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西暦二〇一一年 四月一一日。
影時間の原因を叩いて約二年が経過しており、ユートは高速で走る電車に揺られて眠っている。
目的地はY県の稲羽市。
この地には所謂、片田舎と呼べる程度の小さな町が在る。
尚、この一帯を八十稲羽と呼ぶ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
青に満たされた一室に鼻の長い紳士服を身に纏う老人と、淡い金髪に金瞳の美しい顔立ちをした青い服を着た女性が其処に居た。
「久しいな、イゴール。それにマーガレットも」
「ヒッヒッヒッヒ、お久し振りですな。我が主の盟友様」
「二年振りに成りますね」
老人はイゴール、美女はマーガレットと云う。
イゴールは嘗てフィレモンなる紳士に仕えていたものの、そのフィレモンがニャルラトホテプと共に消えてしまった為にか? ベルベットルームにて一種の造魔の如く存在――エリザベスやマーガレット達――を己れの秘書としていた。
ベルベットルーム。
二年前には、結城 理と結城琴音の双子の兄妹が“客人”として訪れていたものだ。
「まるで一二宮の様なパルテノン神殿だよな」
「それがユート様の視ているものなのでしょう」
一礼しつつマーガレットが言う。
「それで、用件は?」
「また客人が参ります」
「そうか」
恐らくは鳴上 悠の事だろう。
「またナニかが起きるか。ならば新たな愚者を手助けるとするかね」
「そう願います」
「任された」
マーガレットがペルソナ全書を捲っている。
「今回の初期ペルソナは如何致しましょうか?」
「そうだな……オルフェウス、オルフェウス(F)、イオ、ポリデュークス、ルキア、ペンテシレアか。それに加えてサガとディケイドを頼む」
「かしこまりました」
八枚のカードがペルソナ全書から顕れて浮き、それらがユートの方へと向かっていく。
一枚目~六枚目までは二年前の闘いに於いて、タルタロス攻略の仲間であった者達が使っていた初期ペルソナ、サガは【聖闘士星矢】に登場する黄金聖闘士・双子座のサガの事で、ディケイドは二年前にも使った仮面ライダーディケイドを自らのペルソナとしたモノだ。
ペルソナとは自身の中の神の如く自分や悪魔の如く自分、或いは英雄の如く自分といった資質を象として顕在化させたモノであり、飽く迄もそれは本物という訳では無い。
だからこそ、場合によっては仲間のペルソナを顕現させるなんて荒業も可能、事実としてユートや結城 理や結城琴音を担当したエリザベス、更には目の前のマーガレットが手にする割と大きめな本――ペルソナ全書から、彼女らは記録をされたペルソナを顕現させ闘う事も可能。
それはテオドアやラヴェンツァ――力を司る者として同じ事だ。
ベルベットルームには一五年くらい前から入り浸りもあった。
西暦一九九四年の新宿に在る軽子坂高校にて起きた小さくも大きな、“軽子坂高校消失事件”にも関わりを持っていたが、この二年後に聖エルミン学園へと通っていた頃に“ペルソナ様”なる儀式が流行り、これを切っ掛けにペルソナ能力に覚醒をした少年少女達が巻き込まれた、事件として世には出ていない事象が最初の関わり合い。
まぁ、その時はイゴールが主と仰ぐフィレモンからの依頼と契約だったが、更に三年後に起こった珠閒瑠市の七姉妹学園を中心とした、矢張り事件とは成らなかった事象も同じくだったけれど。
御影町の事象は“セベク事件”という事件として認識されており、真相を知るのは一部の高校生のみだったから拡散もされていない。
珠閒瑠市での事象は二度起きて、一度目は抑々が切っ掛け自体が変えられた事で無かった事に、二度目にしても再構成されてしまったから人々の記憶には残らなかった。
とはいえ、“セベク事件”で直接的に関わりを持っていた人間達は記憶を喪っていなかったから、“ペルソナ”や“
奇しくも、その実験が始まったのは喪われてしまった珠閒瑠市での事象の頃、西暦一九九九年での事だったから業が深いとも云えよう。
その約一〇年後に嘗てこの実験に関わっていた人間や関係者、これらが一堂に会して影時間へと深く関わりを持ち、タルタロス攻略が行われていったのだから皮肉が効いているのかも知れない。
影時間の消失から約二年が経過した現在だが、既に新たなる事象は静かにだが確実に現実へ侵食を始め、霧と共にマヨナカテレビなる影時間とは異なる“イセカイ”が、既に人々へと影響をし始めているのだ。
まぁ、既に起こっている事象に関してはユートとしては別に知った事では無く、死んだ人間を助けようとか其処まで考えてはいない。
所詮、見知らぬ人間だからだ。
ユートは知り合いでも何でも無い人間に心を砕く程には優しく無いし、その分は知り合いというか【閃姫】や、そうで無くとも仲間であるのならば優しくしてやれる程度には情くらい有る心算であった。
因みに、ベルベットルームに招かれる直前に居た場所は電車の中であり、其処には未来の番長こと鳴上 悠が居るのも確認済みで、何なら既に接触をしているくらいである。
「さて、貴方様はエリザベスとの闘いを経て仲好くされている様子」
「そうだな」
彼女の――『メギドラオンで御座います』を喰らいながらも斃した後、それなりに肌を重ね合う仲に成っているユートとエリザベス。
元より、エリザベスと共にマーガレットやラヴェンツァとも仲良しな為に、万が一にでも彼女らが危機に陥れば助けようと思うくらいだ。
「折角ですから、あの子みたいに私とも闘ってはみない?」
「マーガレットと?」
「勿論、貴方が勝ったなら私を好きにしても構わないわよ。さて? 貴方はどうするのかしら?」
「うん、面白いな」
微笑むマーガレット。
「それでは此方へ」
別に存在する広い空間へと連れて行かれると、マーガレットがその手のペルソナ全書を開いた。
イゴールの秘書的な存在、役割はペルソナ合体などだが、“力を司る者”と名乗るだけあり強い。
「準備は万全かしら?」
「勿論だ。常在戦場」
「フフ、そうね。“力を司る者”として私自身と主の名に於いて最大級の敬意と共に御相手するわ」
「では、言葉による語らいの先に在るモノを君に魅せよう」
ユートが左腕を天に掲げる。
「
夜空に浮かぶ星の列びがユートの頭上に顕れ、中国の瑞獣たる麒麟を象る
カシャーンッ! 軽快な音と共に分解されるとユートに装着された。
こう見えて戦女神アテナの血液を受けたが故、青銅聖衣ながらその輝きは黄金聖衣にも近い。
「始めよう」
「ああ、闘いの熱と緊張感が私の身体を満たしていくわ」
浮かび上がったマーガレット。
マーガレットの闘い方、それはエリザベスと変わらない、ペルソナを全書より召喚するのに加えて彼女らの通常攻撃も可成り高いのである。
ユートは召喚器の拳銃を右手に持って顳顬へと銃口を向けた。
「以前の事象で使っていた物、貴方には必要性が無いでしょうに」
「必要は無いな。ペルソナッ!」
召喚されたのはルキア、相手の情報を精査する為のナビ型ペルソナ。
そのアルカナは女教皇、山岸風花の使っていたペルソナである。
更に引き金を引く。
「なっ! 多重召喚?」
新たに召喚されたのは二体ものオルフェウス、片方は結城 理でもう片方は結城琴音のペルソナ。
「二つの力を一つに、ゲム・ゲル・ガン・ゴーグ・フォ……」
言っている言霊は勇者王だが、オルフェウスの合体は寧ろジョグレス進化の様相を魅せていた。
上空へとクルクルと回りながら浮遊しながら、一つに融合合体をして似て非なる姿へと変わる。
「オルフェウス・テロス!」
通常のオルフェウスとオルフェウス(F)を一時的なペルソナ合体し、オルフェウス・テロスという見た目は普通で強化をされたペルソナに。
「まさか、ペルソナ合体ですか?」
「一時的にな」
合体すれば本来は元に戻せない、だがこの合体はデジモンのジョグレス進化みたいに分離する事も可能、だけど成長期のデジモンが行き成り究極体に進化したレベルにも成る。
元来、オルフェウス・テロスは“無色の仮面”を手に入れた上で、タナトスとアスラとチウとメタトロンとヘレルとメサイアの合体案件。
然しながら、ユートは本来なら有り得なかった二つのオルフェウス――性別的に男女による合体で真体と成るのを応用して究極化した。
「中々に面白いわ。ベルベットルームでしか行われていないペルソナ合体を、一時的にとはいえ遣れてしまうなんてね。エリザベスが気に入ったのもそんな特異な部分から……なのかしらね?」
「そうかもね」
「では、今度はその実力を魅せて貰おうかしら?」
「勿論だ!」
マーガレットがペルソナ全書からカードを取り出しペルソナを喚ぶ、喚ばれたペルソナとは即ちユートも見知っているジークフリード。
「プロミネンス!」
「オルフェウス・テロスに炎系は効かない!」
「くっ!」
反射されたプロミネンスを躱すマーガレット、すぐに新たなるカードを取り出し再びペルソナを召喚、其処で召喚されたのはロキ。
「ヒートライザ!」
ユートは攻撃力と防御力と命中率と回避率を上昇した。
「プラス、ランダマイザ!」
「くっ!?」
味方にバフを掛けるヒートライザの真逆となるランダマイザ、オルフェウス・テロスが使ったのでは無いのがミソ、ユート自身が行使する。
【女神転生】系の魔法はユートも使える為に、こうしたバフやデバフ魔法も普通に使えていた。
『
イオが風の刃を放つ。
躱そうとしたマーガレットだったが、先程喰らったランダマイザで本来の速度を維持して無い。
『ニブルヘイム!』
ガルーラでダメージを受けつつロキを使用してのニブルヘイム、氷結系の魔法でも上位に位置している。
「
ロキが使ったジオダインからしたら初級魔法でしかなく、威力は随分と低いからマーガレットが受けても先程のガルーラよりも、矢張り威力の方はちょっと低めである。
「ペンテシレア!」
『氷結ガードキル!』
「うっ!?」
これもデバフ魔法、相手の属性耐性を一段階だけ下げるという。
「
「くうっ!」
マーガレットの耐性は光と闇を無効化するが、他の属性に耐性を持っている訳では無い。
然しロキを召喚したら、一時的に氷結を吸収してしまえる。
所詮はブフーラだけど、威力的には少なくともブフダインと同等クラス、初期ペルソナでしかないペンテシレアだから中級の魔法のみ。
それでもブフダイン級であれば、マーガレットとはいえそれなりにだがダメージは大きいもの。
「然しこの程度なら……ハ!?」
「ペルソナ……」
未だに召喚していないペルソナをユートは喚ぶ。
「サガ!」
パーンッ! 衝撃がユートの顳顬を襲って顕れたのは、黄金の鎧に身を包んだ蒼くて長い髪の毛の美青年、瞑目している彼は戦女神アテナを奉ずるアテナの聖闘士、勿論だがペルソナであるからには本物が喚ばれている訳では決して無かった。
その気になればペルソナのサガと双子座のサガの両方を、それこそ同時に同じ場所へ立たせる事だって普通に出来るのだろうから。
『
サガが両腕を天高く掲げると更にクロスして、流石に小宇宙では無く魔力による必殺技を放つ。
「嗚呼ぁぁぁぁっ!?」
星々を粉砕する大爆発が起きて、マーガレットをその必殺技の奔流によって呑み込んでしまう。
彼女は悲鳴を上げながら、強く強く吹き飛ばされてしまい硬い壁へと激突してしまった。
「くっ、まだよ!」
ヨロヨロと立ち上がるとペルソナ全書を開き、新たなペルソナの召喚をすべくカードを出す。
「ヨ、ヨシツネッ!」
喚ばれたのはヨシツネ、その大元となっているのは源 義経という、鎌倉時代の武将の一人であり、幼名の牛若丸の方がきっと有名だろう。
『八艘跳び!』
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っ!」
それはゲームで観るといまいち解り難いけど、要はに八艘の舟を跳んだ源 義経の逸話から来る必殺技、それを以ての八連撃は物理系最強だとも云われている。
「聖闘士に一度視た技は二度は通じぬってな!」
ユートは何の事は無い、闘氣を指先へと籠めて剣檄の一発一発を受けては往なしているのだ。
「こ、これは……」
ヨシツネを消して新たに召喚。
「アルダーだったか?」
『メギドラオンッ!』
ユートは於ろか、理や琴音達だってペルソナとして顕現させた事は無く、ユートのペルソナ全書の中にも存在はしていないモノだ。
無属性でも最強格として君臨する魔法の一つ、【魔神転生】の世界線でミオが使っていた。
【魔神転生】は謂わば【真・女神転生】に於ける外伝的な噺、都築敦也が主人公的な存在として悪魔召喚プログラムを手に入れて、ピクシー二体とケルベロスを仲魔にして妹の都築 澪を捜す旅に。
その際だ、研究所から助け出した少女が敦也から名前を訊かれた時、自らを『ミオ』だと名乗ったのだ。
尚、都築 澪とは仲が好い。
「こ、これは……」
「抑々、僕に魔法は効かんよ」
「エリザベスが敗けたのは成程、これでは私でも勝てないわね」
ユートの魔力は其処ら辺の魔術士の数百倍とも云われる神殺し――カンピオーネ、しかも元より魔力は可成り多かったから他のカンピオーネ達より多いし、マーガレットは他より遥かに魔力も高いけどユートという湖に放つには未だ足りない。
魔力に関してはユート的に、魔術士を水鉄砲に例えており、カンピオーネを湖に、そして“まつろわぬ神”を海として例えている。
水鉄砲で塩水を湖に幾ら撃とうが汽水にすら成らない、マーガレットなら大砲の如く水鉄砲かも知れないけど、それでもユートにダメージを与えるのがやっとだった。
「矢張り勝てない様ね」
「そりゃ、魔法で僕に勝てるとは思わないで欲しいね」
魔法関連は神様由来ではあるし、そういう意味で自慢にも成らないとして、鍛えに鍛え抜いた技術と魔力と魔法は間違いなくユートの力。
ならば自慢こそしないが、力を魅せるくらいはしても良かろう。
「フフ、流石はエリザベスの御気に入りね。私やラヴェンツァもそうだけど。敗けたのだし、今宵は好きに為さっても構わないわ」
科垂れ掛かるマーガレット、そんな彼女を抱き止めたユートは刻の狭間でしっぽりと愉しんだ。
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ユートとの一夜? をたっぷりと過ごしたマーガレット、シャワーで自らが発する雌の匂いと、ユートから付着した雄の匂いを流しておく。
青い部屋、まるで車の中みたいな様相ながら、ウィスキーやグラスが並べ立てられたバー。
ベルベットルームと呼ばれている部屋だった。
鼻が長くて大きく血走る眼、頭頂は禿げ上がった黒い紳士服の老人と座っているマーガレット。
向かい側に座るのは鳴上 悠で、マーガレットや老人――イゴールからしたら謂わば客人である。
「ようこそ、ベルベットルームへ」
テンプレートの如く、彼は
「ほう、これはまた変わった定めを御持ちの方がいらした様だ……」
如何にも愉しそうに笑う。
「わたくしの名はイゴール。御初にお目に掛かります。此処は夢と現実、精神と物質の狭間に在る場所。本来であれば何らかの形で、契約を果たされた方のみが訪れる部屋」
そして、イゴールの口から語られるベルベットルームの秘密。
「貴方には近く、そうした未来が待ち受けているのやも知れませんな。どれ、先ずは御名前を伺っておくと致しましょうか」」
眠りに就いていた筈の自分、そして目の前で共に走る電車で揺られていた緒方優斗からの言葉。
『その時が来たら名前を名乗る様に訊かれる筈、名乗るか名乗らないかは自由だが、名乗るのならば覚悟だけは決めた方が良い。彼処で名を名乗れる者はそう多くない、君は間違いなく名乗れる筈だからね』
きっと此処がそうなのだと本能で気が付いた。
「……鳴上……悠」
「フム、結構。この精神と物質の狭間で名乗れる者は多くありません。貴方は資格を御持ちの様ですな」
笑みを浮かべるイゴール、そして占いをして貰って示されたのは“塔”の正位置と“月”の正位置。
鳴上 悠は八十稲羽で災いを被り、大きな謎を解く事を課せられると、不気味な未来を言われてしまう。
更には何らかの契約を果たして、ベルベットルームを訪れるとか。
目を開けるとユートが居る。
「もうすぐ着くぞ」
「あ、ああ」
ふと脳裏に浮かぶ青い部屋。
鳴上 悠は忘れようとするかの如く頭を振った。
車内アナウンスが八十稲羽に着いた事を伝えてきて、ユートと悠は電車を降りると駅から町中へ出る。
「お~い、此方だ!」
悠に声を掛けてきたのは初老には少し早い男、彼の傍には一〇歳くらいの少女が立っていた。
堂島菜々子だと云う。
此処から始まるのは鳴上 悠を中心とした物語、出逢いと別れ……そして結ばれる絆が新たに刻まれる。
ユートは飽く迄もイレギュラーなる異邦人だ、力は貸すけれども積極的な謎解きまではしない。
タルタロスでもそうだった様に、仲好く成る事もまた絆なのだ。
尚、天城旅館に一年間を宿泊する予定だったが、堂島遼太郎の厚意で堂島家の一室を借りれる事に成るのであった。
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