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番長と愉快な仲間達と共に幾つかの事件に挑んで解決に導いて更に数年後、西暦二〇一六年へと年月も移り変わった頃に一つの事故を見た。
所謂、交通事故で赤毛で右目の下に泣き黒子が有る美少女が轢かれてしまったのだ。
ユートは『ザ・ワールド』だとか抜かしながら時間を停め、少女の肉体を保護してから一気に跳んでその場から消え失せる――アルカナ的に見れば“
故にその事故は事故でありながら神隠しとして警察やその他を困惑させたのだと云う。
更に一ヶ月後、ユートの姿は[私立秀尽学園高等学校]と呼ばれる高校の入口に存在した。
隣には銀髪赤瞳な美少女を伴って。
「はぁ、此処がベルベットルームから依頼のあった地域の高校なんやな」
「ああ。だけどあれからイゴールや彼女らからの連絡は途絶えてしまった。しかも鍵を使っても扉が開かないから調べにも行けないと来た」
「難儀やねぇ」
「だからこそ、依頼として向かう予定だったこの秀尽高校に敢えて来たんだよ」
「せやからウチも引っ張って来たん?」
「独りで調査はちょっとな」
ニカッと笑う少女に対して頭を掻く。
「ま、ウチとしてはあん人と
「アイギス姉さん……ねぇ」
どちらかと云うと七式のアイギスと五式である彼女、故に製作番号的に視れば寧ろアイギスの方が妹に位置しているのだが、駆動年月からしたらアイギスの方が長いから姉として認識するとか。
「じゃあ、今日から君は対シャドウ制圧兵装五式ラビリスでは無く、帰国子女のラヴィ・リースって名前になるからな」
「うん、ウチはラヴィやな」
帰国子女という設定なんだから別に○○ラビリスとかラビリス・○○でも良さそうなものだが、ラビリス本人が――『アイギス姉さんはその侭の名前やってん、ならウチはちょぉ捻ろか思てな』とか言ってラヴィ・リースとかいう意味も無く捻ったというか最早、捻くれたと言われても仕方が無い名前で秀尽高校の編入試験を受けてしまったのである。
勿論、桐条美鶴が率いる桐条グループが設立した組織シャドウワーカーからの出向扱いだから戸籍は桐条任せ、彼女も名前を捻ったと宣ってきたラビリスに困惑を隠せなかったと云う。
現在のラビリスの身体は生身、認知を阻害するとかでは決して無い本物の生身だから八十神高校の生徒会長だと誤認していた頃と変わらない姿、銀髪に赤い瞳というのは変化させていない彼女は美少女然としていた。
「教えたと思うが。僕も君も……そしてアイギスもそうだけど、この秀尽高校にも現れるであろうペルソナ使いもその
「せやったな。確か優斗さんの源流がフィレモンでアイギス姉さんがニュクスやったよね」
「そう、そしてラビリスがイザナミ」
「そうなると、この秀尽高校は?」
「さてな? 僕も識らないから」
ユートはゲームによる【ペルソナ3】の原典を識るからその源流がニュクスに属していると理解をしていたけど、実際に【ペルソナ4】に関しては源流というよりは原典を全く識らない。
今は識っているのが二〇一一年に八十稲羽市で起きた事件、“マヨナカテレビ”の事だったけれどこれをユートは【ペルソナ4】と考えていた。
そしてマヨナカテレビを中心に起きていた事件の黒幕がイザナミ、故にこそ【ペルソナ4】での源流をユートはイザナミであると考えている。
【女神異聞録ペルソナ】と【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】はフィレモンが源流だったのだが、ユートが彼らと同じかどうかに関しては実は首を傾げていた。
或いはニャルラトホテプの可能性があったからだけど、それでもユートがペルソナ使いになったのはフィレモンと出会ってからだ。
その場所毎に使い方や修得の仕方が違うのも、源流が異なるからだとユートは考えている。
単純にナンバリングが変わったからシステムの変更をした……訳では無いと。
「兎に角、イゴールからの依頼でこの秀尽高校に転校……とは言わないか。取り敢えず来た訳だから“愚者”の資質持ちを捜すぞ」
「了解や」
最近というか、珠閒瑠市での闘いを越えて次の月光館学園を中心とした闘いや八十稲羽市での闘いでは、主人公格となるキタローとハム子と番長は揃ってユートと同じ“愚者”だった。
尚、キタローとハム子は【ペルソナ3】に於ける男性主人公と女性主人公の括りだが、この世界では双子の兄妹として生を受けてどちらもが同じオルフェウスをペルソナとしている。
「今までは尚也が“皇帝”で達哉が“太陽”で舞耶姉が“月”だったんだがな。まさかのタルタロス攻略で“皇帝”は脳筋でした……とかねぇ」
線の細い尚也とは全く似てない。
「ウチのアリアドネは“運命”やね」
「そうだな」
ラビリスがP1グランプリで獲得したペルソナはアリアドネで、そのアルカナは“運命”となっていて魔法より物理が得意なペルソナだ。
見た目は細いのだが、何しろベースとなっているラビリスの武器が武器なのだから無理も無い。
人工エボリュダーと成ってからも、元々が持ち合わせていた躯体の特徴が残っているのもあり、見た目には線の細い美少女ながらパワータイプの攻撃を得意とし、更に認知阻害という裏技みたいな能力も持っていて絡め手も熟せる。
「そういや、優斗さんもアルカナが“愚者”なんやからペルソナチェンジが使えるんやろ?」
「……限定的にな」
「うん?」
「珠閒瑠市での闘いでニャルラトホテプを討った影響からか、僕のペルソナチェンジはガチャ式に成ってしまっていてね」
「ガチャ? ガチャポンとかガチャガチャとか、ワンコインでカプセルトイを売る機械?」
「まぁ、そうだけど……正確には二百円を入れて買うタイプが多いしワンコインというの語弊があると思うぞ」
昔なら五十円玉や百円玉のワンコインが目立ったけど、安物の中に二十円を入れてガチャる筐体も在ったのだから矢張り語弊がある。
「ああ、そうなんやね。ウチはワンコインのしかやった事あらへんかったからなぁ」
「ガチャはした事があるんだな」
ちょっと意外に思う。
「ちょぉ、欲しい
「ガチャなら欲しい物が出るかも判らない上に、入っているかすら判らないんだろうに」
「うん、二万円くらい溶かしたなぁ」
阿呆な給料の使い方をしたものだ。
とはいえ、ガチャは基本的に出なければ続けるという闇深い代物だとも云えて、例えばネットゲームのガチャだとピックアップが出せなかったら口惜しくてつい『もう一回』と溶かすものだ。
勿論、人にも因るのだが……
二万円も溶かしてラビリスが手に入れた物が何かと思えば、伝説の武器シリーズとか呼ばれている小さなストラップであり、彼女の手に有るのは本人が使う巨大な戦斧に割と似た斧だった。
伝説の武器シリーズというだけあって名前なんかも可成り伝説をしていて、両手剣のエクスカリバーだったり槍のゲイボルグだったりとユートがある意味でよく知る武器名が揃っており、日本系だと草薙の剣も在ったらしい。
「これがウチのラブリュスやで!」
「リディア王国の祭器とか伐採に使われていたっていう斧だな」
どうやらラビリス――自身の名前に割と似ていたから欲しかったみたいである。
「あ、優斗さんにも上げるで」
「これは刀だな」
「うん、呪われた刀で妙法村正やて」
「妙法村正……ね。別に村正は呪われたりしてはいないんだけどな」
妙法村正だと言われたストラップを受け取りながら嘆息して呟く。
確かに現実にも存在した刀ではあるのだけど、伝説に謡われてもおかしくないのも事実。
(というか、持っているからな)
前世の先祖は前々世の先祖の弟が神隠しに遭った人物で、その先祖が江戸幕府第八代征夷大将軍からあろう事か御家に祟るとまで謂われた妙法村正を下賜されていた。
故にオガタ家には代々、妙法村正が魔法で保護されてずっと受け継がれてきたのをユートが改めて受け継ぎ、今はハルケギニアのオガタ家に自身が鍛った刀を遺して手にしている。
これでも前々世では普通に刀剣類の鍛造を習っていたし、何よりもユート自身が実は戦闘型では無く技芸に長けたタイプだったから巧く鍛てたというだけの自負があった。
戦闘能力が高いユートが何の冗談かと周りからは言われるが、前々世での緒方優斗は独創性には多少欠けてはいても創る事に掛けては父親譲り、然しながら肝心要な刀舞術に関しては五歳下の妹に負ける体たらく。
因みに、ユートの前々世の父親たる緒方優也はこの【女神転生】世界改め【ペルソナ】世界ではユートが名前を借りた相手で、実際の彼は刀舞術には全く適性を見いだせるものは無かったけど、芸術に極振りしたパラメーターで絵画や陶芸などに於いて名を上げていた。
ユートが三流大学を出て三流企業に勤めていたのは宗主の座は妹に明け渡すしか無かったのと、芸術で食っていくのは父親がその方面で偉大過ぎて自身を持てなかったから。
一枚の絵を描けはそれが最低価格で数百万にもなる父親の絵画、当然ながら自分も描いていたのだから、その一枚を完成させるのに何日間も毎日を注ぎ込んで描き続けて完成に至らせるあらゆる苦労は知っている……心算だ。
父親とは違ってプロの画家や陶芸家になった訳ではなかったから、実質的な苦労など実は理解をしていないのかも知れないけど。
「? 徳川家を呪う刀やて聞いたんに」
「それは徳川家に三代続けて災厄を招いたからと云われてる。昔の人間は科学的な根拠に基づかない験担ぎが普通だったしな、単なる迷信でさえも信じて疑わない時代だったんだよ」
「ウチからしたら信じられん時代やんね」
多少のファンタジー要素込みとはいえ、大元となるのは科学的に造られた所謂ロボットであり、迷信なんて正しくファンタジーでしかないのだとラビリスは断じる。
だが然し……
「ペルソナ使いがどの口で言うのかって話だと思うけどな」
「ああ、せやね」
ペルソナがファンタジーの塊だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
秀尽高校。
字面だけを視ると普通だったけど読みは最悪の一言、まるで犯罪者を収監する為だと云わんばかりの……即ち囚人。
「緒方優斗です」
「ウチはラヴィ・リースや」
ユートとラビリスは編入の挨拶をする。
(どないや? 優斗さん)
(居ないな。少なくとも“愚者”の資質持ちは居ないと思う。同じ“愚者”ならある程度は解る)
ちょっとした共鳴が起きる為に何となくだけど近場に居るなら解るらしい。
(それはこのクラスに?)
(否だ。学園内に居ないんだろうな)
(ハズレいう事か?)
(後は都立洸星高校辺りだが)
(更生? またとんでもない名前やねぇ。此処ら近辺ってこんなんばっかなん?)
(さぁ?)
知る訳が無い。
とはいえ、此処は元【真・女神転生】を原典とした世界であり今は【ペルソナ】世界、つまりはそんな名前の高校くらいは別に普通なのだろう。
秀尽学園高校の二年D組に何故か二人共が編入されてしまった形だが、聴いた処によると実際には数日後となるが別の理由から編入予定の生徒が居るらしく、どうせだからとユートとラビリスを一緒のクラスに入れたのだとか。
あの肥えた校長はその生徒がどうのこうのだけでも面倒だったみたいだ。
取り敢えず街で“愚者”を捜しながら――そう言うと何だかバカを捜しているみたいだが――学園では一応の勉強をしつつ、それなりに学園生活をして見せている……見せ付けるくらいに。
四月九日の土曜日、行き着けの喫茶店に入ると少し遅めの昼食をラビリスと共に摂る。
“純喫茶ルブラン”と云う。
マスターである佐倉惣治郎が得意としているらしいルブランカレーに珈琲、そのスパイシーさには中々どうして癖になる旨味を感じていた。
ルブランカレーはルブランのカレーという意味でしかなく、品書きには“ルブラン特製カレー”なんて風情の無い名前に一皿が八〇〇円の値段で売られている。
「うん、相変わらず美味しいなぁ」
「有り難うよ、お嬢ちゃん」
揉み上げと顎尻から繋がる黒い髭に眼鏡を掛けたオールバックな髪型の中年男――佐倉惣治郎も美少女から誉められては嬉しいらしい。
ユートも黙ってはいるが美味しいといった意見に間違い無いのは、行き着けとなって半ば常連客と化している事からも判る。
「そういや優斗さん、川上先生が何や頭痛そうにしとったな」
「明後日の月曜日から来るもう一人の転校生ってのが問題児らしいぞ」
「問題児?」
「ああ、前の学校を放逐されたらしい」
「はぁ? 何でそんなん受け容れたんや? ウチらの校長先生は」
「知らんよ」
肩を竦めるユート。
「うん? そういやお前さんらは秀尽学園生だったんだよな。その問題児の親がウチの客の知り合いっつー事で預かる事になっていてな」
「ルブランで?」
「面倒くせー話だが、多少の金も受け取っちまったからな。ま、しゃーねーわ」
佐倉惣治郎も肩を竦めて言う。
別に歓迎をしている訳でも無さそうなのは矢張り問題児だからか、とはいえど引き受けた以上は部屋を提供してやるのだろうけど。
「その新しい転校生は同じく転校生な僕らと同じく二年生で学級はD、つまり奇しくも三人の転校生が同じ教室で勉学に励むって訳だよ」
「普通はバラかさんか?」
「普通は……ね、だけどあの校長だ。聴き齧った話だと実績がどうのって噂だし、本当に面倒だったから適当に同じにしたんだろうな。川上貞代先生も貧乏籤を引いたもんだ」
「ウチら貧乏籤かいな」
「少なくとも新しい転校生は問題児らしいから、普通に貧乏籤なのは間違い無いと思うがね」
貧乏籤といえばユートとラビリスが来る前から珈琲をちびちびと飲んで居座る客が二人居るし、そういう意味で云うなら目の前でクロスワードをやっている佐倉惣治郎も貧乏籤だ。
少なくとも一時間は居るのだから、下手をしたら珈琲を一杯だけで二~三時間は粘っているのだと思われるも、佐倉惣治郎は偶にチラッと見遣る程度で再びクロスワードに没頭していた。
迷惑でも騒ぐで無く、単に珈琲だけで居座る分には未だしもマシという事か。
カランという音と共に入って来たのは癖っ毛で眼鏡を掛けた少年、ショルダーバックを肩に提げていて見ると制服らしき服装。
入ってくるなりキョロキョロと辺りを見回しているが、どうやらお客さんって訳でもなさそうと云うよりある意味でお客さん。
(此奴がマスターの言っていた問題児だろうな、秀尽学園高校の制服を着ているくらいだし……というより、どうやらアタリを引いたっぽいな? この少年が“愚者”のアルカナだ! 未覚醒なのに既にペルソナの気配が僅かながらしているしな)
ニヤリと口角を吊り上げる。
「ふむ、タテは『真珠の養殖に使う貝の名前』……と……ふーむ……」
佐倉惣治郎はといえば変わらずクロスワードを解いていた。
『バスがお客を乗せたまんま逆走ですからねぇ、公共の交通機関なのに。これでは市民も安心して暮らせませんよ……』
ワイドショーの司会者の声が響く。
「怖えなぁ」
「どうなってんのかしら、この前もあったんじゃない?」
因みに、どうでも良い話だけど僅かに、本当に僅かに佐倉惣治郎の科白が原典より早かったのはユートの介入によるものだ。
ユート達との会話で少しだけズレたのだ……が正しくどうでも良い事であろう。
こんな小さな積み重ねがいずれ大きく変えていく切っ掛けに……は流石に成るまいが、それでも行き成り大きく変えてしまうと先を識っていても読めなくなる上に、歪みが下手に生じてしまって変な人死にを出したりするから要注意。
「マスター、多分だけどマスター本人へのお客さんだと思うよ」
「あん? ああ、さっき話してたやつな」
居座り客との会話が消えて……
「ご馳走さん、御代は置いとくよ」
「毎度」
初老の夫婦らしきは帰って行く。
これも確かな変化ではあるが、問題点としてはユートが最早この世界の先を識らないという致命的なものが在った。
ユートが識るのは【女神異聞録ペルソナ】と、【ペルソナ2・罪】と【ペルソナ2・罰】、更には【ペルソナ3】無印の四作品のみ。
「この辺は路地裏だし、車が突っ込んで来そうには無いな」
「そうですねぇ」
佐倉惣治郎との会話は発生せず、夫婦間でのみの会話の侭であったと云う。
「はぁ、珈琲一杯で四時間かよ」
頭を掻きながら呟く。
「お前が蓮か?」
「えっと、佐倉さんという人は……」
「ああ、佐倉惣治郎だ。一年間、お前を預かる事になってる。どんな悪ガキが来るかと思ったら、お前が……ねえ。聞いてるか? ウチの客とお前の親が知り合いで……まぁ、良いか」
とか言いながらユートとラビリスの二人が居る方を見遣って来た。
「僕らも出るよ」
「御馳走さんやね」
「ワリィな、急かしちまってよ」
二人分のカレーと珈琲の代金を受け取りながら謝意を示す佐倉惣治郎、一応の準常連客だったから特に瑕疵も無く追い出してしまう形になったのが心苦しいらしい。
「それぞれ百円ずつサービスしといてやるから、これに懲りずにまた来店をしてくれや」
愛想笑いで二百円をかえしてくれた。
「また来るよ、マスター」
「またな~」
捜しに捜してようやっと見付け出した捜し人である、“蓮”と呼ばれた彼は謂われる程に問題児とは見えなかったから某かが有るのだろう。
「そういや最近、獅童を高校生が怪我させて訴えられたって話を聞いたな。若しやすると彼が件の人物で、その所為で退学を喰らって違う学校に入り直しか? それはそれで根性があるんだな」
「ま、明後日からクラスメートや。何や曰わくはありそうやけど仲良く出来たらエエねぇ」
「そうだな、それに“愚者”ならキタローと番長と琴音みたいにコミュを築くだろうから今から一層に楽しみだよ」
自分がコミュの一人に成るかは判らないけど、見ていて愉しいと思えた三人のコミュ。
ユート自身も“愚者”としてのコミュ――絆を築いて来ただけに、あの“蓮”という少年の動向には目を光らせておきたいものだ。
「それに、ベルベットルームへの入口が未だ閉ざされた侭なんだが……果たして彼にイゴール達が接触をするのかも確かめないとな」
ラビリスはそんなユートの独り言ちる姿を視ながらも、自身が行った事の無いベルベットルームなる部屋に興味津々であったとか。
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ロイヤルなだけに彼女も出ます。