけど。
「まぁ、先ずは戦術オーブメントを造ってからだね。話はそれからだよ」
「判ったわ。必ず造って見せるんだからね!」
こうして新たな玩具を手に入れた忍は、一年間を掛けて戦術オーブメント作製を試作機を仕上げるまでに進めるのであった。
「処で、騎神って?」
「先ずは戦術オーブメントを造ってから。話はそれからだよ!」
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ありふれで緋の騎神テスタ・ロッサを使った際の説明文に在った噺です。