【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

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 これは所謂、主人公不在成り代わり系の噺なので本来での主人公ヴェンデリンは存在せず、その位置にユートが入り込んでいます。

 理由無く主人公が不在だったりTSしていたりは好きでないので、何らかの理由――どんな軽い理由でも良い――で行っています。

 例えばイセスマの場合なら主人公を神雷から庇って自分が受けた……事により、主人公は死なずに然しすぐにそれがヤバい事を原作を知る者から聞かされてその世界に行き、主人公の代わりをやる事になる感じです。

 因みにヤバいのは殆んどのヒロインが主人公に救われており、主人公が介入しなかったら死んでいたとか間違いなく有り得た上に、最終的には破壊神にアボンされていた可能性が高い……

 リンゼとエルゼでさえ男共に倒された場合は、犯された上で奴隷商に売られたり……とか。







八男って、それはないでしょう!【魔を滅する転生八】っぽい噺――フラグを立てる幼年期【前編】

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 目を覚ますと其処は見慣れぬ場所だった……というのはユートからしたらよくある事、謂わば俗に云う『転生者あるある』というやつだろう。

 

「目覚めたら男が数人で雑魚寝……とか。まさかとは思うが疑似転生した仮想人格が男色にハマっただとか無いだろうな?」

 

 ゾワッと背筋を冷たいナニかが奔る。

 

 ユートは自分で云うのも憚れるが女好きであるという自覚があるし、その理由も語るのが憚れる出来事だったとはいえこの性癖を受け容れていたのだが、流石に男色は駄目だと本能から訴えているものだと思っていたのだが……

 

「ガ、ガールズラヴは良いけど……BLは駄目だ、とても受け容れられない」

 

 取り敢えず誰かが見えない所でヤる分には何も言わないけど自分が当事者なのは言わずもがな、見える場所で盛るのは仮令それがイケメン同士での乳繰り合いでも視たくない。

 

 前に何処ぞの公爵令嬢がBLにハマる転生者であったし、故郷の土地の働くメイドの悉くを自らの趣味友に引き入れていたりしたが、ユート自身は公爵令嬢の旦那となった元王太子の親友の末妹と仲好く宜しくヤっていたくらいだ。

 

 尚、ユートの識らない本来での世界線ではその末妹ちゃんは筋肉質な自国貴族と婚約をしていたらしい。

 

「あれ? ユート……起きていたのかい?」

 

「……エーリッヒ兄さん」

 

 仮想人格のエピソード記憶から抜粋した事から起きてきたこの金髪イケメンが、バウマイスター騎士爵家に於ける五男坊である事を知る。

 

 ユートはバウマイスター騎士爵家の八男坊で、名前に関しては可成り適当になるらしく末の家を継がない息子なだけに、幾つかの候補を見繕った

挙げ句にユートと名付けたらしい。

 

 因みにユート以外には()()()()()()というのが候補の最有力候補だったとか。

 

「ああ、ちょっと夢見が悪かったんだ」

 

「そうかい? 何かあるなら僕にいつでも言ってくれて良いからね」

 

「有り難う、兄さん」

 

 そう言って再び床に就いたエーリッヒ・フォン・ベンノ・バウマイスターは眠る。

 

(良かった、全員が兄弟だったみたいだ)

 

 ユートは胸を撫で下ろすと仮想人格の経験したエピソード記憶を探ってみる。

 

 バウマイスター騎士爵家。

 

 この大陸を牛耳る二大国家のヘルムート王国に所属する辺境の最下級貴族家。

 

 因みに【ギガントの断裂】で南北に分かたれており南方をヘルムート王国が、北方をアーカート神聖帝国が支配地域としていて百年単位で戦争はしてないが、昔は普通に殺り合う関係であったらしいのを本の知識から持っていた。

 

 バウマイスター騎士爵家は領地こそ大公領くらいのレベルに広いが、実際には一部しか流用が叶わず騎士爵家として最底辺な生活苦を強いられているみたいだ。

 

 若しこれらを開拓が叶ったら辺境伯とかにでも陞爵されてもおかしくないが、現当主たる五代目バウマイスター騎士爵のアルトゥルも次代である長兄クルトもそんな気概は無い。

 

 否、クルト・フォン・ベンノ・バウマイスターは身の丈に見合わない野心は持っているみたいではあるのだけど、それを叶える為の能力が完全に欠如しているという事だろう。

 

 要するに凡庸なのである。

 

 家族構成は――

 

 父親――アルトゥル・フォン・ベンノ・バウマイスター(四五)。

 

 母親――ヨハンナ・フォン・ベンノ・バウマイスター(四四)。

 

 長男――クルト・フォン・ベンノ・バウマイスター(二五)。

 

 次男――ヘルマン・フォン・ベンノ・バウマイスター(二三)。

 

 三男――パウル・フォン・ベンノ・バウマイスター(一九)。

 

 四男――ヘルムート・フォン・ベンノ・バウマイスター(一七)。

 

 五男――エーリッヒ・フォン・ベンノ・バウマイスター(一六)。

 

 ユートが八男だからには他に六男と七男が居る筈だが、この場に居る兄弟は三人だけで長男であるクルトと次男のヘルマンは自室を与えられて、残りの六男と七男は妾腹だから同じ家に住んでいる訳では無さそうだ。

 

 次期当主のクルトと予備扱いな部屋住みであるヘルマンが自室を持つのは当たり前であろうし、残りが雑魚寝な部屋なのは別に虐待とかそういう話では無いらしい。

 

 妾のレイラ(三一)、六男ヴァルター(一四)に七男カール(一三)、長女アグネス(一一)に次女のコローナ(一〇)。

 

 何と妾腹には女の子が産まれた様だ。

 

(母さんに産まれたなら中央に嫁がせるコネに……無理かな? 余程の美女でもないと同じ騎士爵家に嫁ぐか商家に後嫁させるのが関の山だろう)

 

 母親のレイラは決して醜女ではないが美女とも云えない凡庸な顔、寧ろヨハンナの方がよっぽど美女であると確信を持って言える。

 

 仮想人格も数度会った切りだが……

 

 然しながら一二歳が居ないだけで殆んどが並んでいる辺り、父親のアルトゥルは可成り性欲旺盛なのかも知れないが家族計画とか無頓着過ぎ。

 

 極貧領地で娯楽も皆無な場所だからセ○クスくらいしかヤる事も無かったのだろう。

 

(長女のアグネスと次女のコローナもヨハンナ程じゃないがそれなりではあったか?)

 

 まだ幼かったから判らない。

 

(このバウマイスター騎士爵領を割譲はしないだろうな、あの阿保で身の丈を全く知らない長兄殿は莫迦な妄想をしているみたいだしね)

 

 いつかは自分の子孫がバウマイスター騎士爵領を陞爵させ英達を――とか、自分でやれよと言いたくなる痛々しい妄想を何度か仮想人格が聴いていて引いたのを思い出したのだ。

 

 現在のユートは五歳でよくもまぁ、アルトゥルも四十路にもなって子作りをしたものだと感心をしたが、一応はユート自身も四十路くらいならば守備範囲ではあるからおかしくはない。

 

 当時のレイラはまだギリギリで三〇代ではあったのだろうし。

 

(八男の味噌っかす扱いは助かるな)

 

 畑仕事を父親や長男までやらねばならないという極貧領地、ユートはその手の仕事を割り振られてはいないから好きに行動が出来る。

 

(朝になったら今、可能な事を調べるか)

 

 疑似転生は本来の肉体を置き去りにした状態で別の肉体へ魂を転生する処置で、人生を終えたらまた元の肉体へと戻るというもの。

 

 勿論、獲得した技能は反映されるしアイテムもストレージに容れて持ち出せる。

 

 女の子と【閃姫】契約をすれば【閃姫】を娶る事だって可能だ。

 

(とはいえ、まさか腹違いだとはいえ実の姉とは契約なんか出来ないしなぁ)

 

 困った事にバウマイスター騎士爵領は僅か三つの村に総勢で約八百人しか居らず、恐らくは同じ年頃の女の子なんて出逢いすら無いだろう。

 

 五歳前後の娘が居ない訳では無いにせよ全員が平民、ユートも八男だから長じれば平民落ち確実であるが【閃姫】にするには何ら特長が無いのも困りもの。

 

(こりゃ、早目に王都は無理でもブライヒレーダー辺境伯領には行きたいな)

 

 それなりに都会だから出逢いの一つくらいなら在るかも知れないから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝になってユートは朝餉を摂る。

 

 ぼそぼそな黒パンを噛み締め、野菜と肉の細切りが入って塩だけで味付けし出汁すら使っていないスープ啜り、白湯みたいな御茶を飲みながらの話し合いをする家族達。

 

「アナタ、如何なされましたか?」

 

「ふむ。冒険者ギルドの設置を頼んでいたのだが見事に断られてしまってな」

 

「あら、御仕事なら幾らでも有りますのに」

 

「もっと開けていて且つ交通の便も良くて同じくらいに稼げるポイントは幾らでも有るそうでな、ウチの領内では魔物も強いし対費用効果が上がらないと言われたよ」

 

 ファンタジー世界御用達な冒険者ギルドが在るというのは朗報だった。

 

 子供だから肉体的には本来の身体の百分の一に満たないが、精神的な能力は普通に使えるのだから魔法にも強い適性がある。

 

 アルトゥルの話に魔物の話題が出たから戦闘を可能とするなら稼ぐ当てがあった。

 

「父上、斯くなる上は一度軍を召集してある程度は一気に狩らないとならないのでは?」

 

「クルト、それは出来ぬよ。ブライヒレーダー辺境伯殿の二の舞は御免だしな」

 

 長兄クルトの意見はアルトゥルによりバッサリと切り捨てられる。

 

「父上」

 

「どうした、ユート? ああ、スープの御代わりならば無いぞ」

 

「御代わりの話ではなく先程の話です」

 

「ああ、数年前に一部の利権を条件とし我が領の魔物討伐を願い出たのだよ。とはいえ大軍で領域に攻めたから無駄に魔物を刺激してな、ブライヒレーダー辺境伯の二千人にも及ぶ軍勢は壊滅的な打撃を受け、当代の辺境伯殿も亡くなられてしまって今は次男のアマデウス辺境伯に代替わりしてしまった。新しい辺境伯殿は『他領の利権を貰うなど貴族として相応しくないので』……とな。要は二度とバウマイスター騎士領内の魔物とは関わりたくないのであろうよ」

 

「そうでしたか」

 

 ユートはブライヒレーダー辺境伯がどうのとかは無関心だが、どうやらこの領地は随分と魔境であるらしいと心の内で喝采を挙げた。

 

「うん? 次男のアマデウス辺境伯様?」

 

「ああ、長男は亡くなられているからな」

 

 長子継承が奨励されているとエーリッヒ兄から聴いていたが、どうやらその長子が逝って次男に御鉢が回ったらしい。

 

 クルトを一瞬だけ見遣ると元気なものであり、少なくともバウマイスター騎士爵家が()()()()のは有り得なさそうだ。

 

 食後はユートも森に入り出来る事と今は難しい事を調べている。

 

 肉体的には本来の一分程度に弱体化しているにしても、元々の肉体が可成り強かったからこれは鍛え直せば全身を細身でありながら筋肉が付いた理想形に成るだろう。

 

 所謂、万能のピンク筋というやつだ。

 

 筋肉には持久力は高いが瞬発力に欠ける赤筋と瞬発力は高いが持久力に欠ける白筋が存在して、どちらの特性も持つピンク筋というアスリートには正に必須な筋肉も在る。

 

 但し、中途半端な鍛え方をしたらどちらもまともに獲得が出来ないから昔は忌避されていたのだとも聞くけど、ユートの本来の家たる緒方家では

戦国時代の初代からこの筋肉を鍛える術を模索していて、既に完成に至っているから緒方家は宗家も分家も一様にこの筋肉を獲得していた。

 

 因みに魚だと鮪が赤筋、鮃が白筋の保持を多くしているのが知られているのだけど、鮪のトロの部位こそが件のピンク筋に当たる。

 

 どうやら辺境の極貧貴族には礼儀作法も勉学も

不用とされているらしく、然りとてユートは農業も割り当てられていないから鍛えるのに時間を使えるのが有り難い。

 

(一度でもブライヒレーダー辺境伯領や王都にでも行ければ、瞬間移動呪文(ルーラ)で以て自由自在に往き来が可能になるんだよな)

 

 昼餉も栄養価の低い食事を摂りつつエーリッヒ兄から情報収集をしておく。

 

(っても、健全な肉体作りには食事療法も欠かせないんだけどな……こうなれば少し早いが森で狩りに勤しむべきだろうね)

 

 美味しい食事は正しく娯楽にも等しいし健全な肉体作りも出来るし、ユートはアルトゥルからの許可を取りに執務室へ行くとアッサリと許可を出してくれた。

 

 食べられそうな物の採取や薪拾いを命じられはしたが、そこら辺はユートにも必須事項だったから文句も無く従う事にする。

 

 問題は武器。

 

 一応は貴族の嗜み的に剣を振る為の木剣を与えられているし、小さな弓と木を尖らせた鏃の矢も持たされているけど役には立たない。

 

 ユートは初めから魔法で解決をする気満々で、武器にしても魔法を絡ませる予定だ。

 

 そもそもバウマイスター騎士爵家は剣の扱いに長けた者は父親のアルトゥルを筆頭に居ないが、アイデンティティーを取り戻したユートは刀舞術も扱える為、木刀を適当な枝を採取してから削り出して造っている。

 

 堅いが柔軟性も在る良木が有ったのだ。

 

「さて、茸や野苺みたいな植物系だけでなく肉も欲しいわな」

 

 狩りは幾らでもしているから慣れたものだし、薪拾いも順調に進めてから肉捜しをしてみる。

 

「お、ホロホロ鳥」

 

 数羽のホロホロ鳥なる鳥が居た。

 

 鴨を一回り肥らせた様な鳥で肉は旨味が凝縮をしたかの如く美味で、羽も装飾品の素材としては人気のものであると本で読んだ。

 

 事実、小さな肉片だけど一度だけ食べた事があったから判る。

 

 とはいえ、見た目不相応に気配には敏感で飛ぶ疾さも凄まじいから、バウマイスター騎士爵領に於ける一番の猟師が一日粘れば一羽なら獲れるかも知れないという程度。

 

「焼き鳥か……」

 

 上手く獲ればあの貧しい食卓に焼き鳥が付く、放任主義な家族だが冷徹ではないから功績を無にする愚かな行為はすまい。

 

 ユートは気配を辺りに同化させて静かに近付いて行き、親指を除く四本の指先に閃熱エネルギーを収束させてから放つ。

 

閃熱呪文(ギラ)!」

 

 嘗て出会った氷炎将軍フレイザードが使っていた五本の指に火炎呪文(メラゾーマ)を収束して放つ必殺技――『五指爆炎弾(フィンガーフレアボムズ)』の応用とも云えた。

 

 四つの閃熱が閃光となってホロホロ鳥の額を貫き絶命させる。

 

「GETだぜぃ!」

 

 ポケモンに謝れと言いたくなる科白を宣いながら解体作業に入り、肉と羽を丁寧に解体していきそれらをアイテムストレージに容れていく。

 

 そして四羽中の二羽分を夕飯用に採取籠へと仕舞うと帰宅をした。

 

 ホロホロ鳥を狩った事を家族に喜ばれた上で、美味しい焼き鳥を食べれて満足をするユート。

 

 その日から毎日、バウマイスター家の食卓には美味しい食事が彩られる様になっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 暫く経って満六歳になったユート。

 

 そろそろ長男のクルトが結婚する予定であり、相手はマインバッハ騎士爵家の次女アマーリエだと父親のアルトゥルから聞いたのだ。

 

 暫く前に語り死人と成り果てたアルフレッド・レインフォードと出逢い、そしてこの世界に於ける魔法を教えられたり遺産を貰ったりしてから、聖魔法によって本人からの願いもあって成仏をさせたので遺産の中身的には一生安泰だろうけど、折角なのだから冒険者に成って動いてみようという思いがあった。

 

 ユートはこの世界の魔法を見せ技にしてDQの呪文は切札的に使う予定である。

 

 そんな兄弟の別れを経験してから今度は兄嫁との出逢いとか、自分自身の女性との出逢いはいつになるやらと溜息を吐くしかない。

 

 取り敢えずユートは計画の実行を考えており、興味はそそられるにせよ今はクルトの嫁に関わってはいられないし、可愛いお嫁さんだったならば精々が嫉妬して上げようかという感じだ。

 

 その計画とは取り敢えず商売のタネを仕込んで都会に赴き、出来れば幼馴染みな女の子と出逢いも愉しめたら嬉しいなというものだった。

 

 その為に必要なモノは既に揃えている。

 

「父上、今は宜しいですか?」

 

「む、ユートか。暫く待っていろ」

 

 執務室となっている書斎でノックをしながら声を掛けると、アルトゥルから『待て』の返答が返ると共に慌てる気配と聴覚強化で衣擦れの音などが書斎から響く。

 

 この日、この時を待っていたのだ。

 

 今日は久方振りに開墾作業も休みとなっていてアルトゥルもそれを愉しみにしていた節があり、間違いなくあの美人な妾であるまだ三十路を過ぎたばかりのレイラを部屋に呼ぶと考えていた。

 

 ユートもそうだから余りとやかく言わないが、アルトゥルは可成り性欲が強い。

 

 四十路直前で御肌も曲がり角たる母ヨハンナを抱いて孕ませたくらいであり、ならばまだ三一歳らしいレイラなら充分に抱ける筈だから。

 

 ユート自身も下は一一歳から上は四十路までを守備範囲にしているし。

 

 つまり、アルトゥルは執務室でレイラと御楽しみの真っ只中であった訳であり、まさか正室たるヨハンナと眠る寝室でヤれる程の強心臓の持ち主ではないから此処に来て正解だった訳だ。

 

 ガチャリとドアが開くと気配の主の一人であるレイラがそそくさと出てきた。

 

 妾と八男とはいえ正室の子供がバッタリ会う、それくらいなら未だしも許容範囲内であるのだろうけど、中で要は子作りをヤっちゃっていたから気まずいのか羞恥心からか真っ赤な頬で此方を見ない様に顔を逸らしながら、まるで逃げるかの如く駆け足で書斎から離れていく。

 

 性の残り香を漂わせながら。

 

「入れ」

 

 威厳たっぷりな心算か或いはヤり掛けで単純に不機嫌からか、アルトゥルが低めの声でユートを呼ぶからさっさっと書斎に入る。

 

 ソファみたいな椅子に掛けられていたシーツが乱れていた。

 

「それで、こんな時間に何用だ?」

 

「ちょっと御話しがありまして」

 

「それはそうだろうな」

 

 何の用も無しにお楽しみを邪魔されたのなら、流石に放置息子とはいえ怒鳴りたくなる。

 

「実は父上が管理する土地の一部貸与を御願いしたくて罷り越しました」

 

「難しい言葉を使わんで構わん。この場には我ら二人だけなのだからな」

 

 平民落ち確定な息子とはいえ今は貴族籍だし、この国の法律上で貴族の子息は飽く迄も貴族籍の侭であり、完全に平民となるのは次代――ユートの息子乃至は娘であった。

 

「判りました、父上」

 

「それで、財産分与でもせがみに来たか?」

 

「貸与ですよ。バウマイスター騎士爵領内に在る

とある土地を借り受けたいのです」

 

 ユートはとある土地を租借地としたいと願い、アルトゥルはそれに首を傾げるしかない。

 

「勿論、無償で借りたいなどとは言いませんよ。税金として月に金貨で一〇枚、其処で獲られるであろう物品分からは三割を父上に納めましょう」

 

「な、何だと!?」

 

 何をしたいのかはまだ聞いていないから物品の上がりから三割が幾らか知れない、だが金貨にして一〇枚というのはそれなりにでかい。

 

「何処を借りたいと?」

 

 長子継承が推奨されるからにはユートに土地を相続などさせられないし、成人したら継承権放棄の為の支度金を渡して穏便に出て行って貰う予定であったが……

 

「魔の森」

 

「莫迦な! 彼処は魔物の領域だぞ? 況してや知っておろう、前ブライヒレーダー辺境伯の事」

 

「勿論ですとも。それでも敢えて申しましょう、魔の森を僕に貸して戴きたい……と」

 

 ユートが魔法を使えるのは気付いていたけど、そんなに高い腕前だったのか? とアルトゥルは考える仕種をしながらユートを見つめる。

 

「……出来るのか?」

 

「勿論、可能ですとも」

 

「むう……」

 

「序でに言えば支度金も要りません。稼げば手に入る額は大きくなりますからね」

 

「む、それは……」

 

 パウル、ヘルムート、エーリッヒ……と三人もの

息子に支度金を渡してカツカツな現状、数年後にユートにまで渡すのは確かに困る話だ。

 

 何しろ金貨を稼ぎ出すだけでも大変な土地柄、クルトの婚姻でも可成り使う予定なのだから。

 

 唸るアルトゥルは決断をする。

 

「良かろう、お前が家を出るまで魔の森を租借地として貸与をする」

 

 こうしてユートは稼ぐ為の土地を限定的ながら得られたのだった。

 

 当然ながらクルトからのあれやこれやなど大いにあったのだが、アルトゥルとしてはレイラとの情事を下手すればユートに知られたと考えて少しばかり居た堪れないが故に……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 クルトとアマーリエの結婚式、三兄弟の都会行きにヘルマンの従士長家への婿入りなどイベントは済ませてしまい、ユートは漸く魔の森へ入っての採取や狩りが出来ると安堵をしていた。

 

 魔物の領域への浸入は基本的に成人するまでは禁止されているし、仮に冒険者に成っても一年間は勉強をしなければならないとされる。

 

 ならばユートは法を犯している立場だけれど、別に黙っていれば判らないものだ。

 

 況して南部最辺境のバウマイスター騎士爵領の事など誰も気にしないし、何より確かに魔物も狩るにしてもユートのターゲットは魔の森に生息をする採取品となる薬草や果物などの植物。

 

 魔物の素材に関してはアルフレッド師匠からの遺産たる【魔法の袋】に詰めておき、成人してから冒険者に成り売り捌けば良いのだから。

 

 師匠の袋の中身を吟味した結果、良さそうなのが幾つか在ると判ったからの判断だった。

 

「見付けた」

 

 サーベルタイガー、地球に於いてはとっく疾うに絶滅をした凄まじい牙を持った虎。

 

 全長が七mはありそうな威容で魔物は実際にはターゲット外だが、狙われた身としては片付けるより他に無いであろう。

 

 折角の毛皮ちゃんだから身体には傷付けずに、即死呪文(ザキ)を使って速やかに殺した。

 

 巨大な植物に巨大な魔物。

 

 どうやら魔の森は相当な秘境というより魔境と呼べる場所らしい。

 

 バナナにマンゴーにパイナップルにドリアンにキウイにと何処のヘルヘイムかと思われる収穫物にカカオや珈琲の実、上手くやれば大儲けが出来そうで悪くは無かったのだが……

 

 尚、インベスは存在しなかった。

 

「義姉さんは可愛かったな」

 

 猪の魔物を屠って解体した肉を焼いて食べながら義姉アマーリエを思い出す。

 

 綺麗系ではなく可愛い系の女性、一九歳と若くて兄のクルトとはそこそこ離れた年齢であるが、日本でもあるまいし貴族なら大した問題でもないという事なのだろう。

 

「ふぅ、それにしても見付からないな」

 

 疑似転生してからそれなりに経ったが主人公に当たる人物と逢わない。

 

「少なくともバウマイスター騎士爵領内でそれらしき人間は居なかった。平民は当然として貴族や従士長家まで捜してみたんだがな」

 

 ユートは基本的に主人公の近くに顕れるらしいと推測がされていた。

 

 間違っても親世代は有り得ない、アルトゥルの主人公性は正しく皆無だったからだけではなく、あれが主人公だとしたらこれが物語ならば先ずを以て破綻してエタる未来しか見えないから。

 

 クルト? 冗談は止せと言いたい。

 

 ヘルマン、パウル、ヘルムートも有り得ないと断言が出来るし、エーリッヒも無理繰りが過ぎるのではなかろうか?

 

 ヘルマンとパウルとヘルムートはその都度にて必要な時に登場するネームド・モブであろうし、エーリッヒにしても精々が歳上としてのアドバイザー・モブでしかあるまい。

 

 アマーリエ義姉さんや次期マルレーネ義姉さん

が主人公な筈も無く、ならば子供世代か? ともなるがそれならユートもその世代に組み込まれていそうなものだ。

 

「可能性としては僕が主人公に成り代わっている事かな? 適度な年齢で基本的に男が主人公だってんなら僕の立ち位置が一番だ。灯台もと暗しとはこの事かね?」

 

 ならば何の問題も無い。

 

 本来の主人公が出逢う筈のヒロインに出逢ってしまっても、ユートの好きな様に動いても構わないという事に他ならないからだ。

 

「っと、そういえば師匠の師匠……我が師の師ってのが無類の酒好きだったらしいからな」

 

 アルフレッド・レイフォードの師匠というのがブランターク・リングスタットというらしいが、酒さえあれば後はその肴だけで一週間だって過ごせる超飲んべえだとか。

 

「確かヘルマン兄さんの奥方になる人の実家が、蜂蜜酒を造っているんだったよな……それなら土産くらいにはなるか」

 

 いずれはブライヒブルク――ブライヒレーダー辺境伯領の領都に向かい今回の収穫物を売却したりしなければならないのだから、序でに辺境伯家へ挨拶をして可能なら、ブランターク・リングスタット()()()(笑)に会ってアルフレッド師匠の最期を伝えると共に、不要な遠征品の食料や水や前ブライヒレーダー辺境伯が家臣の二千名と共に獲た収穫物を渡してしまいたい。

 

 はっきり言えば邪魔にしかならないだろうし、下手をしたらどっち道ブライヒレーダー辺境伯から要請もされると思われる為に、とても猫糞など出来るものではないであろうからである。

 

 ならばいっその事、一切合切を自分から渡した方が心証も良くなって悪い話ではない。

 

 将来の為に何億セントだか何十億セントだか、濡れ手で粟で手にした物資で信頼を得られるなら寧ろ安いもの。

 

 ユートの懐は全く痛まないのだし。

 

「一応、自分で魔法の袋を造って別々にしておいた方が問題も少ないか」

 

 ユートは飛び回ってバウマイスター騎士爵領内の鉱山から様々な貴金属などに手を着けており、損害額はそれこそ何百兆セントとかになりそうな気配だったりするが、どうせバウマイスター家が其処に着手するにはそれこそ千年以上は掛かると思われるから廃坑になっても問題は無い。

 

 初めから無かったのだと思われるからだけであろうし、千年も経てば自然の浄化作用で足を踏み入れた証拠も無くなる上に、そもそも誰が採掘をしたかなど千年後に判明する訳も無い完全犯罪の完了というやつである。

 

 尚、ユートがアルトゥルに税金分を支払う際にはブライヒレーダー辺境伯が寄越した行商人へと品物を売り払い、それで得た金貨を使って支払っているから収穫物からの三割はまだ支払いに入れてはいない。

 

「という訳で、ブライヒブルクに行く許可を頂きたいのですが」

 

「良かろう」

 

 二つ返事だった。

 

「いつ帰る?」

 

「帰りは魔法で一瞬ですが、行きがどの程度掛かるか判りませんから一ヶ月は見て下さい」

 

「そうか、気を付けるのだぞ」

 

「はい」

 

 アルトゥルの言葉はユートを慮ったのか収穫物の三割惜しさかが微妙、取り敢えず心の平穏の為にも前者という事にしておきたい。

 

 これがクルトなら間違いなく後者でアマーリエ義姉さんなら前者だろうが……

 

(にしても、僕も相変わらず歳上スキーだよな。単なるマザコンならいざ知らず、ネカ姉とかにも色々とヤっちゃってた訳だしね)

 

 再転生した世界の従姉であるネカネ・スプリングフィールドとは、記憶が戻る前からの仲良しではあったけど記憶が戻ってからは性的な悪戯などしていたし、ネカネ本人もそれを受け容れてくれていたから遂には最後までヤってしまった。

 

 マザコン気味なのは前々世の母親の緒方蓉子が双子の兄、優雅を腹の内で亡くしたショックからユートや白亜を溺愛したのが原因である。

 

 しかも今生の母親――ヨハンナではない――であるアリカも、産まれて間もないネギとユートを可愛がる間も無かったからか過去に戻ってしまった際に上手くユートが助けて匿い、美人な上に暫くは猫可愛がりされたから実母だから性的な関係にこそならなかったにせよ、相当に甘えてしまったという誰かに言えない黒歴史があった。

 

 言い訳をすれば、ユートの中には記憶が戻る前の三歳までのユートの意識が融合している関係もあるだろう。

 

 本来ならユートは自意識の確立がされる前には記憶を取り戻す筈が、三歳の悪魔襲来の真っ最中に記憶を取り戻した為に自意識がほぼ確立されてしまい、そんな意識がユートの行動にある程度ながら影響を及ぼしていた。

 

 マザコンやシスコンの()はそれも原因であろうと推測がされる。

 

 それから暫く時間が経過……

 

「さて、それじゃ行くか」

 

「待って、ユート君!」

 

「アマーリエ義姉さん?」

 

 飛ぼうとした待ったを掛けたのはアマーリエ義姉さん、何やら大きめの包みをその手に持っての登場で少し吃驚してしまった。

 

「これ、御弁当。良ければ御昼に食べて」

 

「気を遣わせてしまったかな?」

 

「ううん、普段は余り御義姉さんらしく振る舞えてなかったから」

 

「その、有り難う御座います」

 

「大丈夫よ」

 

 ユートはアマーリエ義姉さんには土産の一つも買おうと決めた。

 

「シュワッ!」

 

 そしてユートは天を仰ぎ見て屈伸をしてから、両腕を上げると声を出して空を舞いライヒブルクへと向かって飛んだ。

 

「シュワッって何なのかしら?」

 

 ウルトラマン的な掛け声である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「マルレーネ義姉さんの所から蜂蜜酒も買った、序でに蜂蜜水も出来るだけ買ったからな」

 

 ヘルマンが婿入りしたバウマイスター分家筋、従士長だった祖父の弟である大叔父の家は開墾をヘルマンが、マルレーネ達の女衆が蜂蜜産業をと分担して行っている。

 

 クルトがアマーリエ義姉さんと結婚式を挙げて割と直ぐ婿入りをしたヘルマンだったのだけど、何故かユートは本妻の子でヘルマンの同腹の弟なのに呼ばれもしなかったのだが……

 

 とはいえ、蜂蜜酒や蜂蜜水を買いに行った時にはヘルマンだけではなくマルレーネ義姉さん達も割かし歓迎もしてくれた。

 

 ヘルマンが分家寄りで本家と対立的になった事から、マルレーネ義姉さんとも夜の性活が出来る様になって周りからの当たりも柔らかくなったのが大きいし、夫との寝物語に聴かされたクルトと対立気味な末弟という立ち位置だったからか? マルレーネ義姉さんも歓迎をしない理由が無かったらしい。

 

 女丈夫でヘルマンを尻に敷いてる感じはしていたけど、長い髪の毛をポニーテールに結わい付けた巨乳の御姉さんという感じで、アマーリエ義姉さんとはまた違うベクトルの美女だった。

 

 嫁に出た妹達共々に弓が使えて狩猟もしているからだろう、それなりに鍛えられているのが露出した腕からも判るくらいである。

 

 足腰も相当に鍛えられているみたいだったし、ヘルマンはきっと搾り取られているのだろう。

 

「おっ、あれはワイバーンか? 襲って来るなら落としても問題は無いだろう」

 

 ユートはグッと両腕を腰に据えて落とすと胸元から開くポーズ、それにより魔力が練り上げられて更には収束もされていく。

 

 高速飛翔してきたワイバーンに、右腕を縦曲げにして左腕を内側に横曲げにしてから左手の甲を右肘に付け、謂わばL字の形を作った状態にして純粋魔力砲を縦曲げにした右腕から放出。

 

(フェイク)・ゼペリオン光線!」

 

 放たれた偽・ゼペリオン光線が命中して落ちるワイバーンは頭を消し飛ばされてしまって即死、ユートは魔法の袋の機能を使って落ち逝く死体を回収して再びブライヒブルクを目指して飛んだ。

 

 暫く飛んでいたら割と近場だったのだろうか、ブライヒブルクが見えてきた。

 

「あれがブライヒレーダー辺境伯領都のブライヒブルク……か。確かにウチに比べるとずっと都会って感じに見えるな」

 

 まさか行き成り街の中や入口に降りる訳にもいかないから、取り敢えず誰も居ない場所を選んで其処へ着地をしてからブライヒブルクに向かう。

 

 近くに冒険者が篭る魔物の領域、ブライヒブルク大森林があるからかブライヒブルクには高さが三M程度の防壁によって囲まれていた。

 

 とはいえ、魔物が領域外に出る事はある例外を除いて有り得ないとされており、故にこの防壁は対人用というのが正しいのであろう。

 

「お、どうしたんだ? 坊主」

 

「町に買い物だよ。ちょっと御使いでさ」

 

「それで、身分証は持っているか?」

 

「無いですね。だから商業ギルドで会員証を作ろうかと思っています」

 

「成程。入街税で銅貨が一枚掛かるんだが坊主に払えるのかい?」

 

「ええ、大丈夫ですよ」

 

 バウマイスター騎士爵家八男としての身分証は持っているけど、八歳の八男坊がブライヒブルクに現れたら結構な問題となる。

 

 だからユートは近場の農村の子供という事にして街に入る心算だ。

 

 身分証なんて街に住む者なら基本的には全員が持っている筈だが、農村などでは発行してくれる場所が無いので持っている人間は少ない。

 

 これを発行して貰う為にはブライヒブルクまで態々出向く必要があったからである。

 

 買い物なんかの用事で街へと入りたい場合は、ギルドに加入をするという手があった。

 

 ユートは今回、商業ギルドに加入をする予定であるが本来なら冒険者ギルドが相応しい。

 

 だけど冒険者ギルドは最低でも一五歳にならないと入れない、戸籍が存在しない世界ではあるから多少ならば年齢の誤魔化しは効くであろうが、八歳児では少し背が高くても流石に一五歳であると主張をしたとして通りはしないと思われる。

 

 だからこその商業ギルドだ。

 

 職人や商人なら八歳程度の子供が丁稚奉公をしている場合も多く、親方の命令でブライヒブルクに御使いに行く事もあるから割と簡単に身分証を作れる様になっていた。

 

 故にこそユートとしても好都合である。

 

「その兎を売るのかい?」

 

「ええ、罠を仕掛けて獲った獲物ですよ。それに買い物もしないといけないけど」

 

「それが御使いな訳か。それじゃ、入街税を貰うから出してくれ」

 

「はい、銅貨一枚」

 

「うん、確かに」

 

 ユートは入街税を支払いブライヒブルクに入ると商業ギルドを目指す。

 

 僅か三〇分足らずで用意していた兎肉と毛皮が売れてしまい、税金として売り上げの二割を支払ってから昼御飯を食べた。

 

 一日掛けて飛んで来た訳だからアマーリエ義姉さんの御弁当はとっくに食べたし、朝から何も腹に入れていなかったと気が付いたのだ。

 

 そして米を購入してブライヒブルク最大の邸、ブライヒレーダー辺境伯家へと向かう。

 

 途中で身形の良い服を着て貴族らしさを演出してみたが、八歳児では七五三が背伸びをしている様にしか見えない気がした。

 

「門兵さん、ブライヒレーダー辺境伯様に取り次ぎを頼みたいんだけど」

 

「は? 取り次ぎって……辺境伯様と何か約束でもあるのか?」

 

「無いね」

 

「おい、巫座戯るなよ? 何の約束も無いのに、取り次ぎなんぞ出来る筈が無いだろう!」

 

「約束は無いけどブライヒレーダー辺境伯様は僕に会う筈だ」

 

「ハァ!?」

 

「試しに取り次いでみてくれないかな?」

 

「莫迦を言うな!」

 

 バウマイスター騎士爵家の八男として来ても、単に侮られるだけだろうからこうしている。

 

「アルフレッド、袋の中身……それで伝わらないならそれを売り払って二度と戻らないと言えば必ず会ってくれるさ」

 

「そんは筈は……アルフレッド? アルフレッド・レイフォード様の事か?」

 

「まぁね。出来たらブランターク・リングスタット様にも会いたいと伝えて欲しいね」

 

「……待っていろ」

 

 二人居る内の一人が確かめるべく走って行き、約二〇分くらいで慌てて戻ってきた。

 

「ブライヒレーダー辺境伯様とブランターク様が御会いななるそうだ」

 

 取り次ぎはきちんとして貰えたらしい。

 

 案内をされた部屋は恐らくだがブライヒレーダー辺境伯の執務室、父のアルトゥルが使う書斎兼執務室とは広さが倍以上も違う。

 

 其処にはイケメンな男が……

 

「初めまして……ですよね? 私がアマデウス・フライターク・フォン・ブライヒレーダーです」

 

「初めまして、ユート・フォン・ベンノ・バウマイスターです。隣に在るバウマイスター騎士爵家の八男に当たりますね」

 

「バウマイスター家。成程、確かにアルフレッドはバウマイスター騎士爵領の魔の森で亡くなった訳ですからね」

 

 納得した様にイケメンな男――ブライヒレーダー辺境伯が頷いた。

 

「処で、ブランターク・リングスタット様は? 居るのは判ってますが……何故に隠れているんでしょうかね?」

 

「気付いたのですか?」

 

「隠れるならせめて魔力隠蔽と気配を消すくらいはした方が良いのでは?」

 

「成程ね、どうやらアルフレッドの弟子はとても優秀な魔法使いという訳ですか」

 

 嘆息するブライヒレーダー辺境伯と陰から出てきた白髪混じりな黒髪を短く刈った初老の男性、黒一色のローブを纏うのはブランターク・リングスタットであろう。

 

「初めましてだな。俺がアルフレッドの師匠であるブランターク・リングスタットだ。まぁ、気が付いているだろうけどよ」

 

「ええ、我が師の師……大師匠のブランターク様。貴方には是非に我が師アルフレッド・レイフォードの最期を伝えたくて」

 

「そうかい……どうだったよ?」

 

「立派な方でした。三〇年の時を費やして身に付けた魔法を伝える弟子を……と、語り死人に変じてまで数年間を待ち続けて僕に会ってくれた偉大な魔法使いです」

 

「そう……か。アルの奴……」

 

 涙こそ流さなかったがやはり愛弟子だったらしくて、表情が暗くなり落ち込んでしまったみたいに顔を伏せてしまう。

 

「それと我が師より昇天する前に魔法の袋を受け継いだのですが、中身は師の私物以外に遠征の為の物資と収穫物や魔物の素材などが有りました。それに関しては返還を考えているのですが?」

 

「本当ですか!」

 

「ええ、僕には要らない物です。勿論、ブライヒレーダー辺境伯様が要らないなら売り払ってしまいますが?」

 

「いえ、勿論ですが返還を望みます! 父の強行軍で我が家は財政難でしたからね」

 

「でしょうね。それなのにバウマイスター騎士爵領に行商を寄越して下さり僕としては感謝の念に堪えません」

 

 財政難とはいっても立ち行かなくなる程度では無かったにせよ、やはり何億セントも使ったのが無駄骨になった訳だから。

 

 そんな訳でユートはブランタークの魔法の袋に遺産とは別にした食料品や水や薬草、更に魔の森で兵が入手していた素材などを移し換えた。

 

「ふう、俺の魔力量だとギリだったな」

 

 魔法の袋は使い手の魔力量により容量が変わるもので、魔力量という意味ではアルフレッドの方が遥かにブランタークより高かったらしい。

 

「リスト通りなら評価額は白金貨で五〇枚分くらいは軽く有りますね」

 

 当たり前だが補給物資だけではそんな額にはならない、魔の森で手に入れた素材の価値が高かったのはユートも知っている。

 

「それで報酬ですが……」

 

「報酬?」

 

「ええ、当然ながら有りますよ。評価額の二割を御支払い致しましょう」

 

「二割って白金貨で一〇枚、一千万セントを? 相当な額ですが……」

 

「はい。貴方のお陰で我が領の財政は一息を吐けたと云えますからね」

 

 一千万セントも有れば慎ましく生きていけば、普通に生涯を暮らせるのではないか?

 

(まぁ、冒険者をやりたいから自堕落に生きていく気は無いけどな)

 

 ユートは魔法の袋に渡された白金貨一〇枚の入った袋を容れた。

 

 その後は確りとアルフレッド師匠の話をしたのだが、一つだけユートは隠し事をブライヒレーダー辺境伯とブランタークに対してしている。

 

 アルフレッド・レイフォードにユートは選択肢を与えており、その選択肢の一つを彼は確りと選んでいるのだという事を。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「さぁ、ユート……私を昇天させて下さい」

 

「言葉だけ聴くと怪しいんですが……」

 

「混ぜっ返さないで下さいね」

 

「はい」

 

 イケメン男性に言われると微妙な気分になったのだから仕方がない。

 

「その前に師匠には選択肢が有ります」

 

「選択肢……ですか?」

 

「はい。僕には魔法とは異なる力が有りまして、それを使えば師匠を生き返らせる事すら可能になるものです」

 

「生き返……る……とは?」

 

「異なる世界の神々に歯向かって獲た神の権能、その中にはあの世を司る神ハーデスの力も在る。それ単体では一二時間限定での蘇生でしかないのだけど、他の力を併せて使えば少なくとも本来の寿命まで生きられるでしょう」

 

「貴方はいったい……」

 

「師匠に与える選択肢は1:この侭昇天をする。2:生き返る。3:あの世のエリシオンで暮らす……という三択となります」

 

「1はつまり私が貴方に望んだ事ですね。それで

2の生き返るが可能なのですか? エリシオンというのはよく判りませんが……」

 

「エリシオンはあの世に於ける極楽浄土とされていますが、僕の冥界に於けるエリシオンというのは死の世界でありながら生きられる場所。とはいえその場合は地上に干渉は出来ません。メリットはいずれ僕がこの世界を離れたら貴方も同じく離れて様々な世界を巡る機会を得られる事ですね」

 

「様々な世界……」

 

 エリシオンには【閃姫】が待機をする場所の他にも、嘗ての黄金聖闘士達が暮らしている場所なども存在しており、アルフレッドが望むのであれば其処の一角を提供する用意があった。

 

 当然ながら普通は【閃姫】以外を招かないが、特に気に入った相手をエリシオンに招いて共に歩みたいと思う人間も居る。

 

「私は……」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 二人に言う事でも無いであろう。

 

 アルフレッドには不動産の遺産も有ったので、ブライヒレーダー辺境伯が管理していた邸を受け取る事となり、取り敢えず邸の管理者権限を自分に書き換えてしまった。

 

 ブライヒレーダー辺境伯邸を辞したユートは、王都スタットブルクに向かいたいと考えており、魔導飛行船のチケットを買う為に動いている。

 

 まぁ、代金はブライヒレーダー辺境伯の奢りになっているから買うと云うより受け取りに行くというのが正しい。

 

 一度でも王都スタットブルクに行けば次からは魔法で行けるし、いい加減で収穫物を売却してしまいたいからオークションが開かれているであろう王都は好都合なのだ。

 

 年齢は魔法で変えれば良いと思い付いて考えたのがこれ、この世界で魔法資質は遺伝しないみたいだから魔法であれこれをしてもだいたいが気付かれない。

 

「お、あれが魔導飛行船の発着所か」

 

 ユートはブライヒレーダー辺境伯から預かった書状を渡してチケット購入、スタットブルクへと向けて飛び立つのであった。

 

 

.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 フラグ建築まで往けなかった……


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