【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

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 pixivには未完作品も含めて一杯有るんだけど、コッチには下手すると片手で数える程度。

 半ば書いて放置していたのを取り敢えずレベルでキリが良い所まで書き上げてみた。






本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――身食いの少女と出逢いました

.

 この世界は所謂一つのファンタジーな世界で、魔術が存在して剣や槍で魔獣な魔木といったモノと闘い、魔力と呼ばれるエネルギーを大地へ流して潤さないと生きて往くのも大変らしい。

 

「そうか、産まれたか」

 

「父上、どう致しましょう?」

 

「トルデリーデが暴発せねば良いがな」

 

 話しているのはカルステッド、この土地の領主一族の出で騎士団長を務めている上級貴族、相手は第一夫人エルヴィーラとの間にデキた長男であるエックハルトだ。

 

 他にもエルヴィーラとは二人の子を儲けていて三人兄弟、第二夫人のトルデリーデとの間には未だに懐妊が報告されないし、取り敢えず今の処は無関係だろう。

 

 そしてこの度は第三夫人ローゼマリーが妊娠、凡そ九ヶ月を以て男児の出産をしたのである。

 

 ローゼマリーは見た目には可愛らしくあるし、カルステッドに甘えるのも上手くて子供を望んではいたが、第二夫人より先に懐妊をしている訳だから又候トルデリーデとやり合いかねない。

 

「名前は如何致しますか?」

 

「ユート。何故かローゼマリーの妊娠が判った時に頭へすんなり入って来てな」

 

「ふむ、そうですか。然し平民ならば未だしも、貴族の名前としては短くありませんか?」

 

「そうだな……」

 

 平民は三文字から四文字くらいの名前でイケるのだが、貴族は最低限で五文字は欲しいと云えるくらいに名前は長めだ。

 

 事実、カルステッドとエックハルトは六文字とそれなりの文字数である。

 

「ユートユウガ。何と無くではあるがこの名前が出て来た」

 

「通称がユートですか」

 

 二人は識らない事だが、ユウガの名前はユートが最初に産まれた世界にて産まれる事が無かった兄の名前、緒方優雅の名前から来ていた。

 

 何しろユートと優雅は魂が一体化しているから今や同一性が高く、名前の長さに難があったからこの名前が足されたのであろう。

 

「問題はローゼマリーの実家ですね」

 

「うむ、子は嬉しいがな」

 

 怖いのはローゼマリーに子がデキた事を彼女の実家――ジョイソターク子爵辺りに色々と暴発をされる事だから、カルステッドからしたら今から既に頭が痛い問題だと云えた。

 

 オマケに第二夫人トルデリーデとは、実家からの確執もあり犬猿の仲と謂わんばかりに罵り合う為に、エックハルトも実際にはローゼマリーに苦々しい思いを抱き、下の弟であるコルネリウスなどは実母たる第一夫人エルヴィーラに刃向かうが故、感情を(おもて)に出すものでは無い貴族にあるまじき程あからさまに憎悪の瞳で睨み付けていた程。

 

「た、大変に御座います!」

 

「どうした?」

 

 側仕えの男が大汗を掻きながらバタバタと入ってきた。

 

「お、奥方様が……第三夫人ローゼマリー様が……遥か高みに続く階段を上られました!」

 

「は?」

 

 貴族的な言い回しで『遥か高みに上る』とは、その対象となった者が死んだ事を意味している。

 

 青天の霹靂とはこの事か?

 

 突然に過ぎるローゼマリーの死、それを哀しむのは夫としては間違い無く普通ではあろうけど、これでカルステッドが上手く立ち回れば疫ネタを回避が出来そうである。

 

 何しろローゼマリーはトルデリーデとの諍いが絶えず、第一夫人エルヴィーラが仲裁をする事が幾度と無く繰り広げられた。

 

 元より第一夫人エルヴィーラとは貴族としての婚姻という、浪漫の欠片も無い政治的なものだったから子作りはしても余り話もしない間柄。

 

 単純に口下手というか、女性への配慮が欠けているカルステッドにも問題は有るのだろうが……

 

 懐妊してからも第二夫人によるいがみ合いは続いていたから、精神的な疲労困憊と出産によって体力が落ちたのが祟った形らしい。

 

 その後にローゼマリーの死は公表され、子供は最初の後ろ盾たるを喪ったとして神殿に入れられた……と発表をされた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 五年の歳月が過ぎてユートは元気に暮らしていたりするが、実際に神殿に入れられている訳では無くて貴族街での暮らしをしている。

 

 相手は商業ギルド長グスタフの孫娘フリーダと料理人のイルゼ、その他にもフリーダの身の回りの世話をする女性が一人とユートの世話をする役に一人の側仕えが入っていた。

 

 尚、料理人はイルゼで世話役はユッテという名前だと紹介をされている。

 

 上級貴族――それも洗礼式すらも終えていない子供を、云ってみればフリーダと二人の世話役を除けば一人だけしか付けず邸に放置するというのは流石にあり得ないが、ユートからしたらやりたい事をやり易い環境だから安心が出来ていた。

 

 フリーダとの出逢いは偶発的なもので、身食いの発作が少し早めに出て倒れそうになっていた処を支えたのが切っ掛け。

 

 動き易さを考慮して成人年齢の姿で居た処を、孫娘を思う祖父が二人の候補から取り敢えずだが選んだ相手に話し合いを申し込む心算だったが、身食いの熱に呑まれ掛けて倒れそうになっていたのを助けたのである。

 

 魔力を持つのは貴族だけで平民は魔力を持たないと父――カルステッドから聴いていた筈だが、グスタフが曰わくどうやら平民でも偶に魔力持ちが現れ、それが“身食い”の病として平民から認知を受けているのだとか。

 

 実際に“身食い”とは一種の体質であり、天然の魔力持ちの事を指していた。

 

 貴族は小さな頃から魔術具を使って魔力を移動させているが、如何せん金がべらぼうに掛かってしまうから平民の身食いは死ぬしか無い。

 

 体内の熱に喰われて無くなる感覚だというのはフリーダから聴いている。

 

 何しろ大金貨を支払うレベル、平民でも大店のグスタフだからこそ可愛い孫娘の為に東奔西走してまで、壊れ掛けだったとはいえ魔術具を買い漁る事も出来たけど、それですらも小金貨が二枚は必要不可欠なのだから困ってしまう。

 

 しかも魔術具は貴族にしか造れない。

 

 だから基本的には貴族から援助を受けて将来的にはその貴族の為に生きる、そんな契約を魔術的に行う事で延命をするのが普通だ。

 

 其処でユートが提案をした。

 

 フリーダの“身食い”をどうにかする為の術なら持っている、然し未だに安全確実なんていう保証はしかねるから魔術具の実験台となる事が一つ、そして将来はユートの愛妾として尽くす事。

 

 どちらにせよ、貴族の飼い殺しか身を滅ぼして朽ちるかの二つに一つでしかないフリーダは今のユートと変わらぬ年齢で、ユートから援助を受けて生き延びる決意を固めたのである。

 

 オトマール商会の娘で商業ギルド長グスタフの孫であっても、矢張り魔術具の値段というものは可成りの出費には違いないのだから。

 

 フリーダに渡されたのは“人工リンカーコア”と呼ばれる魔術具で態々、この世界に存在している素材を駆使してまで造り上げた物だ。

 

 タウの実や魔獣から獲られる魔石など幾つかを錬金術で錬成する、それ故に素材を理解して分解抽出で必要な部分のみを取り出し、再構築をする事により新たなる姿を以て世界に現出させる。

 

 造られた“人工リンカーコア”の第一号は、当然だがフリーダに供与された。

 

 使っている内に不具合が有れば修正を施して、完全な“人工リンカーコア”として完成をさせる。

 

 その為の人体実験。

 

 因みにユートは生まれ付き天然リンカーコアを体内に持つ為に、貴族や身食いの平民とは違って魔力で苦労をした事は特に無かった。

 

 フリーダは“身食い”の熱=魔力に成長の為の力を奪われている為か、本来の平均年齢よりも小さいから実年齢より幼く見える身長。

 

 だけど“人工リンカーコア”で魔力を溜め込める様になり、“身食い”の熱に成長の力を奪われ難くなったから少しは成長が見込める筈だ。

 

 今でも貴族の少女並には可愛らしいのだから、きっと無事に成長をしたら可成りの美女に育つであろうと見込んだからこそ、本当なら未完成版でさえ大金貨を三〇枚は取る“人工リンカーコア”を僅か大金貨で三枚と一〇分の一で与えた。

 

 フリーダの将来性――美貌と商人としての謂わばサガを見込んだが故、見込み違いだったのならそれはユートの見る目が無かっただけの事。

 

 まぁ、美貌に関しては余程の暴飲暴食をしつつ運動もしないで甘味を食らいまくるとかをしなければ、デップリと肥えて視界に入れるのも悍ましい見た目に成ったりはしないであろう。

 

 寧ろ、そんな事をしてユートに不快感を与えては自分の命がヤバいのだと理解はしている筈だ。

 

 容姿を褒められたからには容姿を磨いてより美しく在らねばならないし、商才を見込まれているのであれば祖父から学ばねばなるまい。

 

 オトマール商会の会長は父親、祖父グスタフは商業ギルドの長として活動をしてはいるものの、オトマール商会という意味では半ば引退している身であるし、祖父から一番可愛がられている孫娘だという自負も有る。

 

 成人式を終える一五歳に成れば正式に愛妾として貴族街に入り、フリーダは今まで持っていた全てを手放さなければならない。

 

 それを慮ってか、ユートはフリーダに側仕えを連れて何日かを邸で暮らしてみないか? という提案をしてきた。

 

 そうしてフリーダが愛妾候補という形で邸へと出入りをしたのだが、約一年前にちょっと事情が変わってしまったのは彼女的に不満点。

 

 というのも見るからに成人してますと髪を上げた女性を、しかも嘗て一度は子を成した経験のあるという者達を一〇人ばかり連れてきたから。

 

 曰わく、エーレンフェスト神殿の灰色巫女達が大処分されるという事で買い取ったらしい。

 

 まぁ、そういう関係の者を大量に増やしたのでは無く扱いはユッテと同じの様だし、フリーダ程に甘い顔を見せたりはしないと言っていたから。

 

 取り敢えず年齢差を鑑みれば早ければ母親程、遅くとも姉くらいに離れているから信じた。

 

 予め愛妾は増やすかも知れないし、上手く事業を乗せられたら父親みたいに三人くらい正夫人を持つかも知れないとは聴かされている。

 

「そういえばユート様?」

 

「何だ?」

 

「わたくしに使われた“人工リンカーコア”という魔術具って、抑々にしてどんな素材から造られているのでしょうか?」

 

「……流石に詳しくは教えられないが、エーレンフェストでよく出る魔木とエーレンフェストには存在しない魔木と同じ様な特性を持つ魔獣、それっ魔石にその他に幾つかを使って造ったんだ」

 

「はぁ……魔木に魔獣に魔石とその他ですか? その他も気になりますけれど、エーレンフェストに居ない魔獣をどうやって?」

 

「内緒。因みに魔獣の素材がエーレンフェストで手に入らないから莫迦みたいに高価(たか)いんだよな」

 

「それで大金貨が完成品で五〇枚、わたくしに使われた未完成品ですら本来は三〇枚ですか」

 

 それが三枚で済んだのはフリーダの容姿の良さと商売人としての飽くなき性根を見込まれたからであり、云ってみればフリーダの将来をユートが買ったという結果であるからには、七歳の洗礼式以降は一五歳の成人式に向けて商売人として見習いをしつつ、ユートが神殿で買ってきた元灰色巫女の御姉さんから男を手玉に取る技術を手習いしていかねばなるまい。

 

 この世界のというか、ユルゲンシュミット国のお金の単位は“リオン”とされており、各硬貨では小銅貨で一〇リオン、中銅貨で一〇〇リオンという一〇倍式に変化をしていく。

 

 大金貨は一枚につき一〇〇〇万リオンだから、五〇枚とは即ち五億リオンと凄まじい価格だ。

 

 尚、一リオンの硬貨が無いならその単位はどうするのか? というのは貴族には無縁の話でしかなくて、平民の買い物などではちょっとした物をオマケに付けるなど物々交換になる。

 

 チャリチャリと今でも簡単な売買をして貯めている小銀貨や大銀貨の音を、フリーダはうっとりしながら聴いて将来に向けての思いを馳せた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは今回、新進気鋭とまではいかないけど比較的に新しい大店であるギルベルタ商会に足を運んでいる。

 

 ギルベルタ商会は服飾関係の店だから自分用や一応扱い的に恋人に近いフリーダ用、元灰色巫女の普段着などを買い込んだりもするから或る意味で御得意様とも云えた。

 

「やぁ、ベンノさん」

 

「おう、いらっしゃい」

 

 連絡さえ入れれば商会の主であるベンノ本人が相手をするくらいには御得意様だ。

 

 尚、ベンノはユートがエーレンフェストの北側に住む富裕層くらいに思っており、まさか御貴族様だとは流石に思っていない。

 

 尤もこのユルゲンシュミットにて本当の意味で貴族とされるのは、一〇歳から入る貴族院という謂わば学校で学んでシュタープを得た上で卒院をした者だけである。

 

 寧ろ、今のユートは洗礼式前だから貴族というよりは人間としてすら扱われていない状態。

 

 騎士団長カルステッドがユートを放置しているのは決してネグレクトからでは無く、学ばせるまでも無く基本的な礼儀作法はやれていた上に三歳までには言葉を話すのは疎か、基本の三五文字を覚えて単語まで綴れる様になったり、四則演算も熟したりと赤子とは思えないくらいに……はっきり云えば気持ちが悪いくらいに優秀だった為だ。

 

 まさか、貴族院に行っていたり既に成人を迎えた兄より勉強が出来るとは思わなかった。

 

 正直、どうしたら良いのか判らないカルステッドは領主の許可の下にユートに邸を与えて暮らさせる事になる。

 

 ユートは上級貴族の子供として産まれた。

 

 母親のローゼマリー自身は中級貴族の出ではあったが、上級貴族であるカルステッドと子を成せる程度には魔力を持っていたから第三夫人として娶られたのである。

 

 そして困った事にユートの魔力はカルステッドの現在は五人居る息子の中で、一番高いから下手をしたらユートがカルステッドの家を継ぐ事にも成りかねない。

 

 ユルゲンシュミットは成り立ちから高い魔力を持つ者こそが優遇されるからだ。

 

 と云うか、抑々が長男のエックハルトは家を継ぐ気自体が無さそうなのもちょっと困りもの。

 

 それは兎も角……

 

 姿を変えて見た目を成人にしているユートは、ベンノから見たら充分に裕福な顧客だった。

 

「去年に頼んだ成人向けの女性用服を今年も頼みたいんだけど」

 

「毎度」

 

 南側に住まう貧民層ならば富裕層から流れてくる中古が普通であり、更には継ぎ接ぎをしてまで着続けるものだったりするのだが、富裕層であれば新品を買うのも容易いからこうしてユートが服をあれやこれやと買うのもおかしくない。

 

 ユートの金銭はカルステッドのリンクベルク家から予算が組まれたお小遣いと、ユート自身が造った魔術具を貴族に売った売却益である。

 

 幾らカルステッドが家庭の平穏を金で買えるならそうしたいタイプでも、流石に法外な金額を渡す程に戯けてはいないから月に小金貨が五枚。

 

 まぁ、一ヶ月を粛々と生きるなら充分に過ぎる金額ではあるのだが、元灰色巫女が一〇人も居ると生活費はカツカツとなっていた。

 

 とはいえ、魔力を抜く魔術具なら壊れていても小金貨二枚は当たり前になるくらいだから、これが完品ともなれば大金貨が普通に動くのでユートはお金に困らない。

 

 エーレンフェストの冬は寒い、そんな冬の寒さを凌げる魔術具はとても人気が高いからこれを売って大金貨を鱈腹獲ているのだから。

 

 勿論、販路を持たないユートが売買をするのには難しいものがあるのだが、フリーダの祖父である商業ギルド長グスタフを伝手に本来の世界線――この世界では織地と呼ぶらしいが――で愛妾契約をしていたヘンリック男爵を起点に販路を広げていったのである。

 

 当然ながらグスタフはそれなりに手当金を貰っていて濡れ手で粟だ。

 

 とはいえ、ヘンリック男爵は土地持ちギーベでは無い貧乏な下級貴族の男爵に過ぎないのだし、伝手とはいっても実際には其処まで大したものには成っていない。

 

 それで販路を広げたグスタフの遣り手こそが、誉められるべき事なのかも知れなかった。

 

 尤も、グスタフは飽く迄もヘンリック男爵との伝手を元に販路を広げただけであり、平民に過ぎないからどうしても行き詰まりを見せる。

 

 其処からがユートの出番、変身魔法モシャスを此方側の術式に落とし込んだ魔術で成人貴族としての身形を整え、魔術具の販売をしてグスタフとヘンリック男爵に手当金を渡していた。

 

 ユート作の魔力を吸収する魔術具の指輪を着けているから、多少は怪しまれても何処かの貴族家の落胤くらいに思われているらしい。

 

 この魔術具は基本的な子供用であれば産まれた時に親が用意し、洗礼式の時に新しい物を与えられて魔力を魔石へと貯める一助とする。

 

 貴族だろうが魔力持ちという点ではフリーダみたいな身食いと変わらず、感情を揺らせば魔力も揺らぐし、成長に従って魔力も増えていく訳だからこの魔術具は必須。

 

 壊れていても小金貨二枚以上、完品で大金貨が数枚だから下級貴族では用意出来ない事もあり、そういった場合には神殿へ青衣の神官や巫女として預けられる様だ。

 

 神殿には神具の魔術具が有り、魔力を奉納していれば魔力に呑まれないで済むからである。

 

 青衣の神官や巫女は青色○○と呼ばれ、平民の孤児院出身の場合は灰衣で灰色○○と呼ばれた。

 

 灰色巫女の中でも取り分け美しいのが、嘗ては青色巫女だったクリスティーネの側仕えをしていたロジーナとヴィルマ、他にも美女と呼べる者は居るけど神殿長や青色神官の花捧げに取られていて見掛ける事は殆んど無かったり。

 

 本来の織地ではヴィルマがクリスティーネ不在の折り、青色神官の誰かしらに花捧げを強要されそうになって部屋に攫われたのを、ヴィルマが居ないのを不審に思ったクリスティーネが助け出して事無きを得たけど、男に対する恐怖心を植え付けられて孤児院から出られなくなっていた。

 

 この織地では助け出したのがユートである為、成人男性への恐怖症とユートへの感謝が綯い交ぜとなっており、クリスティーネが居なくなってからはユートにだけは懐いている状態。

 

 とはいっても、ユートが洗礼式を行った頃にはヴィルマの髪の毛は上げられている=成人女性、ユートは気にしないけどヴィルマからしたならば自分は年増と思うであろう。

 

 今現在は洗礼式前だから教えてはいないけど、洗礼式後にはヴィルマに年齢を教える必要があると考えており、ヴィルマが頬を朱に染めながら『ユート様になら花捧げをしても……」と呟いていたから摺り合わせが必須だと考えていた。

 

 また、クリスティーネの元側仕えなロジーナも成人式を終えない髪をまだ普通に伸ばす少女ではあるが、芸術巫女見習いの側仕えだったからには彼女も芸事に秀でている訳で、ヴィルマと合わせて美少女なだけに欲しいと思うくらい。

 

 特にフェシュピール――弦楽器として貴族には親しまれている――の演奏が並々ならぬ程に巧みであり、美しい旋律を奏でる様は成程と頷きたくなる程でクリスティーネが欲するだけはある

 

 こう見えてユートは芸事にもそれ相応には秀でており、フェシュピールにしても貴族の習い事として必須項目だと父カルステッドに言われて練習をしていたからよく解った。

 

 試しに音合わせとしてフェシュピールの合奏をしてみたけど、慣れの問題から多少ながらユートの方が後れを取るくらいだ。

 

 因みに、カルステッドはフェシュピールが実は得意とは云えないらしく、楽器を使うなら横笛の方がマシだと言って聴かせて貰った事がある。

 

 腕前は……まぁ、お察し。

 

 

 閑話休題

 

 

「商品はいつもの通りで?」

 

「そう、彼処に届けて欲しい」

 

 ユートが言うのは北側に在る下町の富裕層が住まう家、貴族街にベンノのギルベルタ商会を向かわせるのもアレだから買ったのだ。

 

 出産した事から処分されそうだった元灰色巫女達が側仕えとして、ユートの富裕層に在る持ち家を数人で管理してくれている。

 

 尚、この件はヴィルマも知らされててユートの事を一〇人もの女性を相手に出来る絶倫だと思われているが、絶倫は確かなのだけど彼女達に花捧げなど要求をした事は断じて無い。

 

 洗礼式前で既に大人顔負けのJr.に育っているにしても、本来の年齢を彼女達には教えてあるから花捧げが()()必要無い事も承知させているのだ。

 

「了解した」

 

 間違い無くベンノはユートが貴族だと思いながらも、こうして腹を痛めながらも同じ平民である富裕層として扱っていた。

 

 いつかは正体を明かされる日が来ると戦々恐々としてはいるが……

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「フリーダは将来的には商人に成りたいと言っていたよな」

 

「そうですわね」

 

「商人に成る事を視野に入れつつ貴族に成ってみる気はないか?」

 

「はい? えっと、どういう?」

 

 軽く混乱しているフリーダは手を頬に添えつつコテンと首を傾げた。

 

 未だに出逢ってすらいない某・少女騎士がよくやっているポーズである。

 

「抑々、そんな真似が出来ますか?」

 

「力業や根回しとか必要不可欠ではあるんだが、遣り様は間違い無く存在しているからね」

 

「まさか……そんな?」

 

「例えば君は僕と、或いはヘンリック男爵と愛妾契約を交わす事で身食いの身体をどうにかする事が出来たよな?」

 

「そうですわ。本来ならばヘンリック男爵と契約をする処をユート様がお金で解決なさいました」

 

 元よりヘンリック男爵は弟もきちんと教育する事が出来る程度には資金も有るが、貴族としての全体で見れば下級貴族で貧乏とも云えた。

 

 故に大金貨を数枚でフリーダを譲って欲しいと願われて、ヘンリック男爵に断るという選択肢は無かったのだ。

 

 まぁ、契約前だったからこそだけど。

 

「その契約に養女契約を行う。対外的には愛人なり何なりが産んだ私生児としてになるけどな」

 

「その時点で瑕疵が付きますわね」

 

 私生児というだけで貴族としては充分に過ぎる程の瑕疵となる――否、単純に片親というだけで揚げ足を取られるのが貴族だった。

 

「わたくし、ユート様の愛妾となる契約ですのにそれで貴族に成る意味は御座いますの?」

 

「君は身食いだから薄い全属性、魔力圧縮をしたり神の加護を取得してシュタープを得れば、可成りの力を持った貴族にも成れる。商人に成るのは大いに結構、それなら貴族としての立場も有った方が貴族相手の商売には役立つだろう? 実際に君の魔力量は人工リンカーコアのお陰で中級の下位程度だったのが、今現在は上級の中位くらいには増えているからね」

 

 ユートも六年間を無闇矢鱈と惰眠を貪るが如く過ごしておらず、信条となる『知識こそは力也』や『未知とは即ち真の敵』を掲げて情報収集にも余念は無かったもの。

 

 本来、洗礼式未満の者は基本的に家から出してすら貰えないのだが、ユートはローゼマリーの子という危ない身分なので側仕えを一人だけと邸を与えられ、半ば放置に近い状態だったから勝手に邸を抜け出して変身魔法であるモシャスを魔術として使い、情報収集や金稼ぎなどを行ってきた訳だが当然ながらカルステッドにはバレた。

 

 そりゃ、付けていた側仕えから報告は往くのだろうから父親にバレるのは折り込み済みである。

 

 その後の交渉である程度の自由をもぎ取って、ユートは姿を大人バージョンに成る事で誤魔化しをしつつ、カルステッドが団長を務める騎士団の仕事にも請われて従事をしていった。

 

 シュタープは未だに取得していないのだけど、シュタープっぽい魔術具を錬金術で製作しているから、騎士団の団員達も特におかしいとは思わず共に行動をしている。

 

 尚、エックハルトは知らされている。

 

「はぁ、少し考えさせて下さいませ」

 

「勿論だよ。君の洗礼式までに答えを出してくれたら良いから」

 

 頬に手を当てながらコテンと小首を傾げつつも先延ばしになる答え、だけど元から最低限で下級貴族へと縁付かないと死ぬしかなかったからか、その所作は正しく下級貴族並の優雅さを湛えていた上に、顔立ちもその年齢としては幼い事を除けば充分過ぎるくらいに美しい。

 

 きっと大人に成ればヘンリック男爵を魅了して止まない蠱惑的な美女にも成り得たかも知れず、そういった意味で云えば未だ肉体的にも精神的にも未成熟な幼女にしか見えない今、早めに譲って貰っておいてラッキーだったなと思える。

 

 美しく成長してからでは譲りたく無くなるであろうし、きっと秋の訪れを前にして冬を迎えてしまっているだろうから。

 

 正妻で無い愛妾なんてその為のものだ。

 

 ユートだって第一夫人候補? とは星結びをしてから閨だろうし、それは未だに候補すら挙がらぬ第二夫人や第三夫人も同じ事。

 

 平民から娶った愛妾だからこそ、秋の訪れを前にして冬を迎えさせる事が出来るのだろうから。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 実はユートには既に第一夫人候補? が居たりするが、候補の後にクエスチョンマークを付けてしまうくらいにこの話には現実味が少ない。

 

 ユートはまだ七歳にも成らないから洗礼式すら行っておらず、従って貴族としてみれば人として数えない……と扱われるのが通常である。

 

 だけど家から出される事すら有り得ない段階でありながら、特殊な家庭環境と何故か父親から見て『大丈夫』と思わせるナニかから、邸を与えて半ば放置というネグレクトでしかない状態に成っていたが、ふと大人バージョンなユートを連れて領主邸に行ったカルステッドは年下な幼女の相手を任せて大人の会合――領主と領主夫人を含めた悪巧み? に向かった。

 

 エーレンフェストの領主ジルヴェスターには、第一夫人のフロレンツィアしか居ないのだが子供は三人、結構頑張って産んだと云えるけどリンクベルク家でもエルヴィーラが三人を産んでいるから割かしら普通でもある。

 

 長男ヴィルフリートは、幼い時分から母親である前領主夫人ヴェローニカに養育権を持って行かれており、長女シャルロッテと次男メルヒオーレはジルヴェスターというかフロレンツィアが養育をしていた。

 

 まぁ、とはいっても実際に動くのは手足と云える側仕えだが……

 

 そしてこの次女のシャルロッテが未だに滑舌もへったくれも無い頃、ユートが彼女の遊び相手を務める事になったのだけれど、『おにいちゃま』と呼ぶくらいに仲良くなってしまったのだ。

 

 正確には居ると聴かされた『おにいちゃま』が帰ってきたのだと勘違いしたらしく、別れの際には正しく幼女のギャン泣きを喰らわされた。

 

 なので、週一で“土の日”の前日に泊まり掛けにて遊びに来る事を約束する羽目となってしまう。

 

 流石に現在はユートが兄だとは認識していないのだが、遊び相手として居る間は頗る御機嫌模様だから『いっそ婚約させるか?』とジルヴェスターが冗談混じりに言った際、正しく晴れ渡るかの如く笑顔で頷いたのを見て言った当人ですら引き攣った顔でシャルロッテを視たものである。

 

 本来、長男ヴィルフリートが次期領主に内定をしている――実際は兄弟姉妹で争わせて魔力が高い者を次期とする――から、シャルロッテは基本的に他領へ縁付かせて嫁に出す為に育成をされる予定だったが、ユートの呆れるくらいなバカ魔力を確実にエーレンフェストに根付かせる為にも、領主一族にする方が領地の利が大きいと判断さるたが故に、仮初めながらシャルロッテへの婿入りをカルステッドに打診していた。

 

 勿論、アウブ・エーレンフェストの次期となるのはヴィルフリートと変える気は無かったけど、それならば何処かのギーベを任せてしまうというのも良いし、領主一族に成るなら騎士団長にしても大丈夫だろう。

 

 普通なら騎士団長は護衛騎士を十数年間務めた熟練の騎士が就き、現在の騎士団長カルステッドがそんなタイプに当たる。

 

 そして前任者のボニファティウスが領主一族であり、護衛騎士を経ずに団長で今現在は半ば引退状態ながら中継ぎのアウブとして務めていた。

 

『あ、ちょっと婿入りはどうか?』

 

『何故だ?』

 

『実は彼奴、一桁年齢の癖に愛妾候補を囲っているみたいなのだ』

 

『ハァァァ!?』

 

『相手は身食いで愛妾契約を交わしたらしくて、婿入りだと主がシャルロッテに成るから愛妾は疎か第二夫人すら娶れまい?』

 

 カルステッドから言われたジルヴェスターは、呆れ果てて開いた口が塞がらなく成りそうな程。

 

『それは……其方の息子は大丈夫か?』

 

『少なくとも生活費に困窮はしておらぬ』

 

『何故だ?』

 

『変身魔術を開発して大人バージョンとやらに成ってな、魔術具を造っては売却をして売却益を獲ていたらしいのだ。ほれ、ジルヴェスターの持つ保冷の魔術具もそんな一つだぞ』

 

『ぬあっ!?』

 

 割かしら最近になって買い付けた保冷の魔術具は畑の違う弟が分解したくなるくらいの代物で、本当に分解してしまいかねないから実物を見せた事は無かった。

 

 その後に畑違いの弟も買ったらしく矢張りというか分解し、戻せなくなって頭を抱えたのだと聴いて思わず噴き出したくらいだ。

 

 魔法陣らしきモノが見当たらないから黒い箱が怪しいと破壊してしまい、一瞬でオシャカにしてしまったのだと……しかも魔法陣は結局発見する事すら叶わず踏んだり蹴ったり。

 

 ――あの弟がと、ジルヴェスターとしては完璧に見えて抜けていた彼に少しだけ安堵をした。

 

 因みに、黒い箱はブラックボックスで間違い無く魔法陣が仕込まれている。

 

 多重立体型魔法陣。

 

 平らな場所に線だけで描いた魔法陣なんかとは一線を画するモノで、ブラックボックスを正規の手順を踏まずに開いたら即消滅する。

 

 然も魔法陣その物が別の立体型魔法陣で構成をされており、凄まじいまでの高効率化や低燃費など様々に恩恵を齎すからこそこんな魔術具が造れてしまうのだ。

 

『然し、其方の息子は何だか余りにも自由過ぎやしないか? 何で未だに洗礼式前で外を歩き回っているのだ!? 』

 

『特殊過ぎるからだ、私にはどうしようもないくらいにはな。エルヴィーラにもちょっと任せ難いのもあるが、ユートの誕生に付き添ったエックハルトや余り会わないランプレヒトは兎も角としてもだ、三男のコルネリウスはローゼマリーへの憎しみが酷く、その憎悪や嫌悪感を高みへと上ったローゼマリーでは無くユートにぶつけている』

 

『それは……また……』

 

『自由にさせているのはその為だし、何なら私達にも利は在るのだ』

 

『ふむ、利……とは?』

 

 面白そうに窺うジルヴェスター・アウブ・エーレンフェスト、それはまるで新しい玩具でも見付けたかの如く小学生みたいな目の輝き。

 

『ユートが造った魔術具の試作品が我が家に贈られて来てな、飽く迄も試作品の問題点を潰しての完成品を造り上げた後の物だからと無償なのだ』

 

『試作品ながら無償とは!』

 

 試作したプロトタイプ、ユートも人間なのだからどうしても抜けとかバグとか様々なミスがどうしても出る為、このプロトタイプを完成品にするべく手を加えるから多少の不格好は出る。

 

 それでも成る可く綺麗に設えて最終テストを行った物、それをリンクベルク家に贈り試しに使って感想を貰うというのを繰り返していた。

 

 尚、当初は大人バージョンど商売をしていたからジルヴェスターもよもや、それがカルステッドの四男だったとは気付けなかったらしい。

 

 つまり、怪しい商人貴族らしき男と取引をしたというジルヴェスターの脇の甘さが出た形だ。

 

『仕方がない、嫁に出すか』

 

『良いのか?』

 

『いずれにせよ相手はユート、シャルロッテも嬉しかろうからな』

 

『ふむ、だとしたら将来的にはユートを領主候補生にでもするのか?』

 

『そうだな。普通の上級貴族であるよりは説得力も高まるし、カルステッドがそれで良いのならば洗礼式をした後に私の養子としよう』

 

『……判った』

 

 元々、領主候補生のボニファティウスの息子だったカルステッドは本来なら領主候補生だけど、とある事情から上級落ちをして護衛騎士を経てから騎士団を率いる騎士団長に就任していた。

 

『だが、ヴェローニカ様の事は如何するのだ? 私の子が領主候補生となれば又候……な』

 

『ふむ、私とフロレンツィアの子として洗礼式を受ければ生さぬ仲としてでも認められよう』

 

『ヴェローニカ様が認めるとは思えぬ』

 

『ぐぅ……』

 

 ジルヴェスターもカルステッドな言葉に対し、ぐうの音しか出なかったのだと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 普段ユートは土の日とその前日はフリーダを、オトマール商会の家に帰していた。

 

 未だに洗礼式前のフリーダなだけに送り迎えは確りとしており、ユート謹製の馬車を使っているから安心して帰れる仕組みだ。

 

 破廉恥案件だが、フリーダにそこら辺の知識が無いのを良い事に魔力を流して染めている。

 

 最初はキツかったらしいのだが、今では頬を染めつつ艶やかな声を上げて魔力を受けていた。

 

 尚、同調薬を試しに飲ませたら甘く感じたと言っていたからきっと八割方は染まったのだろう。

 

 休みの日である土の日に下町を散策しているのは某か発見が有れば……という考えまあったし、平民が使っている森でタウの実を採取するというのも一つの理由だからだ。

 

「イヤァァァァァァッッ!」

 

 南側の貧民街を歩いていると、突如として絹を引き裂く様な悲鳴が建物の五階から響いた。

 

 それこそレ○プでもされているんじゃないかと思うくらい悲痛な声に即、ユートはジャンプをして窓を蹴り潰すと部屋の中へと侵入を果たす。

 

 其処に在った光景はユートが思ったものでは無かったものの、高みに上がり掛けた幼女に縋り付いて泣き叫ぶ六歳かそこらの緑髪の少女という、中々にアレな光景だったのは間違い無い。

 

「なっ!?」

 

 行き成り乱暴に入ってきた男に警戒心を露わにする少女、その小さな身体でより幼い恐らくは妹であろう幼女を隠そうとしていた。

 

「だ、誰!?」

 

「済まないな。その娘、どうやら高みに……否、死に掛けているみたいだが?」

 

「う、マインが……マインが死んじゃう! どうしよう? どうしたら」

 

 涙を流す少女は、今にも心の臓が脈動を停めようとしている妹の胸に顔を埋めながら呟く。

 

(感じられる魔力からして、フリーダと同じ身食いみたいだが……フリーダは疎かアウブ・エーレンフェストよりも上なんじゃないか?)

 

 今のフリーダは確実に上級貴族を名乗れそうな魔力だが、マインと呼ばれた幼女はジルヴェスターをも越える勢いだった。

 

(有り得ない、身食いの魔力は本来だと下級から中級で契約後のフリーダでさえ中級の上位程度)

 

 人工リンカーコアを使って漸く上級を越えたのが実情、それなのにマインの魔力は量といい質といい可成りのものがある。

 

(エーヴィリーベの印が在るみたいだから何度か死に掛けたろうが……魔力圧縮か? 必要は無いけど魔力を圧縮するのは貴族院での授業だか試験だかでやるらしいからしているが……)

 

 魔力を圧縮する事で器に余裕を持たせて更なる魔力量の増加を見込む、子供の時分やり過ぎると背が伸び悩むから貴族院に行ってからやるべき事だとユートは考えるが、マインは平民だから魔力を抜く術が無くて命懸けの圧縮をしたのだろう。

 

 因みに命の神エーヴィリーベはヤンデレ神で、土の女神

 

「あ、いや……し、なない……で……ふぇる……でぃな……んど……さ……ま……」

 

(なにぃ!?)

 

 ユートは目を見開いて驚愕する。

 

行き成り不穏極まりない科白を吐くマインに、心の中でだったけれど叫んでしまっていた。

 

(フェルディナンド様? 神官長の?)

 

 すわ、知り合いか? と刹那に思った事を否定するしかない。

 

 貧民街とされる南側に住まうマイン、そして姉は服装などドロドロで継ぎ接ぎだらけでとてもではないが神殿に行く格好じゃ無く、見た目の年齢から姉ですら未だに洗礼式を終えていない。

 

 況んや妹のマインが神殿に行ける訳も無くて、況してや身食いな上にエーヴィリーベの印持ちな彼女は、恐らく魔力の通りが悪くて普段から虚弱な可能性が高かった。

 

(一人で神殿には行けないし、親が今の神殿へと子供を連れて行くとは思えないよな)

 

 現在の神殿は神々に近しい場所なんて神聖さの欠片も無く、青色神官による灰色巫女へ花捧げが横行した娼館擬きと成り果ててしまっているし、何なら騎士が一時の慰めに使う事すらある。

 

 併設された孤児院など悲惨なもので、孤児達がガリガリに痩せ細りながら餓死をしていく。

 

 ユートは神殿とは無関係な上に現在は貴族的に居ないも同然な存在、どうあっても孤児院の現状をどうにかするには無理があった。

 

 一応、大人バージョンではカルステッドからの紹介として既知は得ているし、騎士団が冬の主やトロンベ討伐に出た際には御一緒もしたが……

 

 扠置き、マインを救う手立ては在る。

 

 だけど出来たらこの世界では余りやりたくない技術だし、やるからには利を得ないと割にも合わないからどうしたものかと姉を見遣った。

 

 未だ名前すら知らない平民の少女、平民という身分としてはそれなりに可愛らしい容姿であり、見るからに妹思いで優しい性格、貴族やフリーダとも違った魅力を確かに持ち合わせている。

 

(ああ、そうか……マイン、君がこの世界に於ける……という事か)

 

 疑似転生をしてから数年越しで漸く逢えたと、半ば安堵をしたけど今にもその重要人物が遥かなる高みに上りそうだと考えて、名も知らぬ少女へと提案をするべく口を開いた。

 

「君……」

 

「え?」

 

「その子を助けたいか?』」

 

「っ!」

 

 涙に濡れた顔が驚愕に染まった直後にウンウンと何度も首肯をする。

 

「君が自分の身を差し出す覚悟があるなら妹を、マインを救おう……そろそろ幼い身でも理解はしているだろう? 僕……私が貴族だと」

 

「は、はい」

 

「マインを今すぐに救えるのは私だけ、然しだからといって無償で救う事は有り得ないだろう?」

 

「はい……」

 

「愛妾と言って解るか?」

 

「一応は」

 

「愛妾契約を結ぶ。数年後、君が一般的な意味でダプラ契約をする一〇歳に成ったら私の邸に引き取る事になるだろう」

 

 七歳で洗礼式を受けた子供は職人なり何なりとダルア契約で働き出し、その契約は三年で更新をするかどうかで選択肢が出来る事に。

 

 つまり一〇歳で契約打ち切りか再び三年間でのダルア契約か、若しくは優秀ならば契約の期間が限定では無いダプラ契約を行う。

 

 ダプラは部屋を与えられる事も普通にあって、家を出る事になるから早くて一〇歳が分水嶺。

 

「でも、一〇歳では……その……きっと私ナニも出来ませんよ?」

 

 無理矢理に奪われるくらいは出来てもそれではまな板の上の鯛だ。

 

「一〇歳では移動するだけだよ」

 

 ユートも義妹からの働き掛けのみならず彼の地――ハルケギニアで、八歳とか下手したら五歳児を借金の形に押し付けれた結果、一二歳からならば性の対象に出来る様に成ったけどそれだけに、一二歳――数えだから実質的に一一歳――以外は流石にお断りしたい。

 

 尤も、本番は……だけど。

 

「余り時間も無い。どうやら圧縮で凌いでいるみたいだが、そろそろ限界だろうからな」

 

「契約します!」

 

 即決だった。

 

 ユートは魔法陣を形成。

 

「その中に入りなさい」

 

「は、はい」

 

 おっかなびっくりしながら少女は言われるが侭に魔法陣へと入る。

 

「名前を言って私に人生を後々の世まで託すという宣誓をしながら口付けを」

 

「うぇ!?」

 

「誰がオンドゥルしろと言った?」

 

「トゥ、トゥーリ。貴方様に私の人生を後々の世まで託すと誓います」

 

 トゥーリと名乗った少女は恥ずかしさの余りに顔を真っ赤にしながら唇を重ねた……

 

「ンッ!?」

 

 ……ら、両腕を掴まれて口内に舌を突き込まれてのディープなキスをさりるれてしまう。

 

「ンンンッ!」

 

 この場合の効果音は矢張りズッキュゥゥン! だろうか?

 

 自分から口付けをさせたとはいえ、やらかしているのはブランドー君のそれに近いのだから。

 

 貴族的に視れば完璧な破廉恥案件であったし、平民からしても普通に愛情表現な口付けを舌まで入れて、更に舐る様に絡ませていく口付けなんて未だに洗礼式前で初潮すら迎えていないトゥーリにはちょっとばかり刺激が強過ぎた。

 

 互いの混じり合った唾液が口と口の間で橋を架けており、離れるとプツンと途切れてトゥーリは口元から唾液をはしたなくも垂らし、茫然自失となるレ○プ目でユートを見つめている様に見えながら上の空、それは蕩けた表情とでも云えば良いのか? 先程よりも更に顔が紅潮をしている。

 

 そんなトゥーリの心情とは無関係に魔法陣が輝いて【閃姫】仮契約が完了したが、貴族だったらきっと魔力が暴走したのではなかろうか?

 

 ユートは取り敢えずトゥーリの再起動を待つ程の時間は無いから、直ぐにもマインへと処置を施すべく眠りながら魘される彼女を抱き起こす。

 

「魔力が暴発寸前か」

 

 肌がボコボコとまるで粟立つかの様。

 

「フェアベルッケンの御加護を我に」

 

 正直、神に祈るのもどうかと思うのは出来たなら神々にも知られたく無い事をする矛盾からだ。

 

 ユートがマインの唇へと自らの唇を重ねると、トゥーリの時と同じく淫靡に舌を絡ませる。

 

 舌を絡ませるのはエロティカルな意味で無く、粘膜接触がこの手の儀式には必要不可欠だから。

 

 エネルギー、この場合は魔力の遣り取りをするのに一番スムーズに叶うのがこの手法なのだ。

 

魔力吸収(マナドレイン)

 

 今回もズッキュゥゥゥン! とばかりの効果音が目で見えるくらいだったけど、同じ効果音でもこれは魔力をマインから吸収する音となる。

 

 魔力の吸収、ユルゲンシュミットは魔力で成り立つ世界だから余りにも危険な力で、魔木であるトロンベやターニスベファレンみたいな黒の魔獣みたいに、討伐対象にされてしまっても仕方がないくらいの能力なのだ。

 

 恣意的に魔力を吸収する訳ではない魔石ならば兎も角、ユートや黒の魔獣などはユルゲンシュミットでは正しく危険な存在。

 

 勿論、闇の神の神器や黒の呪文や闇の祝詞みたいに必要なら使う。

 

 それでも誰かに知られたくは無かった。

 

 

.




 フェアベルッケン――闇の神の眷属神で隠蔽の神、メスティオノーラの誕生の為にヤンデレな神であるエーヴィリーベから彼の妻のゲドゥルリーヒを隠していた神話が存在する。

 ユートは神殺しなので本来は対極に位置する筈だけど、逆説的にはユート程に神々を身近にしている存在は居らず、ユルゲンシュミットに於いてはローゼマインくらい。

 貴族は事ある毎に神々の名前を使うけど神殿からして神を信じていなかった。


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